DDS 真・がっこう転生 MythLive   作:想いの力のその先へ

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第五十八話 黒崎澄子

「いったい、何を……?」

 

 唐突な澄子の行動に、朱夏は驚きをあらわにする。

 しかし、同時に戦士としての彼女は澄子を脅威と感じ、無意識のうちに臨戦態勢をとる。

 臨戦態勢をとった朱夏を見て、澄子は獰猛な笑みを浮かべると次なる行動を、仲魔たちを召喚する。

 

 ――SUMMON SYSTEM READY

 

「召喚。凶鳥-モーショボー。地霊-ゴブリン。妖精-シルキー。妖鬼-モムノフ」

 

 彼女の言葉とともに、地面に複数の魔法陣を描くように線が奔り、その中から悪魔たちが顕現する。

 

 ――全体的に鳥に見える意匠の服をまとい、青白い肌をした少女。モーショボー。

 ――赤黒い肌に、小人のような体躯をしたゴブリン。

 ――宙に浮き、緑色の肌をしたハウスキーパーの姿をした女性。シルキー。

 ――ゴブリンと同じ赤黒い肌に、古の武士(モノノフ)の甲冑を着込んだ大男。モムノフ。

 

 召喚された仲魔たちは、油断なく朱夏を見据えながら、召喚主(澄子)の指示を待っている。

 その中でモーショボーが楽しげに澄子へ話しかける。

 

「どしたの、マスター? なんかお困りごと?」

 

 そう言いながら、モーショボーは宙に浮いて辺りを見渡す。

 そこで朱夏と桐子、そしてジャンヌの姿を確認した彼女は、獲物を狙うように獰猛な笑みを浮かべる。

 

「へぇ、ニンゲン二人に()()()いた悪魔じゃない。あいつを倒せばいいのね?」

 

 そう澄子に確認するモーショボー。だが、澄子は首を横に振って否定する。

 

「違うよ、モーショボー。今回小生たちが狙う獲物は――」

 

 そこまで言って澄子は視線を朱夏に向ける。

 彼女につられるようにモーショボーもまた朱夏を見る。

 そして、意外といった様子で澄子へ話しかける。

 

「……へぇ、あのニンゲン……? もしかして、ただのニンゲンのためだけに喚んだの?」

 

 朱夏を見たモーショボーは、期待外れだ。と言わんばかりにふてくされている。

 だが、澄子はそれも否定すると、彼女へ気を引き締めるように檄を飛ばす。

 

「違うよ、あいつはただのニンゲンじゃない。……それにモーショボー、油断するのは早い。()()は、あの蘆屋晴明の弟子だ。なめてかかると逆にヤられるよ」

 

「……へぇぇ」

 

 彼女の、蘆屋晴明の弟子。という言葉を聞いてモーショボーはもとより、他の仲魔たちも目を鋭くし、殺意の籠った眼差しで朱夏を見る。

 彼女にとって、そしてその仲魔たちにとって蘆屋晴明とは不倶戴天の敵であり、つまりその弟子たる朱夏もまた、同じく倒すべき敵なのだ。

 尤も、何も事情を知らない朱夏からすれば、晴明の弟子だというだけで、いきなり戦えだの、殺気を飛ばされるなどと堪ったものではない。

 故に朱夏は澄子を説得しようとする。しかし――。

 

「……ちょっと待ちなさい! スミコさん、私は貴女と戦う理由なんて――」

 

「貴女の事情など知ったことではないよ」

 

 説得しようとする朱夏に対して、澄子は彼女の言葉を遮ると、にべもなく拒否の言葉をあげる。さらに――。

 

「さっきも言っただろう。我が師の方が優れている、と証明するとな。それに今後、あの人の。マヨーネの邪魔になるかもしれないニンゲンの存在を容認できないのだよ。こちらはね?」

 

 まるで聞き分けのない子供に言い聞かせるような口調で語り掛ける澄子。

 だが、朱夏としても、はい、そうですか。と、納得できるはずがない。

 

「なんで、そうまでして……!」

 

「君にはわからないよ。小生と君では根本的に違うのだからね」

 

 二人の境遇は確かに似ている。

 しかし、澄子と朱夏では決定的に異なる点があった。それは――。

 

「そうだ、小生と君は違うのだ……」

 

 そう言う彼女の脳裏にはかつての記憶。()()()()()頃の家族との記憶が甦る。

 寡黙ながらも不器用に愛してくれた父。愛嬌好く家族皆を慈しんでくれた母。悪戯好きであったが、太陽のような笑顔で皆に微笑んでいた妹。

 だが、その三人は今、澄子の記憶の中にしかいない。

 なぜなら、三人とも逝ってしまったから……。

 

 

 

 ――ただ運が悪かった。と言えばそれまでなのだろう。

 

 まだ彼女が小さかった頃に、家族全員でピクニックに出掛けた時、澄子たち一家は異界化に巻き込まれたのだから。

 そうして彼女の家族は――。

 

 ――化け物め! ……お前は娘たちを連れて、がぁあ……!

 

 愛する家族を守るために立ち向かった父は、無惨にも身体中を引き裂かれて喰われた。

 

 ――あなた! あな、た? いやぁぁぁぁぁぁぁ!!

 

 その無惨な光景を見た母は、発狂したのちに悪魔に(なぶ)られ、最後には父の後を追った。

 

 ――お姉ちゃん、助けて! お姉ちゃ……!!

 

 一緒に逃げた妹は、最後には自身の前で頭を、頸を噛み砕かれて……。

 そうして、次は自分の番だと諦観のうちに化け物たちを見つめる澄子。

 しかし運良く、あるいは運悪く澄子は彼女と、マヨーネと、そこで運命の出会いを果たす。

 

 ――あら、こんなところに迷い子なんて……。もう大丈夫ですわよ。

 

 そうして化け物を圧倒的な力で屠ったマヨーネに彼女は保護されることになる。

 

 それが、彼女と師。マヨーネとの出会い。

 即ち彼女は、朱夏と同じように異界で自身の師となる人物と出会い、師事し今日に至っている。

 ……但し、朱夏は単独で異界に巻き込まれた結果、家族が存命しているのに対し、彼女は家族ごと巻き込まれ、結果全員と死別し、さらに言えば朱夏が異界で異能(ペルソナ)に覚醒したが、彼女は異能に覚醒することもなかった。

 

 ……もし、あの時自身が何らかの異能に覚醒していたら。

 詮なきことではあるが、それでもそんなことを考えてしまう彼女の前に現れた実例(神持朱夏)

 

 なぜ、自分ではないのか。なぜ彼女だけが力を得たのか。

 家族を、最愛の人たちを失った澄子がそう考えるのは仕方のないことだろう。

 そして、さらに言えばその朱夏は蘆屋晴明の、マヨーネを悩ませる存在の関係者であるとまで来ている。

 

 ――蘆屋晴明、やつをどうにか出来ないかしら……?

 

 過去、澄子に聞かれていると気付かずに彼女がポツリとこぼした言葉。

 恐らく、マヨーネにとって、たんに独り言ととして発した、特に意味のない言葉だったのだろう。しかし、澄子にとってその言葉は……。

 

 当時、彼女に悪魔召喚師の弟子として師事していたわけではなく、母として、姉として、家族を失った彼女に、新たな家族として接してくれた恩人。そんな彼女がこぼした、ふとした弱音。そう聞こえた。だから――。

 

 許せなかった。彼女を悩ませる存在を。

 赦せなかった。そんな彼女の力になれない、か弱い自身を。

 

 だから彼女はマヨーネに教えを乞うたのだ。彼女の悩みを晴らすため。少しでも恩人に、姉に、母に恩返しをするために。

 そんな彼女の前に現れた神持朱夏(マヨーネの障害となり得る存在)

 

 巫山戯(ふざけ)るな、と思った。

 許せない。赦せない。ユルセナイ。

 

 なぜ、お前が()()にいる。

 なぜ、それだけの力を持ちながら、心底つまらなそうにしている。

 ……なにも失っていないのに。当たり前の幸せに囲まれているのに。

 

 ――なぜ自身が、小生がすべてを失ったのに、お前は……!

 

 彼女自身も、この感情が八つ当たりであることは理解している。

 だが、理解と納得は別物なのだ。

 だからこそ彼女は、まず手始めに朱夏に打ち勝つ――とはいえ桐子の友人でもあるので、流石に命まではとらない――つもりだった。

 尤も、どちらにしても朱夏にとっては迷惑極まりないものだが……。

 

 それはともかくとして、彼女の物言いに流石の朱夏も説得は無理だと気付いたのか、自衛のためペルソナを顕現させる。

 

「……っ。――ペルソナ!」

 

 彼女の気迫のこもった咆哮とともに現れるブラックマリア。

 それを見て澄子は満足そうに嗤いながら、仲魔たちとともに彼女へ襲いかかる。

 

「――さあ、往くぞ!」

 

『――イエス、マスター!』

 

 

 

 

 

 

 

 初手はモーショボー。

 彼女は自身のMAGを練り上げ、力ある言葉。魔界魔法を行使する。

 

「――ザンマ!」

 

 モーショボーの叫びとともに朱夏の身体をズタズタに引き裂かん、と殺意のこもった衝撃波が吹き荒れる。

 だが、あまりにも殺意が見えすぎていた。

 朱夏のようなある程度の実力と場数を踏んだ戦士にとって、それは今から攻撃すること、そしてその場所を教えるに等しい攻撃であり、現に朱夏も敢えてモーショボーに突進しながらも身を屈めることで衝撃波をやり過ごし、接近。

 さらには、一足飛びでモーショボーの間合いに入れる場所まで近づくと一気に跳躍!

 

「――はぁっ!」

 

「うぐぅ……!」

 

 モーショボーへ跳び蹴りをお見舞いして吹き飛ばす。

 そして、さらに追撃のため、ペルソナを行使しようとするが……。

 

「おおっと! やらせねぇよ!」

 

 ブォン! と風切り音を鳴らしながらモムノフが大槍を叩きつけてくる。

 そのことに気付いた朱夏は舌打ちをする。

 

「……ちっ!」

 

 即座に取り出したナイフで槍をいなし、反動を利用して脱出。すぐさま距離をとる。

 朱夏の行動に、モムノフはまだまだ楽しめそうだ。と笑みを浮かべながら、威嚇するように槍を回して【気合い】をいれる。

 モムノフの行動に警戒していた朱夏だったが、ふと嫌な予感が頭をよぎり、澄子へ視線を向ける。

 そこにはどこからともなく円柱状の()()()を取り出した澄子が、それを朱夏に向かって投擲しようとしている姿だった。

 ()()を見て、朱夏の中で嫌な予感が爆発的に膨れ上がる。

 朱夏自身も過去に()()と似たようなものを、戦友の一人が使っていたのを知っていたからだ。そして、それが戦友の物と同じなら……。

 

「……くっ!」

 

 朱夏は自身の直感を信じ、慌てて回避行動に移る。

 足元にMAGを集めて噴射するようにバックステップ!

 そして、直後。朱夏がいた場所に円柱状のものが投擲され、次の瞬間!

 

 ――轟音、そして爆発。

 

 そう、澄子が投擲した円柱状の物体。その正体は爆弾。しかも、彼女が自ら作り出したお手製のものだった。

 

 唐突に始まった友人たちの殺し合い。しかも親友が爆弾まで使ったことに桐子は声もなく口を金魚のようにぱくぱくさせ、驚きに目を見開いている。

 尤も、そんなことはもはや眼中にない。と言わんばかりに、澄子は桐子には視線も向けず、初見殺しと言えそうな爆弾を回避した朱夏に感心していた。

 

「……へぇ、流石に手慣れているようだ。小生の()()が爆弾だと、良く気付く」

 

 そう言いながら、先ほどと同じ爆弾を再び取り出す澄子。

 そんな澄子に、朱夏はふてぶてしさすら感じる澄まし顔で挑発する。

 

「……お生憎さま、そのタイプの爆弾には見覚えがあるの。残念だったわね」

 

 事実、澄子の持つ爆弾は簡素なタイプであり、少しネットで調べれば製法が載っているものであり、やろうと思えば中学生ですら作成可能なものだった。

 

 ――かつての朱夏の戦友のように。

 

 そのことを指摘された澄子は。

 

「ふむ、なるほど……。ならば、これならどうかな!」

 

 そう言ってアンブレラ型のCOMP。その先端部分を朱夏に向ける。

 朱夏は、石突きと呼ばれるその部分に不自然な穴が開いていることを確認すると、顔を引きつらせ、横っ飛びに回避。

 次の瞬間には、石突き部分からパンパンと乾いた音が響くとともにマズルフラッシュが瞬き、銃弾が翔んでいく。

 仕込み傘ならぬ、仕込み銃。と言ったところか。

 

「冗談やめてよ。その傘、欲張りすぎじゃない……!」

 

「ふふふ、素晴らしいだろう? 小生も、これは一級品だと自負している」

 

 悪態をつく朱夏に対して、澄子は平時であれは頬擦りをしそうなほどにだらしない表情を浮かべて悦に浸っている。

 相手の様子にげんなりしている朱夏に、澄子は急に真面目な表情を浮かべる。

 

「それで、きみはぼぅっとしてていいのかな?」

 

 一瞬、何のことを言われてるのかわからなかった朱夏だが……。

 

「……くっ、しま――」

 

 自身の突進してくる悪魔たちに、まだ戦闘が続いていることを思い出し、対処しようとするが、その時には既に接近を許してしまい、その時間が足りなかった。しかし――。

 

「――はあ!」

 

 朱夏に接近する影。モムノフとの間になにかが割り込み()()()()

 モムノフを吹き飛ばす。

 

「ぐぅ……! おいおい、邪魔するなよ!」

 

「貴女は……」

 

 モムノフは乱入者を厳しい目で見つめ、朱夏は自身を守ってくれた()()の背中を見つめる。それは――。

 

「……っ。()()()()()()()、これは小生と彼女の問題だと言ったはずだが?」

 

「だからと言って、友人の危機を見逃すわけがないでしょう?」

 

 そう言うと、彼女は朱夏に振り返って宣言する。

 

「ここから先は、貴女を守るため。私もともに戦います。良いですね?」

 

 ――英雄-ジャンヌダルク参戦。

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