DDS 真・がっこう転生 MythLive   作:想いの力のその先へ

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第四十六話 外の世界 その2

 晴明の提案で、先ほどのネットニュースサイトから離れて再びネットサーフィンをはじめた面々だったが、ふとした拍子に貴依が全く関係ない海外の、最大手動画投稿サイトを開いてしまう。

 

「あぁっと、ごめんごめん。すぐに消すから──」

 

 彼女としても、このサイトに情報が載っているとは思えず、ふざけている場合でもなかったので、慌ててサイトを閉じようとするが、その前に──。

 

「ちょっとまて、今、なにか……」

 

「え?」

 

 晴明にサイトを閉じるのを止められて、疑問の声をあげる貴依。

 そんな彼女に晴明は、先ほど一瞬見えた動画のタイトルを告げる。

 

「この『新型病原菌なんてホントにありゅ?』とかいうふざけたタイトル。もしかして、今回の災害についてのことなんじゃないのか?」

 

「えぇ……? いや、まさかぁ……」

 

 晴明が告げたふざけたタイトルを聞いた貴依は、呆れたように返事をする。

 だが、晴明としても、今世では見たことないが、前世では馬鹿なことをして意図的に話題を集めようとする、炎上投稿者の存在を知るが故にあり得ない話ではない、と思っていた。

 だからこそ、念のため確認をという程度の話だったのだが──。

 

 ──あるいは、ここで晴明が確認しなくても問題ない。と考えたら、また違った結果になったのかもしれない。

 

 そして、動画の再生が始まり、流れた映像を見て絶句する面々。

 その中で、胡桃と戦友としてともに戦い、特に親しかった貴依に至っては怒りで震えていた。

 

 

 

 

 ──この映像は実際のもの、として放送されていましたがどうにも非現実的で……。

 ──いやいや、どうせ映画の撮影かなんかでしょ?

 ──これで大騒ぎしてるの、馬鹿でしょ。現実にあるわけないじゃん、こんなの。

 ──そんなことよりも、給付金まだー?

 

 

 

 そこで限界が訪れたのか貴依は机に、ばん! と拳を叩きつける。

 そして彼女は血を吐くかのように、呪詛を吐き捨てる。

 

「ふざけんなっ、本当にふざけんなよ! 私は、私たちは今を、懸命に生きてんだよっ!」

 

 貴依が憤怒の表情を浮かべて歯を食い縛ることでぎり、と歯が軋む音とともに力を入れすぎたのだろう。ぷつり、と唇の端が切れて血が滲む。

 だが、彼女はそんなことはお構いなしに、さらに怒りを吐露する。

 

「現実じゃあり得ない? ふざけるな! 胡桃は、あいつは現実に母親を失ってるんだ! それなのに──!」

 

 怒りが収まらない貴依はなおも机を叩こうとするが、その前にぱしり、と晴明に腕を捕まれる。

 

「っ! 離せ、よっ!」

 

「だめだ、このまま叩き続けたら、君の腕が壊れちまう」

 

「だからなんだって──」

 

 腕を捕まれた貴依は、怒りの矛先を晴明に向けようとするが。そこで、彼女は自身がなにか暖かいものに包まれたかのような感触を感じる。

 

「だめ、だよ。たかえちゃん」

 

「……ゆき」

 

 暖かな感触。その正体は背中から彼女を慈しむように抱きついた由紀であった。

 彼女の背中で由紀は目に涙を浮かべて、震えながら語りかける。

 

「たかえちゃん、もうやめてよっ」

 

 そう言いながら由紀はぎゅむ、と先ほどよりもさらに力強く貴依を抱き締める。

 

「わたし、たかえちゃんが傷つくとこなんてみたくない」

 

「ゆき……。わかったよ」

 

 由紀の言葉に絆されたのか、貴依は腕の力を弛める。それを感じ取った晴明もまた、彼女の手を離した。

 そして、彼女を気遣うように話しかける。

 

「すまないな、柚村さん。俺が確認しようと言ったばかりに不快な思いをさせてしまった」

 

 そう言いながら深々と頭を下げる晴明を見た貴依は、慌てた様子で大袈裟に手を振って頭を上げるように促す。

 

「い、いやっ! 蘆屋さんが悪い訳じゃないんだからさっ! 頭上げてよっ!」

 

 貴依の懇願を聞いた晴明は彼女の望み通りに顔を上げる。

 顔を上げた晴明を見てホッと安堵のため息を吐く貴依。

 そして、彼女は恥ずかしそうに、言い訳がましく自身の怒りについて説明する。

 

「私はただ、そう、ただ他人事みたいに面白おかしく煽ってる奴らが許せなかったんだよ……」

 

「そう、だよな。許せないよな。でも……」

 

「でも……?」

 

 彼女の怒りに同調しつつも、何事かを話そうとする晴明に、貴依は首を傾げる。

 そんな彼女に、晴明は彼女にとって受け入れ難い事実を告げる。

 

「彼らには間違いなく()()()でしかないんだよ」

 

「っ! なん、で……」

 

 晴明の告げた答えに言葉を詰まらせる貴依。

 再び憤怒の表情に染まりそうな彼女を見ながら、晴明はゆるゆると首を横に振る。

 

「幸か、不幸か、政府による情報統制がうまく機能しているからこそ、だな。だからこそ彼らは、彼らにとって今回のことは、対岸の火事でしかないんだ」

 

「だからって──」

 

「まぁ、仮に情報統制がうまくいってなくても、変わらなかったかも知れないがな」

 

「……え?」

 

「人は、人間ってのは、自分の見たいものしか見ないもんだ。それで命を落とすことになっても、な。そして、今際の際(いまわのきわ)になって、こう言うのさ。『どうして教えてくれなかったんだ!』と、ね」

 

 晴明の言葉を聞いて貴依は今度こそ絶句する。

 絶句する貴依を見て晴明は自嘲するように、そして、ここにいない誰かを侮蔑するように、鼻で嗤う。

 

「こういう業界に身を置いてると、ね。そういう場面によく出くわすんだ。興味本位で異界に入り込んで悪魔に喰われる奴や、自分の力を過信しすぎて、守るべき人たちすらも巻き込んで死んでいく奴らなんかが、さ……」

 

「ひっ……!」

 

 実際に晴明やアレックス、それに悪魔などを間近で見たからこそ、想像しやすかったのだろう。貴依は顔を青ざめさせてくぐもった悲鳴を上げる。

 そして、アレックスにとっても彼が言った光景は身近にあったものであり、それを思い出した彼女は沈痛な表情を浮かべる。

 

「無論、すべての人がそういう訳じゃないのも確かだ」

 

 それこそ、君たちのように、ね。と、晴明は学園生活部の皆を見渡しながら言う。

 尤も、例えに用いられた彼女らからすると予想外の事だったようで、ある者はぱちくり、と目を瞬かせて驚き、またある者は照れたように頭を掻いている。

 そんな中で圭だけは、どこか心苦しそうに顔を歪めていた。

 

 

 

 

 ……それは、彼女の中にある心残り。エトワリアにて知った彼女の親友、そのあり得た可能性の存在に、彼女ではない彼女が与えた心の傷。

 

 

 ──生きていれば、それで良いの?

 

 

 その言葉とともに親友(直樹美紀)のもとを去った私ではない私(祠堂圭)

 そして、私ではない私(祠堂圭)はその旅路の果てで、命を落としたという……。

 もしも、蘆屋晴明と出会わなかったら。という可能性の世界(聖典世界)

 

 ──私じゃない、私じゃないけど。でも……。

 

 追い詰められてたのかもしれない。親友を助けたい、そう願っただけなのかもしれない。しかし、結果として親友にただ心の傷を負わせるだけだった私に、そんなことを言ってもらえる資格があるのだろうか……。

 

 

 

 そう思い悩んでいる圭の頬に何かが当たる。

 ふと、その方向を向くと、何故か親友(美紀)が圭の頬を人差し指で、ぷにぷに、とつついていた。

 

みふぃ(みき)なふぃふるほ(なにするの)

 

「なにって……。また、どうせ馬鹿なこと考えてたんでしょ? だから、お仕置き」

 

 美紀の無思慮とも言える言葉に、流石にカチンときた圭は、未だに頬をつついている彼女の腕を握りしめる。

 そして、文句の一つでも言おうとするが……。

 

「みき。いくら私でも、そこまで言わ――」

 

「けいは、さ……」

 

「みき……?」

 

「けいは、皆で馬鹿やって、笑いあって、それで……」

 

 涙声で話す美紀を見て呆然とする圭。

 そんな圭に、美紀は目に涙を浮かべて懇願するように話しかける。

 

「だから、けい。思い詰めないで。けいまで、どこかに行っちゃいそうで、私、やだよ……」

 

「みき、私……」

 

 彼女の涙ぐむ姿を見て言葉を失う圭。

 なんてことはない、確かに自身と親友(美紀)は晴明に救われた。だが、それだけだ。

 

 

 

 ──アレックスを慕っていた小動物じみた彼女は?

 ──死んだ。慕っていた相手(アレックス)に手ずから葬送(おく)られて。

 

 ──音楽の趣味が合って、よく情報交換してたあの子は?

 ──私が皆と騒いでいる時に、しょうがない。と微笑ましさ半分、呆れ半分で見守ってくれていた先生は?

 ──いつもクラスの成績で美紀に勝てず、彼女に勝とう、と猛勉強していた、美紀に対して密かな恋心を抱いていた彼は?

 ──他にも沢山いたクラスメート(ともだち)たちは?

 

 ──死んだ。死んだ。皆、死んでしまった。私や美紀、アレックスが葬送(おく)った人もいれば、未だに彷徨い歩いている人も居るだろう。

 

 

 

 

 そうだ、そうなのだ。いくら美紀が普段、気丈に振る舞っていても、彼ら、彼女らのことを吹っ切れている訳じゃない。

 自分自身そうなのだから……。

 

 確かに、蘆屋晴明に師事することで圭も美紀も戦う術を得ることは出来た。

 だが、それだけなのだ。

 

 戦う術を得たといっても、心が強くなる訳じゃない。

 確かに、多少取り繕うことは出来るようになるだろう。

 だが、だからなんだというんだ。

 

 美紀も、圭も、ついこの間まで平和な日常を謳歌していた普通の女子高生でしかない。

 そんな一般人が、急に戦う力を得て、それでヒーローのように活躍する?

 

 そんなこと出来る訳がない。

 何故なら、本来彼女たちは戦う者ではないのだから。

 それでも、彼女たちが戦えている、その理由。それは、戦わないと何もかもが失われてしまう。それが理解できているから。

 だから、彼女たちは怖くても、恐ろしくても、勇気を振り絞って戦っている。

 

 ──戦わなかったら、その時に起きる結果の方が、もっと怖いから。

 

 だが、その勇気も、胡桃が去ってしまったことで翳りを見せ始めている。

 

 次は、誰がいなくなる?

 由紀か、悠里か、もしくは貴依か?

 あるいは、めぐねえや透子なんて可能性もある。

 

 それにエトワリアで晴明が負傷するところを見た圭は、戦いに絶対勝てる。という保証がないと言うのを、嫌というほど思い知らされた。

 そのことから、晴明やアレックスがいなくなる(戦って死ぬ)可能性だって……。

 

 ──きっと美紀だって同じ不安を抱えている。それは先輩たちや先生だって……。それどころか、私たちよりも深刻だろう。

 ──だって、あの人たちにとって恵飛須沢胡桃という少女(ヒト)は、始まりの日。アウトブレイクからともに生き残り、互いに支えあって生きてきた仲間なのだから。

 

 なのに、彼女(恵飛須沢胡桃)は去ってしまった。先生を、友達を、戦友たちを置いていって……。

 そうして置いていかれた人たちの心境は如何程のものか……。

 大切な人に置いていかれ、大切な人の心を救えず、そして、大切な人と離れ離れになる。

 

 ただ、大切な人とともに暮らしたいだけだったのに……。

 ただ、大切な人と生きていたかっただけなのに……。

 

 そんなありふれた願望(のぞみ)は、悪魔たちの手によって絶たれてしまった。

 

 赦せない、と思う。ふざけるな、とも思う。

 でも、それは……。

 

 可能性の世界(聖典世界)私ではない私(祠堂圭)の行いでもあった。

 

 ──かの地、エトワリアでランプという少女から親友(美紀)の慟哭を知った。

 ──そして、かの地に於いて可能性の世界(聖典世界)親友(美紀)と出会ったことで、彼女の歓喜を知った。

 

 もしも、あの世界に行かなければ。可能性の世界(聖典世界)というものを知らなければ……。

 そうすれば、今こんなに悩まなくて済んだのだろう。

 でも、圭はあの世界に行ったことに後悔はない。

 

 頼れる先輩たち(由紀、胡桃、悠里、貴依)でもなく、心を許せる親友たち(美紀、アレックス)でもなく、自身が、祠堂圭があの世界に行ったことになにか理由があると、そう思うから。

 

 だから──!

 

 

「だいじょうぶ、だいじょうぶだよ。みき」

 

「けい……?」

 

 そう言いながら、圭は美紀の掌を優しく包み込むと、彼女を励ますように声をかける。

 

「私は、私も、()()絶対に何処にも行かないから」

 

 そう、私は聖典世界の私(私ではない私)とは違う。

 親友を、美紀を置いて何処かに行く。なんてことはしない。彼女の慟哭を知っているから。

 でも、そのためにはもっと強くならなければならない。それこそ、身も心も。

 

 だからこそ、私は庇護者(蘆屋晴明)という揺り籠から出て、真の意味で自立しないといけない。

 揺籃期を終えた赤子が、自らの足で大地に立つように。

 

 そうすれば、きっと、私の手で親友を守れるようになるはずだから……。

 そして、自分の想い人(蘆屋晴明)の隣に立つことが出来るはずだから……。

 

 

 そう、圭は新たなる覚悟を決めるとともに、本当の意味で強くなることを誓う。

 自らのため、親友のため。そして、本当に、本当の意味で想い人(晴明)の力になるため、隣に並び立つために……。

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