DDS 真・がっこう転生 MythLive   作:想いの力のその先へ

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第七十三話 極めて近く、限りなく遠い世界

 朱夏とジャンヌがフォルネウスたちと戦い、桐子たち大学生組が巡ヶ丘学院高校へ避難している頃、学園生活部部長、丈槍由紀は……。

 

「お爺ちゃん、大丈夫かな……」

 

 大学生たちを助けるため、単身学園の外へ向かった大僧正の身を案じていた。

 そう、大僧正がお願いされた。と語ったあの娘。それは彼女、由紀のことであった。

 

 しかし、由紀は大学生たちのことは知らない――かろうじて朱夏のことだけ、ペルソナ使いだと言うことだけを知っている――筈だった。

 その彼女が、なぜイシドロスの、大学生たちのことを知っていたのか?

 それは少し前、由紀と悠里がイゴールの招待を受け、ベルベットルームへと赴いたときまで遡る。

 

 

 

 

 

 由紀と悠里に対して一通りの説明を行ったイゴール。

 

「――と、これが一通りの説明となります。ご理解いただけましたかな?」

 

「……つまり、私は基本ベルベットルームに来ることは出来ないし、扉を視認できない。それにペルソナの付け替えも不可能、なんですね?」

 

「左様でございます」

 

 イゴールの説明を端的に話した悠里に対して、彼もその認識で相違ない。と肯定する。

 お互いの認識、その確認を終わらせた二人の間に沈黙が訪れる。

 そのまましばらく沈黙が、どこからともなく聞こえてくる荘厳なピアノの音のみが場を支配する。

 そこで一人が沈黙を切り裂くように話し掛ける。

 

「……あの、由紀さま。少しよろしいでしょうか?」

 

「あっ、うん。どうしたのリディアさん?」

 

 リディアの問いかけに大丈夫だと答える由紀。

 彼女の返答を聞いたリディアは、彼女に一つの確認を取る。

 

「由紀さまは、巡ヶ丘の地に悠里さま以外のペルソナ使いがいることをご存じですか?」

 

 リディアの急な問いかけ。それに首を傾げる由紀。

 

「えっと、ペルソナ使い。りーさん以外の……?」

 

 そういってうぅん、と少し悩む由紀。そして、彼女はかつて慈と晴明の会話を思い出す。

 

「あっ、確か……。神持朱夏、さんだっけ。はーさんの弟子の」

 

「ええ、そうです。……良くご存じでしたね」

 

 由紀の答えに感心したように返すリディア。

 そして彼女はもう一つ、由紀にとって聞き捨てならない言葉を口にする。

 

「……では、今彼女が命の危機に瀕していることはご存じですか?」

 

「…………え?」

 

 流石にその問いかけは想定外だったようで、由紀は慌てた様子でどう言うことか。と問いかける。

 

「ちょっ、リディアさんどういうこと!」

 

「流石にご存じありませんでしたか……」

 

 そうポツリとこぼしたリディアは、今。というよりも()()でイシドロスに何が起きるのかを説明する。

 

 ――イシドロスが悪魔の襲撃を受けること。

 ――その中にはフォルネウス、デカラビアといった中級、ないしは上級に分類される悪魔が混じっていること。

 ――そして、仮にそれらを退けたとしても……。

 

 そこまで聞いて由紀は放心する。

 なんだ、それは。そんな理不尽があり得るのか、と。

 その時、同じく話を聞いていた悠里が反論するようにリディアに問いかける。

 

「でも、リディアさん。なぜそんなことがわかるんです? 貴女の話し方では、まるで()()()()のように聞こえますが……?」

 

「……! そう、そうだよ。リディアさん! 何でそんなことがわかるの?!」

 

 悠里の言葉に由紀も追従するように詰問する。なぜ未来の事がわかるのか、と。

 もっとも、リディアにとって彼女たちが疑問に思うことは想定の範囲内であり、即座に答えを返す。

 

「ええ、そうでしょうね。お二方の疑問はもっともです。ですが、その疑問。ここ、ベルベットルームに於いては無意味なもの」

 

「無意味……。それってどういう――」

 

「時に、私や我が主がお客様を、由紀さまたちをお迎えした時に告げているお言葉を覚えていますか?」

 

「それが一体、なんの関係――」

 

「それがお二方の疑問の答えになるのです」

 

 リディアの疑問の答えになる。という言葉を聞いて、一向に答えを話さないリディアにイライラしつつも、由紀はかつてのイゴールが言った言葉を思い出そうとする。

 

 ――わたくしの名はイゴール。夢と現実、精神と物質の狭間にあるこの場、ベルベットルームの主を致しております。

 

「夢と現実、精神と物質の狭間……?」

 

 イゴールの言葉、そのうちで今回の事に関係ありそうな言葉を半ば無意識に呟く由紀。

 そんな由紀に、リディアは生徒が答えにたどり着いたことを喜ぶように破顔しつつ肯定する。

 

「ええ、そうです。由紀さま。ここは夢と現実、精神と物質の狭間にある場所なのです」

 

 そこまで答えたリディア。そして、今度はかつて悠里に話した事柄の補足説明を始める。

 

「そして、悠里さま。貴女様が最初にここへ来られた時、ここに精神のみで訪れること。その間身体は放心状態になるので邪魔されないように誘導して欲しい。と言ったことを覚えておられますか?」

 

「ええ、まぁ……。それが?」

 

「実は、あの時伝え忘れていたのですが。ここと現実世界、二つの世界は時の歩みが違うのです」

 

「……? えっと、それはつまり……。ここで長々と話しても、現実では数分しか経っていない、ということですか?」

 

「その認識で相違ありません。それと同時に、ここは先ほどから言っているように、現実と夢、精神と物質の狭間にある場所。即ち、()()()()()()から逸脱した世界」

 

「それってどういう……?」

 

「今、このベルベットルームには由紀さま以外にも何人か、お客様として持て成している方々がいます」

 

 リディアから急に自分たち以外にも客人がいる、と言われ困惑する二人。

 しかし、次に彼女が語った内容で困惑することになる。

 

「お一人は2009年、もう一人は2010年。他にも1996年、1999年、2016年のお客様がおられますね」

 

「ふぇぇ。そんなにワイルドの()()がいたんだねぇ」

 

「いえ、この方々は由紀さまの先輩というわけでは……」

 

「え……? でも、私よりも前にペルソナに覚醒したんだよね?」

 

()()()()ではそうですね」

 

 含みのあるリディアの表現。それと、先ほど彼女が語ったあらゆる法則から逸脱した世界。という言葉の意味を理解した悠里。

 彼女は半ば確信しつつも、確認の意味も込めてリディアに問いかける。

 

「……! もし、かして……。ここは、ベルベットルームは、今言ったすべての()()()()()()()いるんですか?!」

 

「……へ?!」

 

 悠里の台詞に、由紀もようやく気付いたようで驚きの声を上げる。

 しかし、彼女の問いかけに対してリディアは首を横に振って否定する。

 そのことにさらに困惑する二人。たが、次に続いたリディアの言葉に、さらなる驚愕を覚えることとなる。

 

「確かにあらゆる年代に連なっているのは事実です。しかし、同時に由紀さまたちがあの方たちに出会えないのもまた事実。――なぜなら、あの方たちがいる世界とこの世界は、極めて近く、限りなく遠い世界なのです」

 

「……はい?」

 

「……ちょっと待って。それって、つまり並行世界ということですか?!」

 

 リディアの、他のワイルドたちが並行世界に存在する。という言葉に驚く二人。

 特にすぐ理解した悠里は驚きの声を上げていた。

 彼女にとって正直な話、今の話は与太話であれば、とも思うが、今までのリディアの発言からそれも否定されてしまう。

 もっとも、悠里側からすると彼女が本当の事を話しているのか、あるいは嘘を言っているのか判断が出来ないのであまり意味のない考えではあるが……。

 だが、次なるリディアの語りで、それが事実であることが確定的となる。

 

「ええ、そうですね。それに……。悠里さまに由紀さま。お二方は瀬田区御影町、珠閒瑠市、巌戸台港区、八十稲葉市などの地名に心当たりはありますか?」

 

 彼女の、リディアの問いかけに否定するように首を横に振る二人。

 少なくとも二人ともに彼女が告げた地名に心当たりはなかった。

 さらに言うと瀬田区御影町、巖戸台はともに東京の地名であることを告げられると、二人は最早二の句を告げられなくなる。

 その事で二人の理解が得られた、と感じたリディアは話を進める。

 

「と、ここまでが前提の知識となります。もっと詳しくお知りになりたい場合、そちらにおられる蘆屋晴明氏に、アカラナ回廊についてお尋ねすると良いでしょう」

 

「アカラナ回廊、ですか?」

 

「ええ、そうです。かの回廊とここ、ベルベットルームはほぼ同じ法則。もっと正確に言うなれば、アカラナ回廊の一角に存在しますので」

 

 そこまで言ってこほん、と咳払いするリディア。

 そして彼女は本題を話し始める。

 

「それで私たちが、なぜ未来の事を知っているか、ですが。……正直、ここまで言えば理解していただけているかと思います」

 

「……つまり、ここは未来も過去も、そしてあらゆる可能性を内包した世界。だから、未来の事を知っていてもなんらおかしくない」

 

「ええ、その通りです」

 

 どこか思い詰めた表情を浮かべ、そう述べた悠里に対し、リディアは良くできました。と、生徒が正解したことを喜ぶように拍手した。

 その彼女の行動に、悠里はどこか慈と同じ雰囲気を感じ取って、嬉しそうな、そして恥ずかしそうに顔を赤らめる。

 一方、由紀はそんな悠里を見て、面白くなさそうに頬を膨らませていた。

 

 そんな対照的な二人を見て、リディアはくすり、と薄く笑う。

 その顔がまた慈を彷彿とさせ、由紀は彼女が幸せそうならいっか。と微笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 その後、由紀たちは朱夏の危機について仲間たちと相談する。と言ってベルベットルームを後にした。

 彼女たちを見送ったイゴールとリディア。

 部屋の中に流れる荘厳な音楽と歌声を聞きながら無言の時間が過ぎていく。

 が、その時、イゴールがどこか難しい表情を浮かべていたリディアに話し掛ける。

 

「……時に、リディア。本当に良かったのですかな?」

 

「……」

 

「貴女が望めば、彼女たちの手伝いくらい――」

 

 そこまで言ったイゴールに対して、リディアは彼の台詞を遮るように語る。

 

「我が主。貴方様には恩がありますし、なにより私の事を慮っていただいているのも理解しています。ですが――」

 

 そこまで言って彼女は真剣な、思い詰めた雰囲気をもって語り掛ける。

 

「――私は()()()()()()()です。あの娘たちが今を懸命に生きているように、私は志半ばで果てた。ただそれだけ」

 

 その言葉とともに彼女の表情が悲しみに彩られる。

 

()()()()()が現世に介入するべきではないのです。それになにより――」

 

 ――あの世界には、()()()がいますから。

 

 そう、寂しそうに彼女は呟くのだった。

 

 

 

 

 

 その後、由紀はリディアから聞いた情報をもとに皆と相談。

 そこで朱夏の事を知っている大僧正が自ら救援に向かうと告げる。

 それがイシドロス大学に大僧正が現れた真相だった。

 

 由紀にとって、なぜ大僧正が救援に立候補してくれたのかはわからない。

 しかし、彼が立候補してくれたことで朱夏の、めぐねえ()の元生徒。自身にとって先輩が助かる可能性が高まるのは確か。

 そして、慈自身もある程度ともに過ごしたことで大僧正を信用したのか、安堵の表情を浮かべていた。

 由紀としてはもっとも優先したいめぐねえのフォローをしてくれた今回の大僧正の行動は、感謝してもし足りないし、そんな彼の無事を祈るのも道理だ。

 だからこそ、彼にも、朱夏にも無事に来て欲しいが……。

 

 ――その時、急に地面。というよりも空間自体が振動したかのように、巡ヶ丘高校全体が揺れる。

 

 急な振動に、由紀は転ばないように壁にしがみつく。

 そして、揺れは一瞬だったようで、あっという間に収まる。

 だが由紀の心の中には、かつて胡桃の家で感じたものと同じ焦燥感が燻っていた。

 その焦燥感に突き動かされるように由紀は衝撃が起きたであろう場所を見るために窓へ駆け寄る。そこには――。

 

「なに、あれ……!」

 

 そこには今まで見たことがない異常な光景が。

 

「肉の、柱……?」

 

 巨大な、天まで届きそうな円柱状の肉の柱がそびえ立っていた。

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