DDS 真・がっこう転生 MythLive 作:想いの力のその先へ
――なにか、良い匂いがする……。
無意識のうちに、自身の大好きな
どこか安心を覚える暖かいものに抱きついている感覚。
その感覚をもっと味わいたくて、彼女は頭を、そして全身を擦り付けるようにぐりぐりと動かす。それで彼女の体に気持ちいい感覚が広がっていく。
その気持ちよさにさらなる笑みを浮かべる圭。
「……えへへ」
それに少し遅れて彼女の抱きついているものと、自身の太ももに当たっている何かがピクリと動く。
「……う、んぅ」
その感覚に擽ったさを覚えて、圭は身動ぎする。
そして、そのことで目が覚めてきたのか、圭は薄く目を開ける。
すると、そこには大きな背中とともに、ぐんぐんと、まるで車にでも乗っているかのような速さで過ぎ去っていく景色。
しかし、車とは一つだけ違う点。遮るものがなく直に風を浴びることで肌寒く感じた圭は、先ほどよりも強く、目の前の背中に抱きつく。
だが、そこで圭ははたと疑問に思い至る。即ち――。
(……あれ、そういえばこの背中――?)
その時、圭が起きたことに気付いたのか、彼女を背負っていた人物が声をかけてくる。
「……ん? 圭、起きたのか?」
「あ、は――!」
い、と反射的に返事をしようとした圭は
彼女を背中に抱えている人物。それは彼女の師匠にして想い人の蘆屋晴明だった。
そして、それはつまり、今まで彼の背中に自身の顔や、あまつさえ胸を押し付け――どころか、マーキングをするように擦り付けていたわけで……。
しかも、彼女を落とさないように、自身の太ももには彼の手――左はガントレットなので間接的になる――が
そのことを自覚した圭は、体全体で
それと同時に彼女の頭の中は混乱の極致に達していた。
(……あれ?! なんで私、晴明さんにおぶられて――)
しかし、汗をだらだらと垂れ流しながら混乱している圭をよそに、反応がないことに訝しんだ晴明が声をかけてくる。
「……おい、圭。どうした? 何か問題でもあったのか?」
混乱、というよりも半ば現実逃避することで精神を保っていた圭は、その晴明の言葉で強制的に現実に戻され――。
「……――――!!」
精神の限界を突破し、声なき悲鳴をあげるのだった。
圭が悲鳴をあげた少し後、晴明たち――主に圭のことを心配した美紀の提言によって――は近場の安全な場所。かれらが這い上がることの出来ない民家の屋根上で立ち止まっていた。
そして美紀は、彼女を抱えていたスカアハから降ろしてもらうと圭に駆け寄る。
「ちょっと、けい! だいじょ……?」
そのまま、声をかけようとした美紀だったが、圭の様子がおかしいことに気付きしりつぼみになる。
圭の様子を観察しようと彼女の顔を覗き見る美紀。
そこには、沸騰したやかんのように湯気を立ち上らせて、ぽへぇと放心している圭の姿があった。
そのことに、圭がなぜ悲鳴をあげたのかを察した美紀は、どこか白けた目を彼女に向けると頬に手を添えて、彼女のすべすべの肌を擦る。
その美紀の行動に気持ち良さそうに目を細める圭。
しかし、次の瞬間――。
「……
美紀に頬をぎゅむ、と力の限りつねられて悲鳴をあげる圭。
彼女の痛がる様子に多少の溜飲は下がったのか、美紀はつねった頬から手を離す。
そんな二人のやり取りを微笑ましく見守っていた晴明たち。
彼らに見られていることに気付いた圭は、先ほどと同じように羞恥で頬を赤く染めつつ頬を擦る。
美紀はその様子を見て、悪態をつきつつため息を吐いた。
「……まったく、けいったら。自分ばっかり」
「あうぅ…………? みき、何か言った?」
「なんでもないっ!」
美紀の悪態が聞こえなかったようで、圭は彼女へ問いかける。
だが、当の美紀はぷい、と顔を逸らすと声を荒げつつもなんでもない、と答える。
圭は、そんな美紀に対して不可解そうな表情を浮かべる。
二人のやり取りを聞いていたスカアハは、からからと笑いながら語りかける。
「ふふふ、お主ら。そんなに元気があるのなら、もう少し頑張れそうじゃなぁ」
『……え?』
スカアハの笑い声に不思議そうな声をあげる二人。
しかし、そこで二人はなぜ自分たちが気絶して晴明たちにおぶられていたのかを、朧気ながら思い出してくる。
それと同時に少し顔色が悪くなる二人。
顔色が悪くなってきた二人を見たスカアハは嘆息する。
「……まったく、まだまだだのう」
そう言いながら首を横に振り、やれやれと呟くスカアハ。
そんな彼女を嗜めるように晴明は声をかける。
「こらこら、俺が言うのもなんだが、二人にあまり無茶振りするんじゃないよ」
「……本当に、マスターが言うことじゃねぇな」
スカアハを嗜める晴明だったが、クーフーリンのしみじみとした実感のこもった言葉にがっくりと肩を落とす。
『……ぷっ』
そんな彼らのやり取りを見た美紀と圭は、そのやり取りがおかしかったのか思わず吹き出してしまう。
そのまま、我慢するようにくすくす笑う二人を見て、晴明たちも肩をすくめて優しく笑うのだった。
しばらく、くすくすと笑っていた二人だったが少し落ち着いてきたのか笑い声が収まってきた。
そんな二人の様子を確認して晴明は、笑ったことで緊張が解れてきた彼女たちに話しかける。
「二人とも、そろそろいいかな?」
「え、あ、はい。なんでしょう?」
話しかけてきた晴明に対して、美紀が返事をする。
美紀の返事を聞いた晴明は改めて本題に入る。
「さっきの戦闘について、反省会でもしようか?」
「……そうですね、わかりました」
晴明の提案にこくりと頷いて答える美紀。
彼女の答えを聞いた晴明は、早速話を始める。
「まずはさっきも言ったが、二人ともよく頑張ったな。初陣としては上出来の部類だったと思うぞ」
「やたっ! えへへ……」
「ふぅ、よかったです」
晴明の誉め言葉に、圭は憚ることなく喜びをあらわにし、逆に美紀は心を落ち着かせるように息を吐きつつ、小さく喜んでいる。
そんな対照的な二人を微笑ましく見ていた晴明だが、すぐに真面目な表情になると次の話を始める。
「さて、では次に……。さっきの戦闘で拙い部分があったわけだが、それがどこかわかるか?」
晴明の問いかけに二人は先ほどの戦闘について思い出そうと唸っている。
そして、思い当たるところがあったのか、美紀は挙手すると自身が思うことを伝える。
「えっと、やっぱり冷静さを欠いていたこと、でしょうか……?」
「そうだな、それもあるな」
「それもある、ですか」
晴明のそれもある、という指摘に再び考え込む美紀。
それを尻目にうんうん唸っていた圭だったが、考えが纏まらず、遂には知恵熱が出たのか、頭から湯気を出しながら変な声を出していた。
「ふみゅう……?」
圭の様子を見て苦笑いを浮かべた晴明。
そして、二人が未だに唸っているのもあって、彼はしょうがない。と二人に対してヒントを出す。
「それじゃあ二人とも。かれらの習性を思い出してみようか」
「……かれらの習性?」
晴明の言葉を聞いて、圭は頭の上に疑問符を浮かべる。
だが、美紀は彼の言葉を聞いてぶつぶつとかれらの習性を反芻する。
「……たしか学校に学生だったかれらがよく来ることから、生前の行動を繰り返し行っている可能性があることと、それに光と
「わかったみたいだな」
「……はい」
晴明の問いかけに恥ずかしそうに俯く美紀。
そして、圭も彼女の呟きで思い至ったのか、あぅぅ……。と情けない声をあげている。
「私たちが、かれらの音に反応する習性を忘れていた、ことですね……」
美紀が恥ずかしそうに、か細い声で告げる。
それに晴明が頷くとついでとばかりに改善点を挙げる。
「そうだな。それにそのことを利用すれば、圭がかれらを一ヶ所に集めた後に、美紀がマハ・ラギで一掃する。という戦術も取れただろうな」
「はうぅ……」
晴明の改善点を聞いた圭は、申し訳なさそうに縮こまる。美紀もまた同じように怒られたくないといった様子で縮こまっている。
そんな二人の様子に晴明は苦笑する。
そして、二人を安心させるように優しく話しかける。
「別に怒っている訳じゃないさ。失敗は誰にでもあることだし、それに二人とも反省してるんだろう?」
その晴明の言葉に小さくこくりと頷く二人。
そんな二人に笑いかけながら晴明はさらに告げる。
「なら、なにも問題ないさ。この失敗を糧にして成長すればいい。そうすればお前たちはさらに先へ進めるんだから、な?」
晴明の慰めるような、そして導くような声掛けに美紀と圭はどこか吹っ切れたように笑顔を浮かべて元気よく返事する。
『――はいっ!』
「よろしい」
二人の元気の良い返事を聞いた晴明は笑顔を浮かべる。
そして今度は美紀にとある確認を取る晴明。
「そういえば美紀。さっき渡した剣の使い心地はどうだったんだ?」
その言葉で投げ渡された剣のことを思い出した美紀は、反射的に腰に下げていた剣を取る。
そして、その剣をまじまじと見つめると一言。
「そうですね、とても使いやすかったです。でも――」
そう言いながらも言い淀む美紀。
そんな彼女にさらに言葉を促す晴明。
「でも、なんだ?」
「でも、何かが欠けているような気がして。……もしかして、なんですけど。この剣、盾と一対じゃないですか?」
そう晴明に確認を取る美紀に、晴明は驚いたように息を呑むと、彼女の疑問に肯定する。
「……そう、だな。美紀が言うようにその剣はとある場所で手に入れたんだが、その時に盾も一緒に手に入れたんだよ」
そう言いながら晴明はガントレットを操作して虚空から盾を。どこか可愛らしい子犬が描かれ、そして、犬耳を模したような突起が二つ出た独特な形をしたヒーターシールドを取り出した。
その盾を見て息を呑む二人。そして、二人は無意識のうちに声を出す。
『……たろう、まる?』
「そう見えるよなぁ……」
二人の呟きに、晴明は複雑そうな表情を浮かべる。
そう、確かに盾に描かれている子犬は、圭を守り、その結果子犬としての一生を終えた太郎丸に酷似していた。
そのことに動揺していた美紀だったが、心を落ち着かせると晴明に、これをどこで手に入れたのかを問いかける。
「あの、晴明さん。この剣と盾はいったいどこで……?」
「そうさな、……これはアカラナ回廊といわれる特殊な空間で手に入れたものだ」
「アカラナ回廊、ですか……?」
晴明が言ったアカラナ回廊という言葉に不思議そうな顔をして首をかしげる圭。
そんな彼女に、晴明はアカラナ回廊がどういった場所なのかを説明する。
「ああ。簡単に言ってしまえば、アカラナ回廊とはあらゆる時間と空間が交差した特異点。未来や過去はもとより、異なる世界にも到達できる可能性がある場所だ」
「……はぃ?」
抽象的な説明であったが、それでも晴明が言った意味がある程度理解できたのか、美紀は呆然とした様子で彼を見つめている。
そして圭も信じられないのか、あるいは信じたくないのか。確認も言う名目で晴明に一つの問いかけをする。
「あの、晴明さん? ……それって、つまり。やろうと思えば過去や未来へ時間旅行ができる、ってことですか?」
ひきつった表情でそう問いかける圭に、晴明は真剣な表情で頷くと、彼女の質問に答える。
「ああ、可能だ。……理論上は、な」
「あ、はは……」
晴明の返答を聞いた圭は声をかすれさせながら、乾いた笑みを浮かべる。
事実、葛葉の里にある文献保管庫に置いてあったとある資料には、十四代目葛葉ライドウが解決した超力兵団事変において、アカラナ回廊を通って未来から四十代目葛葉ライドウが現れた。という記述が存在する。
また別の資料には、並行世界のライドウが現れ、彼が追っていた魔王をともに討伐した。という記述も存在する。
もっとも四十代目は、意識のみを過去に存在していた先祖に転写していた。とも伝えられているが……。
ともあれ、そのようなことからも晴明は一応は可能である。と伝えたのだ。
しかし、そのことに疑問を持ったようで美紀は不思議そうに問いかける。
「……理論上は、ですか?」
「ああ、理論上は、だ。というのも単純にあの場は、どこでどういった場所に繋がっているのかが不明でね。なので、狙って特定の世界に行く、というのが難しいのさ」
「なるほど……」
「それに、あそこはクズノハが修練の場に用いるくらいには悪魔の出現率も高くてね。とてもじゃないが、時間旅行なんてことが出来るほど安全な場所じゃないのさ」
そう言いながら美紀に太郎丸らしき子犬が描かれた盾を手渡す晴明。
手渡された美紀は反射的に受け取るが、すぐに正気に戻ると晴明に話しかける。
「あの、これ。良いんですか?」
「ああ、構わないとも。きっとこれも何かの縁だったんだろう」
「……ありがとうございます」
晴明から問題ない。という確認を取った美紀は盾を左手に装着する。
そして、そのまま立ち上がると剣と盾を構えて軽く動かしてみる。
「……うん、やっぱりしっくりくる」
一通り演武を行った美紀は、剣が今まで以上にしっくりくることを確認して鞘に納める。
それを見ておお、関心の声を上げつつ拍手をしていた圭。
そのまま、美紀に話しかけようとする彼女だったが、ふと、周りが騒がしくなっていることに気付く。
「あれ……? なにか、聞こえる……?」
「どうしたの、けい?」
「んっと、あっち……!」
圭の挙動を不審に思った美紀は彼女に問いかける。そして圭も美紀の質問に答えようと、音がした方を向いて指を指そうとして固まる。
そこには、かれらに追われて移動している生存者らしき人影が見えたからだ。
それを見た圭は、叫ぶと同時に咄嗟に下へと飛び降りる。
「――助けなきゃ!」
「ちょ、けい。待って!」
そんな親友を追いかけるように美紀もまた屋根上から飛び降りる。
そして二人は危なげなく地上に降り立つと、生存者らしき影のもとへ走り出した。
そんな二人、主に圭を見た晴明は少しばかり驚きをあらわにする。
「驚いたな……。圭のやつ、耳がよくなっているのか?」
そう言いながら晴明は先ほど圭が指差した場所。この場からおおよそ
そこには、確かにかれらがうごめく姿が確認できた。
そして、二人を追いかけようとする晴明にクーフーリンたちとは別の人物から声が掛かる。
「マスター、どうやら急いだ方がいいみたいですよ?」
「おわっ! ……いつの間に出てきたカーマ!」
晴明が突っ込みを入れたように、彼の隣にはいつの間にか秘神-カーマが立っていた。
そこに今度はバロウズから声が掛かる。
《ハァイ、マスター。カーマがどうしても出せって煩くてね》
「んんっ! そんなことよりもっ――」
バロウズの台詞にカーマは誤魔化すように咳払いをしつつ先ほどの場所を指し示す。
「どう考えても彼。あの娘たちには荷が勝ちすぎてますよ?」
そのカーマの忠告に、晴明は改めてかれらが追う生存者らしき姿を見る。
そしてその
「――くそっ! なんで、こんなところにヤツがいるんだっ!」
そう言って晴明は、焦燥に身を焦がしつつ
――ここはアマラ深界の最奥。
そこでルイ=サイファーはソファーに腰掛けながら楽しげな様子で映し出される映像を見ていた。
「ふふっ、どうやらあの娘たちは順調に力をつけているようだ。ねぇ、胡桃?」
そう言って後ろへ視線を向けるルイ=サイファー。
そこには、虚ろな瞳で虚空を見つめる恵飛須沢胡桃の姿があった。
それを見てルイ=サイファーはつまらなそうに首を横に振る。
「――やれやれ、大丈夫だと思ったのだがね……。まぁいい。それよりも、もうそろそろ
そこでルイ=サイファーは映像に映りこんだとある姿を見て忌々しげな表情を浮かべる。
「……ふん、どうやら煩い害鳥も迷いこんでいるようだが、彼女らの試練にはちょうどいいかな?」
その時、彼の後ろから声が聞こえてくる。
「ゆ、き……。ゆ、きぃ…………!」
その声、恵飛須沢胡桃の呟きを聞いて笑みを深めるルイ=サイファー。
「ふふ、どうやらこちらも捨てたものではないようだ。――頑張りたまえよ、恵飛須沢胡桃。君が望む力を得るために」
ルイ=サイファーは胡桃に発破を掛けるが、胡桃はそれに答えず、ひたすらに仲間たちの名前を呟く。
「めぐ、ね、ぇぇ……。りー、さん。アレッ、……クス。た、かえ……」
彼女の中にあるのは苦悩か、後悔か。――それとも憎しみなのか。
彼女自身もそれはわからない。が、それでも彼女は仲間の名前を呼び続ける。その意図は彼女自身もわからなかった。
「……ゆ、きぃぃ――」