DDS 真・がっこう転生 MythLive   作:想いの力のその先へ

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 第三話とはまた違った意味で意外な人物が登場し、そして、ついに地獄の釜の蓋が開き始める第四話です。では、どうぞ。












第四話 アウトブレイク

 朱夏たちと別れた後に情報収集を続けた晴明であったが、特に目新しい情報にありつけることもなく、その日はホテルに戻ることにする。

 その道中、晴明はとある場所の前を通り過ぎる。その場所を見た晴明は思わず立ち止まる。

 

「ん? ここは……」

 

 晴明が立ち止まったところ、それは巡ヶ丘にある陸上自衛隊の駐屯地であった。

 駐屯地を見たことで何事かを思い出した晴明は、足早にその場を去るとそのままホテルへと戻る。そして自身が泊まるホテルの部屋に入ると、しばし逡巡するが意を決したようにバロウズに呼びかける。

 

「……バロウズ」

 

《どうしたの、マスター?》

 

「確か五島一等陸佐(・・・・・・)との個人的なホットラインがあっただろう? それに繋いでくれ」

 

《あら、珍しい。マスターはどことなくあの人のことを嫌っていると思ったけど》

 

 バロウズからの疑問を聞いた晴明は。

 

「確かにあの人に関しては苦手意識を持っていることは否定しないが、人柄自体は好ましく思っているよ」

 

 

 

 晴明が苦手と言っている五島という人物、彼は自他ともに厳しく、日本男児たるもの強きをくじき弱きを守るべきと常日頃から公言し、またその見た目も短く刈り上げた髪に巌のような巨漢であり、多くの部下からも慕われ、国民のためならば自身の命も惜しまない、という自衛隊員として、そしてかつての大日本帝国軍人の鏡のような人物である。

 そこだけ聞くと晴明が苦手意識を持つような人物ではないように見えるが、これには勿論理由がある。

 それはと言うと、この五島一等陸佐とほぼ同じ人物が晴明の前世にも存在していた。

 

 その人物の名は【戒厳司令官ゴトウ】

 彼の前世に存在していたゲーム【真・女神転生】に登場した古き神々、悪魔とも呼べる存在たちと契約し、部下とともにクーデターを起こした人物である。

 ゴトウは悪魔たちの力を使い東京を戒厳令下に置いたのちに、在日米軍並びに駐日アメリカ大使であるトールマンを殺害するために動く。……が、これは本筋には関係ないために割愛する。

 

 そして五島一等陸佐はこのゴトウと同じく神々(悪魔)の力を借りて、日本防衛のために尽力している。

 一つ違う点があるとすれば、彼の方はクーデターではなく融和策を取っているということだろうか。

 

 そういった点や、ヤタガラスや葛葉から危険視されていないことから晴明もゴトウとは別人とは分かっているのだが、それでもやはりあちらの存在がどうしても頭を過るため、彼にとって五島一等陸佐は苦手な存在となっていた。

 

 

 

 閑話休題

 

 

 

《へぇ、意外》

 

 バロウズが驚いたような声を出す。それを聞いた晴明は面倒くさそうに髪を掻きむしりながらバロウズを急かす。

 

「とにかくバロウズ、早めに繋いでくれ」

 

《了解、マスター》

 

 その言葉と同時に通信を開始するバロウズ。そして程なくして一人の男の声が聞こえてくる。

 

[君から連絡とは珍しいな。とうとう我らと合力してくれる気になったのかね?]

 

 この低い、まるで昔の任侠映画の男優のようなドスの利いた声の主が、陸上自衛隊対悪魔特殊部隊司令官の五島一等陸佐だった。

 その五島のラブコールを否定しながら晴明は本題に入る。

 

「お久しぶりです五島さん。今日通信をしたのはそのこととは別件でして。少し気になることがあったので連絡させていただきました」

 

 晴明の否定を聞いた後藤は少し残念そうな声を滲ませながらも先を促す。

 

[それは残念だ。それで聞きたいこととは何かね?]

 

「えぇ、実は──」

 

 晴明はそう言って今回のランダルコーポーレーションに関する一連のことについて切り出す。それを聞いた五島は。

 

[ふむ、なるほどランダルか……。実は、私もかの企業については調べているのだ]

 

 五島の言葉を聞いて驚くとともに、何か進展があるかも知れないと思い喜ぶ晴明だったが、五島の次の言葉に凍りつくことになる。

 

[まだ確定ではないが、かの組織の裏に【メシア教】がいる可能性があるようなのでな]

 

「メシア教ですって?!」

 

[あぁ、こうなると私の部隊の一部がそちらの駐屯地に教導隊として配属されていたことが天佑だと思える]

 

「五島さんの部隊というと……」

 

[あぁ、君の知り合いの科学者が開発したデモニカスーツ、だったか? それを配備した部隊だ]

 

 その言葉を聞いて晴明は不幸中の幸いだと思う。

 デモニカスーツとは、【真・女神転生Strange(ストレンジ) Journey(ジャーニー)】に登場した一種のパワードスーツで、それを使うことによってただの人であっても悪魔とある程度戦えるようになる代物であった。

 そして五島もまた晴明が巡ヶ丘を訪れていることを幸運に思い、ある提案を持ちかける。

 

[そして幸運なことに君もまたランダルを調べているという。ならば一つ提案があるのだが、君と私の部隊で、共同で調査をするのはどうだろうか?]

 

「それはこちらも願ってもないことですが……」

 

[ならば決定だな。部隊の指揮官である唯野一尉には私から連絡しておく。が、今日はもう遅い。明日また駐屯地に行ってくれたまえ]

 

「了解しました。それではよろしくお願いいたします」

 

[うむ、こちらこそよろしく頼む。では失礼する]

 

 その言葉を最後に通信が終了する。通信が終わった瞬間に晴明は気が抜けたように息を吐く、そして──。

 

「ふぅ、しかし幸運だったな。デモニカ部隊がある以上少しは楽になるかもしれん」

 

《そうね、偶然にしては出来すぎな気もするけど》

 

 バロウズが茶々を入れるように言う。しかし言っている事自体は事実で、晴明自身もそのことには疑問に思うが。

 

「だが、それでも結果的に被害が少なくなるのであれば、それに越したことはないだろう」

 

《────それも、そうね》

 

 バロウズはどこか釈然としない様子ながらも納得する。

 

「ともかく、だ。明日は自衛隊の駐屯地に行く以上早く寝たほうが良いからもう寝るとしよう。お休み、バロウズ」

 

 そう言ってガントレットを付けたままベットに入る晴明。バロウズもまたそんな晴明に対して。

 

《えぇ、そうね。お休みなさい、マスター》

 

 そう晴明に声をかけるのだった。

 

 

 

 

 ──地獄の釜の蓋が開く、死は万人に等しく訪れる。果たして誰が生き残るのか。

 

 のちにX-Dayと呼ばれるこの日、晴明は今まで感じていた警鐘や胸騒ぎとは完全に無縁な状態で目を覚ました。それはまるで今までの自分から完全に脱却し、新しい自己の確立を終えたような清々しさだった。

 

「ふわあぁあ。…………何故だか知らないが、本当によく寝た気分だ」

 

《おはよう、マスター。……よく寝たも何も、もうお昼よ?》

 

 起き抜けにバロウズから痛烈な皮肉が飛ぶ。その言葉に慌てて部屋の時計を確認する晴明の目には、確かに時計の短針が十二の刻を指し示しているのが確認できた。

 

「……ま、まじかぁ。いや、でも、行く時間は決めてなかったはずだし」

 

 誰かに言い訳するように独り言を言い続ける晴明。しかし──。

 

《……ま、す、たー?》

 

「はい、すぐに準備します……」

 

 バロウズの呆れたような、同時に責めるような言葉に観念して外出の準備を始める晴明。

 しかし、その時、にわかに外が騒がしくなる。

 

《何かしら?》

 

「もしかして、待ちきれなくなった五島さんの部下の人が来たとか、か?」

 

《まさか、流石にそれはないでしょ》

 

 二人が話し込んでいる時にホテルの部屋のドアが激しくノックされる。そして側からは男性の切羽詰まった声が聞こえてくる。

 

「お客様! お客様!! ご無事ですか!」

 

 その尋常ならざる声に、晴明は普段の生活の時の気持ちから、戦場に赴く時の気持ちへと切り替える。

 

「えぇ、無事ですが、何かあったんですか?」

 

 いつでも戦闘態勢に入れるようにバロウズに小さい声で武器を出すように告げながら男性に話しかける晴明。その声を聞いた男性、恐らくホテルの従業員は安堵の声を漏らしていたが次の瞬間。

 

「あっ! クソ、離せっ! …………ぐあぁあ!」

 

 外から男性の断末魔らしき声と同時にドシャリ、と何かが倒れる音が聞こえる。その音を聞いた晴明は、バロウズが異空間に収納していた自身の剣と、愛銃を持ちつつ、バロウズに指示を出す。

 

「バロウズ! エリアサーチ!」

 

《もうやってるわ! ……これは、マスター!》

 

 エリアサーチの結果に焦った声を出すバロウズ。それもそのはず現在、内部も含めホテル全体が敵性反応に囲まれている状況だった。

 その結果を見た晴明も一瞬とはいえ驚きの感情を見せる。

 

「これはっ……! いや、まずはここを脱出するべきだな」

 

 そう言って警戒し、自身の愛銃「メギドファイア」を構えながら静かにドアを開けて周りを見渡そうとするが、そこには。

 

「グ、グゥ……」

 

 そんな唸り声とともに、恐らく晴明に声をかけていたホテルマンらしき遺骸を貪り食らっているヒトガタの化け物の姿があった。

 

「……おいおい、まじかよ」

 

 晴明が思わずこぼした言葉に反応したのか、ヒトガタの化け物は緩慢な動きで立ち上がり、こちらへと向かってくる。

 それを見た晴明は特に慌てることもせず手に持つ剣──銘を倶利伽羅剣──を使い一合のもと、袈裟斬りにて斬り捨てる。その一太刀をまともに受けたヒトガタの化け物は、一切の防御や肉体自身の硬さといったものの抵抗はなく、一刀両断され、そのまま血飛沫を上げながら地面に転がる。

 

「ふぅ、何だってこんな化け物が都市部に──!」

 

 一息ついていた晴明だったが、その時自身の足首がグワシッ、と掴まれる。その掴んだ人物を見て、晴明は躊躇なくメギドファイアをその人物(・・)へと発砲する。

 その人物は、先ほどまでヒトガタの化け物に貪り食われ、既に事切れていたはずのホテルマンらしき男性だった。その男性、恐らくゾンビは銃撃を頭に受け、脳漿を撒き散らしながら活動を停止する。

 

「屍鬼-ゾンビと言ったところか。しかし何故悪魔が……」

 

《待って、マスター。おかしいわ》

 

 悪魔の仕業と断定する晴明であったが、それにバロウズが待ったをかける。

 

「どうした、バロウズ? 確かに都市部に悪魔が出現することは珍しいが、ありえないことでは──」

 

 言葉を続けようとする晴明だったが、バロウズの発言に衝撃を受ける。

 

《違うの、マスター。さっきのゾンビもだけど、ここら一帯には一切悪魔の反応がなかったのよ(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「……なん、だと。ではこのゾンビは?」

 

《反応上は間違いなく、ただのヒト(・・・・・)、よ》

 

 その言葉を聞いた晴明は今度こそ絶句する。そしてほんの数瞬間が開くがなんとか言葉を絞り出す。

 

「…………では、なにか? リアルバイオハザードでも起きたってことか?」

 

《…………現在の状況では、その可能性が高いでしょうね》

 

「……おい、まじかよ」

 

 晴明は半ば自棄になって言った言葉が肯定されて呆然とする。しかしそんな晴明の耳にゾンビの呻き声らしき音が聞こえてくる。

 その音で我に返った晴明は再度バロウズにエリアサーチの指示を出すが。

 

「バロウズ、エリアサーチで生存者の反応を──」

 

《無駄よ。さっきの時点で生存者は私達以外にはあの男性しかいなかったわ》

 

「──Shit!」

 

 バロウズの言葉に思わず悪態をつく晴明。しかしそんなことをしている合間にもどんどんと音は近づいてきている。

 いつまでもここに留まっているわけにはいかない、と判断した晴明であったが流石にこの状態でホテルから脱出するのは少し(・・)骨が折れそうだ、と判断してバロウズに指示を出す。

 

「バロウズ、DDSプログラム起動、召喚するのはジャンヌだ」

 

《了解! 悪魔召喚プログラム起動!》

 

 そのバロウズの言葉とともにガントレットと、そして晴明の前方の床に幾何学的な魔法陣が形成される。そして魔法陣が眩く輝くと光の中から一人の女性が姿を表す。

 

 流れるような金糸の髪を三編みにした、軽装鎧に槍にも見える旗を持つ女性、晴明の前世にてFateと呼ばれるゲームに登場した「ルーラー ジャンヌ・ダルク」に酷似した女性こそ、彼の仲魔の一人であり、同時に造魔として生み出された【英雄-ジャンヌ・ダルク】その人だった。

 ジャンヌは、すぐに旗槍を構え戦闘態勢に入りながら、晴明に質問する。

 

「マスター、状況は?」

 

「あぁ、現在俺たちは周囲を敵性存在、仮称ゾンビに包囲されている状況だ」

 

 晴明の言葉に疑問を覚えるジャンヌ。それを解消するために晴明を問い質す。

 

「仮称ゾンビ? 悪魔ではないのですか?」

 

 それに対してバロウズが答える。

 

《えぇ、悪魔ではないの。姿、形は屍鬼-ゾンビそのものなのだけど、悪魔特有のMAGの波長も、悪魔憑きに見られる特殊な波長も確認できなかったわ》

 

「そんなモノが……」

 

 今までありえなかった存在の出現に驚きを隠せないジャンヌ。そんなジャンヌに晴明もまた同感だ、と思いながらさらに説明をする。

 

「ともかく、そんな訳のわからない存在にやられるつもりは毛頭ない。ということで現在の目標はこの建物からの脱出だ」

 

「──了解しました! それではマスター、改めて命令を!」

 

 ジャンヌの気概の入った言葉を受けて、晴明もまた気合を入れ直して命令を出す。

 

「よしっ! では雑魚どもの群れを突破して脱出する! 俺が突撃、ジャンヌは援護と討ち漏らしの処理を頼む!」

 

「了解っ!」

 

 その言葉とともに二人はゾンビの群れに突撃を開始した。

 

 

 

 

 ホテルの廊下を疾走する晴明とジャンヌ。その進路の先に数体のゾンビの姿がある。

 

「邪魔だァ! 退きなァ!」

 

 咆哮しながら晴明はメギドファイアの銃口をゾンビたちに合わせて、自身のMAGを銃に注ぎ引き金を引く。すると、メギドファイアからは先ほどの実弾ではなく、エネルギー弾が発射される。

 そのエネルギー弾はそのままゾンビたちの元へ突き進み、目標付近に到達すると拡散し、まるで散弾のようにゾンビたちを蜂の巣にする。そしてそれだけには留まらず、ゾンビは空いた銃創から次々と炭化していき、最後には塵芥となる。

 だがその後からも次々とゾンビ共が押し寄せてきている。

 

「しゃらくさい! 道をォ、開けろ!」

 

 晴明はそう怒鳴りながら今度は自身の踏み込んだ方の足にMAGを集中させ、地面を蹴ると同時に開放し、一気にゾンビたちとの距離を詰めると、手に持つ倶利伽羅剣で一閃!

 あまりに素早い斬撃に空間が分断された際の発生する暴風と同時に摩擦の熱がその暴風に乗ってゾンビたちを蹂躙していく。

 

 ──ヒートウェイブ!

 

 女神転生に置いてはそのように呼称される物理技を使用してさらなる蹂躙、さながらこの場はゾンビたちの屠殺場と化していた。

 無論ゾンビたちも、考えたり共闘すると言った知能があるわけではないが、それでも数に物を言わせて晴明(・・)の元へと殺到している。が、そもそも遠距離ではエネルギーの散弾で、近距離ではまるで虫を散らすように雑に斬り捨てられていく。

 

 そして地味ながらも、ジャンヌもまた手に持つ旗槍で突き、叩き、薙ぎながら、時にはさらに踏み込んで腰に佩いている剣を抜き放ち斬り裂いていく。

 そもそもジャンヌは晴明の仲魔のうちでは、物理戦闘ではなく魔界魔法による補助、回復に特化した能力であり、一応攻撃魔法も習得しているものの、直接戦闘能力で言えば実はそこまで高くはない。

 にもかかわらず何故今回彼女しか召喚されていないのかと言うと……。

 

「マスター、他の子達は召喚しないんですか!」

 

「したいのは山々だが、基本全員火力が高すぎて下手するとこの建物が倒壊してしまうんだよ!」

 

 …………晴明が告げたように、彼の仲魔たちは基本、異界や、魔界などの被害を気にしなくてもいい場所での戦闘に特化しているために、現実世界、取り分け屋内では運用しにくい存在ばかりだった。一応屋内であっても広い場所であったり、一部の仲魔であれば召喚しても問題はないのだが──。

 

「それじゃあ、ジャア君や、ジャックはどうですか!」

 

「二人共なんだかんだで高火力! ……いや、ジャックならまだなんとかなるか? バロウズ!」

 

 晴明の掛け声と同時に先ほどの魔法陣が展開され、光の中から何者かが飛び出してゾンビの群れへと突貫していく。そして次の瞬間にはその場にいたゾンビたちが一つたりとも漏らすことなく細切れとなって地に落ち、壁や床一面が血によって化粧されて一見すると凄惨な殺人現場が出来上がる。

 そしてその中心地には一人、一切返り血を浴びていない銀髪のショートヘアにボロボロの外套を身に付け、短剣をそれぞれ逆手に持つ、ジャンヌと同じくFateに登場した「アサシン ジャック・ザ・リッパー」に酷似した少女、【外道-ジャック・リパー】が立っていた。

 

「……まあ、こうなるわな」

 

 そう言いながらジャックを見つめる晴明。そんな晴明を見つけたジャックは満面の笑みを浮かべながら。

 

「あ! おかあさん!」

 

 晴明の胸元へと飛びついてくる。

 晴明もそうなることを理解していたようで、飛びついてきたジャックを落とさないように抱きしめる。ジャックは抱きしめられたことが嬉しいのか、嬉しそうに晴明の胸板に頬ずりをしている。

 そしてひとしきり晴明の胸板の感触を楽しんだジャックは、満足したのか彼から離れる。

 

「それでおかあさん。わたしたちは何をすればいいの?」

 

「あぁ、この建物から脱出するために、俺と一緒にゾンビ共を蹴散らして欲しい。頼めるか?」

 

「うん、分かった!」

 

 ジャックは晴明の言葉にニコニコと笑いながら告げる。そこには一編たりとも躊躇などは存在しなかった。見た目は愛らしい姿をしていても、彼女もまた悪魔であるということが分かる一面だった。

 最も晴明にとってはいつものことであるために何も感じていないようであったが。

 

「それじゃ、二人とも行くぞ!」

 

 晴明の掛け声とともに三人は先を急ぐのだった。

 

 

 

 

 その後も晴明たちの進撃は続き、一階ロビーに続く階段に到着した時、彼ら全員は異様な光景を見ることになる。それは階段下のたまり場には多くのゾンビがいるものの、その中の一体たりとて階段を登ることができずに、少し登っては転がり落ち、という行動をひたすら繰り返していた。

 

「……おい、ゾンビってのは、頭だけじゃなくて足腰も弱いのか?」

 

《一応どんどん腐っていくから、それで弱くなっていくことはあり得るんじゃないかしら? ……見た感じはまだ瑞々しいようだけど》

 

 その二人のやり取りを挑発と受け取ったのかは知らないが、ゾンビたちはさらに躍起になって階段を登ろうとして転がり落ちていく。さらには転がり落ちる音を聞いたゾンビたちがさらに階段付近に集まってくるという悪循環が起きていた。

 そのゾンビたちの姿を見た晴明は、そういえば、と思い返す。

 

「ここまで来る道中、妙に俺だけが襲われると思ったが、もしかして俺が人間だから襲われていたわけじゃなくて、あいつら音を聞いて獲物を判断してたのか?」

 

 晴明の言葉にジャンヌも同意を示す。

 

「そうかも知れませんね。……と、なるとこのゾンビたちは本当に物語の中のゾンビのように思えます」

 

 そのジャンヌの言葉を聞いた晴明は、やだやだ、と呆れたように言いながら首を横に振ると。

 

「それならいっそのこと、カートゥーンの世界にでも帰ってもらいたいね。そうすれば手間がなくなる」

 

 そう言いながらも晴明は、一切の油断をせずにゾンビたちの動向に注視している。そしてゾンビたちからは目を離さずにジャンヌへと話しかける。

 

「時にジャンヌ。お前さんのメギドラでここのゾンビは一掃出来ると思うか?」

 

 晴明に問いかけられたジャンヌはしばし考えるが。

 

「…………厳しいと思いますね、流石に広範囲すぎます。それに──」

 

 そう言いながらホテルの入口を指差すジャンヌ。全員がその方向を向くとそこには続々とホテル内へと入ってくるおかわり(ゾンビ)の姿があった。

 その光景を見た晴明は思わず舌打ちをする。

 

「チッ、商売繁盛なこって。ホテルマンはもう還ってるってのによ」

 

 悪態を付きつつもどうするべきか、と思案する晴明。今の仲魔の中に広範囲に攻撃できてなおかつ威力が微妙なやつはいたかな? と、思い返していたが、一人だけ心当たりがあった。それは──。

 

「バロウズ、もう一人召喚だ。対象は秘神カーマ」

 

 その掛け声と同時に三度魔法陣が展開されそこから銀髪の少女、こちらもFateに登場した「アサシン カーマ」と瓜二つの【秘神-カーマ】が現れた。

 召喚されたカーマは気怠けに欠伸をしながら悪態をつく。

 

「ふわぁ、どうしたんですかぁ? 私、これから惰眠を貪る予定だったんですけどぉ?」

 

 その姿を見た晴明は顔を引き攣らせ、怒りを堪えながらカーマに話しかける。

 

「……なんというか、お前は相変わらずだな」

 

「えぇ~、だって私これが平常運ですしぃ~。それに何故私なんです? 広域殲滅だったらそれこそ私よりも、おっぱいタイツ師匠なんかが適任でしょう?」

 

「言い方ァ! それにスカアハは威力が高すぎるんだよ!」

 

 カーマのあまりの言い草に突っ込む晴明だったが、それでは埒が明かないと思い、このままカーマに命令を出す。

 

「とにかくだ! カーマは天扇弓を使ってくれ。そしてそのタイミングで俺たち全員出入り口を目指し突破する! 行くぞ!」

 

「はぁい、わかりましたぁ~」

 

 カーマは気の抜けた返事とともに、自身の得物である弓を顕現させると、弦に矢を三つほど番える。そして──。

 

「──行きます!」

 

 先ほどまでのフザケた態度が嘘のように、表情を引き締めると、晴明から自身に流れるMAGを矢に込めて天井に射掛ける。すると昇っている途中の矢が急に床方向に方向転換をした次の瞬間。

 矢が堕ちていくと同時に、その数が2,4,8,16,と倍々に増えていきその全ての矢がゾンビへと襲いかかる!

 さながら矢の大豪雨に曝されることになったゾンビたちは、脳天を、肩を、足を、あらゆる場所を刺し貫かれて、あるものは床に縫い付けられ、またあるものはハリネズミになって地面に倒れ伏す。

 矢の大豪雨が終わった後、そこには死屍累々の光景が広がっていた。

 

「よし、突撃!」

 

 晴明の号令とともに全員が入口に向かい移動を開始する。

 まだ多少元気なゾンビが残っていたが、そもそも数的優位が崩れている以上、晴明たちの障害になるはずもなく、行きがけの駄賃とばかりに各個撃破された。

 そしてそのまま晴明たちはロビー入り口までたどり着き見事に脱出成功するのであった。

 

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