DDS 真・がっこう転生 MythLive 作:想いの力のその先へ
そして今回は、原作で死亡した、とある人物が登場する第五話。では、どうぞ。
──
過去、彼女は偶然友人に誘われたライブハウスでの小さなライブ、決して有名ではないグループのライブを見て、それに憧れて友人たちとバンドを組み、夢に向かって邁進していた。家族たちからは、夢を見るよりも現実を見ろ、なんてことを言われていたが、それでも彼女は自身の夢に向かってひたすらに走り、そして──。
夢を抱いて仲間たちと上京し、ともに支え合いながら頑張っていた。だが、いつまで経っても大成できぬ己たちに絶望し、一人、また一人と仲間たちは抜けていく。それでも、と夢へと向かって頑張っていた彼女であったが、ある時、彼女を音楽の道に誘ったはずの友人に。
──え? まだやってたんだ? 透子もいい加減現実を見たほうが良いよ?
彼女にとっては、これ以上無い裏切りだった。
他の人間だったらまだ良かった。だが、よりによって、私をこの道に誘った貴女がそれを言うのか。その時はまだ親友と思っていた彼女に対する怒りと、何よりも心の根っこにある芯を折られた彼女は、失意のうちに故郷へと帰る。
──赤坂透子は夢破れた女である。
故郷に戻った時、父親に、やっと現実を見る気になったか? と、問われ怒りと悲しみがごちゃまぜになった感情のままに彼女は父を睨んでいたが、そんな娘に父は。
──ここに行ってみろ。そうすれば、今よりはマシになる。
父からそう言われつつ家から送り出され、半分自暴自棄になっていた透子は、父が言っていた場所に赴く。そこは地方の、巡ヶ丘に根付く小さなラジオ局だった。
そこで、透子自身のファンと言ってくれた人と出会い、そしてその人にここで働いてみないか? と、誘われた。最初は渋る透子だったが、ここで働けば、また歌えるかもしれない、と言われ、また局長が父の友人だったらしく、今すぐにとは言えないが、とは告げられたがそれでも、もう一度夢を見る機会を与えられた透子は、ラジオ局に入社し、そしてまた我武者羅に頑張った。
そして、その結果透子は自身がメインパーソナリティを務める番組『ワンワンワン放送局』の枠を手に入れることに成功する。しかし──。
──赤坂透子は夢破れた女である。
枠自体は決定したが、それでも本放送までしばらく間があるということと、何よりも実は自分の夢を一番応援してくれていた父に恩返しをしようと、透子は少なくない金を払いキャンピングカーを購入。
アウトドアが趣味である父と久しぶりにキャンプへと行こうと誘うために実家へと戻る途中にX-day、アウトブレイクに巻き込まれる。
人が人を喰らう、そんな地獄を目の当たりにした透子は、ただ父のことが心配になり実家へと急ぐ。あの混乱した状態で自身が一体どうやって実家にたどり着けたかわからないが、父のもとにたどり着いた透子が見たものは、今まさに喰われる寸前の父の姿だった。その姿を見た透子は思わず助けに行こうとして──。
──来るな! 逃げろ、透子ォ!
そう絶叫する父に透子の足が止まる。そしてさらに父は。
──あの場所に、お前が秘密基地と言っていたあの場所に行くんだ!
そう叫びながらヒトガタの化け物の群れに飲み込まれる父。後には何かを咀嚼する音のみが響き渡った。
透子の頭の中は混乱していたが、父に言われた秘密基地に行け、という言葉だけを心の支えとして、キャンピングカーに乗って逃げる。
しばらく移動して、時間も経ったことで落ち着いた透子は、ふと自分のファンと言ってくれた先輩のことを思い出し、生きていて、と祈りながらラジオ局に向かう。
透子はラジオ局に到着し、局員用の非常口から中に侵入する。
中は荒れ果てた様子で、あらゆる書類やモノが散乱していた。
そこを足音を立てないように注意しながら歩みを進める透子。
「……誰か、いませんか?」
そう言いながら、主に裏方が詰めていた控室の扉を開ける透子だったが、そこには。
「────ッ」
首筋から肩にかけて喰い破られて、ヒトガタの化け物に変貌していた、自分のファンと言ってくれていた先輩の無惨な姿があった。
いくらなんでもこんなのひどすぎる、透子はそう思うものの、かと言って自分で何かをできるわけではない。半ば狂乱状態に陥りながら後ずさる透子だったが、その時。
「──!」
バキリ、と自身の足が何かを踏み砕く音がした。
その音に反応した化け物は透子に向かって動き出す。それを見た透子は一目散に、音が出るのもお構いなしにその場を逃げ出す。その音がさらなる化け物を惹きつけるということも忘れて。
「いやぁ! いやぁあ!」
我を忘れて絶叫しながら逃げ惑う透子。我武者羅に、自身が何処をどう走っているかはわからないが、少なくとも足を止めたら化け物に喰われて仲間入りを果たすということだけは分かっている。
そのため、自身が生き残るために身体、特に心臓が悲鳴を上げていることもお構いなしに走り続けていた透子だったが、いつの間にか自身が局内に侵入した時に使った非常口まで来ていた。
ここから出れば助かる! そのことだけを望みに、透子は勢いよく外に出る。しかしそこには……。
化け物、ばけもの、バケモノの群れ。いつの間にかラジオ局には多くの化け物が集まっていた。しかもその中には──。
「──局、長?」
父と同じく自身の夢を応援してくれて、そしてラジオ番組のために骨を折ってくれた局長の姿があった。そして局を囲んでいる化け物たちにも見覚えがあった。
ある人は私の夢を知って、頑張れよ、と応援してくれた人だった。
ある人は、休みが合うとともに遊んだりするぐらいには仲の良い局内の友人だった。
ある人は、ある人は、ある人は──。
多くの親しい、本当に良くしてくれた人達の成れの果てに囲まれた透子は、身体の限界に達していたこともあり、その場に膝から崩れ落ちてしまう。
「なん、でよっ! 私が、一体何したっていうのよ!」
そう吐き捨てる彼女の顔は涙に濡れて絶望に染まっていた。
その声を聞き透子のもとへと集まってくる化け物たち。透子は逃げようと思うが、その意思に反して身体は疲れ果てているために動かない。動けない。
それでも、と這いつくばりながら腕の力で移動しようとするが、その移動は化け物よりも遥かに緩慢であり、到底逃げることはできない。
最も化け物たちはそんな透子の思いと関係なく、少しづつ、少しづつ、ジリジリと近寄ってきている。
自分にとっての死が確実に近づいてきていることで、透子はとうとう限界を超え発狂したように叫びだす。
「なんでっ! やだっ、来ないで! 死に、たくないっ!」
ひたすらに叫び続ける透子。しかしそれは化け物を集める結果しか生まない。
「局長! みんな、私を食べないでぇっ! やだぁ! だれかぁ! わたしを、たすけてよぉ! まだ、まだ、じにだぐないぃ!」
遂には涙を流しながら化け物に対して命乞いをする透子だったが、そもそも食欲しか無い化け物にそんな命乞いが通用するわけがない。
そしてかつて局長だったものが、とうとう透子の元へたどり着いてしまう。
透子は少しでも死が遠ざかるように逃げようとしていたが、ふと諦観が頭を過る。
──このまま逃げようとしても、他の化け物に食べられちゃうんだし、それならいっそ局長に食べられたほうがマシなのかな……。
どうせ助からないのなら、とそんな自滅願望のようなものが浮かんでくる。
──────赤坂透子は夢破れた女である。
せめて最後は恐怖を感じないように、と目を閉じる透子。その顔はまるですべてのものから解き放たれたような無垢なる顔であった。
そしてその瞬間が遂に来たのか、彼女は全身になにか生暖かいものがかかる。
だがいつまで経っても痛みが来ない。不思議に思った透子が目を開けた時、目の前には。
──全身に血を浴びた、独特な形の剣と、銃を持った死神の姿があった。
そしてその死神の周囲には、先ほどまで透子自身を食わんとしていた化け物だった者たちの残骸が転がっていた。
その光景を見てしまった透子は。
「────ッ」
自身の足の付け根からなにか生暖かいものが流れ出るのを感じながら白目を剥き倒れ伏す。
彼女の最後に見た光景は、何故か死神が慌てていることと、なにか金髪の女性がこちらに駆け寄ってきている光景だった。
ホテルから脱出した晴明たちは各地で生存者たちを救出しつつ行動していた。
その道中、五島麾下のデモニカ部隊とも偶然とはいえ遭遇し、隊長である
「しかし、デモニカ部隊の隊長が彼だったとはねぇ……」
《マスターは彼のことを知っているの?》
バロウズの質問に晴明は迷いながらも答える。
「あぁ~、そうだなぁ。彼はある意味有名人だよ」
晴明が言ったようにタダノヒトナリは二重の意味で有名人だった。
まず一つ目、彼はレンジャー勲章や各種勲章を数多持つ歴戦の戦士であり、一般兵に属する自衛隊員でありながら、多くの軍高官に熱い眼差しで見つめられるほどには優秀だった。
そしてもう一つ、それは晴明の前世に同姓同名の人物が存在していた。
彼もまた五島と同じく女神転生のゲームの中にいた人物ではあるが、その作品名は「真・女神転生Strange Journey」、デモニカスーツの出典元と同じであり、そして彼はその作品の主人公であった。
彼はゲーム内においては、南極に発生した巨大な異界【シュバルツバース】を調査するために結成された各国の精鋭たちのドリームチーム、シュバルツバース調査隊に配属されるほどの優秀な兵士だった。
しかし、何の皮肉かこの世界でもまた彼は日本限定ではあるが精鋭部隊に招かれ、デモニカスーツを着用し、悪魔の代わりにゾンビとの死闘を繰り広げている。
そんな事をつらつらと考えていた晴明の元へ、バロウズの報告が届く。
《マスター、生体反応! ──これは…………、動きが激しい! ゾンビに襲われてるわ!》
バロウズの報告と同時に駆け出す晴明。そして駆け出しながら仲魔たちに指示を出す。
「ジャックとカーマは周囲の敵を殲滅! ジャンヌは着いてこい!」
それだけを告げると、さらに加速する晴明。ジャンヌもまた晴明に遅れないように追随する。その速度は人が出すにはありえない、自動車と同等の速度が出ているものと思われた。
そんな人としてはありえない速度で走りながら、晴明はバロウズに確認する。
「バロウズ! 生存者はまだ生きているか!」
《大丈夫! まだ生きて……。待って、これは…………。マスター、急いで! 生存者、ゾンビに囲まれてる!》
「くそっ!」
バロウズの絶望的な報告に晴明は、限界までMAGを活性化させ、さらに加速し、悪魔であるジャンヌですら置き去りにされる速度を出していく。
後ろでジャンヌが何事か叫んでいるが、それすら無視して晴明は加速し続ける。
そしてついに晴明の目視できる範囲に生存者の姿が現れる。
その生存者、ロックファッションを着こなした女性は、全てを諦めたような顔で目を閉じている。だが幸いというべきか、ゾンビとの距離を考えればまだ間に合う。ならば──!
晴明は自身の人外の域にまで達した脚力をもって跳躍。一瞬のうちに女性の側まで落下する最中、倶利伽羅剣による剣圧を女性の周囲に屯するゾンビたちに放つ。
そして女性の元へ着地すると、もう一度剣を一閃! すると、今度はその剣閃は幾重にも増えて周囲のゾンビたちを蹂躙する。
──空間殺法。
それが今回晴明の放った剣技、物理技であった。
晴明が空中からの剣戟、そして地上での空間殺法の結果、周囲にいたゾンビたちはもれなく細切れにされて血飛沫を撒き散らしながらボトボトと地面に落ちる。
血飛沫による返り血を晴明と、完全な巻き添えであるが女性も浴びる。晴明は女性が気持ち悪いと思うかもしれないが、助けた結果だと思って諦めてもらおうと思う。
血飛沫を浴びたせいかはわからないが、女性が恐る恐るといった感じで目を開けてきた。そして、周囲を確認した瞬間。女性は白目を剥いて倒れ伏す。
その倒れた女性の足の付け根付近から、血とはまた別の液体が流れてきたのを見た晴明は、すぐに別方向を向き、その光景を忘れることにした。
別方向を向いたその時にジャンヌの姿が見えた晴明は、天の助けとばかりに手を大きく振る。
必死の形相で晴明と女性の側まで駆け寄ってきたジャンヌは晴明に文句を言う。
「マスター! 一人で先に行かないでください! 何かあったらどうするんですか!」
ジャンヌの威圧にタジタジになる晴明だったが、なんとか落ち着かせようとする。
「ジャンヌ、ちょっとだけ待ってくれ」
「待ちません!」
しかし、ジャンヌの剣幕は凄まじく、本来召喚主で立場が上のはずの晴明は完全に押されてしまっている。だが、流石に倒れている女性を放って口論をさせ続けるためにもいかないため、バロウズは二人に口を出す。
《二人とも、いい加減にしなさい! それは救助者を放ってまですることじゃないでしょう!》
バロウズの怒声に驚く二人であったが、晴明自身はこれでやっとジャンヌに彼女のことを頼めると思い安堵する。
「ジャンヌ、置いていったことは済まないと思うし、説教は後で受ける。だが、今は彼女の介抱を頼む。男の俺じゃ色々とまずいからよ」
晴明の言葉を聞いたジャンヌは、確かに今は、と怒りを抑えて倒れている女性の元へ向かうが──。
女性の姿を改めてみた時、彼女は晴明の方に向き直り、笑顔を引き攣らせながら。
「…………マスター? 一体、彼女に、何を、やったんですかっ!」
怒髪天を衝く、とばかりに気炎を吐くように晴明に詰め寄る。
再びのジャンヌの形相に晴明は腰が引けているが、ここで黙秘をするとさらにまずいことになるということは理解できているので、正直に白状する。
「いや、普通に避難させるには間に合わない状況だったので、彼女を守るためにこの場所でそのままゾンビを殲滅しました、はい。その結果彼女もゾンビの血を被ってしまったし、この状況を見て気絶させてしまったのは、悪かったと思ってます、はい」
その言葉を聞いて晴明を追うことを優先したがゆえに周囲を見ていなかったジャンヌは、改めて確認するが、その時に初めて惨殺現場もかくや、という惨状を認識する。
その結果ジャンヌの怒りはいよいよ爆発する。
「一般人にこの惨状を見せつけたら、そうなるに決まってるじゃないですかっ!」
そしてジャンヌは素早く周囲を確認すると、すぐ近くに建物があることを確認する。
女性をそこで休ませようかと思ったジャンヌであったが、その建物内にゾンビの影があることを見たジャンヌは晴明に檄を飛ばす。
「マスター! まずはその建物内を
ジャンヌは、そう言いながら女性の介抱を開始する。
晴明は流石に今回怒られるのは理不尽だ、と思いつつも、実際に女性の粗相を見てしまっている以上ある程度は仕方ない、とも思っているので素直にジャンヌの言うように建物内のゾンビの殲滅を開始した。
透子はなにか温かいものに包まれている感触を感じながら意識を覚醒する。
どうやら寝かされていたようで、上半身を起き上がらせると、どうやら何処かの部屋のソファに……。否、彼女にはこの部屋に見覚えがあった。
「……ここ、は。局の休憩室?」
その時休憩室の外から誰かが入ってくる。思わず身構える透子だったが。
「あぁ、良かった。お目覚めになったんですね」
入ってきた人物、金髪の年頃は高校生くらいの白人女性だった。
その少女、と言うべきか、は、見た目は完全に外国人だったが随分と流暢な日本語を話すことから、もしかしたらハーフか、それとも日本好きで巡ヶ丘に来た時に今回のアウトブレイクに巻き込まれたのかもしれない。
そのことを哀れに思う透子だったが、ふと彼女に見覚えがあると思う。全く会ったこともない人物なのに、と思った透子だったが、その時一つの記憶がフラッシュバックする。
──自身に降りかかる何かの温かい液体状のもの、目を開けるとそこには恩人たちだったものがばらばらになっていて、目の前には血を被った死神が。つまりさっき私が被ったものは局長たちの……。
「イヤぁぁ!」
「! 大丈夫ですか!」
急に叫びだした透子を心配して駆け寄る女性。その姿を見て透子は最後の記憶、駆け寄ってきた金髪の女性が彼女だったのか、と思う。
そしてその女性は透子を抱きしめるとあやすように頭を撫でながら、話しかけてくる。
「大丈夫、大丈夫ですよ。もう怖いものはいませんから」
女性の言葉を聞いた透子は綴るような目で彼女を見ながら問いかける。
「ほん、とうに? あの化け物たちや、死神もいないの?」
「……死神、ですか?」
透子の言葉に困惑する女性。彼女はあの恐ろしい死神が見えていなかったのだろうか?
正直あの存在のことを話すのも嫌だったが、それ以上にいないという確証を持って安心したいがために彼女に話す。
「私の側にいた、なにか変な剣と、銃を持った死神よ!」
それを聞いた女性は、どこか気まずそうに曖昧な笑みを浮かべて透子に話しかける。
「……あ~、っとですねぇ。ちょっと、それは誤解と言うかぁ…………」
女性のこの様子から何かを知っている! と、確信した透子は彼女に問い詰めようとするが、その前に──。
「お~い、
そう言いながら件の死神自身が姿を表す。
その姿を見た透子はパニックに陥る。
「いやっ! 離してっ! 逃げ、ないとぉ!」
「あぁ、落ち着いてっ。怖くないですから」
その透子の取り乱しようを見た死神は困惑したようにレティシアと呼ばれた女性に話しかける。
「もしかして俺、またなんかやっちまった……?」
その不安そうな様子を見せる死神に女性が話しかける。
「いやぁ、今回はちょっと間が悪かった、としか……。とにかく、彼女は落ち着かせておきますから、
「了解。後でまた来るよ」
そう言って晴明と呼ばれた死神は去っていった。
最も透子はその事に気付かずにまだ暴れていたが……。
「離してぇ!」
しばらく暴れていた透子だったが、ようやく落ち着きを取り戻して晴明が死神だという誤解も解かれた。
その後に改めて全員が自己紹介をしたが、その中に小さい女の子が二人もいるとは思わなかった透子。
「えっと、晴明さん。この子たちも晴明さんが保護したんですか?」
透子はジャックとカーマを見ながらそんな事を言う。
それを聞いたジャックはわけがわからない、という表情で、そしてカーマは、ニンマリ、とあくどい笑みを浮かべて答える。
「えぇ、そうなんですよぅ。でもこの人ったらぁ、……って、あいたぁ!」
透子に何事かを吹き込もうとしていたカーマだったが、その前に晴明にげんこつをもらい、叩かれた場所を押さえながら蹲る。
「痛いじゃないですか! いきなり何するのよ!」
そう言いながら下手人である晴明を睨むカーマであったが。
「さて、
晴明のそんなドスの利いた声に冷や汗を流し始める。
そして、そんなやり取りを見て呆然としていた透子であったが見かねたジャンヌが仲裁する。
「まぁまぁ晴明さん、そこまでに。透子さんが困ってますよ?」
ジャンヌからの指摘でその事に気付いた晴明は透子に謝罪する。
「あぁっと、すまない透子さん。置いてけぼりにしちまったか」
「あ、えっと、いえ……」
透子自身は心ここにあらず、という状態だったが反射的に答えを返す。
その様子を見た晴明は、とりあえず三人との表向きにカバーされた関係について話す。
「ジャックの、ああ、この銀髪の子のことなんだが」
そう言いながらジャックの頭を撫でる晴明と、それを嬉しそうに受け入れているジャック。晴明はそのまま撫で続けながら続きの言葉を話す。
「この子の保護者、というのは間違っていないんだが、透子さんを介抱していたレティシアと、こっちのさくらに関しては仕事の同僚みたいなもんなんだよ」
そう言いながら、ジャンヌとカーマを交互に見る晴明。
ちなみに、レティシアとさくらという名前はそれぞれジャンヌとカーマの表側で活動する際の偽名である。勿論裏を取られても大丈夫なように、二人の戸籍も存在している。さらに余談であるが、ジャックに関しては偽名も戸籍も用意はされていない。姿も言動も完全に子供なので警戒されないことと、万が一名前がバレたとしてもイメージとはかけ離れすぎているため本物とは思われないからだ。
「……同僚、ですか?」
カーマの方を見て不思議そうな顔をする透子。それはそうだろう、見た目で言えばジャックとそう変わらないはずなのに就労しているというのだから、不思議に思うのも無理はない。
「ああ、そいつは今、超能力みたいなもんで姿を変えてるんだ。さくら、元の姿に」
と、晴明はカーマに話しかけながら裏でこっそりとカーマにMAGを送る。それで晴明の意図を察したカーマは面倒くさそうな素振りを見せながら。
「え~、まぁ良いですけど……」
彼女の姿がどんどんと成長していき、だいたいジャンヌと同じくらいの年頃の女性の姿になる。それを間近で見た透子はあんぐりと口を開けて呆然としている。
「まぁ、そうなりますよね~」
カーマは含み笑いをしながら透子の方を見ている。その声は先ほどまでの舌足らずなものではなく、きちんとした女性のものであった。
「え? は? えぇっ!!」
あまりのことに透子は思考停止に陥っていたようで、今更ながら驚きの声を上げる。
その姿を見たカーマは、いたずら成功とばかりに笑っていた。
そして、それを好機と見た晴明は畳み掛けるように用意されたカバーストーリーを話していく。
「で、俺らの仕事は探偵みたいなもんなんだが、さくらには今の特技を使ってもらって、子供姿での情報収集もしてもらってるんだよ」
「は、はぁ……」
晴明の言葉を理解できたのか、できてないのかは定かではないが透子は一応の納得をしたようだ。そのことに安心したジャンヌは、晴明に話かける。
「それで晴明さん、今後はどうしましょうか?」
「ああ、そうだな。透子さんを自衛隊に保護してもらって、その後はまた探索に、ってところだろう。流石に今日はもう遅いからここで待機になるだろうが」
その晴明の言葉を聞いた透子は即座に拒否する。
「いやよ! 私はあなた達と一緒にいる!」
「ええと、透子さん?」
晴明の困惑した声が響く。しかし、何故か透子はそんな状態であっても一歩も引く気にはなれなかった。
これは透子自身も自覚していなかったことだが、自身が死にかけたことにより、人としての生存本能が刺激されて、その結果直感的に自衛隊に保護されるよりも、晴明とともに行動するほうが命の危険が少ないと判断したからだった。
しかし、だからといって晴明もまた民間人を危険に晒すわけにもいかないために、なんとか説得しようと思い行動しようとするが、その意図を察した透子は畳み掛けるように告げる。
「私、キャンピングカーを持ってるわ! それで移動すれば少しは楽になるはずよね!」
透子の必死の剣幕に押される晴明。そして透子はさらに畳み掛けるように告げる。
「それに私、秘密基地。そう、秘密基地を知ってるわ!」
「……秘密基地?」
晴明は秘密基地という言葉に困惑とともに一定の興味を示す。それを好機と見た透子はさらに情報を出していく。
曰く、過去、子供の頃に父に連れられてその場所に行ったことがあること。
曰く、その場所は避難施設となっており、ある程度の物資が貯蓄されていること。
そして、曰く、その建物の建設に、ランダルコーポーレーションが関与していること。
そのこと、特にランダルに関して強い関心を示した晴明は。
「ふぅ、分かった。透子さん、案内をお願いしていいかい?」
言外に透子の同行を容認した。ジャンヌはそのことに慌てて考え直すように迫るが晴明の。
「ここで拒否した場合透子さん、自衛隊の基地を抜け出して俺らを追ってくるかも知れんぞ」
という言葉に折れて渋々ではあるが同行に賛成する。
その光景を面白いものを見た、とばかりに笑っているカーマと、全く興味を示していないジャック。
その結果透子の同行は許可されることとなり、彼女は喜び、張り切りながら案内しようとするが、晴明に今日は流石に遅いから、と止められる。
なら、せめて、ここよりもキャンピングカーのほうが安全だと思う、と透子が提案すると、晴明はしばし思案したのちに、彼女の提案を飲み全員でキャンピングカーに向かうことになった。
──赤坂透子は望みを叶えた女である。果たしてそれが良かったのか、悪かったのかは、今は誰もわからない──
今回登場した、通称ラジオDJのお姉さんは、原作で名前が判明していないため、るーちゃんと同じく独自設定となります。