DDS 真・がっこう転生 MythLive 作:想いの力のその先へ
結局、胡桃の偽物だったドッペルゲンガーはその後見つかることなく、しかし、ジョージが諸々の証拠を抑えていたこともあり、それを使って他の皆に説明することにした由紀。
そして由紀は学園生活部の部室に全員を、透子を含めて召集した。
但し、何か用事でもあったのか。大僧正とアリスの二人は、未だに姿を見せていない。
そのことに由紀は疑問を抱きながらも、既に集まった者たちへ話し掛ける。
「みんな、急に声を掛けてごめんね? ……でも、すぐにでも話さなきゃなことが起きたんだ」
「それはいいのだけど……。それで、急にどうしたの。ゆきちゃん? くるみちゃんもいないようだけど……?」
急な由紀の召集に訝しみ、疑問を口にする透子。
そんな彼女の疑問に答えるべく由紀は口を開く。
「その、くるみちゃんのことで話があったの。……とは言っても、どこから話すべきなのかなぁ…………」
そう言いながら、苦虫を噛み潰したように。どこか迷った素振りを見せる由紀。
事実、これから話すことは皆に、特に初期から行動を共にしていた学園生活部のメンバーである、慈と悠里にとって辛い事実となる。
だが、だからと言って話さない。という選択肢をとれない以上、話すしかない。
なので由紀は、なるべく簡潔に、そして優しく言葉を選びながら胡桃が偽物であったこと、そしてその偽物。外道-ドッペルゲンガーに逃げられたことを告げた。
そのことを告げられた慈と悠里は――。
「……そう、そうなの」
「そんな……! そんなの嘘よっ! ねっ、ゆきちゃん、嘘なんでしょう……?!」
慈はどこかドッペルゲンガーが扮した胡桃の行動に思うところがあったのか、少し顔色が悪いものの納得した様子で、対照的に悠里は信じたくないと言うように取り乱し、肩を掴みながら由紀へ詰め寄る。
由紀も悠里の気持ち自体は理解できるが、それでも事実は事実として告げるしかなく、力なく首を横に振る。
悠里は由紀の否定に、何よりも悲壮な表情を浮かべた彼女を見てその場にへたり込む。
「……うそよ、そんなのうそ。――だって、あの娘は確かにここにいたのに……」
そして、うわ言のように呟く悠里を見て、由紀は彼女の肩へ手を伸ばす。しかし――。
「……あっ! りーさん――――!!」
彼女は由紀の手を避けるように立ち上がると、まるで逃げるように部屋を出ていこうとする。
そして、出入口でちょうど部屋に入ろうとしていた大僧正とアリスの二人と鉢合わせする。
「――ぬぉっ!」
「……りーねえ?」
悠里が急に飛び出してきたことに驚く二人。
しかし、悠里はそんな二人に気付くことなく部屋の外へ駆け出していった。
彼女のあまりの慌ただしさに、止める暇すらなかった二人は辺りを見渡す。
一方、悠里を追いかけようとしていた由紀もまた、二人の登場が予想外だったようで出鼻をくじかれていた。
そうして、追いかけることが出来なかった由紀は二人へ問いかける。
「おじいちゃん……!? アリスちゃんも、今までどこに――」
「おお、由紀お嬢ちゃんや。実はの――」
驚いていた由紀の問いかけに、大僧正はアリスとともに行ったドッペルゲンガーの対処と、その顛末を語るのだった。
勢いのまま部屋を飛び出した悠里。
しかし、流石にがむしゃらに走って外に出ては危険と考えるだけの冷静さは残っていたようで、ふらふらとした歩きで安全地帯。彼女がよく訪れている屋上に足を運んでいた。
そのまま何事もなく屋上にたどり着いた悠里は、かちゃん、と音を鳴らして落下防止用のフェンスへ背中を預けると、ずるずると座り込む。
あの場、学園生活部の部室に全員が集まっていたので当然のことであるが、側に誰もいないことを確認した悠里は顔を俯かせて塞ぎ込む。
「……なんで、くるみ――」
そう呟く悠里の脳裏に浮かぶのは、楽しげに、かつてのように快闊に笑う胡桃の姿。
そこには、かつての、胡桃が去る前の幸せが確かにあったのに……。
――本当に……?
ふと、
その声に対して悠里は否定するように声を荒げる。
「……確かにあの娘は、くるみは、ここにいたのっ――――!」
――ふぅん? そう。でも、偽物だったんでしょ?
「違う、違う違う違う! あの娘は偽物なんかじゃない!」
――まぁ、そう思いたければ、そう思ってれば良いんじゃない?
自身の中から聞こえる声と口論する悠里。
否、口論というよりも聞こえてくる声の指摘から目を逸らしている、というのが正確か。
とにもかくにも、悠里と内なる声の応酬は続いている。
「だいたい、あなたは誰なのっ! なんで私ばっかり――」
――なぁんだ。気付いてないんだ。
「――え?」
内から聞こえる声。その声が告げる不思議な言葉に思わず顔を上げる悠里。
顔を上げた彼女の瞳は涙で濡れており、そしてそれ以上に不可思議なことに――。
――私は、貴女よ。そして、貴女は私でもある。
その瞳の片方は本来の黄色ではなく、昏い金色に輝いていた。
「――な、にを……?」
内なる声の意図が判らず困惑する悠里。
そんな彼女を嗤うように声は語り掛ける。
――だから、貴方が考えてることも良く分かるの。私は、ね?
「……どういう、意味?」
――だって、良かったじゃない。
その一言に息を飲む悠里。
図星だったのか、その瞳は動揺からか、忙しなく蠢いている。
それでも彼女は内なる声を否定するために声を上げる。しかし、その声は先ほどとは違い、力なく、そして震えていた。
「なに、を言ってるの? ……くるみが、あの娘が帰ってくる方が――」
反論していた悠里だったが、彼女の声を遮るように内なる声が、さらに彼女を追い詰める。
――嘘、嘘。だって、あの娘が帰ってきたら、勝てないじゃない貴女。
「……え?」
内なる声の指摘に、さらなる動揺を見せる悠里。
その顔からは血が引いたように青ざめ、寒さすら感じているのか、カーディガンを羽織っているのにも関わらず、小刻みに震えている。
そんな彼女の思いを知ってか知らずか、あるいは意図的に無視して内なる声は彼女に、悠里にとってとどめとなる言葉を告げる。
――だって、くるみってば。ここにいる人間の中で一番可愛らしかったものねぇ? 外面じゃなくて内面が。
「そ、れは……」
内なる声が告げた言葉に、二の句が告げなくなる悠里。
それは彼女自身が良く理解していたからだ。
――恵飛須沢胡桃。
悠里が彼女と出会った。と言っても同級生なのだからすれ違うこと自体は何度かあったため、正確に言うなら知り合うが正しいか。
ともかく、悠里が彼女の人柄を知ったのはアウトブレイク発生後の話だ。
それ以前は、何となく男勝りな女の子がいる、程度の認識でしかなかった。
しかし、ここで、学園生活部で出会って。そして、ともに暮らしていくことでその認識はどんどん変わっていった。
ふとしたときに見せる、憂いを見せる仕草。
好きな人、葛城紡に食べさせることを夢見たのだろう。時たまともに料理をする時には、悠里すら目を見張る手際の良さ。
そして、ずっと彼一筋だったのだろう。ちょっとした会話でも、男女の付き合いに対しての初さを見せていた。それこそ、もともと愛くるしい姿の由紀を差し置いて、可愛らしい。なんて思うほどに胡桃は、時に愛らしさを見せていた。
そんな彼女を間近で見て、悠里は人知れず
なぜならそれは――。
――だって、あの娘が帰ってきたら、ただでさえライバルの多い、愛しい愛しい蘆屋さんの視線を、あの娘が独占しちゃうかもだもんねぇ?
危機感。それは今、内なる声が言ったように晴明が胡桃に盗られるかもしれない。と無意識に考えたから。……とは、言っても晴明は誰のものでもないのだが。少なくとも今、現在は――。
しかし、なぜ悠里がそのような、恋慕の感情を晴明に対して抱くようになったのか?
そんなものはある意味単純だ。
……初めての出会いの時。この時は、晴明に最愛の妹を、瑠璃の命を救ってもらった。もし、あの場に晴明がいなければ最悪、否。確実に妹は死んでいただろう。……もっとも、現状を思えばあの時死んでいた方が瑠璃は幸せだったかもしれない。悠里の心情を除けば、の話になるが。
次に出会った時。正確に言うと出会う少し前になるが、その時は彼女自身が絶体絶命の危機に陥っていた。が、その時、今度は悠里自身が彼の手で、瑠璃を助けてもらった時に渡されたお守りによって九死に一生を得た。
そして、その後に連続して起きたかれらと悪魔の襲撃。それを苦もなく蹴散らす晴明の力強さ、雄々しさを見た。
……当時は、頼もしさよりも、恐ろしさの方が前面に出ていた。しかし、心の奥底では安心感が、この人がいれば大丈夫。という信頼があった。
この人は瑠璃を、妹を助けてくれた優しい人だと知っていたから。そして、結果的に自身も助けてもらったから……。
その感情が知らず知らず、本当に知らない内に心の奥底で恋心と言う種になり根付いていた。
白馬の王子さま、というには年齢的に無理があった。しかし、それでもそういう風に無意識に思ってしまうくらいには……。
だが、彼の隣には既に、美紀や圭、透子といった女性たちの姿があった。だから、悠里は無意識の内に想いを心の中へ秘めた。もともと争うのは嫌いだし、何より彼女たちを押し退けて隣に座るほどの覚悟はなかったから。
だから、本人も気付かずにこの初恋とも呼べぬ恋はそのまま終わりを告げる筈、だった。
……彼女が、胡桃が学園生活部を去るまでは。
彼女が、胡桃が去ったことで心の傷を負ったのは、なにも由紀だけではない。
貴依だってそうだし、悠里だってそうだ。
そして、悠里は無意識下で救いを求めた。それが、仄かに恋心を抱いていた晴明に対して。もっとも、本人は分かっていなかった。恋心を抱いていることも、何よりなぜ、いの一番に彼を求めたのかすら……。
だが、それも今なら。内なる声によって仄かな恋心を自覚させられた今なら、嫌でも分かる。
――彼に慰めて欲しかった。そして、彼が傷付いた時は慰めたかった。
そうしても良い。と考えるくらいには、悠里は晴明に傾倒していた。
そのためなら、彼の隣を力ずくで奪っても良い。と、無意識下で考えるほどに……。
そう考えた時。一番の障害と成り得るのは誰か。……それは、胡桃。恵飛須沢胡桃。
悠里が奥底にしまった恋心をほんの少しとは言え、表に出す原因となった少女だった。
そして、その答えを得た時。悠里の奥底にあった感情。……それは、安堵。
彼女のことをよく知るからこそ、一番のライバルと成り得る者がいなくなった現実に
……認めたくなかった。このような浅ましい感情を、心を抱いていたなど。
よりにもよって、親友と思っている。自身らを守るために率先して危険に身を置いた気高き彼女に対して、いなくなって良かった。
――でも、それが
その時、内なる声が。彼女曰く、自分自身の本当の声が聞こえてくる。
その声に悠里は――。
「そんな、こと……――!」
――認めなさいってば。貴女は私、私は貴女なのだから。
「ふざけないで――!!」
悠里は彼女の暴言に声を荒げる。
その時、校舎から屋上に続く扉が開かれた――。
あのあと、大僧正たちと情報の交換を終わらせた由紀は、悠里を探して駆けずり回っていた。
そして、その中で彼女はもしかして。と、一つの可能性。彼女が屋上に、悠里がいつも世話している菜園にいるのではないか、と予想して駆ける。
由紀の中では、今、こうやって駆けずり回っている合間にも、嫌な、かつての胡桃の家で出会った、アマノサクガミとの邂逅の前後に感じた、漠然とした不安感に苛まれていた。
――はやく、はやくりーさんを見つけないとっ!
そうしなければ
漠然と、そう感じていた由紀は、足を縺れそうになりながらも己の最速で校舎内を駆け抜ける。
そして、彼女は屋上へ続く扉へとたどり着き、勢いよく扉を開けた。
そしてその視線の先には――。
「りーさん!」
そこには、確かに悠里がいた。
しかし、悠里の瞳は金色に染まり、身体からは禍々しいとまで感じる
その時、由紀の全身に悪寒が奔る。
「ふざけないで――!」
「りーさん、だめぇ――!」
悠里がなにかを言おうとしている。そしてその言葉は、口に出してはいけない言葉だ。
直感的にそれを察した由紀は、悠里に対して制止の言葉を掛けた。しかし――。
「貴女なんて――」
由紀の制止は間に合わなかった。否、もしここで由紀がペルソナを召喚し、悠里を無理矢理止めていればまだ間に合った。
しかし、仲間に。ことさら自身を認めてくれる人たちに手を出すなどと言う選択を由紀が取れるわけがなく、それ故にこの結果は必然だった。
「貴女なんて、私じゃない――!!」
その言葉とともに悠里の身体から禍々しい気配が噴き出す。そして――。
――うふふ、あははっ。
どこからか、悠里と同じ声が響く。
そのことに目を見開かせる由紀。
そんな彼女にお構いなしに、声の主は、その言葉を待ってました。と言わんばかりに哄笑を上げる。
――そう、そうよ! 私は、私! 貴女なんかじゃない!
そして、禍々しい気配が一つに集まり姿を形作っていく。
そうして一つの生命となった化生は産声のように高らかに言の葉を紡ぐ。
「
そう言ってもう一人の悠里、【シャドウ-悠里】は哄笑を上げながら悠里に、そして由紀へと襲いかかるのだった。