DDS 真・がっこう転生 MythLive 作:想いの力のその先へ
朝食で腹拵えを終えたアレックスと由紀は、先ほど晴明と話した地下区画の調査をするための準備を行っていたが、その中で由紀はアレックスが持っているものを不思議そうに見つめていた。
「あーちゃん。それ、なぁに……?」
「これですか?」
由紀の質問に、アレックスは手に持った光輝く玉。『宝玉』を掲げると質問に答える。
「これは宝玉と言って、簡単に言えば怪我を治すためのアイテムですね」
「おぉ~……!」
アレックスの答えを聞いた由紀は、好奇心で目を輝かせる。
しかし、ふと疑問に思ったのか、彼女にもう一つ質問をする。
「でも、あーちゃん。そんなのどこで手に入れたの?」
由紀の問いかけに、アレックスはなにかと心配性な男の顔を思い浮かべて苦笑する。そして、彼女はどこで手に入れたのか、という質問に答える。
「これは、蘆屋さんから譲り受けたんですよ。万が一があってからじゃ遅い、と言われて」
アレックスの答えを聞いた由紀は、きょとんとした顔をする。
そんな彼女の顔を見たアレックスは、思わずぷっ、と吹き出してしまう。
それを馬鹿にされたと思ったのか、由紀は頬を膨らませて、抗議の視線を向ける。
抗議の視線にさらされたアレックスは慌てて否定する。
「いえ、あの、ゆきさん? 別に馬鹿にしたわけじゃなくてですね──」
「……むぅ~」
「いや、だから本当に……。参ったなぁ……」
馬鹿にされたという勘違いが解けず、由紀の不機嫌な様子にアレックスは困った表情を浮かべる。
そこに、二人の様子を見に来た貴依が声をかける。
「おーい、二人とも準備は進んで……? どうしたんだ?」
「いえ、それが……」
由紀が不機嫌なことに疑問を持った貴依が質問をすると、アレックスは先ほどの由紀とのやり取りを教える。
それを聞いた貴依は──。
「ぷっ。あっはっはっ! なるほど、なるほど。そう言うことか!」
二人のやり取りがおかしかったのか、貴依は楽しそうに笑い声を上げる。
笑い声を上げた貴依を見て、彼女からも馬鹿にされたと思った由紀は、ますます臍を曲げてしまう。
「うぅ……! ふん、だっ!」
二人の顔も見たくない、と言いたげに顔を背ける由紀。
そんな由紀を貴依は愛おしそうに見つめると、そろり、と背後に近づいてそのまま抱きついた。
「本っ当に由紀は可愛いなぁっ!」
「うぇっ……! ちょっ! たかえちゃん?!」
急に抱きつかれると思っていなかった由紀は目を白黒させる。
そんな由紀にはお構いなしに、貴依はさらに頬擦りをしはじめる。
貴依の行動に困惑した由紀はされるがままになっている。
その時、なにかが貴依にパタパタと近づいてくる。
そのなにか、アルノー・鳩錦は自身の小さい嘴で貴依を小突く。
「ん……? アルノー・鳩錦? ……ああ、ごめん、ごめん。ゆき、大丈夫だった?」
アルノー・鳩錦に小突かれたことで由紀が困惑していることがわかったのか、貴依は謝りながら彼女から離れる。
貴依が離れたことで一瞬残念そうな顔になるが、すぐに笑顔を取り繕いアルノー・鳩錦に感謝の言葉を述べる由紀。
「……ありがとう、アルノー・鳩錦。助かったよぉ~」
礼を言われたアルノー・鳩錦は一鳴きすると彼女の肩へ降り立ち軽く体を擦り付ける。
「あはっ、どうしたのアルノー? 擽ったいよっ」
そう言いながら由紀は笑みを浮かべてアルノー・鳩錦を撫でる。
撫でられたアルノー・鳩錦は気持ち良さそうに一鳴きすると満足したように飛び去っていく。
「……ゆきさんとアルノー、仲良いですね」
由紀とアルノーのやり取りを見ていたアレックスは、眉をひそめて呟く。
アレックスの呟きが聞こえた由紀は、どこか寂しそうに笑うと、アルノーに対して自身が感じたことを述べる。
「…………なんて、言うかさ。アルノーと私、どこか似てる、って感じるときがあるの」
「似てる? アルノーとゆきさんが……?」
「うん……。私『丈槍』だから……」
彼女の寂しげな音色の言葉に息を詰まらせるアレックス。
貴依も、どこか思うところがあるのか、顔をしかめると、彼女を慰めるように話しかける。
「でも、ゆき。今はもう違うだろ? めぐねえだけじゃなくて、りーさんに後輩たち。蘆屋さんや透子さんも。……それに、くるみだって」
「うん、そうだね……。今は皆、『丈槍』の由紀じゃなくて、丈槍由紀として見てくれる。うん、それが嬉しいことなのはわかってる、でも……」
そう言うと、由紀は憂いのこもった眼差しで遠くを見つめ、心中を吐露する。
「アルノー・鳩錦。あの子はきっと、かつての私なんだ。……たかえちゃんとも、めぐねえとも出会えなかった、寂しい頃の私」
「ゆき……」
寂しげな由紀を心配そうに見つめる貴依。
そんな二人の鬱屈した雰囲気を感じたアレックスだったが、逢えてその雰囲気を壊すためにも以前から思っていた疑問をぶつける。
「あの、済みません……。そもそも『丈槍』って、どういう意味を持つんですか?」
「「……え?」」
アレックスの疑問に、鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔になる二人。しかし、貴依はすぐにあることに気付き納得顔になる。
「ああ、そういえばアレックスは、ロシアからの帰国子女だっけ……」
「ええ、高校入学の折にこちらに戻ってきて……」
「なら、知らなくても仕方ない、よな? で、えぇと。丈槍について、だよな」
そう言いながらちらり、と由紀を見る貴依。そして彼女はそのまま話し始める、が……。
「と、言っても。私も
「はぁ……?」
貴依の告白に、呆けた声をあげるアレックス。
彼女の声を聞いた貴依は、恥ずかしさから少し頬を赤らめる。そして、助けを求めるように由紀を見る。
貴依に視線で助けを求められた由紀は、驚きと呆れで複雑そうな表情を浮かべた。
「たかえちゃん。ここで私に振るの……?」
「あ、あはは……」
由紀の呆れた物言いに、誤魔化すように笑い声を上げる貴依。
そんな彼女を見て深々とため息を吐く由紀。
そして彼女は、自身が知る『丈槍』について話し始める。
「……私が知ってるのは、『丈槍』が戦国時代のあとに興ったことと、のちにここ、巡ヶ丘。その前身、『男土』の地に封ぜられたくらい、だよ」
「え……? それ、だけ?」
由紀から語られた『丈槍』について。あまりの情報の少なさに驚きをあらわにするアレックス。
そんな彼女を見た由紀は、先ほどの貴依と同じように恥ずかしさで顔を赤らめると、ぷくぅ、と頬を膨らませる。そして──。
「──わ、悪いっ!? 家の事情で友だちが出来なかったのに、その原因に興味が湧くわけないじゃない!!」
「そ、それは。まぁ……」
逆ギレ気味の由紀に気圧され、小さく同意するアレックス。
だが、そこで唇に人差し指を触れさせ思案顔になっていた由紀は、なにかを思い出したかのように呟く。
「あ、でも……。たしか、『丈槍』はどこかの分家として興ったって言ってたような……?」
「へぇ……」
由紀の呟きに興味深そうな声をあげる貴依。
そしてアレックスも気になったのか、そのことに対して質問する。
「そうなんですか……? それで、その本家というのはどこに?」
「ん~…………。忘れちゃったっ!」
「えぇ……」
満面の笑みを浮かべて忘れたことを告げる由紀に、アレックスは困惑した声をあげた。しかし、すぐに由紀はなにかを思い出したのか、情報を告げる。
「そういえば、本家は断絶したって言ってたような……?」
「断絶、ですか?」
「うん、たしか……。あと、えぇっと……。そうそう、たしか『丈槍』以外にも分家があるって話だった、かも?」
「はぁ……?」
由紀の情報にアレックスは、先ほどとは別の意味で困惑した声をあげた。
それも仕方ないのかもしれない。先ほどは情報がほぼなかったわけだが、今度は不確かながらも『丈槍』が、思った以上に凄い家系である可能性が出てきたのだから。
先ほど由紀の口から出た封じられた、という言葉。
この言葉が意味するところは、丈槍がただの名士ではなく、最低でも大地主。もしくは領主であった可能性があること。
そして、由紀からもたらされた分家という言葉。それも勘案すると断絶した本家は丈槍よりもさらに位が高く、かつての日本。江戸時代で言えば、一つの自治体を任されていた藩主。もしくは、戦国時代に一つ、あるいは複数の国を支配していた戦国、守護大名家、という可能性すらあり得る。
つまり、丈槍由紀という少女は、時代が時代なら良いところのお嬢様。どころか、お姫様ということになる。
しかし、そうなると──。
「──いや、なんで『丈槍』は腫れ物扱いになってるんですか……?」
と言う、アレックスの疑問が出てくることになる。
尤も、その疑問に対して、明確に答えられるものはここにはいるはずもなく──。
「さ、さぁ……?」
「そういえば、何でなんだろうね……?」
と、皆で頭を悩ませることになるのだった。
暫く丈槍のことで頭を悩ませながらもアレックスと由紀は地下区画調査の準備を終えていた。
ある程度のアイテム──特に晴明から譲られた回復アイテムなど──は、デモニカスーツのアイテム格納スペースに。
そして、最低限即座に使用するためのアイテムはリュックやポケットに入れる。
そうして準備を終えた二人。
アレックスは愛用のレーザーブレイドと光線銃。由紀は、貴依の予備として置いていた鉄バットを握りしめて気合いを入れる。
「よぅしっ! 頑張るぞー!!」
気合いを入れている由紀を見たアレックスは、くすり、と笑う。そして柔らかい口調で彼女に語りかける。
「ゆきさん? 意気込むのは良いんですけど、無茶だけはしないでくださいね」
「はぁいっ!」
アレックスの言葉に元気よく返事を返す由紀。
返事を返した彼女は勢いよく飛び上がると慈愛の笑みを浮かべて語りかける。
「あーちゃん、大丈夫だよ。うん、きっと大丈夫」
彼女の言葉。それは、アレックスに語りかけると同時に、自身にも語りかけているようにも聞こえた。
その証拠に、彼女の顔。表情をよく見ると、どこか緊張の色が見てとれた。
当然だ。何せ、今回の調査が彼女にとって本当の意味での初陣なのだから。
かつてペルソナに覚醒したときは、ほぼ無我夢中で動いていたため、彼女にとっては戦ったという意識は薄い。
胡桃の家での戦いにしても、胡桃とともに逃げることに必死でそれどころではなかったし、何より最終的には、その殆どをルイ=サイファーが片付けている。
そのことから、丈槍由紀という少女は本当の意味で
だからこそ、彼女の心中では不安が渦巻いている。
しかし、それを外に漏らすつもりはない。
なぜなら彼女は
先ほど彼女をお姫様と例えたように、彼女の家の血、そして
それを知るからこそ、彼女は弱味を見せることはないし、虚勢であっても笑顔を浮かべ続ける。
そして、何より──。
──ゆきさん、約束。
──笑顔を忘れないで。貴女の笑顔はみんなを、そして貴女自身を元気にするものだから。
それが、彼女の
そんな由紀を見た貴依は、心配そうに手を伸ばすが、すぐに引っ込める。
そして、彼女は戸惑いがちに由紀へ喋りかける。
「……な、なぁ。ゆき」
「なぁに、たかえちゃん?」
──やっぱり地下に行くのは、止めないか……?
そう言いたくなる貴依だったが、既のところで思いとどまると、別の言葉を投げ掛ける。
「──無事に、帰ってこいよ」
「……っ! 大丈夫だよっ。あーちゃんもいるんだから」
そして彼女はアレックスに抱きつくと、ねっ、あーちゃん。と囁く。
いきなり抱きつかれたアレックスは最初こそ身構えるが、すぐに緊張を解くと。
「ええ、大丈夫です。任せてください、たかえ先輩」
貴依を安心させるように告げる。
そして二人は貴依に笑顔で手を振ると地下の調査へ向かう。
二人を見送った貴依は、近くに立て掛けてあった胡桃のシャベルを抱き締める。そして──。
「くるみ……。どうか、二人のことを守ってあげて」
ここにいない胡桃に懇願するように祈る。
そんな彼女の脳裏に──。
──おうっ! 任せなよ、たかえっ!
そんな胡桃の元気な声が聞こえた、ような気がしたのだった……。