DDS 真・がっこう転生 MythLive   作:想いの力のその先へ

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第五十九話 進化

 凛とした表情で朱夏を庇うように、澄子たちの前に立ちはだかるジャンヌ。

 その姿に澄子は忌々しげな様子で睨む。

 だが、すぐに深呼吸をしながら精神を落ち着かせる。

 

「……ふぅ、貴女は()()小生たちの邪魔をするのか?」

 

 彼女が言った『また』という言葉。

 その言葉が示すように、以前澄子たちはジャンヌと矛を交え、敗北している。

 しかし、今の彼女はかつてとは違う。その証拠に澄子の顔には絶対の自信にあふれ、今回の敗北はない。と言いたげに戦意を高めている。

 澄子の自信あふれる様子に、ジャンヌもまた以前とは何かが違う。と無意識のうちに剣の柄を握りしめ警戒している。

 そのジャンヌの様子に、澄子は不敵に笑う。

 

「ふふ、確かに小生たちは貴女に一度敗れたが――」

 

 そして、澄子は己を、仲魔たちを鼓舞するように声を張り上げる。

 

「――今の小生は、以前までとは違うぞ! 臆せず掛かってくるが良い! その上で、小生たちが勝利する。と宣言しよう!」

 

「な、何を……!」

 

 澄子の気迫に、思わず気圧されるジャンヌ。

 そこにはかつての未熟だった少女(悪魔召喚師)の姿ではなく、成長した一人の女性(戦士)としての姿があった。

 

 その時、ジャンヌの肩がぽん、と叩かれる。

 驚いて叩かれた方向を見るジャンヌ。

 そこには神持朱夏(もう一人の戦士)の姿があった。

 彼女は緊張状態にあるジャンヌを落ち着かせるように微笑むと。

 

「大丈夫よ、ジャンヌ。……貴女は一人じゃないもの」

 

 ジャンヌを安心させるように声をかける。

 そして、朱夏は澄子を、敵を睨み付ける。

 

「スミコさん。これ以上戦うというのなら、私も遠慮しないわよ」

 

 朱夏の言葉を聞いた澄子は、今さら何だ。と言いたげに笑う。

 

「ふん、何を今さら。何度も言ったはずだぞ。――君の都合は関係ない、とね」

 

 澄子の言葉とともに彼女の仲魔たち――朱夏に吹き飛ばされたモーショボーも含む――が、前方に、澄子を守るように躍り出る。

 対する朱夏はペルソナを再び顕現させ、ジャンヌは旗槍と剣を構え、戦闘態勢に入る。

 第二ラウンド、先ほどまでとは違う本当の意味での戦い(殺し合い)が始まる。

 

 

 

 

 

 

「雄オォォォォォォォォッ!」

 

 先ほどはジャンヌに攻撃を防がれてしまったが、次はそうはさせない。とばかりにモムノフは咆哮を上げて突貫する。

 モムノフの気迫と威圧は、まさしく猪が獲物に向かって突進するかの如く。

 しかし、ジャンヌとて百年戦争の英雄として、そして晴明の仲魔として数多くの戦場を渡り歩いた猛者。

 モムノフの突進を冷静に見極め、攻撃を再び防ぐべく剣を身構える。

 

 そして二人は最接近。モムノフの槍が力の限り降り下ろされ、対するジャンヌは真っ向から防ぐように旗槍と剣をクロスさせ掲げる。

 そして、次の瞬間には、甲高い耳障りな金属音を響かせながら二人の得物は衝突!

 そのまま鍔迫り合いに移行する二人。

 

 かたや、巌のような大男。かたや、触れれば折れそうな華奢な体躯の少女。だが、現状二人の鍔迫り合いは互角に……。――否!

 互角どころか、華奢な体躯の少女。ジャンヌが徐々に押し始めていた。

 その事実に、モムノフは顔をしかめる。

 

 それは、悪魔として。戦うものとしての格の差。

 本来なら武神として崇められ、一説にはおとぎ話に語られる桃太郎。この話のモデルとなったとも言われるモムノフに圧倒的な分がある。

 対してジャンヌは、いくら百年戦争の英雄といえ、只人が後年悪魔になった存在でしかない。しかし……。

 

 あくまでそれは()()()()()()()()()()だ。

 そもそも、悪魔とは常識で測れる存在なのか?

 否、否だ。悪魔を、神話生物たちは人の常識程度で測れるような、矮小な存在なはずがない。

 現に、かつてイシドロスの女生徒が幽鬼-ガキの餌食になったように、見た目では大人と子供でありながら、その力関係は完全に逆であった。

 

 それと同じことが起きないと誰が言える?

 確かにモムノフは武神。武士(モノノフ)の語源ともなった戦う者だ。しかし――。

 ジャンヌとて戦う者として各地を転戦。さらに晴明の仲魔となって以降は、格上との戦いを強いられてきたという過去がある。

 そして、その戦いで生き残ったことで、ジャンヌは己の存在の格というものを磨いてきた。

 即ち、今の彼女は百戦錬磨という言葉が相応しいほどの女傑。

 そんじゃそこらの悪魔たちでは、戦いにすらならないほどの手練れなのだ。

 

 むしろ、そんな彼女相手に多少押されているとは言え、拮抗しているモムノフこそ誉められて然るべきだろう。

 それこそ、他の悪魔であれば一瞬で押し切られ、一刀の元に両断されているはずなのだから。

 そのはずでありながらジャンヌと競り合っている事実からも、澄子の仲魔たちの練度が、如何に練られているかわかるだろう。

 因みに、以前ジャンヌはそこまで直接戦闘能力は高くない。と語ったが、それはあくまで晴明の仲魔内の話であり、巡ヶ丘のゾンビや、晴明に討伐されたヌエやライジュウ程度であれば、鎧袖一触となるほどの実力差がある。

 

「グ、ヌゥ……!」

 

「ふ、ぅ……!」

 

 モムノフが忌々しげに力の籠った吐息を吐き出すのと対照的に、ジャンヌは自身の精神を落ち着かせるために軽く息を吐く。

 そして、彼女はそのまま一息に鍔迫り合いを、力比べを押し切ろうとする。だが――。

 

「おぉっと! モムノフの旦那はやらせねえぜっ!」

 

 今の今まで、特にこれといった行動を起こさなかったゴブリンが声高らかに宣言する。

 そして、彼の周囲にMAGが渦巻き――。

 

「あらよっと、タルカジャ。あ、それっ。もう一丁!」

 

 芝居がかった、軽快な音頭とともに補助魔法。味方全体の攻撃力を上げるタルカジャを連続で発動した。

 その直後、澄子に、仲魔たちに、何よりジャンヌと鍔迫り合いをしていたモムノフに赤い燐光が注がれ、そして……。

 

「おお、来た来たぁっ!」

 

「……なっ!」

 

 先ほどまでとは形勢が逆転。ジャンヌを防御の上から押し潰そうと槍を前面に押し出していく。

 件のジャンヌは苦悶の表情を浮かべて耐えようとするが、一度逆転した形勢は覆しがたく、このままではモムノフに押し倒されて無効化されてしまうだろう。

 ……但し、このままなにも起きなければ、の話であるが。

 

「――あまり、私を忘れてもらっても困るのだけど!」

 

 そう、ジャンヌの、友の危機に朱夏が座して見ている訳がない。

 彼女は素早くMAGを練り上げると、ゴブリンと同じように補助魔法を、しかも彼よりもさらに上位の力を行使する。

 

「――ラスタキャンディ!」

 

 彼女の力ある言葉とともに赤、青、緑の燐光がジャンヌと朱夏のもとへ降り注ぐ。

 その光によって、すべての能力が強化されたジャンヌは、なんとか拮抗状態に持ち直す。

 

「く、くっ。……はぁぁぁぁぁぁぁあ!!」

 

 さらには自身のMAGでむりやり身体強化を施すと、自身を押し込めている槍を弾くジャンヌ。

 

「ぬぅ、なめるなぁ!」

 

 しかし、モムノフもさる者。弾かれた槍を力ずくで抑え、再びジャンヌへ叩きつける。

 そんなモムノフの肉体には紫電が奔り、心臓がドクン、ドクンと鼓動するように震えていた。

 

「――な! く、ぅ……」

 

 まさか、その状況からさらに一手加えてくるとは思わず、ジャンヌは叩きつけをもろに受けてしまう。

 それでも、幾度となく修羅場を越えてきた経験と勘から、無意識のうちに剣を盾とすることに成功。

 

「――しまっ……!」

 

 しかし、それでも咄嗟の行動であったため完全に防ぎきることはできず、衝撃で吹き飛ばされる。

 だが、吹き飛ばされた途中でなんとか体勢を立て直し着地する。

 尤も、流石に無傷というわけにもいかず……。

 

 彼女の身体を守る衣。その一部にスゥ、と一筋の線が走り、ハラリと切れ、中から彼女のシミ一つない美しい素肌。さらには一本の赤い線。薄っすらと切れた肌から血が滲んでいた。

 それを見た朱夏は心配そうに声をかける。

 

「――ジャンヌ!」

 

「……大丈夫ですよ、朱夏」

 

 心配する朱夏に、ジャンヌは安心させるように返答する。その時――。

 

「雄、オォォォォォォォォオオッ――!!」

 

 モムノフがとてつもない咆哮をあげる。その声に思わずモムノフを見る二人。そこには、姿が眩むほどに光輝き、尋常ではない様子のモムノフの姿が。

 その姿に思い当たることがあったのか、ジャンヌは焦りの表情をみせる。

 

「――まさか! させないっ!!」

 

 そのままジャンヌはモムノフの行動を阻止するために、一足飛びで間合いに飛び込むと剣で斬りかかる。しかし――。

 

「――手応えが……?!」

 

 剣が空を切った訳でもないのに、まったくと言って良いほど手応えを感じないことに驚愕するジャンヌ。

 その驚きが一瞬の隙となった。

 

「……!!」

 

 その隙を突かれ、衝撃波のようなものをその身に受け、彼女は再び後退させられる。

 その衝撃波の威力が凄まじかったのか、ジャンヌは膝をつく。が、彼女の双眸は先ほどまでモムノフがいた場所を見つめている。

 眩く光る輝きがなくなったその場所には先ほどまでの武神然とした姿はなく――。

 

「我は――」

 

 そこには深緑の()()()()()――。

 

「【邪神-アラハバキ】コンゴトモヨロシク……」

 

 モムノフたちの主であり、同時に逆賊の象徴として弾圧された神。邪神-アラハバキが顕現した。

 

 

 

「まさか、このタイミングで……」

 

 そう言いながら苦虫を噛み潰したように歯噛みするジャンヌ。

 彼女がその様な表情をみせるのにももちろん理由がある。

 

 一部の悪魔は変化、あるいは進化とでも呼べる行動を起こすものたちがいる。

 もちろん、それはすべての悪魔に起こる訳ではなく、あくまでも伝承的に関係のある悪魔たちのみ。分かりやすい例で言えば同一存在であるセタンタ(少年時代)クーフーリン(青年時代)

 セタンタがある程度の存在の格というものを高めることが出来れば、彼の肉体がクーフーリンのものに置換される。といった具合で変化、もっと言えば成長(進化)する。

 それと同じことがモムノフの、アラハバキの身にも起きた。

 

 二柱の悪魔たちは、上司、部下という関係の他にも、ともに反逆者――アラハバキは神武天皇の東征軍に敗れたナガスネヒコに信仰され、モムノフは朝廷の臣であり、一時期は軍事、司法などの役職を輩出したが、後に蘇我氏との政争に負け没落した物部(もののべ)氏を語源とする説もある――とされたものたちだ。

 このような関係から、この二柱の悪魔たちも進化、変化するに相応しいだけの関係性は構築されていた。

 

 即ち、ある意味で雑な言い方をするならモムノフはその姿を変えたことによって、大幅に戦闘力を向上。パワーアップすることができたのだ。

 さらには、先ほどジャンヌが振るった剣でまったく手応えを感じなかった件。それもまた関係してくる。

 

 この世界の攻撃には、ほぼすべからくに防御相性というものが存在する。例えば炎に水をかけたら消える(弱点)ように、逆に風が吹いたらさらに燃え上がる(耐性、無効、反射、吸収)ように。

 そしてそれは(アギ)(ブフ)衝撃(ザン)電撃(ジオ)破魔(ハマ)呪殺(ムド)といった属性以外にも物理攻撃に対しても存在する。

 

 ここまで言えば、勘の良い方たちはわかったもらえたのではないだろうか?

 

 そう、アラハバキの物理攻撃に対する相性は()()。一切の攻撃が効かないのだ。それは、例えこの場に晴明がいて、彼の物理最強スキル、至高の魔弾を放っても同じ結果になる(無効化される)

 それほどまでに相性というものは重い。

 即ち、今、この場に於いてアラハバキが存在する限り、物理攻撃という一つの手を封じられたに等しい。

 そのことを理解した朱夏もまた、先ほどのジャンヌほどではないが顔をしかめていた。

 そんな彼女の顔を見た澄子は上機嫌になる。

 

「ふ、ふふ……。よもや、このような流れになるとはね。日頃の行いがよかったのかな?」

 

 そう言いながら澄子はMAGを練り上げる。そして口角をつり上げながら宣言する。

 

「それじゃあ、改めて第二、いや第三ラウンドかな? ――開始だ。……まぁ、最終ラウンドかもしれないがね。――往け!」

 

 その言葉とともに、澄子が、そして仲魔たちが二人へと襲いかかった!

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