DDS 真・がっこう転生 MythLive   作:想いの力のその先へ

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 新年あけましておめでとうございます、作者です。
 本年もよろしくおねがいします、の意味も込めて、新年初の更新となります。それでは楽しんでいただけたら幸いです。


第六十二話 おかえり

 さんさんと暖かい日差しが差し込む校舎の中、一人の少女と怪物が対峙していた。

 その中で少女の顔に苦悶の表情が、逆に怪物の方は表情は窺い知れないが、どことなく嬉々とした雰囲気が感じられる。

 しかし、少女とて彼女なりに譲れないもの。守りたいものがある。

 それ故に、怪物の良いようにされるわけにはいかないのだ。

 

 たが、だからと言って今の彼女は何をすれば一番効果的か、という判断がつかない。

 そのまま悶々と悩む少女。しかし、悩むだけで突破口を開けるわけがない。

 今、必要なのは行動。この状況を変えるためのアクションなのだ。

 そう考えた少女は、なにかを思い悩むように口をぱくぱくさせていたが、遂に意を決したかのように声を上げる。

 

「ね、ねぇ。()()()()()? もうそろそろいいんじゃない、かな?」

 

「うん? どうした、由紀お嬢ちゃんや?」

 

「わ、わたし……。結構頑張ったよ、ね?」

 

 そう言いながら少女(丈槍由紀)は上目遣いで、怪物(大僧正)に慈悲を乞う。

 具体的に言うと、もうそろそろ補修を終えても良いんじゃないかなぁ。と……。

 しかし、それに対しての大僧正の返答は……。

 

「……ふぅむ、駄目じゃな」

 

 由紀の席、その上にある補習テストの用紙を見て即座に願いを却下。

 然もありなん。なぜなら由紀の机にある用紙。それには確かに、彼女が言うように頑張った証として答えが記入されている。

 ……但し、大僧正が軽く見るだけで、間違いだらけ、と判断できる酷い有り様だった。

 

 大僧正の無慈悲な答えを聞いた由紀は、精も根も尽き果てた。といった様子で机にべちゃりと突っ伏した。

 そして彼女の瞳からは、まるでギャグマンガか何かのように滂沱の涙を流す。

 

「あぅぅ――――」

 

 そのまま泣きじゃくる由紀を見て、近くで見ていた教師である慈もまた、乾いた笑顔を浮かべる。

 

「あ、あはは……」

 

 そして、慈は大僧正に引きつった顔のまま視線を送ると……。

 

「あ、あのぅ。今日はここまでにした方が……」

 

 と、弱々しく提言する。しかし、大僧正は――。

 

「ならん、なりませんぞ。佐倉先生。それでは由紀お嬢ちゃんの成長する機会を奪ってしまう。時には心を鬼にすることもまた肝要なのですぞ」

 

「え、えぇ……。それは理解できるんですけど……。でも――」

 

 そう言いながら、慈は由紀の机に広がっている()()の用紙を見る。そして――。

 

「……流石に、高校を飛び越えて、大学の勉強というのはやりすぎだと思うんですけど――!!」

 

 ……慈から渾身の突っ込みが炸裂した。

 

 

 

 

 

 彼女、由紀がこんな悲劇(喜劇)に見舞われたのにも、もちろん理由がある。

 ……もともと、以前から一部の授業で慈の代わりに大僧正が受け持つ、ということを行っていたのがすべての始まりだった。

 と、いうのも確かに佐倉慈は巡ヶ丘学院高校の正式な教員ではあるが、あくまで国語教師でしかない。

 無論、他の教科もある程度なら教えることは可能であるが、それでも本職に比べると一段劣ると言わざるをえないだろう。

 

 そして、次に大僧正。

 生前、大僧正が()()()()()()()()、彼は自身の所属していた寺社に於いて勉強を、しかも当時の有力者たちの子弟に行っていた。

 とは言え、当時、彼の生前の時代で勉強と言える行動を行えるのは有力者などの一部、裕福な家庭のみであった。

 

 それも仕方ないことであった。

 事実、過去の時代では子供自身も働き手、労働力として扱われており、それ故に勉学に励むほどのリソースを確保するのは実質不可能であった。

 つまり、大僧正の生きていた時代に於いて、勉学に励む。という行為自体が下男等を雇うことが出来るほどに家が裕福である、という証であり、同時にその家は富裕層、もしくは支配者層ということになる。

 

 そして、それは即ち教えられていた子弟たちもまた高度な教育を受けていたことを意味する。

 言い換えるなら彼ら、彼女らに教育を施していた大僧正自身もまた、高い教養を持っていた、ということだ。それも現代の勉強に転用可能なほどの。

 

 現代に転用可能、という言葉に疑問を思う方もいるかもしれない。

 しかし、そうおかしな話でもない。

 

 ――例えば孫子の兵法。

 

 これは約紀元前五百年頃に編纂された物だ。

 だが、現代に於いてもこの書物は認知され、さらには現代風に編纂されたものが出版されている。

 これは即ち、流石に一部現代にそぐわない部分はあるものの、それでも十分に通用する優れた思想、論理的知識であるという証左だ。

 

 この孫子の兵法で特に有名なのは、戦国時代に甲斐国(現在の山梨県)の国主であった武田信玄公が掲げた旗印、【風林火山】だろう。

 

 ――其の(はや)きこと風の如く。

 ――其の(しず)かなること林の如く。

 ――侵掠(しんりゃく)すること火の如く。

 ――動かざること山の如し。

 

 という戦争に、現代に於いてはビジネスの行動の指針を書いている。

 その意味も、いざ動く時は風のように素早く、動かない時は林のように静かに、攻勢に出る時は火が燃え広がるよう猛烈に、守勢に回る時は山のように不動、つまり動揺せずにどっしりと構えるように、という教えだ。

 ……因みに、意外と知られていないことだが、風林火山はこの四つの言葉の後に、さらに四つの言葉が続く。が、それは今回の話に関係ないので割愛する。

 

 また、孫子の兵法の他にも、西暦1532年に発刊された【君主論】もそうだ。

 このように人の進化、人の歴史、即ち人類史は知識の蓄積の歴史とも言える。それ故に過去の知識であろうとも、現代に通用するのは可笑しい話ではない。

 なぜなら、その知識が土台となって、現代は発展しているのだから。

 

 ……話が横筋に逸れたので本筋に戻そう。

 

 とにもかくにも、その経験から慈の補佐として大僧正は学園生活部の授業を一部担当していた。……わけだが、ここで一つ思い出して欲しいことがある。

 それは原作(聖典世界)の由紀と、この世界の由紀との差異だ。

 

 本来の聖典世界(がっこうぐらし!)での由紀は知識の使い方、機転の良さはともかくとして勉強自体は苦手のように描写されている。

 対してこの世界の由紀は……。

 かつて言った(第十八話前編)ように国語担当の慈の授業のみ、彼女の補習を受けるため()()()手を抜き成績が悪かっただけで、他の教科に関してはそれこそ悠里や、学年こそ違うが美紀とためを張れるだけの実力を持つ才媛だった。

 その彼女が、丈槍という()()から解放されて、なおかつ自身の憧れの人(佐倉慈)に良いところを魅せられるとしたら……?

 そんなの奮起するに決まっている。

 その結果、彼女は普段以上の実力を発揮。原作(聖典世界)で由紀や胡桃のために問題集を作成していた悠里ですら苦戦する難問すら解いていった。

 そして、それを見た大僧正は()()()()()に気を良くしてさらなる難問を。由紀は由紀でその難問を解いていく。後はこの繰り返しだ。

 

 ――難問、解く。

 ――さらに難問、解く。

 ――さらにさらに難問、解く。

 

 そうしていく内に、二人はヒートアップ。一学期を超え、二学期。さらには三学期すらをも踏破し、三年の復習を交えつつさらなる高み(大学)へ。というのが真相だった。

 因みに、一緒に授業を受けていた悠里は、三学期の授業に入った時点で困惑。復習で苦笑。大学で諦観の域に至っている。

 なお、貴依に関しては……。

 

 閑話休題。

 

 慈に良いところを魅せるために頑張っていた由紀だったが、彼女も人間。限界があるというのは当然なわけで……。

 その結果が、この話の冒頭に繋がっていく。

 

 

 

 

 

 ……由紀と大僧正、慈のコントのようなやり取りを横目に、貴依はやや現実逃避ぎみに窓から外を見る。

 

 ――……あぁ、いつも通り。平和だなぁ。うん。

 

 澄み渡った青空、壊滅した街並み。そして徘徊するかれら。

 そんないつも通りの光景を見ながら、貴依は日常を、この壊れた日常に、半ば現実逃避ぎみに浸る。

 

 そして、彼女は夢想する。

 もしも、今回の災害。アウトブレイクが起きなかったら……。今までの日常が続いていたら。

 貴依とともに、由紀を可愛がっていた友人たちとまだ過ごしていただろうか?

 もしかしたら、ここにいるりーさん(悠里)や、居なくなってしまった胡桃とも別の形で出会っていただろうか?

 

 ……それに、アレックスたち後輩組とも――。

 

 もの鬱げに校庭を、校門を流し見ていた貴依。

 しかし、ある()()を見て彼女は目を見開く。そして、そのままガタッ、と音を立て、急に席から立ち上がる。

 貴依の急な行動に驚く由紀たち。

 

「あの、たかえちゃ――」

 

 由紀は急に立ち上がった貴依に声を掛けるが、彼女は由紀の声が聞こえないのか、鬼気迫る様子で部屋の角に立て掛けてあった()()()()()()()を掴むと外へ、教室から飛び出すように駆け出していく。

 

「ちょっ! たかえ――」

 

 由紀の制止の声を背に、彼女は教室を飛び出していった。

 

 ――駆ける、駈ける、かける。

 

 貴依は息を切らせながらひたすらに走り続ける。

 バリケードを飛び越え、付近に居るかれらを戦友(胡桃)のシャベルで蹴散らしながら駆け続ける。

 

 ――外へ、彼処へ……! 見間違いかもしれない、それでも……!

 

 今の彼女にはその意識だけが頭の中を占領していた。だが、そのことが彼女の視野を狭くしていたわけではない。

 むしろ逆。今の彼女の頭の中は、今まで生きてきた中で一番冴え渡っていると言って良い。

 その証拠に――。

 

「――邪魔だぁ!」

 

 本来、彼女が、戦う者ではない貴依では気付く筈がない死角から強襲したかれら。それすら貴依は()()()()()()()()シャベルを一閃! 頚を刎ねていく。

 

 ゴトリ、と廊下の床に転がるかれらの頚。切られた首から血飛沫を上げながら倒れるかれら。

 それを一瞥することなく貴依は駆ける。その時間すら惜しいとばかりに。

 

 

 

 

 貴依が正面玄関にたどり着いた頃、由紀たちからの連絡により事態を知ったアレックスもまた貴依を追って現地に到着していた。

 

「貴依先輩――――!!」

 

 しかし、貴依は既に正面玄関のバリケードも突破し校庭に躍り出ていた。

 そのことに焦るアレックスは、制止の声を掛けようとするが……。

 

『まて、アレックス』

 

「……っ! どうしたのよ、ジョージ!」

 

 彼女の相棒、デモニカの管理AIであるジョージに声を掛けられる。

 急なジョージの声掛けに、貴依を制止し損なったアレックスは苛立たしげに返事をする。

 

「一体なんなの、ジョージ!」

 

『――あそこだ、あそこを見るんだ』

 

 苛立っているアレックスに対して、ジョージは冷静な様子でとある地点を、貴依が向かっている先を指し示す。

 いくら苛立っているとは言え、流石にジョージがこんな時に無駄なことをする、等とは思っていないアレックスは彼女が向かっている先を見て、息をつまらせる。

 

「……っ! く、()()()()っ?!」

 

 彼女の視線の先、そこには着ている制服こそ襤褸きれになっているが、怪我はしていないように見える。かつてここを去った同じ戦闘班の仲間、恵飛須沢胡桃の、地面に倒れ伏した姿があった。

 

 ……そう、貴依が教室で急に立ち上がり、一目散にここを目指した理由。それは彼女の姿を、しかも倒れる瞬間を目撃したからだった。

 

 校庭にかれらが徘徊している以上、間に合わないかもしれない。……()()()()()()()

 間に合わないから、と言って諦めるのか?

 

 否、否だ。例え間に合わないとしても、それが諦める理由になりはしない。

 

 ――学園生活部心得、第四条。部員はいついかなる時も互いに助けあい支えあい楽しい学園生活を送るべし。

 

 彼女は、胡桃は確かにここを去ったとは言え、それでも学園生活部の仲間なのだ。

 それを見捨てる? 見逃す? 助けられる可能性があるのに?

 

 ――あり得ないっ!

 

 貴依に、アレックスにとって、恵飛須沢胡桃という存在は、すぐに切り捨てられるような、そんな軽いものではない。

 無論、それは他のメンバーにしてもそうだ。

 例え、気付いたのが貴依以外のメンバーであったとしても彼女と同じ行動を、あるいは大僧正やアリスといった戦える者たちに助けを求めただろう。

 それだけの絆が彼女らの間に育まれていた。

 

 そして、それはアレックスだって同じだ。

 貴依の目的が胡桃の救助だと理解できた今、そのことを躊躇する理由などない。

 彼女は冷静に、逸る気持ちを抑えて光線銃を構えると貴依の周囲、そして胡桃に迫ろうとしているかれらを狙い撃っていく。

 

 すべては胡桃を、仲間を救うために!

 

 アレックスの援護を受けた貴依は脇目も振らずに走り続ける。

 あと少し、あと少しでたどり着く!

 胡桃が何を思って去ったのかはわからない。でも、私たちのもとへ帰ってきてくれた!

 だから、こんな形でのサヨナラなんて望んでいない。もう一度皆で助け合って……!

 

「……待ってろ、くるみっ!」

 

 貴依は弾む息を、気を抜けば歩きだしそうになる疲労困憊の身体を意思の力で捩じ伏せる。

 休むのはあとで出来る、何よりここで止まれば間に合わないかもしれない。そんなことは御免だ!

 

 そう自身に言い聞かせる。その合間にも彼女と、胡桃の距離は縮まっていく。そして――!

 

「――――くるみぃぃぃぃぃ!!」

 

 彼女は叫びながら、胡桃を、仲間を抱き起こす。そこには確かに胡桃が、彼女がいる。

 そのまま、彼女はぽろぽろと涙を流しながら抱き締める。

 確かにそこにいる彼女の暖かい体温が感じられ、その胸は小さくとも上下に動いていた。即ち――。

 

「……生き、てる。生きてるよ、くるみ」

 

「……ぅ」

 

 その時、胡桃の口から小さい呻き声が聞こえてきた。つまり、意識はないものの、彼女は確かに生きている。

 間に合ったのだ、彼女を助けることに。諦めなかったからこそ……。

 そのことを実感した貴依は、静かに涙を流すのだった。

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