DDS 真・がっこう転生 MythLive 作:想いの力のその先へ
由紀が涙を流しながら慈に抱きついている頃、晴明は他の面々から、彼らがエトワリアに行っていた頃の話を聞いていた。
「それで、だれか。詳しい話を聞いても良いかい?」
「それじゃあ、私が話すよ」
晴明の問いかけに、貴依が挙手すると、なにが起きたのかを話し始める。
「そうだね。まず、ゆきからえんそくの提案があったのが、すべてのはじまりだったんだ」
そう言いながら、貴依はすべてのはじまりから話し始めるのだった。
時は、晴明たちがエトワリアに召喚された翌日まで遡る。
前日は半ば錯乱していた透子だったが、一晩寝て多少は落ち着いたのか、ぽつり、ぽつり、となにが起きたのかを話していた。
「あの時、なにが起きたのか、よく分からないの。ただ、私たちの足下が光って、それで、私は晴明さんに突き飛ばされて……。で、晴明さんが『俺たちは大丈夫』って言った後に、みんなの姿が消えたのよ」
改めて透子の話を聞いた由紀たちであったが、聞いた結果、ほぼ状況が不明であるとだけしか分からず沈黙が降りる。
その中で一人だけ思案顔だったアレックスが自身の考えを述べる。
「……考えられる可能性として、何者かによって、転移、もしくは召喚魔法でどこか別の場所に飛ばされたのかも知れません」
「そう、なの。あーちゃん?」
アレックスの考えに、由紀は小首を傾げながら問いかける。
それにアレックスは、恐らくですが。と言いつつ肯定する。
「あくまで推測でしかありませんが、可能性は高いかと……。そういったことも出来る悪魔もいるでしょうし、それに都市伝説もあることはありますから」
「都市伝説?」
「神隠し、のことですよ」
アレックスの神隠し、という言葉を聞いて納得の表情を浮かべる由紀。
そこで悠里は、やはり妹の命の恩人ということもあり、本人も気にしていることから、瑠璃の顔色を見ながらアレックスに質問する。
「それで、結局蘆屋さんは無事、と考えて良いのかしら?」
「恐らくは、としか……」
そう言いながらアレックスはこの場に残っている晴明の仲魔である大僧正とアリスを見る。
「昨日、蘆屋さんが消えたのと同じくらいにジャックちゃんたちも姿を消してるので、恐らくは彼とともに行動していると思うので、実際にそうであれば、戦力的な不安はない、はずです」
「そう……」
アレックスの答え、その中のジャックの下りが出たときに瑠璃の顔が曇ったこともあり、素直に喜びの声をあげられない悠里。
そのまま再び学園生活部の部室に沈黙が降りる。
そこで沈黙を破るように由紀が皆に向けて話し始める。
「はーさんならきっと大丈夫! だから、今は私たちの出来ることをやろうよっ!」
由紀が皆を元気づけるように発破をかける。
それを聞いた貴依は微笑ましいものを見たように薄く笑ってからかうように話しかける。
「おいおい、私たちの出来ることって、なにするんだよ?」
「ん~とねぇ……。えんそく、とか?」
「はぁ……?」
由紀のえんそく、という発言に間抜けな声を出しながら首をかしげる貴依。
そんな貴依を見ながら、由紀はあはは、と笑いつつ、自身がえんそくと言った意味を説明する。
「ほら、とーこさんや、みーくんがショッピングモールや秘密基地で暮らしてたって、言ってたじゃない?」
「あ、あぁ。確かに言ってたな」
「だから、さ。今でもそんな感じで手付かずなところがあるんじゃないかなぁ、って。」
「なるほど、確かに!」
由紀の言葉に納得した貴依。そして、そのまま胡桃たちにも同意を求めるように話しかけるが……。
「なぁ、くるみもそう思うよなっ! ……くるみ?」
「うん……? どうかした?」
件の胡桃は心ここに在らず、といった様子でぼぅ、としていたが、貴依が話しかけてきたことで、半分反射的に返事をする。
そんな胡桃の状態を確認した貴依は心配そうに話しかける。
「どうかした、じゃないよ。……大丈夫なのか、くるみ?」
貴依の心配そうな顔を見た胡桃は、彼女を安心させるように勝ち気な笑みを浮かべて大丈夫だと告げる。
「おいおい、大丈夫ってなんだよ。……大丈夫に決まってるだろ」
「それなら、今話してたこと分かるよな?」
「えっと、ごめんごめん。なに話してたっけ……?」
「やっぱり話聞いてないじゃないか……。ゆきが、皆でえんそくに行こうって話だよ」
「そうそう、えんそくね、えんそく。…………んん? えんそく?」
やはり、上の空で話を聞いていなかった胡桃に、貴依は呆れた様子で由紀の提案を伝える。
それを聞いた胡桃はわかってるとでも言いたげに何度かおうむ返しのように繰り返す。
しかし、えんそくという言葉が予想外過ぎたのか、胡桃はキョトンとした顔で貴依を見ながら訪ねる。
胡桃の様子に貴依は苦笑しながら聞き間違いでははないことを告げる。
そして、さらに由紀がなぜえんそくといったのか、その意味も含めて説明すると、胡桃も納得したように頷いている。
「なるほど、あたしも良いと思うぜ。あ、でも……」
「でも?」
「足はどうするんだ? 流石に歩いて、って訳にもいかないだろ」
「ああ、それは、まあ……」
二人してどうしようか?と悩んでいたが、話を聞いていた透子が挙手すると、とある提案をする。
「それなら、私の車を使えば良いと思うわ。あれならここにいる全員乗れるだろうし、ある程度の物資も載せれるわ」
それに、秘密基地にしろ、リバーシティ・トロンにしろ以前行ったから案内も出来るし。と二人に告げる透子。
その透子の言葉に二人はもとより、えんそくを提案した由紀も安堵のため息をもらす。
由紀が安堵のため息をもらしたことに、悠里があらあら、とどこか興味深そうにわらいながら彼女に問いかける。
「あら、もしかして、ゆきちゃんも車をどうしようか、って考えてたの?」
その悠里の問いかけに、由紀は否定するように首を振ると、別の──ある意味では同じ心配になる──ことについて告げた。
「流石にはーさんの安否がわからない状態じゃ、心配で運転どころじゃないかなって。それに、めぐねえたちのこともあるし……」
それを聞いた悠里はなるほど、と納得したように頷く。
そして透子も、由紀に対して微笑みながらありがとう、と告げる。だが。
「でも、ね。由紀ちゃん」
透子は由紀に声をかけた後に瑠璃を見て。
「るーちゃんだって頑張ってるのに、大人の私が塞ぎ込んでるわけにもいかないでしょ? それに、慈がいないからこそ私が、彼女の変わりにしっかりしてないと、ね?」
そう茶目っ気たっぷりに告げる透子。
彼女たちを安心させるために、あえて慈の、教師と同じような仕草を演じる透子を見た由紀はくすりと笑うと。
「うん、そうだねっ! はーさんや、ねぐねえがいない間、私たちが頑張らないと、だね!」
由紀も透子に負けじと元気に告げる。
それをニコニコと見つめていた透子だったが、何かを思い出したかのように声を出す。
「あっ、でも、出発は少し待ってもらっても良いかしら?」
その言葉に今から頑張るぞ! と気炎を上げていた由紀は出鼻をくじかれたこともあり、ずるっ、とコケそうになる。
「……とーこさぁん」
「あはは、ごめんごめん」
彼女を見て恨めしげに情けない声を出す由紀に対して、透子はひきつった笑いを浮かべて謝る。
そして、言い訳のように透子は由紀に出発を待ってほしい理由を告げる。
「ほら、あの車。ここに来た時以降動かしてないから、念のため確認と、必要なら整備をしておきたいのよ」
まぁ、整備と言っても、本当に簡単なことしか出来ないんだけど、ね。と、はにかみながら言う透子。
その理由を聞いた由紀は、なるほど、と言って手をぽんと叩きながら納得する。
「確かにきちんと確認しとかないと、動かそうとした時に動きませんでした。では、困るもんね」
「でしょう? だから、少しだけ待ってほしいのよ」
透子の要請に、得心がいった全員が頷く。
そこで、なにごとかを考えていた由紀が、また何かを思い付いたように発言する。
「でも、そうすると……。あ、そっか。なら、おてがみを出そうよっ!」
その由紀の発言に胡桃が訝しげに問いかける。
「……てがみ?」
「うんっ! ──私たちはここにいます、って皆に知らせるの!」
「皆って……! 他の生存者にってことか!」
「そう!」
由紀の考え、その答えに気付いた胡桃が驚きの声をあげると、彼女は嬉しそうに肯定する。
しかし、そこでアレックスが彼女の考えについての問題点を告げる。
「でも、ですよ。由紀さん。手紙を出すのは良いんですが、どうやって出すんです?」
アレックスの質問に、由紀は得意気な顔をすると、瑠璃に話しかける。
「ふっふ~ん。それならちゃんと考えがあるよっ!……るーちゃん、このあいだ見せてもらった
「あれって、これのこと? ゆきおねーちゃん?」
由紀にお願いされた瑠璃は、可愛らしいポーチをごそごそと探るととあるものを取り出す。
それを間近で見ていた悠里は、妹が取り出したものを見て、なぜ由紀が自信満々にしていたのかを理解する。
「るーちゃん、ゆきちゃんが言ってたあれって……、風船セット? そっか、ここにあるヘリウムガスを使えば!」
その悠里の言葉に、他の面々も感心の声を出す。
その中で胡桃がさらに一言。
「でも、どうせならもう一つ他の方法があっても……。そうだな、鳩でも捕まえてみるか!」
伝書鳩なんて言うしな!と、楽しげに告げる。
それを聞いた由紀も面白そう! と同調して、風船以外にも鳩も使うことを決めて、胡桃と由紀で鳩捕獲チームが結成される。
その後は、あるものはガスを確保に、またあるものはおてがみを書き、胡桃たちも何度か捕獲に失敗するものの、偶然にも由紀が
尤も、捕獲した時に鳩の名前について二人の間で一悶着あったものの、悠里の取り成しもあり、二人の案をそれぞれ盛り込んで『アルノー・鳩錦』と命名されることになる。
おてがみと配送手段を用意した学園生活部は、準備を終わらせると屋上へと向かう。
屋上へ出た学園生活部の面々の視界には、晴れ渡る青空と未だに収穫されていない野菜の数々、そして──。
「先輩……」
思わずぽつり、とこぼす胡桃。
彼女の眼前、そこには一つの十字架、遺体こそアレックスに処分されたが、胡桃の想い人で故人の葛城の墓があった。
物思いに耽っている胡桃の肩にぽん、と手が置かれる。
「くるみちゃん、大丈夫?」
胡桃の肩に手を乗せた由紀が心配そうに話しかける。
彼女の心配に、胡桃は安心させるように答えを返す。
「だいじょぶ、だいじょぶ。それよりも、さっさとおてがみを出そうぜ」
と、由紀に答えながらアルノー・鳩錦におてがみを括りつける胡桃。
その彼女の後ろ姿に、物悲しさを感じる由紀だったが、それを言うわけにもいかず、沈黙している。
そんな由紀の顔を見た胡桃はおどけた様子で話しかける。
「ほらほら、どうしたよ? おてがみ、出すんだろ?」
気遣っているはずの相手に、逆に気遣われてしまった由紀は、これ以上心配をかけまいと笑顔を浮かべる。
「うん、そうだねっ!」
そして由紀はアルノー・鳩錦に目線をあわせるように屈むと、そのまま話しかける。
「アルノー・鳩錦。おてがみのこと、お願いね」
アルノー・鳩錦は由紀の言葉に任せろ、と言わんばかりに翼をパタパタと動かす。
それを見た由紀はにこり、と笑うと立ち上がって今度は仲間たちを見渡す。
すると、仲間たちもまた彼女を見て頷く。
皆もまた準備が終わったことを、言外に告げていたのだ。
全員の準備が出来たことを確認した由紀は皆に、代表として風船のおてがみを持っている瑠璃と、アルノー・鳩錦を捕まえている胡桃に、号令を出す。
「それじゃ、二人とも。おてがみ、しゅっぱ~つ!」
その掛け声とともに、風船とアルノー・鳩錦が放たれ青空へと旅立っていく。彼女たちの淡い希望を乗せて……。
「アルノー! 頑張ってねー!」
由紀は、彼女たちはその姿を見送っていた。
そして、声援をかけた由紀には、アルノー・鳩錦の鳴き声が聞こえた、ような気がしたのだった。
由紀たち学園生活部がおてがみを送り出した翌日。
透子を主導とした車の整備──透子の護衛としてアレックス、そして彼女が着たデモニカスーツのAI『ジョージ』が実質的に細部までチェックを行っていた──が終わり、改めて由紀の発案であるえんそくへと出発することになった面々。
透子と美紀はかつて巡ヶ丘学院高校に避難する際に街が壊滅している様子を見ていたためそこまで驚いていなかったが、他の学園生活部の面々は本当に街が、巡ヶ丘市が壊滅した様子を見たために沈痛な表情をしている。
「…………本当、は」
車の中から外の、巡ヶ丘の壊滅した光景が流れていくのを見ながら胡桃が呟く。
彼女の呟きを聞いた美紀が神妙な顔で続きを促す。
「くるみ先輩。どうしたんですか?」
そんな美紀に対して胡桃は、力のない笑顔を浮かべて話す。
「本当は、既に自衛隊とかがさ、救助活動とか復興活動とかしててさ、そのうち今度はあたしたちも救助してもらえるんだ。なんて、思ってたんだけどな……」
「先輩……」
「蘆屋さんが、さ。言ってた、自衛隊の基地が壊滅してたってのも、実は嘘で、あたしたちにサプライズをするために隠してたとか、さ」
胡桃は自身の中にある感情がごちゃごちゃになってきたのか、喋る度に俯きどんどん涙声になっていく。
「本当は、分かってたんだよ。そんな都合の良い、フィクションみたいなことが起きるわけないって。でも──」
そこで顔を上げた胡桃の視界にとあるものが映る。
「あっ! ストップ!」
「えっ! ──どうしたの?」
胡桃が急にストップと言ったことで、透子は車を慌てて停めて彼女に話しかけた。
透子に話しかけられた胡桃は、どこか慌てた様子でなんでもない、と告げようとするが……。
「あ、いや、なんでも──」
そこで由紀がなにかを見つける。
「あっ、もしかして、あそこって、くるみちゃんのお家?」
由紀の視線の先、そこには『恵飛須沢』という表札が掲げられた家が一軒あった。
「……ああ、そうだよ」
由紀に問われたことで、胡桃は観念したかのように肯定する。
胡桃の肯定の言葉を聞いた由紀は、なら、と一つの提案をする。その提案とは──。
「せっかくなんだし、一度、顔を出すのも──」
そこで由紀は、なぜか胡桃を一人にしてはいけない。という感覚に襲われる。
もし、彼女を一人にしたら、それこそ、取り返しのつかない事態に陥るような──。
なんの確証もない、ただのカンでしかないが……。
その時、ふとイゴールの顔が、そして言葉が頭によぎる。
──どうやら丈槍様の未来には、何らかの誘惑、ないしは裏切りの憂き目に合い、その結果命を落とす可能性があるのかも知れませんな。
なんとなく、あの時イゴールに言われた、この言葉が関係するような気がして、由紀は咄嗟に胡桃にお願いをする。
「ね、ねっ! くるみちゃん! 私も着いていって良いかな?」
「はぁっ?」
「ほ、ほらっ。私、友だちの家に行ったことってないから……。だから、いいかな?」
彼女の言い分を聞いた胡桃は、そういえば由紀は『丈槍』だったな、と思い返す。
そして、由紀自身良い子であるし、なにより彼女の願いを叶えてあげたいと思った胡桃は由紀のお願いを了承する。
「ああ、いいよ。……一緒に行くか?」
「……うんっ! ──ありがとう、くるみちゃん」
そう言って二人は手を繋ぎながら胡桃の家に向かう。
「……ただいま」
「……お邪魔、しまぁす」
家の扉を開きつつ、小さく言葉を紡ぐ胡桃と由紀。
彼女たちの声に反応する存在はないようで家の中は静寂が支配している。
胡桃たちは、万が一の事態を想定して、あえて靴を脱がずに中へ入っていく。そして──。
「パパ、ママ、居る……わけないよね」
がちゃり、と胡桃は両親の寝室のドアを開けながら、半ば無理と分かっていても、一縷の望みをかけて両親に、自身の大好きな父親と母親に声をかける。
だが、彼女自身が否定したように、寝室の中の光景は、『かれら』が暴れた、あるいは生者を襲ったことがわかるような荒れ果て具合だった。
それを見た胡桃はため息を吐きながらドアを閉める。
それから胡桃は、由紀とともに今度はリビングへと向かう。
内心、諦めに支配されていた胡桃だったが、リビングの扉を開いて中を見た瞬間目を見開く。
リビングの中、そこには胡桃を成長させるとこうなるであろうという容姿をした女性の後ろ姿があった。
その女性が彼女たちの方へ振り向く。
「どちらさま──! くるみ、ちゃん?」
「マ、マ……?」
胡桃の姿を確認して驚きの声をあげる女性。
そこにいた女性こそ、恵飛須沢胡桃に、彼女にとって大切な、そして大好きな母親であった。
その女性を、胡桃の母親を確認した由紀の中で、なぜか彼女に対して、特大の警鐘が鳴らされるのだった。