DDS 真・がっこう転生 MythLive 作:想いの力のその先へ
先に前話を読んでいただくようよろしくお願いいたします。
部屋に
離された衝撃で、どすん、と尻もちをつく貴依。その口からは――。
「…………げほっ! が、はっ。はぁ、はぁ……!!」
今まで供給を止められていた酸素を取り込むため、激しく咳き込み、あわてて息を吸っていた。
生きていた、確かに柚村貴依はここで生きていた。
ならば、響き渡ったナニかが砕けた音の正体は……?
「……ぐ、ぎぃ。己ぃ、誰だぁ!!」
音の発生源。それは外道-ドッペルゲンガー。奴が貴依の首を絞めていた手の甲からだった。
ドッペルゲンガーは砕かれた手の甲を抑え、発せられる痛みを堪えながら下手人の姿を探す。
激昂して、あちこち見回していたドッペルゲンガーは、すぐに下手人を見つけることが出来た。
「お前かぁ――!!」
その少女は開け放たれた教室のドアから心配そうに貴依を見つめていた。彼女の名は――。
「――丈槍、由紀ぃぃぃぃ!!」
ペルソナ使い、しかもワイルドとして覚醒した丈槍由紀、その人だった。
彼女の周囲には活性化したMAGの奔流が吹き荒れ、そして背後には彼女のペルソナ、ジャックフロストが、拳を振り抜いた姿をして佇んでいた。
――メガトンパンチ。
しかも、それを直接叩き込むわけではなく、吹き荒れた拳圧を以てドッペルゲンガーの、奴の手を砕いたのだ。
――奴の、ドッペルゲンガーにとって由紀の横槍で己の肉体を傷付けられたことは、この上ない
なぜなら、いくらペルソナ使い――なお、ワイルドだということには気付いていない――とは言え、ただの人間に己が所業を邪魔され、あまつさえ身体を傷付けられたのだ。
……ただの人間ごときに、悪魔である己が!
それだけに、由紀が、彼女が何の傷も負わずにこちらを見つめていることが、まるで見下されているように感じたドッペルゲンガーは……。
「貴様ぁっ! この女より先に、貴様から殺してやるぅぅぅぅぅ!!」
由紀に侮られたと感じたことで冷静さを欠き、貴依を放置して由紀に襲いかかる!
空中に飛び上がったドッペルゲンガーは両の腕を先ほど貴依の首を絞めた時のように伸ばす。
無論、それは由紀も先ほど見ていた光景だ。それ故に慌てずに回避行動を――。
「……馬鹿が!」
――取ろうとする由紀を見て嘲るドッペルゲンガーは、さらなる一手を打つ。それは――。
「……えっ! 指も伸び――」
由紀が驚いたように、今度は腕だけではなく、指までもが、まるで触手のように伸びて彼女のもとへ殺到する。
そのままドッペルゲンガーの十指は由紀の首を、腕を、足を、胴体を狙い巻き付こうとした。
さらなる奇策に動揺した由紀。このままでは先ほどの貴依の焼き直し。しかも、より残忍な方法で――首を、身体中を絞められ、引き裂かれて――殺されるだろう。
勿論、それが
由紀の身体中に巻き付こうとする指たち。その寸前で由紀の前に一つの人影が躍り出る。
そして、その人影は手に持った
「――ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
その痛みに思わず叫び声を上げるドッペルゲンガー。だが、人影はドッペルゲンガーの叫びを無視して由紀へと向き直る。
その人物の顔を見て、由紀は無意識のうちに彼女の名を呟く。
「……あーちゃん?」
「由紀さん、無事で良かった」
そこには由紀の無事を喜ぶアレックスの姿があった。
――もともと、今回のドッペルゲンガーの正体を見破るための行動は由紀と貴依、二人の独断で行われていた。
なぜなら、その時はまだ疑惑止まりであり、確証がなかったことから、下手に相談が出来なかったからだ。
事実、もし他のメンバーに相談して、それがドッペルゲンガーが扮した胡桃の耳に入った場合。単純に正体を現して人質をとる、と言う行動はまだましな方で、もし正体をバラさずに人知れず再び姿を消していたとしたら……。
その時は、仲間に疑われて胡桃が姿を消した。と言うことになり、その結果。学園生活部の面々の絆に決定的な傷が入って、各々が勝手な行動を始め、最終的には全員が死亡、ないしは行方不明。と言う壊滅の憂き目にあっていたことだろう。
そのことが容易に予想出来たこともあり、二人としても秘密裏に処理するため、相談することが出来なかった。
もっとも、その結果として先ほどまで二人は窮地に陥っていたのだが……。
しかし、ならばなぜここにアレックスが現れたのか?
それは由紀たちの行動が原因だった。
ドッペルゲンガー扮する胡桃が食事を取って以降、何かと不振な動きをしていた二人を訝しげに感じたアレックスは、夜行動を起こした二人の後をバレないように尾行していたのだ。
その結果、胡桃が偽物であるということを知ったアレックスは、すぐに二人の加勢に入ろうとするが、そこでジョージに止められる。
――加勢するのなら、気付かれていないことを逆手にとり、もっとも相手が油断した時に横合いから殴り付けてやるべきだ、と。
そのジョージの意見に一理ある、と考えたアレックスは一時的に静観。そして、奇策を以て由紀を仕留める目前、もっともドッペルゲンガーが油断するタイミングをもって、戦いに介入したのだった。
突然のアレックスの介入によって、二度目の奇襲も失敗に終わったドッペルゲンガーは歯噛みする。
しかも、最悪なことに目の前にいるアレックスは、学園生活部の中でももっとも警戒していた相手だった。
その彼女が由紀と、ペルソナ使いとともに襲いかかってくる。
それだけでも厄介なのに、今の己は両腕の指がすべて切断され、まともに使えない状態なのだ。
そんな状況では万に一つも勝ち目はない。
――逃げる、か……?
思わずそんな考えが頭の中を過るドッペルゲンガー。
実際、ここまで形勢不利だと仕切り直す必要もあるだろう。
内心
そも、今回の行動はルイ=サイファーの
そうと決まれば話は早い。
ドッペルゲンガーは、素早く貴依の方へ駆ける。
その行動に自身が狙われていると感じた貴依は、思わず身を固くする。
そして、由紀とアレックスはそうはさせない。と追い掛けようとする、が。
なぜか、ドッペルゲンガーは貴依がいる場所を通りすぎる。
その突拍子のない行動に、虚を付かれて動きを止める貴依と由紀。
対するアレックスは、そのことでドッペルゲンガーの真の狙いを看破する。
「まさか、逃げる気……!」
だが、気付いたところでもう遅かった。
その時には、ドッペルゲンガーは既に教室の窓を体当たりでぶち破り、外へ逃亡していたのだから。
慌てて追い掛けるように窓から身を乗り出して外を見るアレックス。
しかし、そこにドッペルゲンガーの姿はなかった……。
そのことに悪態をつくアレックス。
「くそっ! ……逃げられた!」
苛立たしげに顔を歪ませたアレックスだったが、気を落ち着かせるように深呼吸する。
その横に一拍遅れて由紀も駆け寄ってくる。
そして、アレックスと同じように外を見てドッペルゲンガーに逃げられたことを察すると……。
「……っ」
彼女は悔しそうに顔を歪ませる。親友である胡桃を騙ったドッペルゲンガーを仕留め損なったことが悔しかったのだ。
しかし、彼女はアレックスと違いそのことだけに注力しておけば良い存在ではない。
すぐに気を取り直すと、貴依へ駆け寄る。
「たかえちゃん、大丈夫?!」
「あ、あぁ。……大丈夫だよ」
「……良かったぁ」
貴依の返事を聞いたことで、安心し笑みを見せる由紀。
そんな由紀を見て、貴依は申し訳なさそうな顔をする。
「……ごめん、ゆき」
「……? どうしたの、たかえちゃん?」
「私がしくじらなければ、あいつを追い詰めれたのに……」
そう言って悔し涙を流す貴依。そんな貴依をあやすように、由紀は彼女を抱き締めると背中をぽんぽん、と軽く叩く。
「大丈夫、大丈夫だよ。たかえちゃん。たかえちゃんの所為じゃないし、それに――」
そう言って由紀は視線をアレックス、正確にいうなら彼女が着ているデモニカスーツ。その管理AIであるジョージを見る。
「ジョーさん、今の偽物に関するデータ、録ってたんだよね?」
『……良くわかったな、ユキ』
「ジョーさんならそうすると思って」
『……ふっ、そうか』
由紀の言葉を聞いたジョージから、ほんの少しであるが喜色の籠った声が聞こえてくる。
由紀が信頼している。そのように感じられたことが嬉しかったのだろう。
それに由紀としても、データと言う確たる証拠が出来たことで危惧していた可能性がなくなったことで、精神的に余裕が生まれていた。
だからこそ、彼女は無意識のうちに薄い笑みを浮かべていた。
胡桃を騙っていたことは許せない。許せないが、それでも最悪の事態だけは回避できた。
しかし、同時に他のメンバーにどう説明しよう……。と、由紀は人知れず頭を悩ませているのであった。
――堕ちる、墜ちる、落ちる。
由紀たちから無事に逃げ遂せていた筈のドッペルゲンガーは、いつの間にかどことも知れぬ空間で落下していた。
「なんだここはっ! どこなんだ!」
思わず叫ぶドッペルゲンガー。
そんなかれの目の前に光が迫ってくる。
その眩しさに目を閉じたドッペルゲンガー。そして、眩しさが収まった。感じて目を開いた彼に飛び込んできた光景、それは――。
「こ、ここは……? ……どこなんだ?!」
今までとはまったく脈絡のない荒野と砂嵐、そして空には赤雷が奔っている。
まるでこの世のものとは思えない光景。
事実、それはこの世の、人間界の光景ではなかった。
もしも、この空間が何か、そしで誰に作られたものかを理解していれば、自身の、この後の結末に気付くことは出来ただろう。
もっとも、気付くだけでは何の意味のないのだが……。
――カカカッ。愚かなものよ。
どこからともなく聞こえてくる
「だ、誰だ!」
その声から本能的な恐怖を呼び起こされたドッペルゲンガーは叫ぶ。もっとも、彼は答えなど返ってくるとは思っていなかった。しかし――。
「なぁに、お主に
己の背後から声が聞こえたことで振り返るドッペルゲンガー。しかし、誰もいない。
「ほんに愚かなものよなぁ。よりにもよって
――再び背後からの声。振り返る。いない。
ドッペルゲンガーは遂に恐怖に歪んだ声で叫ぶ。
「ど、どこだ! 隠れてないで姿を見せろっ!」
――ほっほっほっ。貴様ごときが拙僧の姿を拝みたい、と? ならば、刮目してみるが良い。
そう言って姿を現す
声の主、その正体を知って驚愕し、恐怖に震えるドッペルゲンガー。
「な、なんで。魔人がこんなところに……」
そう言って彼は尻もちをつく。まさか、死の化身である魔人が現れるなどと、露にも思わなかったのだ。
――そう、この空間は
そのことに気付いた彼は、あまりの衝撃に力が入らなくなった身体で、それでも死から逃れようと後退りする。しかし――。
彼の背中が、とん、と何かに当たる。
そのことに驚いて、後ろを見上げるドッペルゲンガー。そこには
その少女は、何がおかしいのか、にこにこと笑いながら彼へ話し掛ける。
「いっけないんだ、いけないんだー。胡桃お姉ちゃんの姿で、皆を騙すなんていけないんだぁ」
「ひぃっ! 魔、魔人-アリスっ!」
少女の、魔人-アリスの姿を確認したドッペルゲンガーは悲鳴を上げる。
前門の大僧正、後門のアリス。進退極まったドッペルゲンガーは――。
「ふひゃ、ふひゃはははははははあっ……」
完全に気が触れてしまったのか、とうとう狂ったように喚き出す。
そんな彼の姿を詰まらなそうに見たアリスは、最後に一言。死の宣告をしたのだった。
――ねぇ、死んでくれる?