DDS 真・がっこう転生 MythLive   作:想いの力のその先へ

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第四十八話 守る、という意志(覚悟)

 晴明が朱音にちょっとした愚痴と近況を話し合った翌日。晴明は他の皆とともに朝食をとっていた。

 その中で晴明は、ふとした疑問が口からこぼれる。

 

「しかし、これ。今さらだが、全部購買にあったんだよな?」

 

「うん、そうだよ?」

 

 晴明の呟きが聞こえた由紀は肯定すると、満面の笑みで自身の好物である大和煮に舌鼓を打つ。

 

「……ん~! おいひぃ~」

 

 そんな由紀に晴明は薄く笑うと自身も乾パンを摘まんで咀嚼する。

 

「本当に、用意がいいこって……。まぁ、それも当然なんだろうが……」

 

 そう言いながら晴明は以前秘密基地で、そしてここ(巡ヶ丘学院高校)で見た緊急避難マニュアル。さらには、慈から聞いた、ここがランダルの出資で運営されていたという事実。

 そのことから少なくとも学校の上層部は、今回の災害が起こり得る。と認識していたことを確信する。

 その晴明の様子に、お茶を飲んでいた圭は訝しげな表情を浮かべ、彼に話しかける。

 

「どうしたんですか、晴明さん?」

 

「……いや、なんでも……。ん? そういえば……。佐倉先生、少しいいか?」

 

「あ、はい。何でしょう?」

 

 晴明に話しかけられると思っていなかった慈は、急なことに肩をびくつかせるが、すぐに気を取り直すと返事を返す。

 彼女が返事を返したことで、話しても大丈夫だと思った晴明は、改めて彼女に話しかける。

 

「ひとつ確認なんだが、まだ地下区画の調査はしてないよな……?」

 

「……え、えぇ。そう、ですね」

 

「地下区画……?」

 

「む? ……ああ、そうか。由紀さんたちにはまだ情報共有をしていなかったな……」

 

 彼女たち学園生活部の生徒たちに、件のマニュアル、並びに地下施設についての説明がまだだったことを思い出した晴明たちは遅ればせながらも、そのことについて説明する。

 それを聞いた面々は一様に顔を曇らせ――。

 

「……ねぇ、めぐねえ。めぐねえはそのこと知ってたの……?」

 

 由紀は慈にそのような質問をする。

 彼女の曇った表情と、寂しそうな口調に慈もまた、表情に影が射す。

 

「わ、わたしは――」

 

 由紀に知らなかった。関係無かったことを告げようとする慈だったが、うまく言葉にすることが出来ない。

 それを見て、晴明は代わりに彼女が今回の件と全く関係無いことを皆に告げる。

 

「あぁ、由紀さん。今回の件、佐倉先生は全く知らなかったそうだ。……少なくとも、相談を受けたときの先生の顔を見る限り、嘘ではなかった。と、断言するよ。なぁ、透子さん?」

 

「……女性の悩みを、こうもあからさまに言うのもどうかと思うけど? けど、その場にいた私もそう思うわ」

 

 晴明の行動に呆れながら、透子も彼に同意する。

 そんな二人の発言を聞いて、由紀もなにか思うところがあったのか、顔を少し綻ばせながら慈に話しかける。

 

「……そっか、そうだよね。うん、私もめぐねえを信じるよっ!」

 

「ゆきさん……」

 

「それよりも……。あーちゃん~?」

 

「ふへっ……?! ゆきさっ、急に何を……!」

 

 アレックスの背後に忍び寄った由紀は、後ろから彼女の脇腹に手を添えて、こちょこちょと動かす。

 急な由紀の行動にアレックスは狼狽えると同時に、脇腹への擽りに耐える。

 

「……ふっ、ちょ……。ほんと、に……!」

 

「なぁんで、そんな重要なこと、隠してたのかなぁ……?」

 

「……あ、う。隠してたこと、くぅ……。謝りますか、はぁ……!」

 

《……やれやれ》

 

 由紀の擽り攻撃に笑いを堪えながら謝るアレックス。

 二人のじゃれあいを間近で、と言うよりもある意味当事者として受けているジョージはため息を吐いていた。

 

 

 

 

 暫くの二人のじゃれあいのあと。由紀はアレックスを解放するが、彼女は由紀の責め苦に息も絶え絶えになっていた。

 親友(アレックス)の惨状を見て、無意識のうちに由紀から距離を取る美紀と圭。

 そんな二人に対して、由紀はおふざけのつもりで悪い顔をしながら、手をわきわきとさせて彼女たちに近寄ろうとするが……。

 

「──あ痛っ! ……たかえちゃぁん」

 

 貴依に手刀で脳天チョップを受け、頭を抑えながら恨めしそうに貴依を見る。

 そんな由紀に貴依は嘆息する。

 

「まったく、ゆきは調子に乗りすぎだっての」

 

 そして、由紀がちょっと怖かったのか互いに抱き合う美紀と圭を見て一言。

 

「ほら、後輩たちも怖がってるじゃないの……」

 

「あ、あはは……。ごみん」

 

 貴依に叩かれたことで、頭にたん瘤をこさえた由紀は、誤魔化すように笑いながら謝罪する。

 それを見た美紀と圭、二人はようやく警戒を解いた。

 彼女たちのやり取りを見ていた晴明は嘆息すると話を続ける。

 

「それで、話を戻しても良いかな?」

 

「あっ、はぁい」

 

「あっ! ごめん、蘆屋さん。どうぞどうぞ」

 

 呆れた様子で確認を取る晴明に、由紀は悪戯を叱られた子供のような返事を、貴依は謝罪をしながら先を促す。

 二人の返事を聞いた晴明は一つの提案を口にする。

 

「まぁ、結論から言えば、地下区画を調査してみよう。って、話だけなんだが……」

 

「なんだが……?」

 

 貴依は鸚鵡返しするように、晴明の言葉に疑問を抱く。

 そんな貴依に晴明は一言。

 

「いや、なに。調査メンバーをどうするか。と思ってね。ほら、今回のこともあった以上、常に俺が、という訳にもいかないだろうし、さ」

 

「あぁ~……」

 

 晴明の疑念に納得したような、してないような微妙な声をあげる貴依。

 事実、今回のエトワリア召喚のように突発的な事故がない。とは言いきれないことからも、彼の心配は一種、的を得ているとも言える。

 そんな晴明の懸念を聞いたアレックスが手を上げる。

 

「なら、私が行きます」

 

「アレックスさん、良いのか?」

 

「ええ、この中で一番慣れているのは私ですし──」

 

「……なら、私も行くっ!」

 

 地下区画の探索を志願したアレックスを見て、由紀もまた同じく探索の志願をする。

 そのことに驚いたアレックスは、由紀に危ないから、と説得しようとする。

 

「ゆきさん……! 危ないから、ここは私に任せてくださいっ!」

 

「やだっ! ……やだよ、もう。くるみちゃんの時みたいなことは……」

 

 由紀の口からぽろりとこぼれた本音に、言葉を詰まらせるアレックス。

 そんな彼女を尻目に、由紀はさらに言葉を続ける。

 

「それに私だってペルソナを使えるんだから足手まといにはならないよ。ね、あーちゃん?」

 

「ですが……」

 

 いくら由紀がペルソナ使いとは言え、彼女が心配なことに変わりがないアレックスは、なおも言い募ろうとする。

 だが、その前に晴明が彼女へ話しかける。

 

「いいんじゃないのかな。なあ、アレックスさん?」

 

「はーさん!」

 

「…………は?」

 

 晴明からの思わぬ援護射撃に、由紀は笑みを浮かべ、アレックスは間抜けな声をあげる。

 そして、アレックスはすぐに正気に戻ると彼に食って掛かる。

 

「ちょっと待って、正気なの!? 貴方、お遊びじゃないことぐらいわかってるんでしょ!」

 

「無論わかってるさ。……わかってるからこそ、そう言ってるんだから、な」

 

 アレックスに返事を返した晴明は、真剣な表情でしっかりと由紀を見つめる。

 見つめられた由紀は、一瞬たじろぎそうになるが、負けるもんか。と彼を見つめ返す。

 彼女の真剣な表情を見た晴明は、ふっと表情を和らげると独り言のように小さく呟く。

 

「……覚悟を決めた良い眼だ」

 

 そして晴明はアレックスに視線を向けると、諭すように語りかける。

 

「彼女のように覚悟を決めた人間の考えを改めさせるのは簡単ではないよ。尤もそのことは、君自身がよく知っていると思うが……」

 

「……っ」

 

 晴明の言葉に反論出来なくなるアレックス。

 それもそうだろう。何せ彼女自身も過去にそうやってシュバルツバースに挑んだのだから。

 それでも、と彼女を説得しようと視線を向けるアレックスだったが、由紀の眼を見て嫌でも理解する。

 

(……ああ。これは、駄目だ)

 

 ――確かに晴明の言うことが正しかった。

 彼女の、由紀の眼を見て覚悟を、なんとしてでもみんなを守る。という意志を感じてしまった。

 それはまるで、かつてのシュバルツバース調査隊。そして、自身の障害にして、最後に未来を託した隊員(唯野仁成)を彷彿とさせて……。

 

 かつて初邂逅のとき、アレックスにとって彼は取るに足らない存在だった。

 しかし、殺した筈の彼と再び邂逅したとき、彼は常人ではあり得ないほどの成長を遂げ、さらに三度の邂逅に於いては、いくら度重なる戦闘によって疲弊していたとは言え、彼女が敗北した魔神-ゼウスを苦もなく屠ってみせた。

 

 ──あの時はわからかったけど、今ならわかる。あの人(唯野仁成)は覚悟を決めていたんだ。それも、敵を倒す覚悟じゃなくて、人々を絶対に守り通すという覚悟を……。

 

 そして、彼と同じ覚悟を由紀も()()()()()()()()

 だからこそ彼女は止まらないし、止められない。

 そのことを嫌でも理解させられてしまったアレックスは、ため息を吐いて頭を垂れる。

 そんなアレックスを横目に、晴明は慰めるかのように声をかける。

 

「……流石に彼女だけに危ない真似をさせるつもりはないさ。──アリス」

 

「なぁに、ハルアキ?」

 

「彼女たちのこと、お願いしても良いか?」

 

「アレックスちゃんと、ユキちゃんのこと? うん、良いよっ!」

 

 由紀たちの安全を確保するための保険として、晴明はアリスに護衛を願い、彼女もまたそのことに同意する。

 彼女の快諾を聞いて驚くアレックス。

 何せ、いくら彼女と由紀が仲が良いといっても、あの子は、アリスは『魔人』なのだ。

 

 ──悪魔の中でも、魔人と呼ばれる種は特殊な存在である。

 その理由は、一般的な悪魔が人と敵対、ときに味方となるのに対して、魔人という悪魔は基本的に一貫して()()()()()()に対して死を振り撒く者。それが悪魔であろうが、人であろうが関係なく、だ。

 

 それはかつてアリスがともだちを増やすために、学園生活部に死んで、とお願いしたこと。エトワリアにてマタドールが己の武を誇示する、そしてさらに高めるために殺し尽くそうと行動していたことが顕著だろう。

 即ち、本来魔人という種族は、すべての生ある者に仇なす存在なのだ。

 

 故にアレックスからすればアリス、そして大僧正という存在は不安材料でしかない。

 尤も晴明も彼女の不安を理解できるので、安心させるためにも一つの説明を入れる。

 

「アレックスさんの心配は理解できる。でも、彼女のことを信用してやってくれないか? ……それに、大僧正も君が知る魔人とは少し違う存在なんだ。彼はとある理由で人間に対して死を振り撒くものでは──」

 

「さまなぁ殿……?」

 

 説明をしている途中の晴明に、大僧正が声をかける。

 それは、余計なことは言うな。という音色の声だった。

 その声を聞いた晴明は、ハッとした表情を見せると……。

 

「……そうだったな。すまん、喋りすぎた」

 

 そう言いながら謝罪する晴明。

 晴明からの謝罪を受けた大僧正は鷹揚に頷く。

 それからアレックスを見つめて話しかける。

 

「のぅ、お嬢ちゃんや」

 

「……なんですか」

 

「拙僧を信用できなんだら、それでも良い。しかし、のぅ──」

 

 大僧正はそこまで言うと、いつの間にか、まるで転移したかのように彼女の目前まで迫り、髑髏の顔で覗き込むように見やる。

 突然な大僧正の行動に、驚き思わず体を仰け反らせるアレックス。

 アレックスの行動に呵呵と笑うと、大僧正は語りかける。

 

「やろうと思えば、このようなこともできるのじゃぞ? これが、どういう意味かわかるかの?」

 

 大僧正の問いにごくり、と唾を呑むアレックス。

 彼がどういう意味でその言葉を述べたか、理解できたからだ。

 

 即ち、やろうと思えば、今すぐでも皆殺しにできるぞ、と……。

 そして、未だに死んでいない以上、殺すつもりはない。ということも……。

 

「おじいちゃん……?」

 

 その時、どこからかとても据わった声が聞こえてくる。

 慌てて振り返るアレックスと、対照的に落ち着き払った様子で声を出した人物を見る大僧正。

 そこには、強張った顔をした由紀が大僧正を睨むように見つめていた。

 

「いくら冗談でも、あーちゃんを虐めるのは許さないよ?」

 

 由紀の責めるような声に、大僧正は軽く肩をすくめる。

 

「なぁに、頑固者のお嬢ちゃんには、こうやったほうがわかりやすいじゃろうからのぅ。これも一つの説得というやつよ」

 

 だが、大僧正もさるもの。飄々とした様子で由紀に答える。

 そのまま睨み合うように見つめる二人。

 二人の合間には緊迫した空気が流れるが……。

 

「ゆき、ちゃん……?」

 

 そんな由紀を心配して声をかける悠里。

 彼女の不安そうな顔を見た由紀は、毒気を抜かれたように緊張を解くと、柔らかい口調で語りかける。

 

「大丈夫だよ、りーさん。うん、大丈夫。喧嘩してるわけじゃないから」

 

 そして晴明の方に振り返ると改めて確認を取る。

 

「それではーさん。地下の探索は私とあーちゃん。それにアリスちゃんで問題ないよね?」

 

「ああ、そうだな。任せて良いかい?」

 

「もちろんっ! 任せてよっ!」

 

 そう言って由紀は自信満々に答えるのだった。

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