DDS 真・がっこう転生 MythLive 作:想いの力のその先へ
あの後も晴明たちはインターネットの検索を行っていたが、これと言った情報──殆んどがデマか確度の低いものだった──は集まらず、その日は皆も精神的に参っていたこともあって解散することにした。
その夜、晴明は一人、巡回と称して夜の校舎を散策していた。
そして、散策中に手頃な空き教室を見つけると、そのまま中に入り、ガントレットのAIであるバロウズを呼び出す。
「……バロウズ、少し良いか?」
《アイアイ、マスター。どうし……、って本当にどうしたの? わざわざ、こんな人気のないところまで移動して?》
「……あぁ、ちょいと、な。今から朱音……っ、ライドウに通信を繋げられるか?」
《あの子に……? 多分大丈夫、だと思うけど。まぁ、繋いでみるわね》
「……頼む」
いつもとは様子が違う晴明に訝しみながらも、彼の指示通りに
すると、まるで彼からの通信を待っていたかの如く、即座に通信が確立され、ライドウの声が聞こえてくる。
[ハル兄大丈夫っ!?]
「あ、あぁ……。大丈夫だが、どうかしたのか?」
[どうかしたのか? じゃないよっ!! ……朱夏からハル兄の反応が消えた、なんて連絡が来たから本当にびっくりしたんだからね!]
「あ、あぁ。なんだ、そういうことか……」
[そういうことか、じゃなぁぁぁい! 何があったのか、詳しく説明しなさいっ!!]
と、
その後、怒れる朱音をなんとか宥めすかして、朱夏の時と同じようにエトワリアの説明をした晴明。
説明を聞いた朱音は先ほどとは打って変わって、落ち着き払った様子で思案に暮れている。
[ふぅん? つまり、アカラナ回廊から別世界に行った時と同じ状況になってた訳、ね……]
「あぁ、まぁ。……端的に言うと、その通りになるな」
[はぁ……。まぁ良いわ。それで、ハル兄? ハル兄から連絡が来たってことは、なにか聞きたいことがあるんでしょう?]
朱音の言葉に嘆息すると、晴明は今日の昼間に知った疑問を口にする。
「……そんなに分かりやすいかね? まぁ、その通りなんだが。それで、聞きたいことってのは、はっきりと言えば五島さんについてだ」
[あの人がどうかしたの?]
「どうかしたも、なにも。なぜガイア寄りのあの人が、よりにもよってロウ陣営のトールマンと握手する、なんて事態になるんだ」
晴明の質問を聞いた朱音は呆けた声を上げた後に、そういえば……と呟く。
[ハル兄は知らないんだったね。トールマンさん、鬼神-トールの、今の所属を]
「……なに?」
朱音の意味深な言葉に訝しげな声を上げる晴明。
そんな晴明に対して、朱音は今から全てを説明する、と告げる。
[それについては、ちゃんと説明するから待ってて。……それで、ハル兄。以前私が言ってた、政府に手を回してた組織の話は覚えてる?]
「うん? あぁ、覚えているが。多神連合だろう……! そうか、そうだったな。あそこには……」
[あ、やっぱり気付いた、というよりも
「……その中に北欧神話の主神たるオーディンもいた、と?」
[うん、そこから芋づる式に、ね。それで、ハル兄? ハル兄が知ってる多神連合には、どんな神様がいたの?]
晴明も何らかの情報を持っていると踏んだ朱音は彼に問いかける。
その問いに晴明は暫し沈黙するが、自身が知っていることを話し出す。
「……あくまで、
尤もダグザに関しては、彼独自の思惑で行動していたが。と告げる。
それを聞いた朱音は、構成する悪魔たちの多種多様さ、何よりネームバリューの大きさな驚きの声を上げる。
[インド、北欧、シュメール、日本、それにケルト、かぁ……。しかも、主神格の悪魔も多数参加って、思った以上に大きい勢力みたいだね……]
「まぁ、何だかんだであの世界では第三、いや第四勢力としてメシア、ガイアと壮絶な殴り合いをしていたからなぁ……。尤もこの世界でも必ずしも同じ悪魔がいるとは限らないんだろうが……」
[まぁ、それは、ね……]
晴明の言葉に曖昧な様子ながらも同意している朱音。
そして朱音はこの話題は終わり、とばかりに新たな話を、晴明が
[それでハル兄?
「……何の事だ?」
そのことに惚けた声を出す晴明。
そんな晴明に対して朱音は……。
[ふぅん? 誤魔化すつもりなんだ? ──バロウズ]
《はいはい、朱音ちゃん。……マスターの心拍数、先ほどから変化あり、よ》
「おまっ、バロウズ!」
まさかのバロウズの裏切りに狼狽する晴明。
そんな晴明に、朱音は呆れた様子でため息をひとつ。
そして、そのまま彼に話しかける。
[……あのねぇ、ハル兄? そもそも、私とハル兄、どれくらい家族やってたと思ってるの。例えバロウズの証拠がなくても、それくらいは分かります。まったく……。ほら、ちゃっちゃと話す]
朱音の呆れた様子に、晴明は頭が痛くなってきたのか、手で押さえる。
そして観念したのか、彼は、今自身の中にある悩みを告げる。
「……あぁ、そうだなぁ。正直に言えば、あの子たちと接するのが、ちょいときついと思うよ」
[あの子たち……? 保護した人たちのこと?]
「あぁ、そうだ」
晴明の悩みが予想外だったのか、朱音は彼に問いかける。
[なんでまた……?]
「別に、あの子たちが悪い、なんてことじゃないんだが……。むしろ、良い子たちだよ。全員、ね」
[はぁ……?]
晴明の言葉が要領を得ないこともあって、不思議そうな声を出す朱音。
彼女の反応に自嘲するように嗤って、晴明は話を続ける。
「さっき俺たちが異世界に召喚されてたのは話しただろう? その間に、彼女らの方でも動きがあってな──」
そうして晴明は、彼女たちに起きたこと。特に恵飛須沢胡桃関連の話をする。
それを聞いた朱音は暫し絶句するも、何とか精神を立て直し晴明に確認を取る。
[……ちょ、ちょっと待ってハル兄。その、胡桃ちゃんって子。本当に、あのルイ=サイファーに着いていっちゃったの……?]
「あぁ、本当だ。これはアリス経由で
[…………なんてこと]
晴明も彼女がことの重大さに気付いたのか、通信越しでも頭を抱えているだろう。ということが理解できた。
[本当に、頭が痛くなる情報だね。……しかも、ハル兄が異世界に行ってる間に起きたことだから、止めようがない。っていうのが、またひどい……]
「まぁ、結局それも、言い訳にしかならないんだがな……」
[それで? その子たちは何か言ってきたの?]
「……いいや。それどころか、今回のことについては【自分たちの所為】なんだそうだ」
[…………は?]
流石にその返答は予想外だったのか、朱音は呆けた声を上げる。
彼女の心情が理解できる晴明は、然もありなん。と思いつつさらに言葉を続ける。
「だから言っただろう? 良い子たちだって。……まったく。あの子たちには何も非はないし、俺の所為だ。なんて言えば楽な筈なのにな……」
[なるほど、ね。そういう……]
「分かるだろう? 俺がきついって言う理由が、さ」
[確かに、ねぇ……]
そもそも晴明やライドウが赴く悪魔関連の事件は、基本的に
即ち、既に事件が起こった。犠牲が出たものに対しての行動だ。
無論、犠牲が出る前に、事件が起こる前に対処するのが一番望ましい。しかし、本当に出来るか、と問われると難しいのが実情だろう。
それと言うのも、二つの理由がある。
まず一つ目は、単純に人手が足りないこと。
何故なら、この科学全盛の時代。相対的に
尤も、こちらに関しては近年オカルトを危険視しはじめた政府主導で、対オカルト用の戦力が増強──五島のデモニカ部隊がこれに当たる──されてきている。
二つ目は日本の、そして国民の価値観だ。
まず、始めに日本という国は多神教国家であると言うこと。
次に、八百万の神という、即ちあらゆるものに神が宿るという概念。
これらのことにより、この国では他の国よりも遥かに
さらに付け加えるとするなら、緩い宗教価値観と言うのもある。
一体、何処にたった一週間程度で
もっと言えば、ハロウィンは本来ケルトの祭りであるし、健康や美容のための運動として受け入れられているヨガは、そもそもヒンドゥー教の教えである。
このように宗教に対して、よく言えば寛容、悪く言えば無頓着な国民性故に、犯罪行為を犯さない限りはあらゆる信仰が許されることもあって、悪魔たちにとって日本という国は、とても過ごしやすい場所と言える。
そのことから日本という国は、スーパーのバーゲンセールもかくや、というほどに悪魔が集まりやすいのに対し、それを捌く人間が少な過ぎて手が回っていない、というのが実情なのだ。
その結果が後手後手に回る現状であり、被害が中々無くならない理由だった。
そして、被害が出るということは被害者、あるいは遺族が存在する。という訳で……。
公にこそなっていないが彼ら、彼女らから罵声を、呪詛を浴びせられる。ということは往々にしてある。
──なぜ、あの人を助けてくれなかったの!
──なんで、もっと早く来てくれないんだ!
と、言った具合に、だ。
無論、全ての被害者がそういったことを言う訳じゃないのは、学園生活部の娘らを見れば理解できるだろう。
だが、だからこそ──。
「あの娘たちの
[……まぁ、ね]
「確かに、あの娘たちの
晴明は憂鬱そうな顔をして彼女たち、学園生活部の心配をする。
そう、いくら彼女たちが自分たちの心を律しているとはいっても、あくまであの娘たちはまだ年若い少女なのだ。
それなのに無理矢理悲しみを押し留めても、何れは限界が来る。
──
無茶をしても、何れはその反動が彼女たちに還ってくる。例え、それを望んでないにしても、だ。
「……本当に、情けないな。本来、大人の俺たちが子供のあの娘たちを守り、教え、導く立場なのに。結局のところ、あの娘たちに無理を強いている」
[ハル兄……]
晴明の弱音に心配そうな声を上げる朱音。
心配している朱音をよそに、晴明は軽く自嘲すると話を続ける。
「ふふっ。この考え自体傲慢なのかもしれないが、な。……済まんな、愚痴になっちまった」
[……ううん。いいよ]
「……ありがとう」
朱音の気遣いに礼を述べる晴明。
そして彼は身体を解すように伸びをする。
「なんにせよ助かったよ。少しは気が晴れたようだ」
晴明の言葉に、朱音はくすくす、と笑い声を上げる。
「──なんなら、今からでも私が手伝いにいこっか?」
朱音の軽い冗談に、晴明は肩を諌める。そして──。
「おいおい、それじゃそっちの守りはどうするんだよ。それに、仮に来るとしても、お前より先に
[あっ、ひっどーい。ハル兄、私より
「……勘弁してくれ。ただでさえ、お前ら三人がつるんでた時のやっかみが凄かったんだぞ。それに、あの娘もあの娘で意外と悪乗りしてくるんだからな……」
深々とため息を吐く晴明の声を聞いて、朱音はケラケラと笑っている。
一頻り笑って満足したのか、朱音は晴明に話しかける。
[ま、声に元気が出てきたようで安心したよ。それじゃ、頑張ってね、ハル兄]
「おうよ、任されて。……ありがとうな、朱音」
[ううん。それじゃあ、ね]
そう言って二人は通信を切るのだった。