DDS 真・がっこう転生 MythLive   作:想いの力のその先へ

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第六十話 終結

 アラハバキの頭部、遮光器土偶の目が見開かれると同時に光が奔る。

 それはまるでSFに出てくるビームのように獲物であるジャンヌと朱夏に向かって突き進んでいく。

 しかし、朱夏はそれに気付くとジャンヌを抱いて跳躍。回避行動に移る。

 朱夏がいち早く回避行動に移った甲斐もあり、ビームが着弾する前にその場から離れることに成功する。

 

 そして、ワンテンポ遅れてビームが先ほどまでいた場所の地面に直撃。

 地面を()()するとともに、光の柱が立ち昇る。

 それはまるで何者かに捧げた墓標のようで……。

 

「何よ、あれ……」

 

 アラハバキの攻撃、その凄まじさに呆然と見やる朱夏。

 光の柱もそうだが、何よりも自身たちが先ほどまでいた場所。その場所はあまりの熱量に地面が溶け、ガラス状になっていた。

 その惨状を見た朱夏は無意識のうちに、ごくり、と喉を鳴らす。

 

 ――もし、あと一歩でも回避が遅れていたら……。

 

 あり得たかもしれない、不吉な未来を考えた朱夏は頭を振って、考えを中断する。

 今はそんなことよりも、いかにあの邪神を無力化するかの方が重要だからだ。

 

「……あの、朱夏」

 

 その時、朱夏にジャンヌが語りかける。

 そのことで、朱夏は自身が彼女を抱き抱えていたことを思い出す。

 

「あっ、ごめんなさい。大丈夫?」

 

 ジャンヌに問いかけながら、朱夏は彼女を地面に下ろす。

 地面に下ろされたジャンヌは、しかと己が足で地面を踏みしめながら、凛とした表情で敵を、澄子たちを見つめる。

 そして、彼女たちの一挙一動に気を配りつつ朱夏に大丈夫だということを告げる。

 

「……ええ、大丈夫です。それよりも――」

 

 彼女は旗槍を掲げ、剣を構えると気炎を上げる。

 

「朱夏、往きますよ! この程度の試練。笑って乗り越えなくては!」

 

「……そうね。こんなことで挫けてちゃ、笑われちゃうわね」

 

 ジャンヌの激励ともとれる言葉に、朱夏の脳裏には晴明(大事な人)の、そして自身の妹弟子たち(圭、美紀)の姿が浮かぶ。

 

 ――そうだ。こんなところで負けてなんていられない。ここで諦めたら、それこそあの人(晴明)の隣に立てない!

 

 朱夏は、そう自らに渇を入れる。

 そして、先ほどまでの弱気な自分を追い出すと――。

 

「往きましょう、ジャンヌ。あの人とともに戦ったと言うことが伊達ではないことを、彼女に教えてあげないと、ね?」

 

 ウインクしながら、茶目っ気たっぷりに告げる朱夏。

 そんな彼女に、ジャンヌは、またこの子は……。と苦笑しながら頷くのだった。

 

 

 

「まずは小手調べ……。ブラックマリア、マハ・ジオンガ!」

 

 彼女の小手調べ、という言葉とともに顕現したペルソナから電撃が澄子たちへ迸る。

 朱夏からの本格的な攻撃に、澄子たちはそれぞれ回避行動をとる。

 その結果、澄子、モーショボー、シルキーは回避に成功するが……。

 

「しびびびびびっ……」

 

 ゴブリンは回避しきれず直撃。攻撃のダメージ以上に電撃で感電したようで、痙攣を繰り返している。

 そして、アラハバキに至っては……。

 

「グ、ググ……!」

 

 電撃が効果的だったのか、小手調べのはずの攻撃で、陶器の身体がひび割れるほどの大ダメージを受けていた。

 それもその筈。先ほどアラハバキの物理に対する防御耐性は無効、と言ったがその他の属性については……。

 なんと、氷結、破魔、呪殺は無効だが、火炎、衝撃、電撃は弱点属性。即ち、朱夏は知らず知らずのうちに最適解の行動を行っていたのだ。

 そのことに気付いた朱夏はにやり、と笑う。

 

「それならここで一気に畳み掛ける! ――ジオダイン!」

 

 朱夏の力ある言葉とともにブラックマリアから先ほどとは比べ物にならないほどの電撃――最早、稲妻と言って良い――が迸る!

 無論、そんなものを負傷したアラハバキが回避できる筈もなく……。

 

「グ、ガァァァァァ…………」

 

 直撃を受けたアラハバキは悲鳴を上げ、身体からはMAGの湯気が立ち昇っている。

 端的に言って致命傷、とてもじゃないが戦闘行動を出来る状態ではなかった。

 もう一撃、もう一撃でも食らわせられれば倒せるといった状況。しかし、澄子も馬鹿でもなければ、このままで大丈夫。と考えるほど楽観的ではない。

 

「……シルキー!」

 

「イエス、マスター。――ディアラマ」

 

 澄子の叫び声に、シルキーは淡々と答えると、回復魔法であるディアラマをアラハバキにかける。

 すると、ひび割れた身体が多少修復され、漏れ出ていたMAGも収まってきた。

 そして、さらにシルキーは。

 

「……メ・ディア」

 

 今度は全体にかかる回復魔法のメ・ディアを唱える。

 その結果、朱夏のマハ・ジオンガの痛撃を受けたゴブリンや、それ以前の攻防でダメージを受けていたモーショボーの傷も快癒する。

 

「……さて、これで仕切り直しだね」

 

 先程よりも幾分か落ち着いた様子で告げる澄子。

 逆に朱夏たちは、あと一歩を届かせられなかったことに歯噛みする。

 しかし、朱夏は首を横に振って雑念を追い払うと気合いを入れる。

 

「まだ、まだよ。……一度出来たのだから、またすれば良いだけよ」

 

「ほぉう? だけど、小生たちがそれを見逃すとでも?」

 

 気合いを入れている朱夏の言葉に、澄子は茶化すように問いかける。

 そんな澄子の茶々入れに、朱夏もまた冷静さを取り戻したかのように、くすくすと笑いつつ答える。

 

「貴女が見逃すとか見逃さないとか関係ないのよ。()()()()()()()かじゃないの。私はただ()()と言っているのよ?」

 

 あまりに高慢、あまりに大胆不敵。

 朱夏の小馬鹿にする様子に思わず鼻白む澄子。

 だが、彼女とて戦場で冷静さを欠けばそれが隙になると、今までの経験で理解している。

 それ故に、彼女は自身の精神を落ち着かせるように深呼吸する。

 

「――ならば、()()を成せれば君の勝ち。阻止すれば小生の勝ち、と言ったところかな? ……なめるなよ、神持朱夏?」

 

 そう言って澄子は獰猛な笑みを浮かべる。

 彼女はこの期に及んで、こちらを格下と思っていることを理解して。

 

 ――なにが蘆屋晴明だ。なにが葛葉だ。

 

 ならば、こちらはファントムソサエティだ。その中でも手練れのマヨーネ。彼女の縁者なのだ。

 たかだか一人の弟子に遅れをとるものか。

 その高慢なる鼻柱をへし折ってやる、と奮起する澄子。

 

 そんな彼女の様子を知ってか知らずか、朱夏もまた彼女を油断することなく見つめている。

 彼女にとって黒崎澄子という女性は、蘆屋晴明、葛葉朱音(ライドウ)に続く、己が知る第三の悪魔召喚師となった。

 もともと、悪魔召喚師の知り合いが手練れの中の手練れである二人しか知らなかった朱夏にとって、澄子の格が些か落ちるのは自明。

 しかし、それでも単純な能力だけで言えば、一流所に名を連ねるだけの自力がある彼女と互角に戦える技量がある澄子は、油断ならざる敵だった。

 

 惜しむらくは、その技量を現在、己が欲望にだけ用いていることか。

 もし、彼女が朱夏や晴明。学園生活部と協調してことに当たれば、それこそ巡ヶ丘からの脱出さえ視野に入っただろう。

 ……もっとも、学園生活部のことに関して言えば、朱夏たちでさえ詳しく知らない訳なのだが。

 

 それはともかくとして、今は彼女を静めるためにもこの戦いに勝利する他ないと朱夏は考える。

 そして、そのためにも彼女は己のすべてを出しきるつもりだった。

 奇しくも、それはかつて晴明が願った朱夏と朱音の関係。切磋琢磨出来るライバル関係。それに似ていた。……但し、その時は二人の力量差は大人と子供どころの話ではなかったが。

 

 そんな二人が、それぞれの思惑は違えど、三度矛を交えようとしたその時――。

 

「ちょ、ちょっと! スミコォ……!」

 

 二人の合間に、澄子に抱きつくように桐子が駆け寄ってくる。

 そのことに、半ば存在を忘れていた澄子は煩わしそうに桐子(親友)を見つめる。

 だが、彼女の目に涙が、しかもなにかに怖がる様子を見せていたことで一転。心配した様子で声をかける。

 

「どうしたんだい、桐子? ここは危ないよ?」

 

「あ、あそこ! あそこぉ!」

 

 しかし、桐子は澄子の声も聞こえていないのか、あわあわと、錯乱した様子で先ほどまで自身がいた場所。その先を指し示す。

 桐子のあまりの錯乱ぶりに、澄子は訝しげな表情を見せて、彼女の指し示す先を見る。

 ……そこには何もない空中にぽっかりと浮かぶ孔。

 

 彼女たちとは直接関係ないが、かつて晴明が遭遇したフォルネウスやデカラビア、圭たちの心の支えとなったヒーホーくん。ジャックフロストが現れた現象と酷似していた。

 そしてその中から魑魅魍魎、百鬼夜行が顕現する。

 

 まるでこの世の光景とは思えないものを見た桐子は悲鳴を上げる。

 そして、後れ馳せながら()()を確認した朱夏も注意を澄子から百鬼夜行に向ける。

 今は互いに相争っている場合ではなくなったからだ。

 

 澄子もまた朱夏と同じように視線を百鬼夜行に向ける。

 しかし、その表情は憤怒に染まっていた。

 なぜなら、自身の邪魔をしただけでも度し難いのに、さらには己の親友にも危害を加えようとしたのだから。

 

 ……因みに、百鬼夜行が現れた原因自体は澄子自身――と朱夏の戦い――にあった。

 そもそも、先ほども言ったように朱夏と澄子は、現代社会に於いて一流所の実力者――なお、晴明や朱音など一部の者たちの実力は、最早バグ扱いなのでこれを除く――となる。

 そんな実力者同士が本気で殺し合えば、当然それ相応のMAGが周囲に撒き散らされる。

 そして、そんな事態になれば当然人間界と魔界の壁は薄く、最悪の場合異界が形成されそうになるのは自明の理だ。

 

 さらに言えば今回現れた百鬼夜行。

 これについての原因は朱夏。というよりも彼女とかつて戦った妖鬼-オニだった。

 以前、彼が朱夏に敗北した後、魔界に戻り仲間たちにそのことを嬉々として話したことで、多くの妖怪たちが興味を持ち、今回の事態に繋がった。

 

 ……いわゆる物見遊山(ものみゆさん)というやつだった。

 そのこともあり、実は百鬼夜行たちの戦意、というよりも敵意はそんなに持ち合わせていなかった。

 もっとも、一部はもしかしたらヒトを食えるかも、といった皮算用をしている者たちもいたのだが……。

 

 しかし、今回のことで言えば()()()()()()はすこぶる運が悪かった。よりにもよって()()()()()()()()()()()()のだから。

 彼女とて人の子。木の股から生まれた訳でもなく、いくら澄子が朱夏に対して敵愾心を燃やしているとは言え、流石に親友である桐子を放っておいてまで行動するような薄情者ではない。

 さらに言えば、ここまで桐子を怯えさせておきながら、なぁなぁで済ませてやるほどお人好しでもない。

 それこそ、二度とこのような気を起こさせないように徹底的に()()位の腹積もりだった。

 つまり端的に言って、百鬼夜行たちは虎の尾を踏む。あるいは逆鱗に触れた。と言って良い有り様だった。

 即ち、どういうことかと言うと――。

 

「邪魔をぉ、するなぁ――!!」

 

 澄子のあまりのぶちギレように、己が怒られているわけでもないのに縮こまる桐子。

 そんな彼女を抱き締めながら、澄子はMAGを爆発させ魔界魔法を、()()()を叩き込むための準備をする。

 

「――――シャッフラー!!」

 

 彼女の力ある言葉とともに、澄子のMAGで形成されたカード状の()()()が百鬼夜行たちに降り注ぐ。

 そして、それが百鬼夜行たちに当たると一体の例外もなくカードの中へ封印されていく。

 それを確認した澄子は、次の、()()の魔法を叩き込む。

 

「――マハ・ラギオン!」

 

 その言葉とともに放たれた火炎がカード化した百鬼夜行に殺到して、一切合財を灰にして燃やし尽くす。

 とある並行世界(真・女神転生 デビルサマナー)に於いて、葛葉キョウジが使用したコンボ。通称キョウジスペシャルと呼ばれる必殺技だ。

 

「なんと、まぁ……」

 

 ジャンヌは澄子の攻撃を見て驚きの声を上げた。彼女からしても、澄子の必殺技は驚嘆するに足るものだった。

 なぜなら、悪魔の中でもこれだけの広域殲滅を出来る者は高位存在であることが多く、そのようなことを出来るヒトは本当に少なく、限られた者たちにしか出来ないからだ。

 それだけの行為をたった一人の悪魔召喚師が、しかもかつて自身に敗北した女性がやって見せたのだ。

 一体どれだけの修練を積めばそれだけの高みに至れるのか……。

 しかも、彼女がジャンヌに敗れた後、期間としてはたった数年間しかなかった状況で、だ。

 

 どれだけの覚悟。どれだけの執念。そして、どれだけの死地を越えてきたのか。

 敵対者たちの燃え尽きる様を見ている彼女の背中からは想像も出来ない。

 

 その彼女は、すべてが燃え尽きたのを確認すると朱夏たちへ向き直る。

 彼女にとって先ほどの百鬼夜行は、あくまでも勝負に乱入した有象無象でしかない。倒すべき敵はまだ目の前にいるのだ。

 しかし――。

 

「…………? 桐子?」

 

 そこで彼女へ、どん、と力強く抱きつく桐子に澄子は疑問の声を上げる。

 そして彼女の顔を覗き見る澄子だったが、桐子の顔は涙に濡れていた。

 

「……スミコ、もうやめてよぉ。友だち同士が殺し合うのを見るなんて、もうやだよぅ」

 

 そう言いながらぐりぐりと額を押し付ける桐子に澄子は逡巡する。

 ……確かに彼女を振り払うのは簡単だ。

 しかし、だからと言って本当にそんなことを、親友を悲しませることを即座に出来るほど、澄子は人間をやめていない。

 だが、同時にこれが好機であるのも事実なのだ。

 ここでやめたとして、次の機会はいつ来るのか。少なくとも、すぐさま再戦の機会が来るとは思えない。

 

 そう考えた澄子は――。

 

「……ふぅ、ここまで、か――」

 

 なんと、己が武器であるCOMPをしまうとともに仲魔たちの送還まで始めてしまう。

 そのことにモーショボーは楽しそうに召喚主(澄子)へ語りかける。

 

「もう、良いの。マスター?」

 

「あぁ、()()()ここまでだ。この続きは次の機会を待つよ」

 

「スミコ……!」

 

 澄子の言葉に、戦いが終わると理解した桐子は感極まった声を出す。

 澄子の答えを聞いたモーショボーもまた、彼女の穏やかな顔を見て破顔する。

 

「……そっか。それじゃまたね。バイバイ、マスター!」

 

 そう言ってモーショボーは、そして仲魔たちは素直に、どこか嬉しそうに送還されていった。

 そのことに驚く朱夏とジャンヌ。

 そんな二人は放っておいて、澄子は真剣な顔をして桐子へ話しかける。

 

「……桐子、やはり小生はここを出ていくよ」

 

「え……? な、なんで?!」

 

 澄子の唐突な宣言に、桐子は悲鳴のような声を上げた。

 そんな彼女をあやすように、澄子は優しく語りかける。

 

「――なに、ちょっとした所用を思い出して、ね?」

 

「所用ってなにさ!」

 

「ふむ、布地(fabric)でも探しに行こうかと」

 

「はあっ?!」

 

 澄子の言葉の意味がわからない。とばかりに大声を上げる桐子。そんな彼女を見て可笑しそうにくすくす、と笑う澄子。

 そして彼女は、ふと真剣な表情を浮かべると朱夏へ話しかける。

 

「……神持朱夏、しばし勝負は預ける。だから、そう簡単に死んでくれるなよ?」

 

 挑発ぎみに語りかける澄子に対して、朱夏もまた生来の負けん気の強さを発揮して答えを返す。

 

「貴女こそ、野垂れ死ぬんじゃないわよ。……桐子は守ってあげるから、ちゃんと帰ってきなさい」

 

「――ふっ」

 

 朱夏の返答に澄子はアルカイックスマイルを浮かべると、桐子を自身から引き離し――。

 

「それじゃあ、行ってくるよ。お姫様?」

 

 桐子の額へ優しくキスをする。そのことに驚きに目を見開いて、額を手で抑える桐子。

 そんな彼女を優しい目で微笑むと、彼女はそのまま跳躍。

 一足飛びで塀を飛び越えて、外の世界へと旅立っていった。

 

 そんな澄子に対して、言葉になっていない叫び声を上げている桐子を尻目に、朱夏は奇妙な、敵というにはあまりに近く、友というにはあまりに遠い彼女の旅の無事を祈るのだった。

 

「……キチンと帰ってきなさいよ。スミコ?」

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