DDS 真・がっこう転生 MythLive 作:想いの力のその先へ
由紀と悠里がベルベットルームにてイゴールと話している頃、晴明たちは最初の目的地である聖イシドロス大学へと到着していた。
そして、彼らはここにくる最大の目的であったDr.スリルと面会していた。
「……それでハルやん? これが本当に、その坑ウイルス剤、なんやな?」
そう言いながらスリルは手に持った注射器。巡ヶ丘学院高校の地下に保管されていた抗ウイルス剤を軽い調子でヒラヒラと振っていた。
そんな彼を見て、晴明に同行していた美紀と圭は顔を青くしながらあわあわ、と焦っている。
それもそうだ。何せ彼の手元にある薬は、なんと言っても現在のゾンビ化現象の終息させることが出来るかもしれない切り札に成り得るのだから。
それ故に、仮にも唯一の希望となる筈の薬を、ここまでぞんざいに扱うとは思ってもみなかった。
もっとも、スリルとしても仮称坑ウイルス剤を
晴明はスリルの様子に違和感を覚えたのか、彼に軽く問いかける。
「スリル、いったいどうしたんだ? その薬に何か問題でも?」
「問題、問題なぁ……。ある意味問題ではないし、逆に大問題とも言えるなぁ」
晴明の問いかけに煮え切らない返事を返すスリル。
そんな彼の態度に、晴明のみならず、他の面々も困惑している。
唯一、彼の態度に困惑していないのは、彼とともに薬の調査をした椎子であり、彼女はいつもよりさらに二割ましの気怠けな様子を見せている。
そんな椎子が、皮肉げな様子で口を開く。
「――もし、これが坑ウイルス剤と言うんなら、これからの予定は病院巡りだな。それである程度の坑ウイルス剤は手に入る」
「……はぁ?」
「……え、えぇ?」
椎子の言葉に、薬を持ってきた圭たちはもとより、話し合いの席に同席していた朱夏もまたあんぐりと口を開き、驚いている。
その中で晴明だけは険しい表情を浮かべて、二人に話の続きを促す。
「それは、いったいどういう意味で、だ?」
険しい表情を浮かべた晴明とは対照的に、スリルはどこか呆れた様子で彼の問いに答える。
「どういう意味もこういう意味も、これ。ただの抗生物質と栄養剤。簡単に言えば風邪薬や。……つまりランダルの連中、今回の災害の原因は風邪の一種で、ベッドに括り付けて点滴しとけば治る言いたいらしいわ」
「いやいやいや……」
スリルのあまりの言い草に、思わずといった様子で声を上げる朱夏。
美紀と圭も同じことを感じたのか、こくこくと頷いている。
そんな彼女らを横目に見ながら、晴明はスリルへ問いかける。
「……それは本当なのか?」
「ハルやん。いくら、わしでもそんな悪趣味な冗談言うほど、常識知らずじゃないで」
「まぁ、それもそうだな」
念のためと言える質問に即座に否定するスリル。スリルの否定を聞いた晴明も、否定されるとわかっていたのか、彼の答えに同意する。
そして晴明は、そのまま何事かを考えはじめる。
(しかし、なぜただの風邪薬が坑ウイルス剤扱いになる? それに、美紀と圭。彼女らが太郎丸の飼い主である老婆から聞いた
そこで何かの可能性に思い至ったのか、晴明はガバリと顔を上げる。
そして晴明はスリルへ話し掛けた。
「……なぁ、スリル」
「どうしたんや?」
「以前渡したあのマニュアル。一度見せてもらっても良いか?」
「なんや、そんなことか。今から持ってくるわ」
そう言って退席するスリル。
スリルが退席するのを見ながら朱夏は晴明に質問する。
「その、晴明さん? 急にどうしたのよ?」
「……ああ、いや。もしかしたら、と思ったことがあってだな」
「ふぅん……?」
煮え切らない様子の晴明に、朱夏は訝しげな表情を見せる。
そのまま朱夏はさらに質問を重ねようとするが、その前にスリルが部屋に戻ってくる。
「ほら、ハルやん。お望みのもんやで」
スリルは手に持った資料。秘密基地で見つけた緊急避難マニュアルを晴明に手渡す。
「あぁ、感謝する」
晴明はスリルからマニュアルを受け取るとすぐさま読みはじめる。そして――。
「――これは、現実味を帯びてきたか?」
なにやら納得したようにぽつりとこぼす晴明。
そんな彼に、スリルは不思議そうな顔を見せると問いかけた。
「どうしたんや、ハルやん?」
「あぁ、確証を得ている訳じゃないが、以前からもしかして、と考えてた可能性があってな……。しかし――」
「……はぁ?」
晴明のどことなく、確証を得たのと同時に考えたくなかった可能性にたどり着いた。と言わんばかりの煮え切らない表情を見て、不思議そうな顔をするスリル。
そんなスリルの疑問を解消するために、晴明は何故か美紀と圭。二人へ話し掛ける。
「なぁ、美紀、圭」
急に話し掛けられると思っていなかった圭は不思議そうな声を上げ、美紀はどうしたのかを尋ねる。
「……はい?」
「どうしたんですか?」
二人の、特に美紀の返事を聞いた晴明は、かつて二人に聞いた話を再び尋ねる。
「以前、太郎丸の飼い主だったお婆さんから、聞いた話があったろう? それを話してもらっても良いか?」
「お婆さんの話……?」
「ほら、圭。あの男土の夜とかいうやつだと思う」
「あっ、あれかぁ……」
晴明の問いかけに圭は忘れかけていたようだが、美紀に諭されることで思い出したように手を叩く。
その二人の会話を聞いて、椎子が眉をしかめる。
「男土の夜、だと?」
その椎子の様子になにか知っているのかと思い、朱夏は彼女へ話し掛ける。
「椎子、なにか知ってるの?」
「……いや、そういう訳では。ただ――」
「ただ?」
「なにか、聞き覚えがある。そう感じただけだ」
そう言いながら考え込む椎子。
彼女の考え込む姿を尻目に、美紀と圭は老婆に聞いた男土の夜について話し出す。
――約半世紀前に巡ヶ丘の前身となる都市、男土市で大規模な災害が起きたこと。それが男土の夜、という名の由来となったこと。
――その内容は路上で女性の変死体が発見されたことに始まり、最終的に不発弾の爆発もあわせて約四万人の人命が喪われたこと。
――その後、ランダルコーポレーションが男土市再生の名目で進出。都市の名前も公募で巡ヶ丘に変更されたこと。
そこまで聞いた面々の間に痛いほどの沈黙が訪れる。
晴明以外の者たちも嫌というほどに理解したのだ。……男土の夜と今回のバイオハザード、この二つがとても似通っていることに。
特に、女性の変死体。その首筋には
そんな重苦しい雰囲気の中、スリルが掠れた声で地震が考え付いた可能性を告げる。
「つまり、なんか? マジで今回の騒動が風邪とか、インフルエンザの流行と同じ、だと言いたいんか? ……規模はともかくとして」
「少なくとも、この地に何らかの原因がある可能性は十分に、な」
その二人のやり取りのあと、再び沈黙が場に落ちる。
男土の、巡ヶ丘の出身者たちは、自身がとんでもない場所で暮らしていたことを理解して。研究者たちはこんな中規模都市にそれほどの未知があることを察して。
そのまま、しばらく皆、無言で静寂の時間が続く。
だが、そのまま無為の時間を過ごす訳にもいかず。意を決したように美紀が晴明に話し掛ける。
「え、えっと。それで晴明さん。これからどこに向かうのか決めてるんですか?」
「ん? ……あぁ、そのことか」
美紀の質問を聞いた晴明は、そう言えば目的地を告げていなかったな。と考えて、彼女らへ今後について話す。
「一応今後は巡ヶ丘市役所を目指すつもりだ」
「市役所、ですか?」
「あぁ、そこなら何らかの資料がある可能性もあるだろ?」
晴明の言葉に、確かに。と納得する美紀。さらに晴明が言葉を続ける。
「それに市役所に郷土資料館が併設されている場合もあるしな。そこも探れば……」
「……なるほど。そこなら何らかの手掛かりが――」
そう言いながら、美紀は口元に手を当て思案している。
そんな親友を横目に、圭もまた晴明へ話し掛ける。
「でも、晴明さん? 手掛かりって言うならランダルも候補に入るんじゃ……」
圭の疑問についても考えていたのか、晴明は自身が懸念していることについて話す。
「あそこはメシア教が関わっている可能性があることを話しただろう? ……最悪、中に入った瞬間、天使の大軍勢がお出迎え。何てことになるかも知れんからな」
『……あぁ~~』
晴明の指摘にメシア教と関わったことがある朱夏とスリルがとても嫌そうな表情を浮かべた。
二人とも、なにかとメシア教に振り回された身であるため、然もありなんといったところだ。
そして、そんな二人の顔を見た他の娘らもなにかを察したようで、二人に対して痛ましげな表情で見やる。
先ほどとは別の意味で沈黙に包まれるが、そんな折りに晴明が空気を変えるためにも続きを話し始める。
「まぁ、そんな訳でな。少なくとも、今の、なにも情報がない状況で、敵の本拠地という可能性がある場所には乗り込みたくないのさ。わかったかな?」
圭を見て話し掛ける晴明。
そのことに、圭も疑問が氷解したこともありこくり、と頷いている。
それを確認した晴明は、話は終わり、と言わんばかりに席を立つとスリルへ話し掛ける。
「まぁ、何はともあれ向こうでなにかわかったら、また連絡するよ」
「なんや、ハルやんもう行くんか」
「あぁ、善は急げとも言うし。それに――」
「それに?」
晴明がこぼした言葉に首を傾げるスリル。
しかし、晴明は。
「――いや、なんでもない。ともかく吉報でも期待しててくれ」
と、はぐらかすように告げる。それを聞いたスリルは。
「ほな、無事に着いた報告を待ってるわ」
「おいおい、吉報を、て言っただろう?」
「だからやないか。無事なことが一番の吉報やろ?」
そのスリルの指摘に目を丸くする晴明。だが、すぐにそりゃそうだ。と言いながら大笑いする。
そのまましばらく笑っていた晴明。
そして笑い終わると今度こそ大学組に見送られて部屋を後にする。
それに慌てて着いていく美紀と圭。
二人が着いてくる気配を感じながら、晴明は先ほどの大笑いが嘘のように真顔になると思案していた。
――しかし、俺の考えが杞憂なら良いが……。もし、本当にそうだとするなら。
そこまで考えて晴明は頭を振る。
そんな晴明の様子に、追い付いた圭が不思議そうに話し掛ける。
「どうしたんですか、晴明さん?」
「いや、なんでもない。それよりも急ぐぞ二人とも。……時間は有限だからな」
『――は、はいっ!』
そうして、晴明たち三人は急ぎイシドロスを後にする。
――もし、今回のバイオハザードがメシアやガイアの思惑ではなく、自然的な発生であると同時に、それを利用するため、あらゆる組織が行動をしている可能性。
その懸念を抱きながら……。