DDS 真・がっこう転生 MythLive   作:想いの力のその先へ

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第三十六話 聖典の世界(がっこうぐらし!)

 近くに安全地帯がある、という胡桃の案内のもと、晴明たちは彼女が安全だといった洞窟へと移動した。

 その洞窟には、胡桃と同じように巡ヶ丘学院高校にいる筈の若狭悠里と丈槍由紀の姿があった。

 そして由紀は胡桃が無事に帰還したことを知ると、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら彼女の無事を喜ぶように抱きつく。

 

「くるみちゃん、大丈夫だった?! ……よかったぁ!」

 

「おい、こら。ゆきっ! ……ははっ、ありがとう。ただいま、だ」

 

 抱きついてきた由紀に驚く胡桃だったが、くすぐったそうに笑うと、由紀の頭を撫でながら礼を言う。

 悠里も安心したのか、ほっとした表情を見せて胡桃に話しかける。

 

「本当に無事で良かった」

 

「なんだよ、りーさん。そうそう危ないことなんてないって」

 

 胡桃の心配をする悠里だったが、彼女の軽口聞いたときに、眉間にシワを寄せて顔をしかめると、そのまま詰問する。

 

「何を言ってるの? 前にもそんなこと言って、結果『ごめん、りーさん。ミスった』なんて言ってたでしょうに……」

 

 その言葉を聞いた胡桃は痛いところを突かれたと言わんばかりに顔を歪めると、ついで苦笑いを浮かべながら謝罪する。

 

「それは……。本当に悪かったと思ってるって。だから、無理はしないからさ、信じてくれよ、りーさん」

 

 その胡桃の言葉に、悠里は、仕方がないなぁ、と言いたげな表情になると、ひし、と胡桃と、そして彼女に抱きついていた由紀に抱きつく。

 そのことに驚いた胡桃は顔を赤らめながら悠里に問いかける。

 

「ちょっ、りーさん?」

 

「もう、本当に心配かけさせないでね。……あんな思いは本当に懲り懲りなんだから……」

 

 悠里の震える声を聞いた胡桃は、少しの間目を見開くが、すぐに優しげな表情になると彼女の頭を撫でながら約束する。

 

「あぁ、りーさん。大丈夫、約束するよ。もう無理はしないって」

 

 胡桃の決意に満ちた言葉を聞いた悠里は俯いた状態で返事の代わりに小さく頷くと彼女から離れる。

 そして、離れたあとに改めて彼女の後ろにいる晴明やきららたちを見て──。

 

「それで、くるみ。その人たちが?」

 

 と、悠里が胡桃に確認するように問いかける。

 

「あぁ、ゆきが人の声がする。何て言ったときは半信半疑だったけど、たしかに居たよ」

 

 そうして胡桃も悠里と同じように晴明ときららたちを見る。

 その中でも彼女たち二人は、外套で体を隠している人物たちに対して興味を示していた。

 そして、その人物たちに声をかけようとする悠里だったが、その前に外套をまとった人物の一人、慈が二人に声をかける。

 

「……くるみさんを見たときに、もしかして、と思ったけど、やっぱり貴女たちだったのね」

 

 そう言うと慈は外套のフードを外して、彼女たちに問いかける。

 

「貴女たちも無事で良かったわ。でも、 みきさんにたかえさん、それにアレクサンドラさんはどうしたのかしら?」

 

 しかし、その慈の問いかけに二人が答えることはなく、胡桃は驚きに目を見開き、逆に悠里は険しい表情で慈を見る。

 

「なんで、どうしてめぐねえが……。だってあのとき、みきに──」

 

「──くるみっ!」

 

 震える声で譫言のように呟く胡桃に対して悠里が一喝すると、彼女は次に由紀に話しかける。

 

「……ゆきちゃん。めぐねえも、外から来た人たちも喉が渇いてると思うから、飲み物を持ってきてもらって良いかしら?」

 

「らじゃっ!」

 

 悠里のお願いに由紀はおふざけのように、ビシィッ! と敬礼で返すと、そのまま洞窟の奥へと走っていく。

 それを見送った悠里は慈を険しい表情で見つめて詰問する。

 

「それで、貴女は何者なんですか?」

 

「……え? ゆうり、さん?」

 

 悠里の反応が予想外過ぎたのか、慈は驚きのあまり呆けた反応を示す。

 その反応に悠里は彼女を睨み付けるように見つめると、慈に話しかける。

 

「めぐねえはみきさんが学園生活部に入る前に死んでいるのに、それなのになぜ貴女の口から彼女の名前が出たの? それに、私たちは()()()なんて人も、()()()()()()()なんて人も知らないわ」

 

「……えっ?!」

 

 悠里の口から出た言葉に圭は驚きの声をあげると、彼女に詰め寄ろうとする。

 そのときに彼女がまとっていた外套が外れて、巡ヶ丘学院高校の制服があらわになる。

 それを見た悠里は驚きの表情を見せる。

 

「あら、貴女。その制服……! まさか、私たち以外にも学院の生き残りがいたなんて……」

 

 そして、驚きつつも喜ぶように口から言葉をこぼす。

 その言葉を聞いた圭は、悲しげな表情になるとすがるような気持ちで彼女に問いかける。

 

「りーさん、私ですよっ! 圭、祠堂圭。みきとアレックスの親友の! ……くるみ先輩だって、アレックスやたかえ先輩がいたから校舎の解放が楽だった。って言ってたじゃないですかっ!」

 

 その圭の必死な言葉に、胡桃は不思議そうな、悠里は得心のいった表情になると、それぞれ思ったことを口に出す。

 

「いや、そんなこと言われても……。あたしたちは最初()()だったし、めぐねえが死んでからは、みきのやつを見つけるまで三人で暮らしてたから……」

 

「ねぇ、くるみ? 彼女、前にみきさんが言ってた、一人で出ていっちゃった子、なんじゃないかしら……?」

 

「へっ? ……あぁ! たしかに言ってたなっ! と、言うことは無事だったのか! みきのやつ、喜ぶぞ! あ、でも、肝心のみきがここにいないんじゃなぁ……」

 

 どことなく残念そうな素振りをみせる胡桃と悠里を見て愕然とする圭。

 晴明は、そんな彼女の肩を優しくぽんぽんと叩くと、次に二人に話しかける。

 

「あぁ、お二人さん。少し話を聞かせてもらって良いかな? ……と、その前に。俺の名前は蘆屋、蘆屋晴明だ」

 

 晴明の自己紹介に胡桃は闊達(かったつ)な笑みを浮かべ、そして悠里は晴明を()()()()()()自己紹介する。

 

「あたしは恵飛須沢、恵飛須沢胡桃だ」

 

「……若狭、悠里です」

 

「……あぁ、よろしく頼む」

 

 そして、この時点で晴明は彼女たち三人が、()()()()()()()学園生活部の子たちではない、ということを理解する。

 その理由としては、彼女たちが知っている筈の晴明との自己紹介に応じた、というのもあるが、それ以上に悠里の態度にあった。

 

 先ほど悠里は晴明に対して警戒心を滲ませていたが、少なくとも晴明が知る悠里ならば、その反応はあり得ない。

 何故ならば、晴明は彼女の最愛の妹、若狭瑠璃の命の恩人なのだから。

 さらに言えば、彼女自身も以前晴明から譲り受けた御守りの力で九死に一生を得ているのだから、むしろ警戒をする理由がない。

 

 それなのに、今、目の前にいる悠里は晴明に対して警戒をしている。

 そして、晴明には【彼自身を知らない若狭悠里】という存在に心当たりがある。

 それは先ほどランプたちと話した内容。即ち、今ここにいる悠里は、【聖典に描かれた若狭悠里】だろうということを……。

 

 晴明は念のため、それが事実であるかを確認するために、改めて悠里に問いかける。

 

「若狭さん、改めて質問なのだが、先ほど恵飛須沢が言ったことの再確認になるけど、君たち学園生活部の生存者は、ここにはいない直樹美紀さんを含めて四名。と、言うことで相違ない、かな?」

 

「……? え、えぇ。そうですが、それがなにか……?」

 

「そうか……。それと、すまないがもう一つ質問なのだが、学園生活部の発起人。それは、佐倉慈先生で間違いなかったかな?」

 

 仲間内、しかも現在では自身と胡桃、そして事情を説明した美紀しか知らない内容を、晴明に質問という形で提示されたことに驚くとともに、さらに警戒を強める悠里。

 

「なぜ、貴方がそれをっ──! えぇ、たしかにそうですよ」

 

 なぜ貴方がそれを知っているのか気になりますが、と付け加えながら答える悠里。

 それを聞いた晴明はそうか。と、小さく頷くと、なぜ自身がその情報を知っているのか。その理由を告げる。

 

「それについては俺も又聞きと言うべきか……。まぁ、詳しくは彼女に聞いたからだな」

 

 そう言いながらランプの方を見る晴明。

 それに釣られるように悠里もまたランプを見る。

 まさか、急に自分の方に話題が飛んで来ると思っていなかったランプは、わたしですかっ?! と驚愕の表情をみせる。

 そんな驚愕の表情をみせるランプを見て、悠里は訝しげな顔で晴明を見ると。

 

「彼女が……?」

 

 と、暗に嘘でしょう。と言いたげに問いかける。

 晴明は悠里の反応に苦笑すると。

 

「まぁ、事実は小説より奇なり、というやつだな」

 

 と言うと、彼女に聞いた聖典やクリエメイトのことをかいつまんで説明した。

 その後、ランプ自身からもさらなる解説を受けた悠里と、そして胡桃はなるほど、と頷いていた。

 

「異世界、ですか……」

 

「まぁ、急に砂漠に連れてこられて、『ここは日本です』何て言われても納得できないし、逆に腑に落ちた、かな?」

 

 なぁ、りーさん? と悠里に同意を求める胡桃。

 そんな彼女に対して、悠里もそれもそうね。と、納得の声をあげる。しかし──。

 

「でも、それなら私たちが出会った、あの、かれらに似た化け物は一体なんだったのかしら?」

 

「……かれら、だと?」

 

 悠里が呟いた言葉。その中に聞き捨てならない単語を聞きとった晴明は疑問の声をあげる。

 彼女が言っていることが事実とするならば、それは即ち──。

 

「なぁ、ランプちゃん。もしかして……?」

 

「は、はい! もしかしたら、既にオーダーの悪影響が出ている可能性が高いですっ!」

 

「そう、なるよなぁ。やっぱり……」

 

 そう言いながら手のひらで顔を覆う晴明。

 晴明のリアクションを不思議に思った悠里は、訝しげな表情を見せると、彼に問いかける。

 

「なにか、問題が……?」

 

「ん? あ、あぁ。問題と言えば問題なんだが……」

 

 そう言って晴明はオーダーの影響について説明する。

 それを聞いた悠里は絶句し、胡桃は苛立たしげに臍を噛む。

 

「そんなの……、それじゃあたしらが、あいつらを連れてきちまったっていうのかよ……!」

 

「それに関しては、君たちではなくこちらが原因と言う可能性もあるしなぁ……」

 

「っ! なんであんたはっ! ……そんなに冷静でいられるんだっ! もしかしたら──」

 

 晴明の、言ってはなんだが他人事のような物言いに激昂する胡桃。

 そんな彼女に晴明は落ち着かせるように語りかける。

 

「もう、既に起きてしまったことなんだ。ならば、悔いるよりも今は為すべきことがある。それに──」

 

 そこまで話したところで、今度は彼の話を引き継ぐようにランプが胡桃に話しかける。

 

「くるみ様、落ち着いてください。全てはオーダーの魔法が原因なんです。つまり、その原因さえ取り除いてしまえば……」

 

「問題なくなるってか……? でも、それでも現に今、あいつらはここに現れてるんだぞっ! それで、被害が出ちまえば──」

 

 あたしは、あたし自身が許せなくなる。と語る胡桃。

 それを聞いたランプは目に涙を溜めると、許しを乞うように彼女に語りかける。

 

「……申し訳、ありません。くるみ様」

 

「あ、え、いや。なんで、ランプが謝るんだよ。お前が悪い訳じゃ──」

 

 ないんだろ? と、声をかけようとする胡桃。しかし、ランプは首を振ると元々の原因は自分たちにあることを告げる。

 何よりも最大の原因がアルシーヴ、自身の師匠にあること。そして、聖典で知りながら、彼女たちになにもできないことを謝り続けるランプ。

 そんな時に、先ほど悠里に頼まれて飲み物を探してきた由紀が帰還する。

 そして、ランプが泣いていることを不思議に思い声をかける由紀。

 

「どうしたの? えっと、ランプちゃん、だったよね?」

 

「ゆき、さまぁ。わたしは、わたしはぁ……!」

 

「あ、でも。まずは、はい、これっ!」

 

 そう言って由紀はランプたちに持ってきた飲み物を渡していく。

 そして、由紀は慈の前に立つと、満面の笑みを浮かべて彼女にも飲み物を手渡す。

 

「はいっ! めぐねえもどうぞっ!」

 

「あら、ありがとう。ゆきさん」

 

「えへへ……」

 

 慈に礼を言われた由紀は照れ臭そうに笑うと、彼女から目線を離し、虚空を見つめて話し始める。

 

「めぐねえにお礼いわれちゃった。ね、()()()()

 

「……えっ? あの、ゆきさん……?」

 

 由紀が急に起こした、慈に礼を言われたことを、慈に報告する。という謎の行動に面食らう慈。

 その由紀の行動の真意に気付いたランプは慈に小声で話しかける。

 

「めぐねえ様。あの、ゆき様は──」

 

 そして、彼女の行動の意味を聞いた慈は驚き目を見開いて絶句する。

 

 ──自身が死んだことにより、由紀が決定的にコワれてしまった。という事実を聞いて。

 

「……そんな、そんなことっ」

 

 慈の口から譫言のようにそんな言葉が飛び出す。

 彼女にとって、丈槍由紀という少女は、不甲斐ない話ではあるが自身が錯乱しかけたときに機転を利かせて皆を纏めあげるカリスマ性と、何より学園生活部の皆を慮ることができる心優しい子だった。

 

 その時、慈は先ほど悠里が言ったことを思い出す。

 

 ──私たちはたかえなんて人も、アレクサンドラなんて人も知らないわ。

 

 その言葉を思い出した慈は、なんてことだ、と思うと同時に足元が崩れ去るような感覚を受ける。

 彼女たちの世界に於いて、アレックスがいなかったことにより、由紀の無二の親友である貴依が助からなかった。

 それで彼女は自分自身のことで精一杯だったのだろう。

 だというのに、その世界では私までもが死んでしまい、その結果、彼女はコワれてしまったのだ。

 

 ──何が教師だ! 何が大人だ! 大切な生徒たちを助けるどころか、壊しておいて、何が守るだ!

 

 違う世界とはいえ、自分自身の不甲斐なさに憤る慈。

 

「……めぐ、ねえ?」

 

 由紀のどこか恐れるような声を聞いて、ハッとする慈。

 そして深呼吸をすると、なるべく普段の調子で笑顔を浮かべながら由紀に語りかける。

 

「どうしたの? ゆきさん?」

 

「なんか、めぐねえが怖い気がしたから……」

 

「そんなことないわ、気のせいよ? それと、ゆきさん? めぐねえじゃなくて、佐倉先生よ?」

 

「うんっ! めぐねえっ!」

 

「や、あの、だからね。ゆきさん──」

 

 そんな慈の言葉なぞどこ吹く風、と言わんばかりに由紀はぴゅー、とランプのもとへ走り去る。

 由紀の行動に毒気を抜かれた慈は、どこか困ったような、それでも安心したかのような雰囲気を醸し出す。

 そこで幾分か冷静になった慈は、彼女たちの、聖典世界について考える。

 

 まず、聖典世界に於いて、蘆屋晴明、唯野=アレクサンドラの二人がいなかった。

 それにより、柚村貴依、若狭瑠璃、祠堂圭。そして、自身の友人となった赤坂透子が帰らぬ人となっている。

 その結果、由紀と悠里は心の余裕が──。

 

 そこまで考えて、慈はふと気付く。

 

 ──彼女たちの余裕が失われているのなら、私は……?

 

 そう考えて、慈は自分はどうだったのだろう。と思い出す。

 そうして、かつてのことを思い出していくうちに、慈はある可能性に行き着いて愕然とする。

 

 それは、彼女自身、身に覚えがある、責任感に押し潰されそうになっていたかつての自身の精神状態だった。

 しかし、あの時は透子との飲み会の中で彼女に諭されたこと、自分以外にも、透子と晴明という大人が増えたという安心感から、精神を持ち直すことができた。

 

 ──だけど、聖典世界の私は……?

 

 なんてことはない、かつての自分でさえギリギリだったのだ。

 それなのに、自身よりもよっぽど追い詰められていた聖典世界の自分は、ギリギリまで、本当のギリギリまで粘って、そして、押し潰されてしまったのだろう。

 

 ──特に緊急避難マニュアル。あれを一人で見て、正気を保てたとはとても思えない。

 

「ふ、ふふっ……」

 

 一体自分はなにに対して怒っていたのだろう?

 そもそも、恵まれた環境にいた自分でさえ限界だったのに、それを棚にあげて、やれ大人だの、教師だの、と。

 これでは道化ではないか……。

 

「お、おいっ。佐倉先生……?」

 

 そこで晴明に肩を捕まれて呼びかけられたことで正気に戻る慈。

 

「あっ、はい。なんですか、蘆屋さん?」

 

「その、大丈夫なのか? ずいぶん顔色が悪いが……」

 

「ふふっ、大丈夫ですよっ。心配してくれてありがとうございます」

 

 心配する様子の晴明に、慈は笑顔を浮かべて大丈夫だと答える。

 もっとも、晴明からすると、彼女の笑顔がとても痛々しく見えて、とても大丈夫そうには見えなかったが。

 だが、慈はそのまま自身の肩を掴んだ晴明を振り切ると、胡桃と悠里の前に移動する。

 急に彼女が目の前に来たことで、悠里は警戒して、そして胡桃はどこか身構えるようにして彼女に話しかける。

 

「な、なんだよ」

 

 どこか怯えるように、おっかなびっくりといった様子で話しかけてきた胡桃に対して、慈は──。

 

「……ごめんなさい」

 

 深々と頭を下げながら彼女たちに謝罪の言葉を告げる。

 

「え、あの……」

 

 慈の様子にさすがに驚いたのか、胡桃は、そして、悠里も目を白黒させる。

 そんな彼女たちの様子はお構い無しに慈は涙声になりながらさらに告げる。

 

「貴女たちの世界の私が死んだことで、いっぱい迷惑をかけてごめんなさい。貴女たちを残して、先に逝ってごめんなさい……」

 

「めぐ、ねえ……」

 

「でも、貴女たちの世界の私は、絶対に貴女たちを嫌っていなかったはずよ。……愛おしく思っていたはずよ」

 

 そこで慈は胡桃をひし、と抱き締める。

 急に抱き締められたことで目を白黒させて身動ぎする胡桃だったが。

 

「だから、私の変わりに私が言うわ。……生きていてくれて、ありがとう。くるみさん。ゆうりさん」

 

 そう言われたことと、何より彼女の暖かさが、自分たちが知るめぐねえ(佐倉慈)そのものだったことを理解して、胡桃はじわり、と目から涙を滲ませていく。

 そして、胡桃と、悠里は慈に強く抱きつくと。

 

「めぐねえ、なんでっ。ふ、ぐぅ。うぅぁぁぁっ!!」

 

「めぐねえ、ごめん、なさいっ。あぁっ…………!」

 

 たしかに彼女は自分たちの知るめぐねえ()ではない。しかし、同時に彼女の優しさ、暖かさは間違いなくめぐねえだったのだ。

 

 だからこそ二人は涙を流す。

 自分たちを導いてくれた彼女と再び会えた喜びに。

 その彼女を、自分たちが疑ってしまった申し訳なさと悲しさに。

 彼女たちは自身の感情に振り回されて、慈に抱きつきごめんなさいと。そして、ありがとう、と涙を流し続ける。

 

 

 

 

 

 そうして泣き続ける二人を抱き締めていた慈だったが、しばらくすると胡桃も悠里も泣き止み、二人ともどこか恥ずかしそうに慈から離れる。

 二人とも泣き腫らして充血した目で慈を見て、慈もまたそんな二人を慈しむように微笑みながら見る。

 

 晴明もそんな三人を微笑ましそうに見ていたが、段々と表情を険しくさせ、他の者たちに気付かれないように周囲を見渡しはじめる。

 その理由は──。

 

(害意は感じないが……。監視、か?)

 

 何者かの視線、あるいは気配を感じた晴明は人知れず警戒体制をとる。

 すると、彼の警戒を感じたのか、一つの人影が由紀の慰めによって泣き止んだランプの近くへ躍り出る。

 

「ふぅん? こんなとこにランプがいるなんて、ね。それにクリエメイトも……。でも、ちょっと()()()()気もするけど」

 

 その声を聞いたランプは驚きの表情を見せると、声が聞こえてきた方向に振り替える。

 そこには、褐色の肌に赤髪の、そして首元には緑色のマフラーを巻き、民族衣裳のような服を着た少女の姿があった。

 その少女を見たランプは、思わずと言った様子で叫ぶ。

 

「貴女は、カルダモン! どうして、ここにっ!」

 

「どうしても、こうしても、ここにクリエメイトがいて、そしてあたしがいる。それで理由なんてわかるでしょ?」

 

「まさか──」

 

「まっ、そう言うこと。それで貴方たち。できれば抵抗せずに捕まってくれるとありがたいのだけど……。そっちの方が、アルシーヴ様の指令も早く終わるんだし」

 

 そんなことを言うカルダモンと呼ばれた少女。

 そんな少女を見据え、ランプは全員に警告するように叫ぶ。

 

「皆様、気を付けてくださいっ! 彼女はカルダモン、アルシーヴ麾下の七賢者の一人ですっ!」

 

 ランプの叫びとともにカルダモン、【七賢者-カルダモン】は愛用の武器である二本の短剣を構えながら身を沈ませて戦闘態勢に入る。

 その顔には不敵な笑みが浮かんでいた。

 

 ──七賢者-カルダモンが現れた。

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