DDS 真・がっこう転生 MythLive   作:想いの力のその先へ

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第五十話 悪意と決意

 地下調査のため出発した由紀たち二人。

 そして途中魔人-アリスとも合流した彼女らは、比較的安全な校舎二階まで抜け、まだ多少なりとも危険が残る一階へ降りる階段。そのバリケード手前まで来ていた。

 そもそも、一階入り口等の主要な場所を可能な限り板などで塞いでいるとは言え、それでも、元々かれらの数が多い。そして、破れた窓など侵入に適した箇所が多すぎることから一階は完全な封鎖は出来ておらず、結果として少数のかれらが徘徊する危険地域となっている。

 尤も、それは由紀とアレックス。二人だけの話であり、アリスにとってはむしろホームグラウンドとでも言える状況だった。

 と、言うのも──。

 

「ふふっ、良い子、良い子。もっといっぱいオトモダチを連れてきてね。──【ネクロマ】」

 

 彼女の得意魔法にして、ネクロマンサーの開祖たる堕天使-ネビロスによって手解きされた魔界魔法のネクロマ。

 それにより、かれらの一部はアリスの従順なお人形(オトモダチ)となって、彼女たちの道を切り開いていた。

 それを見ることになった由紀は、普段可愛らしく瑠璃と遊んでいるアリスも、本質的には人とはまったく別の存在である。ということをまざまざと見せつけられ、心の奥底で恐怖に駆られている。

 現に今も、アリスのオトモダチ(人形)にかれらが無抵抗──操られている状態のかれらについても仲間と認識しているのか──に喰われていた。

 

「うふふふふ…………」

 

 それを見て、うっとり、と楽しそうに笑うアリス。

 これが戦場の、ゾンビたちの、ゾンビたちによる、ゾンビたちを殲滅する戦いの場でなければ彼女の満面の笑みに、由紀たちは見惚れていただろう。

 なお現実は、あちこちに()()()()()()が散らばったなか、恍惚の笑みを浮かべて佇む幼女。という、下手なホラーよりも恐ろしい構図になっている。

 

 そんなアリスの姿に内心恐怖していた由紀だったが、かといってこのまま恐怖に駆られてなにもしない。というのでは今までと変わりなく、それでは何のために地下探索を志願したのか。と己が心を奮起させる。

 そして彼女は奮起させた心の赴くままに一歩足を踏み出す。

 

「ユキちゃん、どうしたの……?」

 

 決意をもって一歩踏み出した由紀を見て、アリスは不思議そうに問いかける。

 アリスの問いかけに由紀は一瞬口ごもるものの、意を決したように彼女に答える。

 

「……アリスちゃん。──私も、戦うよ!」

 

「……ふぅん?」

 

 由紀が発した決意の籠った言葉に、アリスは興味深げに彼女を見やる。

 その間にもアリスの()()()()()は、他のかれらを駆逐していく。

 

 皮肉にもオトモダチとかれらの──一方的な──共食いの結果、安全が確保させている場で両者の視線が交錯する。

 

 しばし見つめあった二人だが、すぐにアリスがニタリ、と面白いものを見たかのように嗤う。

 そして彼女は心底愉しげに由紀へ話しかける。

 

「へえぇぇぇ……。そう、そうなんだ。うふふ、たしかに愉しいことを、独り占めしちゃダメだよね。良いよ、ユキちゃんも混ざろう?」

 

「愉しいこと、って……。私はそんなつもり──」

 

「そんなことよりも、ユキちゃんも早く、早く」

 

 アリスの物言いに絶句した由紀だが、そんな彼女をお構いなしに、アリスは急かすように声をかける。

 事実、既にアリスのオトモダチの手によって大半のかれらが駆逐されており、動いている個体は片手の指で足りる程度の数しかいない。

 それを確認した由紀は、一度深呼吸して気持ちを落ち着かせると、自身の異能。ペルソナを召喚する。

 

「──来てっ! ガブリエル!」

 

 彼女の力ある言葉とともに、背後に由紀と似た風貌の女天使が顕現する。

 そして顕現すると同時に、ガブリエルは宙を疾走し、手近なかれらに近付くと己が持つ剣を振りかぶる。

 

「──ガブリエル。スラッシュ!」

 

 由紀がスキルの名を叫ぶとともにガブリエルの剣が袈裟懸けに振り下ろされる!

 そして、そのまま剣は不運なかれらを一閃!

 すると、斬られた肩から反対側の腰まで剣閃が走り、次の瞬間には血と臓物を撒き散らしながら身体同士が泣き別れになる。

 それを直視することになった由紀は、反射的に口を手で覆う。

 

「……うぷっ」

 

 自らが行った行為の結果。かれらのグロテスクな末路を見た由紀は、顔を青ざめさせながら吐き気を催す。

 その時、彼女の背後から嬉々とした声が聞こえてくる。

 

「──あははっ、凄い。凄いよっ、ユキちゃん!」

 

 吐き気を我慢しながら、声の主を見る由紀。

 そこには、嬉しそうに手を叩きながら呵呵大笑するアリスの姿があった。

 そんなアリスに、アレックスは咎めるように声を荒げる。

 

「──アリス! ゆきさんの様子をちゃんと見て!」

 

「……ほへ?」

 

 アレックスに見咎められたアリスは、不思議そうな声をあげて由紀を見る。

 そして、いかにも具合の悪そうな由紀を確認すると──。

 

「どうしたの、ユキちゃん? 具合悪いの?」

 

 アリスはそう言いながら近づいて背中を優しく擦る。

 背中を擦られたことで、少し吐き気が治まってきたのか、由紀は緩慢な動きで首を横に振って否定する。

 

「ううん、大丈夫。大丈夫だよ。ただ、ちょっと気持ち悪くなっただけ……」

 

「ふぅん。そっかぁ……」

 

 由紀の返答に、どこか冷めた様子で言葉を返すアリス。

 二人がそうしている合間にも、アリスのオトモダチが残りのかれらを掃討する。

 それを確認したアリスはどこかつまらなさげな様子でオトモダチを見る。そして──。

 

「う~ん、つまんないなぁ。……もう飽きちゃった。それじゃあ()()()()()()?」

 

 彼女が声をかけると同時に、何処からともなくトランプ兵たちが現れ、次々に()()()()()だったモノを駆逐していく。

 その光景を驚きをもって見つめる由紀。

 そんな由紀に、アリスは辛辣な言葉を投げ掛ける。

 

「ユキちゃん。もう帰った方が良いんじゃない?」

 

「……え?」

 

 その言葉に、由紀は驚いた様子でアリスを見る。

 そこには、冷たい目線で彼女を見つめるアリスの姿があった。

 冷めた目で見られた由紀は、無意識のうちに気圧される。

 その姿にアリスはため息をこぼすと、決定的な言葉を告げる。

 

「辛いんでしょう? 苦しいんでしょう? ……いくら覚悟を決めたつもりでも、今のユキちゃんの顔を見てると、とてもそうは見えないよ?」

 

「──っ!」

 

 アリスの指摘に、内心どこか自覚していたのだろう。由紀は、ひゅ、と言葉を詰まらせる。

 確かに由紀の考えが甘かったのは事実だろう。

 

 ──奇しくも、今の状況はかつて圭が覚悟を問われたときと酷似していた。

 その時も圭の覚悟と現実の乖離から、太郎丸とジャックフロストという犠牲を出した。

 遅まきながらその事実に気付いた由紀は愕然とする。

 つまり、アリスが由紀に何を言いたいのか、予想できたからだ。

 そして彼女は予想通りの言葉を告げる。

 

「このまま中途半端なままだと、いつか、ユキちゃん死ぬよ?」

 

「──わた、し、は……」

 

 いざ、突きつけられた言葉に、二の句が返せなくなる由紀。

 そして頭の中では、ぐるぐると益体のない考えが巡っていく。

 

 ──死ぬ、私が……?

 ──まだ、死にたくない。

 ──めぐねえ、たかえちゃん、りーさん。

 ──みーくん、けーちゃん、とーこさん。

 ──あーちゃん、はーさん。

 

 次々と、彼女の頭の中に現れては消えていく学園生活部の仲間たちの姿。そして──。

 

 ──くるみちゃん……。

 

 去りゆく彼女の姿を見たとき、由紀の中で()()()が溢れ出してくる。

 

 ──まだ、まだ……!

 

「くるみちゃんにお話聞いてない。なんで独りで勝手に決めちゃったの、って! ──私たち、そんなに頼りなかったの、って……! くるみちゃんとも、皆ともまた笑いあえる。それなのに……!」

 

 ──こんなところで諦めて、死んでなんていられない!

 

 由紀の瞳に決意が宿る。こんなところで死んでられない、と。

 それとともに、彼女の中からMAGの奔流が暴風のように吹き荒れた。

 

「うぅ、ああァァァァァァァァぁ!」

 

 彼女の咆哮とともに再び幻影(ヴィジョン)が、ペルソナ(ガブリエル)が現れる。

 だが、次の瞬間!

 ガブリエルの身体に亀裂が走る。そして──。

 

「…………!!」

 

 粉々に碎けるとともに白い、光の(もや)のようなものが集まる。その靄はどこか女性的で神々しさを感じさせる。

 由紀は、その()()()に命じる──!

 

「──マハ・ブフダイン!」

 

 白い靄は由紀が命じた通りに、拡散された上級氷結魔(マハ・ブフダイン)を放つ。

 もはや、それは猛吹雪もかくやと威力をもって、かれらを、そしてオトモダチをも巻き込んで全てを白銀の彫像と化し、最終的には砕け散る。

 それだけに飽きたらず、通路すらも凍り付けにしていた。

 

「は、あっ……! あ、ぐぅ」

 

 ただし、そのような攻撃を放った由紀も無事で済む筈もなく、極端なMAG使用により枯渇しかけた結果、白い靄ほ霧散し、そして彼女自身顔を青くして膝を突くことになる。

 

「……っ! ゆきさんっ!」

 

 由紀の様子に慌てたアレックスが駆け寄る。

 ジョージも由紀の身体に異常がないか精査をかけると、結果をアレックスに報告する。

 

《アレックス、どうやら彼女はMAGを使い過ぎたようだ!》

 

「──OK、バディ! なら、これを。ゆきさん!」

 

 ジョージの報告を受けたアレックスは、すぐに晴明から渡されたMAG用の回復アイテム。チャクラドロップを由紀の口に含ませる。

 

「んっ、ふぅ……」

 

 アレックスから急に飴を口に入れられて驚いていた由紀だったが、舐めるうちに次第に顔色が好くなっていく。

 チャクラドロップからMAGが補充され始めたのだ。

 尤も、消費量に比べると微々たる量でしかないために、まだどこかふらふらとしている。

 しかし、とりあえず最悪の事態だけは避け得たといって良いだろう。

 そんな二人の様子を見て、アリスは感心したような、そして楽しげな笑みを浮かべる。

 

「へぇ……」

 

 そして二人に近付くと、ニコニコと上機嫌な様子で由紀に話しかけた。

 

「ユキちゃん、凄いじゃない!」

 

「……え?」

 

 アリスの急な誉め言葉にきょとんとする由紀。

 そんな由紀を置き去りにして、アリスはさらに嬉々として語りかける。

 

「んふふっ。さっきの凄かったよっ! それで、気分はどう? ──()()()()()()()()()()()全部殺しきった、き・ぶ・ん・は?」

 

 にやにやと厭らしく嗤うアリスに、憤怒の表情で食って掛かるアレックス。

 

「──貴女はっ!」

 

 食って掛かったアレックスに対して、アリスはおざなりに視線を向ける。まるで邪魔をするな、黙っていろ。と言わんばかりに。

 だが、視線を向けられたアレックスも、もう我慢できないとばかりに詰め寄ろうとした。しかし、そこで彼女が庇っていた筈の由紀本人に制止される。

 

「……あーちゃん、大丈夫。大丈夫だから」

 

「──ゆきさん! でも!」

 

 なおも由紀のことを心配しているアレックスだが、そんな彼女を安心させるように由紀は笑みを見せる。

 そして、次に真剣な表情でアリスを見やる。

 

「アリスちゃん、私は──」

 

 そこで一度言葉を切り、少しの合間逡巡した由紀。そして自身の中で腹が決まったのか言葉を発する。

 

「──私は、もう迷わない、止まらないよ。もう一度くるみちゃんに会って文句を言ってやるんだ。私たちは仲間、家族なんだよ。って!」

 

 由紀の決意を聞いて笑顔を浮かべるアリス。

 そんな彼女を見ながら、由紀はさらに言葉を続ける。

 

「だから、その時まで何がなんでも生き残る! 例え、それがどんなに厳しい道であっても。絶対に!」

 

 ──それこそ、その果てに地獄に落ちることになろうとも。

 それほどの熱量、覚悟をもってアリスを見つめる。そして、当のアリスはというと──。

 

「ふ、ふふ、うふふ……。あっはははははははっ!!」

 

 由紀の急成長、心の強さに感服し、狂喜し、哄笑をあげる。

 

 ──なんだ、ハルアキの心配なんて杞憂じゃない。ユキちゃんなら、きっとどこまででも行ける。

 

 と、そう考えながら笑い続ける。

 それは、二人がアリスの心配して声をかけるまで続くのであった。

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