DDS 真・がっこう転生 MythLive   作:想いの力のその先へ

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第四十話 サヨナラ

 先ほどまで部屋の外から響いていた金属がかち合う音が聞こえなくなり、静寂が場を支配する。

 そのことに決着がついたのかと思った慈は、祈るために組んでいた手を解き扉を見る。

 その時、扉が勢いよく開く、と言うよりもむしろ破砕されて一つの影が室内に転がり込んでくる。

 転がり込んできた人物は素早く立ち上がろうとして、そのまま膝をつく。その人物を見て悲鳴を上げる慈。

 

「あ、蘆屋さんっ?!」

 

 慈が悲鳴を上げて呼びかけたように、その人物は晴明その人だった。しかし──。

 

「ガッ! はぁっ! はぁ──……ッ!」

 

 その姿は血濡れで、全身に裂傷、そして頭からも血を流していた。

それを見て悲鳴を上げる慈と、慌てて晴明に駆け寄ろうとする圭。

 しかし、晴明はそんな二人の、特に自身に駆け寄ろうとする圭を止める。

 

「来るなっ、圭!」

 

「でもっ、蘆屋先生っ!」

 

「愚かな。だが、どうやらここまでのようだな。デビルサマナー!」

 

 師弟の会話に割り込んでくる声。声の主を見て悲鳴を上げる学園生活部の面々。

 特に美紀は初めて見たことで、その恐ろしい風貌に顔を引きつらせている。

 そこには服がボロボロになり、ダメージを負いすぎたのか体から陽炎のようにMAGを揺らめかせているマタドールの姿があった。

 

「っ! みきっ!」

 

 その姿を確認した圭は、半ば無意識に美紀を背に庇う。

 そんな圭の健気な姿を見たマタドールは、低く笑いながら圭を嘲る。

 

「くくっ、それは、何のつもりだ。もしや、私と()()()()()、等と勘違いしているのかね?」

 

「ぅ! ……それでも、私はっ!」

 

 マタドールの殺気に顔を青くする圭だったが、それでも、とGUNPを構えると引き金を引いて起動させる。そして──。

 

「圭、やめろっ!」

 

「来てっ、太郎丸っ!」

 

 晴明の制止の声も届かず、圭は太郎丸、魔獣-ケルベロスを召喚する。

 

「アオォォォォォォォォォン!」

 

 白銀の獅子、ケルベロスの召喚自体は問題なく成功するが、やはりまだまだ負担が大きいのか、圭はふらつき、倒れそうになっている。

 それを見た晴明は。

 

「くっ、バカ野郎っ! ──ジャック!」

 

 と、悪態を吐きながらジャックにマタドールの足止めをさせるために声をかける。

 そして、自身は倒れそうになっている圭のもとへ赴き、体を支えると──。

 

「圭っ! ……スマンが、犬に噛まれたとでも思ってくれっ」

 

「ふぇっ?」

 

 晴明の言葉に不思議そうな声を上げるが、次の瞬間には自身の顎に彼の指が添えられてくいっ、と彼の顔に向けられる。

 それと同時に、晴明の顔との距離が急激に狭まり驚きに目を見開く圭。そして。

 

「──んむっ! ……んんっ」

 

 自身の唇に柔らかい感触、さらには口の中に生暖かい感覚を感じた圭。

 ここで初めて彼女は晴明にキスを、それも深いキスをされたことに気付き、気恥ずかしさや、何より意中の男性と接吻をしている、という状況に顔を茹でダコのように赤くする。

 

 因みに、その光景を見た悠里は、咄嗟に由紀の視界を遮りながら自身は食い入るように見つめ、胡桃は自身の指で視界を防ごうとしているが、肝心の指の合間が開いており、どちらかというと覗き見をしているような感じに。

 美紀にいたっては、目の前で親友と見知らぬ男性が急にキスを始めたことで、完全な思考停止に陥っている。

 

「ぷぁっ、晴明さん、なにを……」

 

 晴明とのキスを終えた圭は、無意識にそう言いながら自身の唇を、先ほどまで晴明と触れ合っていた場所を触りながら思う。

 

 ──キスはレモンの味だなんて言うけど、血の味だったな……。

 

 そんな場違いなことを考えていた圭だったが、晴明が崩れ落ちたことで正気に戻る。

 

「晴明さんっ!」

 

「ぐぅ、なんて声を出しやがる。……それよりも圭、体は大丈夫、か?」

 

「そんなことっ! 大丈夫、に……?」

 

 大丈夫に決まっているでしょう!と、言おうとして固まる圭。

 それもそのはず、先ほどまで無理にケルベロスを召喚したことでMAGが枯渇し、意識が朦朧としていたはずなのに、今は意識がはっきり、どころか、体の内側から力が湧き出てきているからだ。

 

 そのことに気付き、目を白黒させている圭を見た晴明は、苦笑しながら圭を叱る。

 

「まったく、以前、体液交換でもMAGの譲渡ができる。と教えたはずなんだけど、な。これは、無事に帰れたら補習だな」

 

「あぅぅぅっ」

 

 晴明の補習という言葉に顔をしかめて情けない声を上げる圭。

 そんな圭を見て、晴明は安堵の表情を浮かべるが、傷の痛みが響いたのか顔をしかめる。

 そして、晴明は痛みを堪えながらバロウズに話しかける。

 

「う、ぐぅ。バロウ、ズ」

 

《マスター! 圭、これをマスターに使ってあげてっ!》

 

 そのバロウズの言葉とともに、ガントレットから青みがかった丸いものが転がってくる。

 それを慌てて拾い上げた圭は、バロウズにどう使えばいいのか問いかける。

 

「あ、あの。バロウズさんっ! これって、どう使えば……」

 

《以前、魔石を使ったことがあるでしょう? それと同じ使い方で良いわっ!》

 

 それを聞いた圭は、以前もとの世界の悠里を治療した時と同じように、青みがかった丸いもの、宝玉を押し当てる。

 すると、ピキリ、と宝玉がひび割れると同時に、何らかの粒子のようなものが晴明の体に流れ込み、傷の治療をしていく。

 そして最終的に血濡れであることには変わりないものの、傷自体は塞がったようで、晴明はしっかりとした様子で立ち上がる。

 

《マスター、大丈夫かしら?》

 

「あぁ、なんとかな……」

 

 バロウズの心配の言葉に、晴明はおざなりに返しながらマタドールと、ジャック、ケルベロス、そしてなぜか一緒に闘っているカルダモンの闘い──とはいっても、実際には三対一の闘いでありながらマタドールに完全に翻弄されている──の様子を見ている。

 

 それも仕方がないだろう。なんと言っても、二人と一匹のうち、ジャック、ケルベロスが、マタドールとの相性が最悪と言って良いのだから。

 

 そもそも、マタドールとはどう言った存在なのか?

 

 ──人外の化物(悪魔)である。

 

 確かにそれでも間違いではない。

 

 ──その中でも特殊な(死を司る)存在、魔人である。

 

 それも正しい。しかし、今回はそんなことよりも、さらに単純なのだ。

 それは、マタドールは闘牛士であり、そして、その中でも闘牛を狩るとともに、()()()()ことにも悦楽を見いだした存在なのだ。

 

 つまり、魔人-マタドールとは、闘牛を、獣を狩るプロフェッショナルであると同時に、人殺しのプロフェッショナルでもあるのだ。

 

 そして、次にこちら側の戦力である、ケルベロスとジャックについて考えてみよう。

 

 まずはケルベロスについてだが、彼は確かにギリシャ神話に登場する地獄の番犬であることは確かだ。

だが、その意識はケルベロスという存在に引っ張られてこそいるが、下地となっているのは子犬の太郎丸なのだ。

 そして、子犬だった太郎丸は闘う存在ではなく、庇護される存在だった。

 そんな子犬が、闘牛士として名を馳せたマタドールと互角の闘いが出来るか?

 

 ──答えは否だ。

 

 それもそうだろう。百戦錬磨の闘牛士に、愚直に突撃しか出来ない獣が襲い掛かったところで見世物の闘牛、それの焼き直しにしかならない。

 

 次にジャックについて考えてみるが、こちらはさらに単純だ。それこそ結論を言うのなら一言で終わる。

 

 ──魔人-マタドールは外道-ジャック・リパーの上位互換である。

 

 マタドールとジャックは同じような殺人鬼である。

 そして、ジャックは素早さを生かした一撃離脱戦法を得意とするが、マタドールは彼女よりも素早くなる赤のカポーテ、というスキルがある。

 ジャックは手に持つ二つの短剣による波状攻撃や、投げナイフの投擲など、手数の多さで闘うが、マタドールにはその手数を粉砕できる、神速の連続突きである血のアンダルシアがある。

 

 そして、ともに対人特化である以上、能力が高い方が勝つ。それが必然だ。

 

 その証拠に、先ほど圭たちをこの部屋に避難させる時に晴明はジャックを圭たちの護衛につけた。

 二対一で闘えば有利に闘えたかも知れないのにだ。

 その理由がこれだ。

 ともに闘ってもジャックが足手まといに、どころか形勢が不利になる可能性が高いと判断したからこそ、晴明は彼女を圭たちの護衛につけたのだ。

 

 然るに、先の二人と共闘しているカルダモンはどうだろうか?

 はっきりと言ってしまえば、彼女がともに闘っているからこそ、かろうじて戦線が崩壊していないといって良い。

 

 彼女自身は、ケルベロスやジャックと違い、只人であるが、それでも、七賢者と呼ばれるほどには場数を経験している。

 無論、それには格下相手だけではなく、格上相手との戦闘経験があることから力押しだけで勝てる、等という幻想は持っておらず、それ故に搦め手等の経験も豊富だ。

 

 実際に今のカルダモンは、ジャックやケルベロスの攻撃の隙をカバーすることに終始しており、そのことからマタドールもあと一歩のところを攻めあぐねている。

 

 だが、それでも彼女らが不利なことには変わりない。

 そのことを理解している晴明は、早急に戦線復帰をしようとするが、その前にバロウズになにごとかを話しかける。

 

「バロウズ、一つ、二つ確認をしたい。まずは────」

 

 晴明から確認したいことを告げられたバロウズは素っ頓狂な声を上げる。

 

《え、えぇ…………? いや、まあ、多分出来るとは思うけど……》

 

「なら、頼む」

 

《……アイ、アイ、マスター。出来る限りやってみるわ》

 

 バロウズの了承を聞いて改めて戦線復帰しようとする晴明だったが。

 

「待ってくださいっ!」

 

 そこで待ったの声がかけられる。

 唐突な声に不思議そうに振り向く晴明。その場にいたのはきららだった。

 

「どうかしたのか、きららちゃん?」

 

「えっと、私も少しお手伝いできるから……」

 

 そう言いながら、きららは手に持つ杖。その先端にある星形の飾りを輝かせると。

 

「お願いっ! 私に、皆に力を貸してっ!」

 

 その言葉とともに星形の飾りから光が放たれ、晴明たちの方へと向かう。だが、その光は晴明たちを通りすぎるとそのまま上昇。

 晴明たちの頭上、天井近くまで移動すると、光がはじけて魔法陣を描く。

 そして、その魔法陣から暖かな光か晴明と、そして、圭に降り注ぐ。

 

 その光を浴びた晴明と圭は、体の内側から力が張ってくることに驚きを露にしてきららを見る。

 そんな二人にきららは微笑みながら話しかける。

 

「これでも召喚士ですから。これくらいしか出来ないけど、頑張って!」

 

「……ああ、感謝する!」

 

 きららの激励に晴明はそれだけを告げると、圭とともに戦線へと復帰するのだった。

 

 

 

 

 

 

 晴明と圭が戦線に加わろうとしているその頃、太郎丸、魔獣-ケルベロスはその必殺の牙を以てマタドールを仕留めようと襲い掛かる。しかし──。

 

「ガアァァッ!」

 

「ふははっ、緩い。緩いわっ!」

 

「ギャンッ!」

 

 マタドールは突撃してきたケルベロスを華麗にかわすと、すれ違いざまにエスパーダの突きで刺し貫く。

 ケルベロスは悲鳴を上げながらもなんとか体勢を立て直すが、それでも、幾度とないマタドールの攻撃によって血を、そしてMAGを失いすぎたのかふらふらとしている。

 それを好機と見たマタドールはすかさず追撃に入ろうとするが。

 

「──やらせないよ!」

 

 そこで短剣に炎を纏わせたカルダモンが斬りかかってくる。

 それを危なげなくかわすマタドールだったが、次の瞬間には既にカルダモンは退避しており、またもや邪魔をされたことに悪態を吐く。

 

「おのれぃ! 先ほどから邪魔ばかりしおって!」

 

「当然でしょ? あたしはそのためにここにいるんだから」

 

 マタドールの悪態に、カルダモンはさらに挑発するように告げなから考える。

 

(とはいえ、どうしたものかな。このままじゃ、じり貧だね……)

 

 そんなことを考えているときに、カルダモンの背後から音の魔弾が追い越すように現れて、マタドールに降り注ぐ。

 

「ぬぉぉっ!」

 

 意識外からの突然の攻撃に驚きの声をあげると同時に、音の魔弾が炸裂し爆炎の中に消えていく。

 

「やった!」

 

「いや、まだだっ!」

 

 自身の攻撃がマタドールに当たったことで喜びの声をあげる圭に、晴明は油断をするな、と言いたげに叫ぶとマタドールが先ほどまでいた場所に突撃していき、立ち込める煙を切り裂きながら突き進む。

 

「ぐっ! デビル、サマナー……!」

 

「雄、ぉぉぉぉぉぉお!」

 

 そして、晴明は硬直しているマタドールを部屋から押し出していく。

 さらには押し出しながら倶利伽羅剣を振り抜いてマタドールを吹き飛ばす。

 

「ぬぅおおおっ!」

 

《マスター! この場所よっ!》

 

「おうっ!」

 

 マタドールが吹き飛ばされた場所を確認したバロウズは晴明に合図を送る。

 バロウズの合図を聞いた晴明はなぜか倶利伽羅剣を床に突き刺す。そして──。

 

「破ぁぁぁぁぁあ!」

 

 倶利伽羅剣にMAGを込めるとそのまま地面に、マタドールがいる場所に向かって放出!

 晴明のMAGに耐えられなかった床はひび割れて崩壊する。

 

「ぬぅっ!」

 

 その崩壊に巻き込まれてマタドールも落下していく。

 落下していくマタドールを追撃するために、晴明も崩壊した床に向かって飛び込んでいく。

 だが、マタドールは素早く体勢を立て直すと地下に着地して迎撃体制を取ろうとするが──。

 

「──な、にぃっ!」

 

 なんと、マタドールが落下している地点には大穴が、晴明たちが洞窟から教会に向かうために通った縦穴が存在していた。

 そして、自身の上空には追撃のために追ってきた晴明が迫ってきている。

 地表に降り立っての迎撃が間に合わないことを確認したマタドールは。

 

(ならば、カウンターで仕留めるのみ)

 

 晴明が接近したときに逆に刺突で迎撃をすることを選択。

 幸いにも、落下速度や相対速度としても問題ないことを確認しているため、マタドールは落ち着いて精神を研ぎ澄ませる。

 それこそ、このまま()()()()()()()()()問題なく晴明を仕留められると確信したゆえに。

 

(さあ、こいっ!)

 

 だが、晴明はマタドールにとって予想外の行動に出る。

 

「──マハ・ザンダイン!」

 

 なんと晴明は、自身の背後から()()()()()()広範囲化された上級衝撃魔法(マハ・ザンダイン)を放ったのだ。

 その衝撃波は、晴明の身体にダメージを与えながらも爆発的な加速を与え、マタドールの予測を覆す速度で接近する。

 

 無論、その状況でマタドールの迎撃が間に合うはずもなく、最後に彼が見た光景は。

 

「……くははっ! ──この、死狂い(シグルイ)めがっ!」

 

 壮絶な笑顔を浮かべながら、自身を討とうとする晴明の姿。

 そしてそのまま二人は、マタドールは倶利伽羅剣に貫かれて、洞窟まで堕ちていくのだった。

 

 

 

 

 晴明がマタドールを討伐したあと、カルダモンを含む全員が再びクリエケージのある部屋に集まっていた。

 そこでは、マタドールが現れる前の殺伐とした雰囲気はなく、むしろそれぞれが別れを惜しむように涙ぐんでいる。

 その中でカルダモンが美紀に向かって話しかける。

 

「美紀、本当にここに残るつもりはない?」

 

「……はい。私が帰る場所は皆の、学園生活部のところですし。それに、けいにも会えましたから」

 

「……そっか、残念」

 

 カルダモンの勧誘の言葉に、美紀が笑顔を浮かべながら断る。

 すると、カルダモン自身も断られると分かっていたのだろう。微笑みながら、冗談半分に残念がっていた。

 

 カルダモンの諦めの良さに、流石に疑問に思ったのかランプが話しかけてくる。

 

「皆様を諦めるとは、いやにものわかりが良いですね、カルダモン。いったいどういう風の吹き回しです?」

 

 ランプの疑問に、カルダモンは苦笑しながら答える。

 

「ものわかりもなにも、美紀は解放しちゃったし。それに──」

 

 そこでカルダモンは、晴明たちを一瞥すると言葉を続ける。

 

「いくらなんでも、ここから挽回するなら、それこそ七賢者を全員連れてこないと厳しすぎるから……」

 

「あぁ~……」

 

 カルダモンの答えに、ランプは納得したが、同時に彼女がそこまでしないと勝ち目がない、と判断していることに驚き、曖昧な声を上げてしまう。

 きららもランプと同感だったのか、どこか困ったような表情を浮かべる。

 しかし、そのままなにもしない、というわけにもいかず、彼女は自らの出来ることを成そうとする。

 

「それじゃ、クリエケージを壊しますね。皆さん、良いですか?」

 

 晴明たちや学園生活部、この世界でクリエメイトと呼ばれる者たちを見渡して確認を取るきらら。

 そのきららの確認に全員が頷くと、きららはクリエを杖に込めて光弾を発射。クリエケージを破壊する。すると。

 

「なるほど、こうなるのか」

 

「うっひゃあ、なんだこれ!」

 

 クリエメイトたちの体が足下から光の粒子になってほどけていく。

 それは、さしずめ悪魔たちが魔界に送還される時に酷似していた。

 そのことで、他の者たちよりも冷静だった晴明が最後の言葉を告げる。

 

「まぁ、なんだ。みんな世話になった。もし、また会える機会があるなら、また会おう」

 

 晴明の言葉を皮切りに他の面々も思い思いに別れの言葉を告げていく。

 そして、晴明たちがエトワリアから去ったあと。

 

「それで、カルダモンさんは、これからどうするんですか?」

 

「どうするか、か。……とりあえずは任務失敗しちゃったからね。アルシーヴさまに叱られてくるさ」

 

「えぇ……?」

 

 カルダモンの冗談に微妙そうな表情を浮かべるきらら。

 そんなきららを見て笑うカルダモンだったが、不意に真剣な表情を浮かべて彼女たちに忠告をする。

 

「召喚士、きららだったね」

 

「は、はい……」

 

「これからも旅を続けるつもりなら気を付けるんだね。アルシーヴさまが、なんでオーダーなんかを使ってるのかは分からないけど、少なくとも、あの人は本気だ」

 

「えっ……?」

 

「あの人は、自分の命を燃やし尽くしてでも、ことを成すつもりだよ。だから、引き返すなら今のうちだよ」

 

 警告か、あるいは脅しのように告げるカルダモン。

 そんな彼女にきららも真剣な表情を浮かべて自身の覚悟を告げる。

 

「それでも、私もランプやマッチと約束したんです。ソラさまを必ず救うって。だから、これからも旅は続けます」

 

 そのきららを見たカルダモンは、ほんの少しきららを真剣な眼差しで見るが、すぐに破顔する。そして、きららに優しく声をかける。

 

「そっか、それなら頑張りなよ。あたしは七賢者って立場があるから手伝えないけど、応援してるよ。それじゃ、ね」

 

 そうカルダモンは一方的に告げると、きららの返事を待たずに走り去っていく。

 きららたちは走り去っていくカルダモンを呆然とした様子で見送る。

 

 しばらくそのまま固まっていた面々だったが、互いの顔を見て苦笑する。

 そして、きららは皆に告げる。

 

「それじゃ、次の場所にいこっか」

 

「そうですね、きららさん」

 

 そう言って彼女たちもまた旅を再開する。

 そうして彼女たちは、今後も多くの少女(クリエメイト)たちと出会い、絆を紡いでいくだろう。

 

 のちにエトワリアの地にて、新しく一つの物語(英雄譚)が人々に語られることになる。

 数多の少女(クリエメイト)たちと、伝説の召喚士が紡ぐ救世の物語。

 

 ──その物語の名は『きららファンタジア』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここは晴明たちがいた世界にある巡ヶ丘学院、学園生活部の部室。そこではお通夜のような雰囲気が漂っている。

 部屋の中にある席に座っている全員が、思い詰めたような顔で机を見つめていた。

 それもそのはず、こちら側の時間で言えば、晴明たちが行方不明になって、既に約一週間が経とうとしていた。

 

 そして、さらに言えば彼女たちにも、目下どうしようもない問題が発生していたのだから……。

 そんな重苦しい雰囲気の中、その中でただ一人、由紀が意を決したようになにかを言おうとした瞬間、部屋が光に包まれる。

 

「きゃあっ!」

 

()()()、一体なんなんだよ!」

 

 由紀が悲鳴をあげ、貴依が苛立ちの声を出すが、光が収まった後に現れた人物たちを見て息を呑む。

 そこには行方不明になっていた晴明たちがいたからだ。

 そして由紀は、その中に慈の姿を確認すると、涙を流しながら彼女に抱きつく。

 

「めぐねえっ!」

 

「あらあら、どうしたの。ゆきさん?」

 

 由紀が急に抱きついてきたことに吃驚した慈だったが、すぐに彼女を抱きしめ返し、安心させるように頭を撫でる。

 そのことで、自分たちのもとへ帰って来てくれたと理解した由紀はさらにぎゅう、と抱きつく。

 由紀の様子に流石におかしいと感じたのか、慈は由紀に語りかける。

 

「ゆきさん……?」

 

「めぐねえ、ごめ、ごめんな、さい。わたし、わたしぃ……」

 

 そこで、いつの間にか晴明のすぐ側まで寄っていた透子が話しかけてくる。

 

「晴明さん、ちょっと……」

 

「どうか、したのか?」

 

 彼女が話しかけてきたことに疑問を持った晴明は問いかけるが、透子の耳打ちで驚愕の、ともすれば信じたくない情報がもたらされる。

 

「胡桃ちゃんが──」

 

「なん、だって……!」

 

 その、透子から語られた言葉を聞いた晴明は慌てて周りを見渡す。

 すると、確かにこの部屋の中に()()()姿()がない。

 

「なんで、彼女が……!」

 

「私だって分からないわよっ! あの子が、なにを思ったのか、どうして()()()()()()()()()のか、なんて……!」

 

 そして、部屋の隅に(相棒)を失ったシャベルが立て掛けてあった。

 まるで(相棒)が消えたことを悲しむかのように、それでも、(相棒)が戻ることを望むように鈍く輝きながら……。

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