DDS 真・がっこう転生 MythLive   作:想いの力のその先へ

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第七十話 予期せぬモノ

「で、でも晴明さん? 何を根拠にそんなことを……」

 

 美紀は声を震わせながら問いかける。

 確かに、晴明が言っていることに関して辻褄があいそうなのは事実だ。しかし、だからといってそのまま断定するのは論理の飛躍ではないか? と、自身の精神の安定のため己に言い聞かせる。

 もっとも、そう己に言い聞かせている時点で、既に晴明の推論に対して、無意識のうちに肯定的になっている。という証明でもあるのだが。

 そんな美紀の考えを理解している様子の晴明。

 しかし、それでも今回のことに関しては、なにも校歌の歌詞だけが理由という訳ではない。

 そのことを説明するためにも、晴明は口を開く。

 

「根拠ならある、残念ながら、な。――まず美紀。ここ、男土市を巡ヶ丘市として復興に尽力した企業はどこだ?」

 

「それは、まぁ……。ランダ、ル?」

 

 晴明の問いかけに答える美紀。しかし、そこでなにか違和感を感じたのか首を傾げている。

 そんな美紀を見て晴明は遠からず気付くだろう。と思いながら、今度は圭に次なる質問をする。

 

「次に圭。……巡ヶ丘学院高校の最大出資者について覚えているか?」

 

 急に問いかけられた圭は、困ったように首を傾げている。

 そんな彼女を見て晴明は苦笑し、簡単なヒントを告げる。

 

「ほら、圭。お前も以前見ただろう。避難マニュアルに記載されてたぞ」

 

「え、えっ? 避難マニュアル……? えっ、と。たしか、ランダルコーポレーション……?!」

 

 圭が発した言葉に正解とばかりに頷く晴明。

 それと同時に美紀と圭。二人は今まで感じていた違和感について理解する。

 

 ――そう、今までバイオハザード関連のほぼ全てにランダルが関わっているのだ。

 

 もっとも、以前からもランダルが怪しいというのは共通の見解だった。しかし、それはあくまで、ランダルが細菌兵器を作った。という前提の話で、だ。

 だが、今回の情報でその前提条件が覆ってしまった。それと同時に新たなる情報がもたらされることとなった。

 

 ――即ち、ランダルは何らかの形で巡ヶ丘の風土病。今回のバイオハザードの原因について知っていた。という情報を。

 

 そこまで考えて、晴明もまた違和感を覚える。何かを見落としているような……。

 

 ――そこで起きたバイオハザード、実は全世界で同時多発的に起きてたようなの。

 

 そこで自身を義兄と慕う妹分。十七代目葛葉ライドウこと、葛葉朱音の言葉が頭を過る。

 

「……っ! バロウズ!」

 

 彼女との会話を思い出した晴明は、慌てた様子でバロウズに呼び掛ける。

 

《どうしたの、マスター? 切羽詰まった声を出して――》

 

「ランダル、ランダルコーポレーションの支社、本社含めてどこに存在するか調べられるか!」

 

《……アイアイ、マスター。すぐに調べるわ》

 

 晴明の鬼気迫る様子にただ事ではないと悟ったバロウズは即座に情報収集を開始。ほどなく情報の精査が完了したようで報告を始める。

 

《どうやら、欧州を中心に展開してるけど、同時に極東や北米にも支部があるみたいね。具体的に言うと日本の他に、アメリカ、ロシア、イギリス、中国に支部が、そしてドイツに本社があるみたいよ》

 

「……っ。やはり、そうか」

 

 バロウズの報告を聞いた晴明は苦々しげな表情を浮かべる。あの時、朱音は全世界に同時多発的にバイオハザードが起きた。と言っていた。

 そして、その場所には全てランダルコーポレーションが存在。即ち、今回のバイオハザードは意図的に起こされた可能性が高い、ということになる。

 

 ……しかし、なんのために? その意図が読み取れない。

 

 少なくとも男土の夜、という前例を知っている以上、わざわざデータ取りのために危ない橋を渡る必要はないだろう。

 特に那酒沼のおしゃべり魚や、巡ヶ丘学院高校の校歌のように過去からの警告を残していることから、かなり危険なものである。というのは理解している筈なのだ。

 

 それなのにあえてそれを、バイオハザードを引き起こす理由。

 しかも、己の命と天秤に掛けて、それでも実行する必要性。それが理解できない。

 だが、現実にはバイオハザードを引き起こし、今回の惨事に繋がっている。

 

 ……一体、何故?

 

 そう考えて、思考の渦に陥っていた晴明だが、その時バロウズから話し掛けられる。

 

《――スター、マスター!》

 

「ん? あ、あぁ。どうしたバロウズ」

 

《どうしたもなにも返事がないから。それより通信が……》

 

「通信だと? このタイミングで? 誰からだ?」

 

《それは……。ともかく出て》

 

 バロウズに質問していた晴明だったが、彼女は答えずそのまま通信を繋ぐ。すると、通信先から晴明にとって幾度となく聞いたことのある声が響いてきた。

 

[ハル兄、よかった。ようやく繋がった!]

 

「その声、朱音――ライドウか!」

 

 晴明が放ったライドウという名前に反応する美紀と圭。

 それはかつて秘密基地で聞いた晴明よりも強い、日本で最強とも評される悪魔召喚師の名前だった。

 しかし、二人はどことなく不思議そうに首を傾げる。その理由は――。

 

「女の人……?」

 

「だよねぇ……」

 

 お互い見つめあってそう告げる二人。

 そう、二人は。正確に言うとあの時秘密基地でライドウのことを聞いた美紀、圭、透子の三人は、ライドウという名前と晴明よりも強い。という情報から筋骨隆々の男性と勘違いし、また晴明もその勘違いに気付かず訂正しなかったため、そのまま勘違いが続いていたのだ。

 そんなことを知らない朱音は、通信の先から聞こえてきた見知らぬ少女たち。美紀と圭の声を聞いて、もしかしたら、と晴明に問いかける。

 

[ねぇ、ハル兄。今の女の子の声、誰か聞いても?]

 

 純粋に疑問を思った朱音の問いかけ。しかし、あまり連絡をしていなかった晴明からすると、どこか咎められているように感じてどう答えたものか。と考え込んでしまう。

 

「あ、あぁ。えっと、だなぁ……」

 

 煮えきらない晴明の態度に、朱音はなにか勘違いされている、と理解して先ほどとはまた別の聞き方をする。

 

[えっと、ハル兄? 別に責めてるわけじゃないの。……それよりも、今聞こえてきた女の子二人、そのどちらかが丈槍由紀さんだったりする?]

 

「……由紀さん?」

 

『ゆき先輩……?』

 

 朱音の口から出た由紀の名前に困惑する三人。その返事でこの中に由紀がいないことを悟った朱音は落胆する。

 

[そう、いないのね……]

 

「あの、ゆき先輩になにか……」

 

 落胆した様子の朱音に話し掛ける美紀。だが、そこで自身がまだ自己紹介すらしていなかったことを思い出し、彼女は自分の名を名乗る。

 

「あっ、すみません。私は直樹美紀、と言います。ゆき先輩の後輩で、今は晴明さ……蘆屋さんに弟子入りして――」

 

[……弟子入り?! ハル兄に?!]

 

 しかし、その自己紹介も途中で止まってしまう。それほど美紀が晴明に弟子入りした、という情報が衝撃的だった。

 なぜなら、今まで晴明に弟子入り()()()のは彼女の親友である神持朱夏のみ。

 それ以外の人間は頑として弟子入りを受け入れなかったのだ。

 それどころか、葛葉、蘆屋以外の退魔家との交流自体もあまり積極的ではなかった。

 

 その理由としては、弟子を取ることで自身の修行。強くなるための時間を削ることを嫌がったこと。

 そして、退魔家との交流は血を交わらせる(婿入り)という側面もあったためなおさらだった。

 ……因みに、現在水面下で葛葉以外の退魔家。九頭竜と峰津院が動いているのも、晴明に恩を売ることにより、取り込むことができないか。という思惑からだ。

 なぜなら、晴明が転生者という情報は裏世界ではよく知られた話であるが、一般的に彼は蘆屋宗家、その初代である蘆屋道満の転生体だと思われている。……実際には女神転生やペルソナ、デビルサマナーのゲームがあった世界からの転生者なのだが。もっとも、この情報を知っているのは朱音のみであるが。

 そんな血を持つ晴明を取り込むことができれば、取り込めた退魔家は大きく飛躍できるだろう。

 特に九頭竜に関して言えば、今代当主が朱音と同じ年頃ということもあり、なおさら躍起になっている。

 

 とにもかくにも、良く言えばストイック。悪く言えば排他的な晴明が、まさか朱夏以外に弟子を取っているとは予想もしていなかったこともあり朱音は驚いたのだ。しかし――。

 

「あの、えっと……。ライドウ、さん? 弟子と言っても私はあくまで戦い方とかを教えてもらってるだけで。悪魔召喚師としては――」

 

「……はじめまして、祠堂圭です! 私もみきと一緒に色々と教えてもらってます! ……悪魔召喚師関連のこととか!」

 

[……嘘でしょ]

 

 ただでさえ信じられない情報を受け狼狽していたのに、さらなる圭からの追撃で呆然としてしまう。

 だが、すぐに気を取り直すと――。

 

[ハル兄、後でお話。聞かせてもらうから……]

 

 どこか凄みを感じさせる気迫で圧をかける朱音。その圧に晴明は彼女に見えていないにも関わらず、かくかくと首を縦に振っている。

 あまりに情けない様子だが、美紀と圭も朱音の圧にさらされ、気付かなかったのが不幸中の幸いだった。

 三人ともが朱音に気圧されてまともに会話にならない状況。それでは話が進まないため、バロウズが朱音に質問する。

 

《それでライドウちゃん。今回の通信は何の用事だったのかしら?》

 

[あっ……! やばっ! バロウズありがとう、思いっきり脱線してた!]

 

 バロウズの指摘に、あまりにも衝撃的すぎる情報を得た朱音は、話が完全にあらぬ方向へ脱線していたことに気付き、礼を言う。

 そして、彼女は空気を払うように、咳払いをひとつ。畏まった口調で晴明に話し掛ける。

 

[ぅんっ! ……悪魔召喚師-蘆屋晴明に、十七代目葛葉ライドウとして通達します]

 

 畏まった朱音の態度に、晴明も何かある。と理解して居ずまいを正す。

 その気配を感じ取った朱音は、通信の本題。とある指令について通達する。

 

[――今後、丈槍由紀さんの護衛を最優先してください。これは引き継ぎの人間が来るまで最優先事項となります]

 

「ちょっと待ってくれ! 由紀さんの護衛?! しかも最優先だと! どう言うことだ! それに引き継ぎ――」

 

 朱音からもたらされた指令に驚き、矢継ぎ早に問い質そうとする晴明。しかし、その勢いも次の朱音の言葉で萎むことになる。

 

[――いと畏き御方からの勅です。良いですね?]

 

「……!! 了解、した。では、引き継ぎの者は?」

 

[それは、取り急ぎ九頭竜家現当主、【九頭竜(くずりゅう)天音(あまね)】が向かっています。……そして私も、諸々のことが終わり次第合流します。そのつもりで]

 

「……はぁっ!?」

 

 交代人員がまさかの面子に驚愕する晴明。

 それもそうだ、何と言っても一地方都市に送るには、あまりにも過剰戦力過ぎた。

 今代の葛葉ライドウは言うの及ばず、九頭竜家の現当主。九頭竜天音もまた中級神魔程度――とは言っても、それでも各神話に登場する主神クラスではない神魔たち――であれば労せず倒せるだけの地力を持っている。

 即ち、この蘆屋晴明、葛葉ライドウ(朱音)、九頭竜天音の三人で、やろうと思えば一つの小国くらいなら攻め落とせるだけの戦力となるのだ。

 

 それを、ただ一人の護衛のためだけに使う。

 それがどれだけ異常な事態なのか、わかるというものだろう。

 だからこそ晴明も驚愕したのだ。

 そんな晴明をよそに朱音は念を押すように話し掛ける。

 

[ともかく、良いですね! 任せましたよ! ……ハル兄、元気で。無事でいてね]

 

 そう言って朱音との通信が終了する。

 そのことにも気付かず、晴明は呆然とした様子で。

 

「……一体、何がどうなってやがる」

 

 と、呟くのだった。

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