DDS 真・がっこう転生 MythLive   作:想いの力のその先へ

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幕間8 転生者

 どこまでも突き抜ける蒼穹。

 その中で二柱の神性、神々しい輝きを放つ存在が揃って虚空を見つめていた。

 その虚空には巡ヶ丘市、イシドロス周辺に顕現した魔神柱が写し出されていた。

 それを見た緑色の髪色に褐色の肌、横笛を持った男性神。魔神-クリシュナが楽しそうに弾んだ声を上げている。

 

「ふぅ、これでとりあえず実験は成功かな?」

 

 そう言ってクリシュナはもう一柱の神性の方に振り向く。それは多神連合の首魁にしてこの場の主、魔神-ヴィローシャナだった。

 ヴィローシャナは鷹揚に頷きながら答える。

 

「うむ、これで一歩前進と言える」

 

「しっかし、あの醜い姿はなんなんだい?」

 

 ヴィローシャナの答えを聞いたクリシュナは、空間に写し出された魔神柱を見て、どこか呆れた表情を浮かべる。

 

「あれこそが人理とやらに刻まれた怪物。ヒトが討ち滅ぼすべき悪、人類悪と呼称されるものの断片」

 

「へぇ、人類悪。でも、その字面だと人間の悪い面に聞こえるけどね」

 

 そう言いながら肩を竦めるクリシュナ。

 そんな彼を諭すようにヴィローシャナは声をかける。

 

「善も悪も、光も闇も所詮表裏に過ぎぬ」

 

「ま、そりゃそうだ」

 

 ヴィローシャナの言葉に然もありなん、と頷くクリシュナ。

 そして彼は疑問に思ったことを問いかける。

 

「それで結局、あれにはどんな意味があったんだい?」

 

 クリシュナの質問に、ヴィローシャナはくく、と薄く笑いながら告げる。

 

「全ては、ふたたび我らが人の世に降臨するために試金石よ」

 

「へぇ。……で、その心は?」

 

「人理を再現し、用い、そしてそれをアマラ宇宙へと組み込むため」

 

「そう、それ。人理、だっけ? 結局それもなんなんだい?」

 

 人理について知らないクリシュナはさらに質問する。

 その質問に答えるべくヴィローシャナは口を開く。

 

「人理とは、人類の歴史という名の航海をより良く導くための航海図。即ち、人の繁栄を司る(コトワリ)

 

「ほう、それはそれは……」

 

 ヴィローシャナの答えを聞いたクリシュナは、驚いたような、感心したような顔を見せる。

 そして、ヴィローシャナの意図が読めたクリシュナは納得がいったように何度も頷いている。

 

「なるほど、なるほど。……つまり、君は人理を己に、()()に組み込むことによって()()()()()()()()()()()ことが()()になる。ということにしようとしてるんだね?」

 

「――然様」

 

 クリシュナの問いを肯定するヴィローシャナ。

 そう、彼らの。多神連合の目的、その一つは。

 

 ――アマラ宇宙に人理を組み込むことによって、擬似的に世界を神代の世界へと回帰させること。

 それによって、聖書の神。唯一神が現れる前、かの存在が現れる前の世界。ヒトと神がともにあった頃の世界に戻し、かつての繁栄を取り戻すことだった。

 そして、その中にはかつての姿。聖書の神や一神教により悪魔に堕とされる前の姿を取り戻すために参画したものたちもいる。

 魔王に堕とされたベルゼブブ(バアル)しかり、アスタロト(イシュタル)しかり、だ……。

 

 しかし――。

 

「そもそも、どうやってその人理とやらを取り込むんだい?」

 

 そう、人理とは本来この世界。アマラ宇宙には存在しない概念。

 それをどうやって取り込むというのか?

 その事に疑問を思ったクリシュナはさらに問いかけた。

 

 そして、その答えとは――。

 

「それこそが()()()。……その正体こそ、あやつ。()()()()なのだ」

 

 ヴィローシャナから放たれた晴明の名。

 それを聞いたクリシュナは思案顔になる。

 その後、なにか気付いたのか、ハッとしと表情になると……。

 

「まさか……。なるほど、そういうことか!」

 

 なにやら納得がいったようで手を叩いていた。

 そして彼は答え合わせをするように、自身の考えを述べる。

 

「彼は転生者。即ち外の理を持つ者であり、そして――」

 

「きゃつの知識には人理が、他にも数多くの()()()()()()()()()()がある」

 

「そう、そうだ。そしてそれをアマラ宇宙の人間が持つ能力(ちから)。観測の力で具現化すれば……!」

 

「然様、即ちやつが、蘆屋晴明こそがこの宇宙に人理を敷く鍵よ」

 

 そうだ、この二柱が言うように、蘆屋晴明(転生者)こそがこの宇宙に人理という()を打ち込む存在。

 

 ――かつてアルノー・鳩錦(聖霊)が晴明のことを産まれたことが罪、と言っていたことを覚えているだろうか?

 その理由がこれ。謂わばアマラ宇宙にとって異物であり、そして崩壊させかねない劇薬。それが、蘆屋晴明という存在なのだ。

 

 そして現行世界(己の天下)が崩壊する可能性を齎す存在を、仮にも唯一神と呼ばれるあらゆる生命、世界を創造したと嘯く存在が、座して見逃せるわけがない。

 それが聖霊。アルノー・鳩錦が晴明に敵対的な感情をぶつける理由だった。

 

「……ゆえに今回の企みが成功したのは僥倖、これで人々を救う手立てが増える、と言うことです」

 

 どこからともなくクリシュナでも、ましてやヴィローシャナでもない第三者の声が聞こえてくる。

 その声を聞いて辺りを見回すクリシュナ。

 対するヴィローシャナは堂々とした様子で新たなる声。彼にとってクリシュナと同じく、同胞とも言うべき存在へと声をかける。

 

「来たか。――()()()よ」

 

 彼の言葉とともに空間が破裂したかのように衝撃が奔り、次の瞬間――。

 

「ええ、ええ。これであまねく衆生を救えるというもの」

 

 なにもいなかった筈の空間に、いつの間にか巨大な、そしてどこかふくよかな体躯をした仏像の悪魔が現れる。

 彼こそが、今より遥かなる未来。五十六億七千万年後に世界を救うとされる菩薩。

 

 魔神-ミロク菩薩だった。

 

 ミロク菩薩は感極まったように高らかに宣う。

 

「そう、()()()()に存在する我らは失敗したようですが、我らは違う。果てにある救世も成し遂げて見せましょう」

 

 そのミロク菩薩の意気込み、彼の宣言にヴィローシャナも同意するように首肯する。

 

「そうだ、それ故に我らも早く()()()姿()をした取り戻さねばならぬ」

 

 と、ヴィローシャナもまた己の大望を口にする。

 

 ……ヴィローシャナが、宇宙そのものである大日如来が本来の姿、と口にするのは違和感があるかもしれない。

 

 しかし、実は彼にもまた別の側面、とでも言うべき姿が存在する。と、言うよりも神々自身にも各地に伝承が伝わる際に性質が変わり、別の信仰を、神格を得た柱たちも少なからず存在する。

 例えば日本に於いて七福神、福の神、商売繁盛の神として広く信仰されている大黒天。

 かの神格も元を辿ればヒンドゥー教、その中でも特に有名な破壊神。シヴァへと行き着く。

 

 このように、伝承が伝わる際に変化が、もしくは別の信仰を取り込むことによって変質する神も存在するのだ。

 

 そしてヴィローシャナの場合はどうなのか?

 かの神にも様々な側面が存在する。

 アスラ(阿修羅)族の王としての側面を持つヴィローシャナ(ヴァイローチャナ)に始まり、より戦神としての側面が強まったアスラおう。

 また、日本の神道と仏教が融合した概念。神仏習合に於いては天照大神とも同一視されることもある大日如来(マハーヴァイローチャナ)

 そして、拝火教とも称されるゾロアスター教。その中に語られる最高神にして光の神(太陽神)アフラ・マズダー。

 

 さらに言えばミロク菩薩。

 彼もまた七福神の布袋、インド神話のミトラ(ミスラ)と同一視されることがある。

 

 このように様々な神格を持つヴィローシャナであるが、彼が目指す回帰は魔神-アフラ・マズダー。

 かの最高神に回帰することによって、その力で世界を救済する。それがヴィローシャナの目的だった。

 そして晴明の魂を特異点、楔として用いることによってこの世界へ新たな概念(人理)を浸透させ、最終的にかつての世界(真・女神転生4f)の多神連合が失敗した唯一神の宇宙の破壊ではなく、新たなアプローチによる世界の、人々の救済。

 そのために手段として用いられたのが今回の実験。さらに言うなれば蘆屋晴明の転生であった。

 これら複数の目的の達成のため、多神連合は暗躍していたのだ。

 

 そこでクリシュナは、ふとなにかに気付いたように顔を上げる。

 

「そういえば……。彼の仲魔の一部、カーマたちの姿が違うのも、彼の魂が原因なのかい?」

 

「然様、幻魔-クーフーリン。外道-ジャックリパー、女神-スカアハ、秘神-カーマ。それに英雄-ジャンヌダルク。彼の者らの姿は人理を敷く世界に於いて、英霊と呼ばれる者たちの写し身」

 

「なるほどねぇ……。ヴィローシャナ、君が以前あいつを神殺しとして使わない。と言った時は疑問に思ってたけど、そもそも神殺しとして用いなくともなにも問題ない。ということだったんだね。納得したよ」

 

 得心したように笑顔を浮かべながら喋るクリシュナ。

 そんな彼の言葉に同意するように首肯するヴィローシャナ。

 そしてふたたび彼らは虚空に写された晴明たちの、巡ヶ丘の様子を見やる。

 

「それじゃ今後も彼には頑張ってもらわないとね。世界のためにも、我々のためにも、ね」

 

 そうクリシュナはポツリと呟くのだった。

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