DDS 真・がっこう転生 MythLive   作:想いの力のその先へ

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第五十七話 二人の弟子

 時間としては高城絶斗が撤退し、圭と美紀が安堵の涙を流している頃、別の場所でも動きがあった。

 ――ここは、晴明の弟子であるペルソナ使い、神持朱夏が住む生存者たちの拠点。聖イシドロス大学。

 その中にあるとある一室で、朱夏は同じく生存者であり、自堕落同好会のリーダー。【出口(でぐち)桐子(とうこ)】から相談を受けていた。

 

「……それでトーコ? 相談というのは?」

 

 椅子に座り、足を組み変えながら、朱夏は訝しげな様子で問いかける。

 そもそも、近頃のイシドロスは()()()ゾンビの襲撃も減っており、平和を享受していたこともあって、問題は起きていないはずなのだ。

 事実、女性陣のリーダーである朱夏のもとには女性陣(下から)の報告も、ましてや男性陣のリーダー(頭護貴人)からの連絡も来ていない。

 

 ……ちなみに、以前行方不明になっていた男女に関しては、のちに幽鬼-ガキに襲われた女性と同じように悪魔に喰われて事切れていたのを発見された。

 その下手人の悪魔の正体は判明しておらず、あるいは朱夏が討伐した幽鬼-ガキや、妖鬼-オニだった可能性すらあるため、実質的な解決は不可能となっている。が、現状に於いてイシドロスで悪魔関連の被害は出ていないため、恐らく問題はないだろう、という結論に至っている。

 無論、それでも万が一、という可能性があるためそれぞれの生存者たちに連絡の周知徹底は行わせているが……。

 

 とにもかくにも、現状はそのような状態なためイシドロス近辺は一応の平穏を取り戻していた。

 そんな折に、唐突な、そして深刻な顔で桐子が相談を――しかも人払いしてまで――望んだことに朱夏は異変を感じたのだ。

 

 そして、朱夏に見つめられた桐子も話すか、話さないかを迷っていたようだったが、意を決して相談を口に出す。

 

「それが……。スミコがここを出てく、なんて言ってるんだよぉぉぉ!」

 

 どうしよう、アヤカぁ! と泣きながら抱きつく桐子。

 朱夏も彼女の急な行動に驚きつつも、桐子が言ったスミコなる人物のことを思い出していた。

 

 ――黒崎(くろさき)澄子(すみこ)

 

 出口桐子の友人にして、主にゴシックロリータの衣服を好んで着る女性。桐子の話では、虎の球団のファンであり、酒豪であるとのこと。

 

 そこまで思い出した朱夏は、特になにも関係なかった。と思いつつも、件の彼女がなぜ急に出ていくと言ったのか、理由が分からず困惑する。

 今でこそゾンビの数が少なくなっているとはいえ、それでも()が危険地帯であることに変わりはない。

 それに、理学棟で椎子とDr.スリルがゾンビの研究をしているのは生存者の中では周知の事実であり、解毒剤などは未だ出来ていないものの、ある程度研究が進んでいるのは報告を受けている。

 そのことから、近く解毒剤とまではいかずとも、病状の進行を遅延する薬が出来る可能性は十分以上に存在するのだ。

 

 それなのに、このタイミングで安全圏から出て、どこに行こうというのか?

 しかも、桐子が相談に来る。ということは少なくとも彼女はまだイシドロスの敷地内にいる。即ち、突発的な行動ではない。ということだ。

 つまり、理知的な判断が出来ている。という意味になるが、それなら余計に意味が分からない。

 理知的な判断が出来るのに、その判断の結果が外に出る?

 それでは自殺と変わりないではないか。

 

 これが、研究結果もなく、先も見通せない状態ならまだ理解できる。

 しかし、実際にはそうではなく、結果も出て、ほんの僅かとはいえ、光明が見えてきている状態なのだ。

 つまり、彼女。澄子には何かの目的があり、それを達成するために行動している。と考えるのが自然だ。

 だが、彼女の目的とは?

 

 結局、そこで行き詰まる。

 そこまで考えて朱夏は(かぶり)を振る。

 

 ――考えてもわからない場合、直接聞くしかない。

 その結論に達した朱夏は席から立ち上がると桐子へ話しかける。

 

「トーコ。そのスミコさんのところへ案内して」

 

「……へ? アヤカ……?」

 

 朱夏の唐突な言葉に、桐子は頭上に疑問符を浮かべたような様子で首を傾げた。

 そんな桐子を急かすように朱夏はさらに言葉を続ける。

 

「ほら、速くっ! ……スミコさんを止めたいんでしょう?」

 

「――! うんっ!」

 

 朱夏の言葉に、桐子は飛び上がるように立つと、朱夏を先導するために部屋を出る。

 朱夏もそんな彼女のあとに続くのであった。

 

 

 

 

 

 

 部屋を出て、澄子のもとへ急ぐ朱夏と桐子。

 そんな二人の前に、ある意味珍しい顔が見えてくる。

 それは、英雄-ジャンヌダルクだった。

 彼女は一時期――晴明がエトワリアに渡り、行方不明になった際――朱夏の心配をして学生たちが暮らす校舎の方に入り浸っていたが、現在は本来の任務であるDr.スリルの護衛のために理学棟で暮らしている。

 

 そんな彼女であるが、朱夏たちがいるのに気付いたようで、笑顔を見せながら手を振ってくる。

 彼女がここにいることに驚いた朱夏は、何かあったのか、とジャンヌへ問いかける。

 

「ジャンヌ、どうしてここに?」

 

「ふふ、単なる見回りですよ。……それにあそこに籠ってばかりだと気が滅入ってしまいますから」

 

「あぁ……」

 

 ジャンヌが軽口を放ったあとに陰鬱そうに表情が陰ったことに、なにか思うところがあったのか、朱夏は納得した様子で頷いている。

 事実、理学棟にはあろうことか、動けないように拘束されているとはいえ、ゾンビが何体か確保されている。

 しかも、()()を使って研究していることもあって、護衛対象がすぐ側にいるにも関わらず始末できないのだ。

 それがジャンヌにとって地味なストレス要因となっている。

 もっとも、仮に拘束が破壊されたとしても、Dr.スリル専用の造魔、ガルガンゼロが側に控えているのである程度の安全は担保されているのだが……。

 そういうこともあり、彼女は友人(朱夏)の安否を確認するためにも、時々こちら側に訪れていたのだ。

 

「それで、お二人こそどうしたんですか?」

 

 言外に二人がどうしてともに行動しているのかをたずねるジャンヌ。

 実際、この二人だけで行動しているのは珍しく、大抵は共通の友人である晶や篠生を間に置いて行動していたからだ。

 

 朱夏もジャンヌの疑問を理解したようで、今二人で行動している理由。つまり、桐子の相談と澄子に話を聞くため移動していることを告げる。

 その話を聞いたジャンヌは澄子の名を出た時に不思議な反応を示した。

 

「澄子、黒崎澄子、ですか……」

 

「どうしたの、ジャンヌ?」

 

 彼女の名を聞いて、何かを思い出すように悩みはじめたジャンヌを見て、朱夏は怪訝そうな表情で彼女を覗き見る。

 そんな朱夏に、ジャンヌは心配させないように苦笑しながらも、どこか腑に落ちない様子で口を開く。

 

「ええ、どこかで聞いた名だな。と思いまして……」

 

「……は?」

 

 ジャンヌの返事を聞いて、朱夏は驚いたように口を開ける。

 そんな彼女の様子に、ジャンヌは慌てて手を横に振ると、朱夏に話しかける。

 

「……あっ! えっと、あくまで聞いたような気がする。ってだけで、もしかしたら私の勘違いかもしれませんから!」

 

「……え、ええ」

 

 ジャンヌの慌てた弁明に、朱夏も気のない返事を返す。

 そんな二人の空気を壊すように、今まで黙っていた桐子が口を開く。

 

「でも、仮に聞いてたとして、ジャンヌさんはどこでスミコの名前を聞いたんだろうね?」

 

『えっ……?』

 

 ふとした桐子の疑問に、他二人も不思議そうな声を上げる。

 そもそも桐子にとって澄子は大学に入ってからの短い間とはいえ、仲の良い、ともすれば気の置けない友人であり、切った張ったな世界とは無縁な人物なのだ。

 桐子はその友人と、それこそ殺伐とした世界の住人であるジャンヌとの間に、まったくと言って良いほど関連性を見いだせなかった。

 そのことをぽつりとこぼしただけであり、本来答える必要はないのだが、ジャンヌは律儀に考えて返答する。

 

「……えっと。私も基本マスターと行動をともにしてたので、聞いたとしたらその時かと……?」

 

「でも、一介の学生が交流を持てる人なのかな。その、マスターさんと……」

 

「確かに、それを言われると……」

 

 そう言ってどことなく困った顔になるジャンヌ。

 確かに晴明は一般的に市井との交流――流石に買い物等は除く――は、あまり行っていない。

 その理由としては、やはり彼自身裏世界では良くも悪くも有名人であり、そのためそちらに迷惑がかかる可能性があるからだ。

 もっとも、だからと言って何から何まで拒否する。などということは流石に行っていないが……。

 

「まぁ、そこら辺りも直接スミコさんに聞いても良いんじゃないかしら?」

 

 いつまでもここで悩んでいても仕方ないだろう。という意見を朱夏が述べる。

 それを聞いた二人が頷くとともに、ジャンヌもともに澄子のもとへ向かうことになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、澄子をたずねて彼女の部屋へ訪れた一行。

 しかし、肝心の彼女は部屋におらず、慌てて方々を探すことになった。

 そして、駆けずり回る面々だったが、付近にいた生き残りの女性陣の中で、なおかつ珍しいエンジニアである【喜来(きらい)比嘉子(ひかこ)】から中庭で見かけた、という情報を得て一行はその場へ向かった。

 

 そして、中庭に到着した一行。

 そこには全体的に黒い基調のゴシックロリータのドレスに、手元には同じ配色で所々に白い線が入った傘を持った女性が佇んでいた。

 その女性を見た桐子が叫ぶ。

 

「――スミコ!」

 

 彼女の叫び声を聞いたスミコ、と呼ばれた女性。黒崎澄子は振り替えって桐子を見ると、気さくに話しかけてくる。

 

「やぁ、トーコ。どうしたんだい? そんなに慌てて……。それに――」

 

 そう言って澄子は朱夏を、そして次にジャンヌを見て、ほんの少し警戒の表情を滲ませる。

 だが、すぐにのほほんとした表情に戻ると、桐子からの返答を待つ。

 しかし、そのことに気付かなかった桐子は彼女に詰め寄る。

 

「スミコ、出ていくなんて危ないよ。やめよう……?!」

 

「あぁ、なんだ。そのことか」

 

 澄子のことを想い引き留めようとする桐子だが、それに対して澄子の反応は淡白なものだった。

 そのことに疑問を覚える朱夏。

 桐子の言葉を信じるなら、二人は親友と呼べる間柄であり、少なくとも自身を心配する相手に対して、ここまで淡白な反応を返すとは思えなかったからだ。

 そして、彼女はその考えが正しかったことをすぐに示される。

 

「すまないね、トーコ。実はあれ、方便だったんだよ」

 

「……え? えぇぇぇぇぇぇぇっ――?!」

 

 澄子の茶目っ気たっぷりの、そして悪戯が成功したあとのような表情で告げられた言葉に、桐子は思わずといった様子で叫ぶ。

 騙された、ということを理解した桐子は地団駄を踏んで澄子へ文句を言う。

 

「もうっ! なんで、そんな嘘を言ったんだよ!」

 

「ふふ、申し訳ない。まぁ、小生がそう言えば、君なら彼女に相談すると思って、ね」

 

 そう言いながら朱夏を見やる澄子。

 そして、本当に感謝している様子で桐子に礼を言う。

 

「だが、まさか彼女をここまで連れてきてくれるなんて。本当に()()()()。流石は親友だ」

 

「え? あ、うん……」

 

 澄子に礼を言われる理由が分からず、曖昧な返事をする桐子。

 そんな彼女に構わず、澄子は朱夏を興味深そうに眺める。

 澄子の視線に、朱夏はむず痒そうに身をよじる。

 そして次にジャンヌを見て、彼女は朱夏たちにとって聞き捨てのならない言葉を口にする。

 

「英雄-ジャンヌダルクまで居るのは予想外だったがね。……まぁ、二人とも()()蘆屋晴明の関係者なのだから、これも必然、なのかな?」

 

 あっと、英雄-ジャンヌダルクは仲魔、だったね。と呟いた澄子に驚きの視線を送る朱夏。

 視線を送られた澄子は飄々とした態度を崩すことなく手に持った傘をおもむろに開く。

 閉じられた状態では、ただの不可思議な線にしか見えなかった紋様。

 しかし、それは開かれたことで幾何学的な魔法陣であることが見てとれた。

 

 そして、それを見たことでジャンヌは今までの疑問が氷解したと同時に、驚きに目を見開く。

 

「それは……! アンブレラ型のCOMP?! まさか、そうか。貴方は()()()()の……!!」

 

 ジャンヌの驚きように澄子は薄く笑いながら肯定する。

 

「どうやら思い出してもらったようで結構。そう、小生は()()()()()()()()()()が幹部の一人。マヨーネの弟子だ。久しいな、ジャンヌ殿」

 

「なぜ、貴女がここに……」

 

「なぜ、と言われても。学生が、学校にいることなぞ、なにもおかしくないだろう?」

 

 呆然としたジャンヌの呟きに、澄子はくつくつ、とからかうように答える。

 そして、次に朱夏を見るとさらに話を続ける。

 

「それに、小生も驚いたのだ。まさか、同じ大学に蘆屋晴明の弟子がいたのだから、な」

 

「わたし……!」

 

「そうとも。正直、それを知った時には、普段呪う相手である神に、祈りを捧げたくなったくらいだとも」

 

「なにを……?」

 

「小生と戦え、神持朱夏」

 

「――スミコ!!」

 

 澄子の言い分に、流石に驚きすぎた桐子が咄嗟に、といった様子で叫ぶ。

 だが、澄子は桐子に一瞬視線を送ると、優しい口調で彼女の介入を拒絶する。

 

「トーコ。すまないが、この話には入ってこないで貰えるか。これは、小生と彼女……いや、小生の誇りの問題なのだ」

 

「……誇り?」

 

 彼女が語った誇り、という言葉に訝しげな表情を浮かべる朱夏。

 少なくとも自身は彼女のことを知らなかったし、何かをした覚えもなかったからだ。

 しかし、彼女は首肯して――。

 

「そう、誇りだ。……蘆屋晴明が師を、マヨーネを超える悪魔召喚師であることは認めよう。だが、しかし――」

 

 そう言って澄子は言葉を途切れさせると、自らに鼓舞を入れるように力強く言葉を発する。

 

「――だが、師がすべてに於いて、あの者に劣っている。などと言うことはあり得ない! 小生はそれを証明して見せる! だから、小生と戦え。神持朱夏。小生は、貴殿を倒して師が、マヨーネが、教え、導く者として蘆屋晴明よりも上を行くものだと証明して見せる!」

 

 そう言うと、澄子は、黒崎澄子(マヨーネの弟子)は自身のMAGを練り上げる。

 その瞳には不退転の決意が、神持朱夏(蘆屋晴明の弟子)を倒して、自身の考えが正しいことの証明をして見せる、という強い意志が籠っていた。

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