DDS 真・がっこう転生 MythLive   作:想いの力のその先へ

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第七十二話 避難

 

第七十二話 避難

 時は少し前、大僧正が朱夏たちの前に現れる以前まで遡る。

 急な悪魔たちの襲撃を受けた桐子たちは、突然現れた悪魔たちを前に慌てた様子の朱夏の手によって逃がされ、一応の難は逃れていた。

 しかし、あくまでそれは敷地内で悪魔に襲われなかっただけの話。

 まだまだ予断を許さない状況には変わりなかった。

 事実、バイオハザードによって日常は終わっているものの、それでもまだ平和な状態からいきなり生命の危機に、それこそいつ悪魔に襲われて死ぬかもしれないという状況に陥ったことで、これまで戦いとは無縁だった桐子は多大なストレスを感じていた。

 

「トーコ、大丈夫……?!」

 

 そんな桐子の様子に晶が心配そうに声を掛ける。

 彼女自身もそこまで余裕があるわけではない。が、一応これまでゾンビ相手に奮闘していたこともあって桐子よりは多少ましな状態だった。

 晶の問いかけに、桐子は顔を青くしながらも気丈に振る舞う。

 

「あ、あはは……。だいじょぶ、だいじょぶ。いくら僕がインドア派といっても、これくらいは何とかなるよ」

 

 端から見れば完全な強がり。それでも桐子は、晶に心配をかけまいと気丈に振る舞っている。

 しかし、晶も彼女が強がりを言っていることがわかるため、はいそうですか。と納得するわけがない。

 なおも言い募ろうとする晶。

 だが、そこで待ったの声がかかる。

 

「おい、お前ら。喋ってる暇はねぇぞ。……お客さんだっ!」

 

 キャップ帽を被り、無精髭を生やした青年。城下隆茂の言葉に一言文句を言ってやろう。と彼の方を向く晶。

 しかし、その視線の先には警察の制服を着たゾンビと思しきモノがいた。

 

「……ひっ!」

 

 それを見て思わず悲鳴を上げる晶、と彼女と同じようにゾンビ警官を見た桐子。

 それも仕方がないことだった。

 彼女らに、というよりも一般人にとって警官とは平和の象徴。彼ら、彼女らがいたからこそ平和な日常が守られていた、というのが世間一般的な常識だ。

 その警官が、平和の担い手がゾンビとして、平和を脅かす者として現れたのだから……。

 しかして、そのまま怯えるだけの彼女らではない。

 そもそもにおいて、この場には彼女らだけではなく男性たちもいるのだから。

 

「おりゃあっ――!!」

 

 その男性のうちの一人、隆茂は咄嗟に腰にぶら下げていたバールを抜くとゾンビ警官の頭に殴りつける。

 それでゾンビ警官を排除し、安全になる――筈だった。

 

 だが、ゾンビ警官を殴った筈の隆茂は手応えに違和感を――。

 

「なっ、硬てぇ――」

 

 なんとゾンビ警官は未だに活動をやめない、どころか怪我らしい怪我すら負っていなかった。

 本来の、今まで現れた学園生活部が言うところのかれらであれば、柘榴のごとく割れて問題なく葬れた一撃であったにも関わらずに、だ。

 そこで隆茂は違和感に気付く。

 

「――――」

 

「な、なんだ……?」

 

 かれらが、ゾンビが何かを喋っているような気がする。

 そんなことはあり得る筈がないのに。

 少なくとも、かれらと呼ばれるようになったゾンビは、生物としてはともかく人として完全に終わっている筈なのに……。

 それなのに――。

 

 その時、がしり、と殴られたバールを握るゾンビ警官。

 そのことに驚いた隆茂は、ゾンビ警官の手からバールを引き抜こうとする。

 

「こ、この――」

 

 しかし、直後に隆茂にとって驚愕と、そして恐怖が襲いかかってくることになる。

 

「コ、公務――」

 

「……な! ほんとに喋り――」

 

「公務執行妨害ハ、死刑死刑死刑ィィィィィィィィ!」

 

 そう言いながら発狂したかのように哄笑するゾンビ警官。

 そう、このゾンビ警官はただのゾンビでも、ましてやかれらでもなかった。

 その正体は――。

 

 ――屍鬼-ゾンビコップ、即ち悪魔だった。

 

 

 

 かれらの一種だと思っていたゾンビの豹変に恐怖で竦む隆茂。

 そんな隆茂にゾンビコップは腰に下げていた拳銃を――。

 

「こ、このぉ!」

 

 隆茂に拳銃を突き付けようとしたゾンビコップを見たもう一人の、小柄な男性。高上聯弥は手に持っていたボウガンで反射的に狙撃する。

 

 ――構え、発射。

 

 ボウガンの矢は空気を切り裂く金切り音を響かせながら、標的であるゾンビコップへ着弾!

 構えようとした拳銃を弾くことに成功した。だが、それでもゾンビコップ自体にはダメージは入っていないようで、緩慢な動きで高上に振り向く。

 

「グゥゥ――」

 

 そして威嚇するように唸るゾンビコップ。そのまま握っていたバールを放すと、邪魔した高上の方へと向かう。

 一方、ゾンビコップが自身の方へ向かってきていることがわかった高上は、得物であるボウガンへ次の矢を装填していた。

 しかも、その一瞬ゾンビコップから視線を外していたことが災いし、接近を許してしまっていた。

 

「コウくんっ!」

 

 篠生の叫び声でようやく事態を把握した高上。しかし、それだけで危機を回避できたのであれば、そもそも退魔組織など必要なかっただろう。

 

 ――人と悪魔には隔絶した存在の格、というものがある。

 

 隆茂の一撃が痛打とならなかったのも、高上の矢が通用しなかったのも、言ってしまえばそれが原因だ。

 以前、力量の差を表現するために、愚者や覚醒者などの用語を用いたことを覚えているだろうか?

 もし、人が人のまま悪魔を撃退できるなら、そのような表現方法は必要なかったし、そもそも薬物などで人体を強化したり、厳しい修行など必要なかった。

 しかし現実は、人は悪魔を退治、調伏するために(わざ)を磨き、時には非人道的な行動にすら手を染めてきた。

 それが悪魔を倒すため、人を、大切なものたちを守るために必要だったから。

 

 だが、今ここにいる者たちはそのどれにも該当しない。

 そして、悪魔召喚師(蘆屋晴明)ペルソナ使い(神持朱夏)もいない。

 端的に言えば、詰み。といえる状況()()()

 それでも――。

 

「このぉ……!」

 

「おぉぉぉぉぉぉっ!」

 

 はい、そうですか。と諦めれる訳がない。

 男性陣の最後の一人。リーダーである頭護貴人と隆茂は今一度ゾンビコップを打ち倒すために己が武器を振るう。

 倒せるか、倒せないかじゃない。倒せなければ全滅するしかないのだから。

 そして、それが二人に火事場の馬鹿力とでもいえるほどの爆発力をもたらした。

 

 だが、それも先ほどの焼き直しでしかない。

 確かに貴人は釘バットで、隆茂はバールを力の限り打ち据えた。

 今度は先ほどとは違い、成人男性二人で打ち据えたのだ。

 確かに手応えはあったのだ。しかし――。

 

「ガァァァァァ!」

 

 ゾンビコップが吠えると同時に肉体が膨張し、己が肉体を傷付けようとした得物を吹き飛ばす。

 確かに手応えはあった。しかしそれはゾンビコップを、悪魔を怒らせるだけの、むしろ悪手といえる行動となってしまった。

 このままでは全滅を待つだけ。

 それも仕方ない。それが自然界ではもっとも古く、ここ、巡ヶ丘の新しい日常。弱肉強食という名の日常なのだから……。

 

 ――リィィ……ン、リィィィン。

 

 しかし、そうはならなかった。

 どこからともなく聞こえてくる鈴の音。

 それを聞いたゾンビコップが、なにかに怯えるように動きを止めたから。

 彼ら、彼女らにとってなぜあの化物(悪魔)が動きを止めたかわからなかった。

 

 しかし、これはチャンスだ。

 鈴の音が聞こえたと同時に動きを止めた、ということはその音がなる方向に行けば助かるかもしれない。

 それを直感的に理解した晶は叫ぶように告げる。

 

「みんな、逃げるよ! 音の方に、早く!」

 

 その言葉を聞いた皆が死に物狂いで走り出す。

 それしか活路がないと理解して。

 

 

 

 そのままバタバタと走る一行。

 

 ――リィィ……ン、リィィン。

 

 少しづつ、少しづつ鈴の音が近づいてきたのを感じた一行は、これで助かるんだ。と安堵する。

 ……なぜ悪魔が、ゾンビコップが追い掛けてきていないのかも考えもせずに。

 

 ――チリィィィン、チリィ……ン。

 

 鈴の音が聞こえてくるとともに何かを感じる。まるで本能が全力でここから逃げ出せ、と警鐘を鳴らしているようだった。

 一行はすぐにその理由を、嫌という程に理解した。

 目の前にゾンビコップと似たような、そしてあらゆる意味で隔絶した存在が見えてきたから。

 

 ――()()は黄色の直綴をまとった僧侶だった。

 ――()()は干からびた木乃伊だった。

 ――そして、()()は濃密な死の気配をまとった宙に浮かぶ異形だった。

 

 ――その異形の名は、魔人-大僧正。死をまとい、死を救済とし、死を授ける、死の化身だった。

 

 その姿を見た大学生組は奇しくも同じ考えに至る。

 あぁ、ここまでなんだ。……最早、死ぬしか道がないんだ、と。

 それほどに大僧正のまとっていた死の気配は濃密だった。

 無意識のうちに、生を、生きることを諦めるくらいには……。

 

 そんな無意識のうちに諦めてしまった大学生たち。

 その彼らを見た大僧正は、くつくつと笑いつつ話し掛ける。

 

「ふふ、そう怖がるものでもあるまいよ若人たちよ」

 

「……ぇ!」

 

 まさか、異形の化物が、大僧正が理知的に話し掛けてくるなどと思ってもみなかった桐子は驚きの声を上げる。

 彼女の反応を予想していたのか、大僧正は驚くこともなく桐子に、唯一反応を返した彼女へ問いかける。

 

「ちとつかぬことを聞くが、お主たち神持朱夏という女子(おなご)を知っておるかの?」

 

「……アヤカぁ?!」

 

 大僧正の口から出た友人の名に素っ頓狂な声を上げる桐子。

 そんな桐子のリアクションに、晶はこの馬鹿! と言いたくなりながら、咄嗟に彼女の口を塞ぐ。

 

「ふごっ――! もがぁ……」

 

「トーコ、アンタねぇ……!」

 

 そこから小さい、大僧正には聞こえない声量で、怪しいやつに朱夏を知ってると暴露するやつがあるか! と怒鳴る晶。

 しかし、彼女らの一連の行動で朱夏を知っていることはバレバレであり、大僧正は控えめに笑いながら話を続ける。

 

「くく、なるほどのう。お主らがあの()が言っていた娘らか」

 

『……え?』

 

 彼が発したどこか優しげな音色を感じた言葉。それに困惑した桐子と晶。

 他の面々。男性陣たちや、今まで警戒するように沈黙を保っていた篠生もまた、突然の展開に混乱している。

 そんな時、また別の場所から聞き覚えのある声が――。

 

「おぉい! お前ら無事……って、お坊さんやないか!」

 

 その声を聞いた晶は反射的に声の主を見やる。

 そこには足止めとして、一時的に離れ離れになっていたDr.スリルと助手をしていた青襲椎子。それに悪魔が襲撃した当時、彼らの方についていった喜来比嘉子、稜河原(りょうかわら)理瀬(りせ)の姿があった。

 仲間の、友人たちの無事な姿を見て安堵する晶。だが、そこでスリルが聞き捨てならない言葉を吐いていたことに気付く。

 

「ちょっとスリルさん! あなた、この……。えっと、この、人(?)を知ってるの?!」

 

 その晶の言葉にハッとした様子でスリルを見る面々。

 先ほど、確かにスリルは大僧正に対して知人であるかのような振る舞いをしていたのだから、彼らにとっては驚きもひとしおだろう。

 

 彼らの驚きに、何を驚いているんだろう、と首を傾げるスリル。

 そしてすぐに彼が木乃伊姿、悪魔としての姿を曝していることに気付き、自身が大分あちら(裏世界)側に染まっている事実を理解した。

 そして彼は苦笑しながら大僧正について話す。

 

「あぁ、うん。この坊さんはハルやんの仲魔。わかりやすう言えば良い木乃伊さんや」

 

「良い木乃伊さん……」

 

 スリルが言う良い木乃伊。というパワーワードにより困惑を深める一行。

 それこそ、背後に宇宙を背負った猫が幻視できるほどの困惑ぶりだった。

 彼らの困惑ぶりを見て大僧正は呵呵大笑する。

 

「ふははっ、確かに、確かにそういった意味では間違いないがのう!」

 

 そしてしばし笑っていた大僧正だが、不意に真面目な音色で話し出す。

 

「……拙僧の目的は、とある娘御のお願い事での。お主らを安全な場所、巡ヶ丘学院高校まで連れていくことだったのじゃが――」

 

「巡ヶ丘高校……?! それって確か、アヤカの母校、だっけ」

 

 桐子が巡ヶ丘高校の名にそうこぼす。

 大僧正もまた、それが正しいとばかりに首肯した。

 だが、その後大僧正は頭を振り……。

 

「じゃが、どうもの。そういう訳にもいかんようじゃ」

 

 そう言いながら大僧正はとある一点を、聖イシドロスがある方角を見る。

 そして、彼がイシドロスを見るのと同時に、そこからとてつもない破砕音と、天まで届きそうなほどの砂煙が上がる。

 桐子たちは知る由もないが、その頃ちょうど朱夏がフォルネウス、デカラビア二柱と戦闘を開始したところだった。

 そのことを感じ取った大僧正は彼女らへ告げる。

 

「お主らはこのまま巡ヶ丘高校へ向かうが良い。道中は掃除しておるし、スリルよ」

 

「んぁ?」

 

「お主の最高傑作、造魔がおれば安全確保なぞ造作もなかろう?」

 

「……はっ、ワシを誰だと思っとるんや。んなもん朝飯前やで!」

 

 大僧正の問いに自信満々な様子で答えるスリル。

 そのスリルの答えに満足そうに頷くと。

 

「さぁ行けぃ、若人たちよ!」

 

 そう桐子たちに激励の言葉を投げ掛けるのだった。

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