DDS 真・がっこう転生 MythLive   作:想いの力のその先へ

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第七十七話 邂逅

 ――恵飛須沢胡桃には夢があった。

 と、言ってもアイドルになりたいなどの大それたものではない。

 ただ、好きな人と付き合い、結婚し、子供を産み、育て幸せな家庭を築きたい。

 そんなどこにでもある、小さな、されど暖かな夢だった。

 

 しかし、あの時――。

 

 偶然だった。無我夢中だった。

 他の娘たちに聞いても胡桃は悪くない。とかばうだろう。

 だが、それでも胡桃にとって、もっとも大切な人。愛した先輩である葛城紡を自らの手で殺した時に、もう幸せを求める権利なんてない。と思った。

 

 確かに先輩は『かれら』となって、討つしか方法がなかった。

 大僧正によって死んだ筈の先輩と語り合った時、自分の事を忘れて幸せになって欲しい。とも言われた。

 でも、だからといって理解できるものでも、ましてや納得できるものでもなかった。

 

 ――当然だ、大好きな人を。愛する人を殺したあたしが、あたしだけがなんでのうのうと幸せになれる?

 

 胡桃にとって、それほどに葛城は大切な人で、同時にそんな彼を殺すことになった己の弱さは許せないものだった。

 だからこそ彼女は武器を、葛城の首を刎ねたシャベルをあえて手に取り、学園生活部を守るために戦うことを選んだ。

 それが彼女の贖罪の意思であり、そして――。

 

 ――もうだめ! そんな、顔しちゃだめだよ!

 

 そう言って錯乱し、シャベルを葛城の遺体に突き立てていた胡桃を止め、ともに涙を流してくれた心優しき親友。丈槍由紀を守ることに繋がると思ったから。

 しかし――。

 

 ――我は汝、汝は我。

 

 ――ペルソナ!

 

 ――ペルソナ使い、それもワイルドか。

 

 それなのに、由紀は。親友は大きな力を手に入れ胡桃よりはるかに先へ、戦う者としての階段を上がっていってしまった。

 ……守ろうとしていた筈なのに、その守るべき人よりも弱く、それこそ足手まといになりかねない自分。

 守りたかったのに、手を汚させたくなかったのに……。

 それすら出来なかったか弱き自身に絶望した胡桃。

 

 なんのために戦うのか、なぜ戦うのか。

 

 ――由紀は戦う必要なんてない、既にあの人(先輩)の血で汚れたあたしが戦えばそれで良いんだ。それなのに……!

 

 だが現実は、由紀が、アレックスが戦い、胡桃は守られる立場だった。

 許せなかった、己の不甲斐なさが。そして、恩人に、親友に手を汚させている己の弱さが。その思いに鬱屈していた胡桃。

 

 そんな鬱屈していた彼女にとって、もっとも許せない者と出会うことになる。

 ……そう、彼女の母親。その人を殺し、成り代わり、人としての尊厳を、意思を陵辱した外道。邪鬼-アマノサクガミ。

 己の母を喰らい、成りすまし、挙げ句の果てには皆に、学園生活部の仲間たちにさえ危害を加えようとした畜生。

 

 許せなかった、母を、父を殺め、小馬鹿にするように振る舞っていたあの悪魔を。

 そして、それ以上にそんな外道相手になす術がなかった己自身が。終いには仇を討つこともできず、見知らぬ誰かの手によって、羽虫を払うように滅ぼされるのを見ていることしか出来なかった不甲斐なさも含めて。

 

 ――だからこそ力を求めた。

 

 もう惨めな想いをしないように、今度こそ皆を守れるようになるために。

 幸いにして、方法自体は太郎丸が実践してくれていたから分かっていた。

 それに見知らぬ誰か、ルイ=サイファーがその力を行使できるというのもあった。

 

 正直、もっと用心を、本当にそれで良いのかを考えるべきなのだろう。

 だが、胡桃にとってそんなことはどうでもよかった。

 

 ――皆を、由紀たちを守れるなら、あたしはどうなっても……!

 

 それが彼女の、恵飛須沢胡桃の偽らざる想いだった。

 例えこの身が朽ち果てようとも、皆を守れることが出来るなら。皆が笑いあえる明日が来るのなら。

 そのために得たこの力。それを奮うことになんの躊躇もない。

 

「――ぱい、や――――! ――――きにもど――!」

 

「くる――――まっ――」

 

 そのためにはまずこの()()たちを始末しなくては。そうじゃなきゃ由紀たちのもとへは戻れないのだから。

 

 

 

 

 魔人と化した胡桃は、かつて愛用していたシャベルを彷彿とさせる斧槍(ハルバート)をおおきく振りかぶって叩きつけようとする。

 それに反応した()()()()()はレーザーブレイドを盾のように構えるとそのまま受け流す。

 そして攻撃を受け流したアレックスは、受け流した衝撃で痺れた腕に顔をしかめ、それ以上に正気を失っている彼女を見て悲痛な声をあげる。

 

「先輩、やめて! 正気に戻って!」

 

 それに追従するように由紀もまた胡桃へ声を掛ける。

 

「くるみちゃん、まって!」

 

 しかし、胡桃は由紀の声がわからないのか、彼女の制止も虚しく苛烈な攻めを続けている。

 

「あぁ――!!」

 

 胡桃が咆哮をあげるとともに、ただでさえ人よりも優れ、魔人と化したことでさらに隆盛となった膂力で己が得物を振り回す。

 それは最早、その一薙ぎ、一薙ぎが必殺の一撃となり得る破壊力を秘めていた。

 事実、彼女の攻撃を己の才覚、そしてシュバルツバースでの経験でなんとかいなしていたアレックスであるが、一つ間違えばそのまま枯れ葉が舞うがのごとく天高く吹き飛ばされ、儚く命を散らしていることだろう。

 無論、彼女もその事は理解しているらしく、額には緊張から一筋の汗が流れていた。

 

「ちぃっ――」

 

《アレックス。冷静に、な》

 

「……分かっているわ、ジョージ」

 

 彼女が緊張していることを理解していた相棒。デモニカの管理AI『ジョージ』は気休め程度であるが声を掛ける。

 もっとも、アレックス自身もその事を感じていたのか、彼の声掛けに大丈夫と返事をしていた。

 しかし、同時にアレックスからするとこの状況は完全に手詰まりだった。

 

 確かに魔人と化した胡桃を相手取るのはかなり手間ではある。だが、倒すのが不可能か? と、問われると倒すことは出来ると答えるだろう。

 如何に胡桃が才覚があり、なおかつ魔人という人からすると上位存在になっているとはいえ、言ってしまえば()()()()だ。

 才覚で言えばアレックスも劣るものではないし、戦闘経験は圧倒的に上。

 つまり、アレックスが本気で胡桃を殺しにかかれば即座。とまでは言わないが首を刎ねるくらいであれば問題ない。

 ならば、なにが問題か?

 

 それは単純に、彼女が恵飛須沢胡桃(学園生活部の仲間)だということにつきる。

 確かに彼女は此処を、巡ヶ丘高校を去った。だが、彼女とともに笑い、ともに泣き、辛苦を乗り越えていった仲だ。

 そんな彼女を、ただ危険だからというだけの理由で排除するのは心情的に憚られるし、なにより……。

 

(流石に由紀さんや、学園生活部の仲間たちの前で胡桃先輩を殺すのは……)

 

 アレックスはそう思いながら近くにいる由紀を横目に見る。

 彼女は少しでも自身の言葉が胡桃に届くように、と願いながら焦った様子で語り掛けていた。

 もっとも、今現在も胡桃は()()()()()()()()()()()攻撃を仕掛けていることから効果はない、もしくは低いのかもしれないが……。

 そこまで考えてアレックスは()()()()()()()と感じた。

 

 ――なにがおかしい?

 ――どうおかしい?

 

 自問自答するアレックス。

 そして彼女は自身が感じていた違和感。その理由に気付いた。

 

「そうか……。胡桃先輩は一度も由紀さんを狙っていない……!」

 

 声が届いていない訳ではなかったのだ。

 もともと学園生活部の中でも由紀と胡桃、というよりも由紀は全員と仲が良かった。

 それは彼女が『丈槍』であり、皆と仲良くすることが出来なかった反動、というのもあるがそれ以上に彼女の気質。

 触れあった人の本質に気付きやすいというものと、何より生活部の仲間が皆、善人であるというのが大きかった。

 

 だからこそ仲良くなれた、だからこそ絆を結べた。

 

 そしてそれは今。

 回り回って悪魔に、魔人と化した胡桃すら攻撃を躊躇することになるほどの絆になっていた。それは同時に、胡桃にまだ人の心。仲間たちへの情が残っているという証拠でもあった。

 それは即ち――。

 

「……まだ、まだ間に合う。由紀さん! 胡桃先輩にもっと語り掛けて! そうすればきっと……!」

 

 彼女が、胡桃が学園生活部に戻ってくる可能性があるのだ。

 ならば、なにを躊躇する必要がある?

 かつての日常を取り戻すために、また皆と笑いあえるために。

 そのための一手が目の前にあるのだから。

 

 アレックスに声を掛けられた由紀も、彼女が言うように胡桃へと話し掛ける。

 アレックスがなんの根拠もなくそんなことを言う筈もないという信頼と、何より胡桃ともう一度笑いあうために。

 

「くるみちゃん! わたしだよ、ゆきだよ! 正気に戻って……!」

 

 由紀の懇願するような声が響く。

 その声を聞いた胡桃の動きが鈍る。

 そして曇っていた彼女の瞳に知性の光がほんの少しともる。

 

「……ゆ、き?」

 

 胡桃の困惑した声。その声には先ほどまでの憎しみに満ちたものはなくなっていた。

 しかし――。

 

「ぐ、がぁ……!!」

 

「くるみちゃん?!」

 

 一瞬正気に戻った胡桃だったが、すぐに理性の光は消え去ってしまう。

 そして再び暴走を始めた胡桃は、鍔迫り合いをしていたアレックスを吹き飛ばすと、その矛先をあろうことか由紀へと向ける。

 

「あぁぁぁぁぁぁっ――――!!」

 

 突発的な胡桃の行動に、驚いて一瞬身体が硬直する由紀。

 その一瞬は、由紀にとっても、何より胡桃にとっても致命的な隙になってしまった。

 

 理性を失った胡桃は必殺の意思をもって斧槍を振りかぶる。

 それを驚き、目を見開いて見つめる由紀。

 そんな由紀に向かって、胡桃は大上段から斧槍を――。

 

「――先輩! 由紀さん!」

 

 

 

 

 

 

 

 胡桃による突然の凶行。

 その事に反射的に目を瞑ってしまった由紀。

 しかし、振り下ろされた筈の斧槍から痛みはなく、代わりに甲高い鉄どうしを打ち付けたような音が響き渡る。

 その音を聞いた由紀は恐る恐る目を開け見る。そこには――。

 

「……大丈夫ですか、ゆき先輩?」

 

「……みー、くん?」

 

 そこには晴明とともに学外へ調査に出た筈の直樹美紀が、しかも出ていく時に持っていた剣だけではなく見覚えのない盾を使い、胡桃の攻撃を防いでいる姿だった。

 

「ええ、そうです。……少し、待っていてくださいね。てやぁっ――!」

 

 由紀を安心させるように美紀は声掛けすると、気合いとともに踏み込み、胡桃を突き飛ばす。

 

「……!!」

 

 まさか胡桃も美紀が己を突き飛ばせるほどの力を持つとは思っていなかったようで、たたらを踏んで後ろへ下がる。

 胡桃が後ろに下がったことを確認した美紀は間髪入れず――!

 

「……破ッ!」

 

 ――即座に回し蹴り!

 それを胡桃に叩き込んで胡桃を吹き飛ばす。

 

 その光景に、由紀は驚き声を荒げる。

 

「くるみちゃん! ……みーくん待って! あれは本物のくるみちゃんなの!」

 

「……え?」

 

 由紀の叫びに思わず振り返る美紀。

 そして由紀と、アレックスの真剣な表情を見た美紀は、少なくとも二人とも嘘を吐いている訳ではない、と判断する。

 

 その時、胡桃を吹き飛ばした方向から、ドン! と何かが破裂したような音が聞こえてくる。

 慌ててその方向を見る美紀。

 そこには驚異的な脚力で地面を粉砕して突撃してくる胡桃の姿が――!

 

「……しまっ――!」

 

 自身の危機に美紀は慌てた様子で防御しようと盾を構える。だが結果的に彼女の行動は()()()だった。

 

「――――!!」

 

 美紀に突進している胡桃が()()()に吹き飛ばされたからだ。

 その、胡桃が吹き飛ばされる瞬間。由紀に()()()()が聞こえてきた。

 

 ――ペルソナ。

 

 その言葉に驚いた由紀は、声が聞こえてきたであろう場所を見る。そこには――。

 

「美紀、油断しすぎよ」

 

 美紀に話し掛ける黒色の長い髪にカチューシャをつけ、全体的に落ち着いた服装をしながらも肩にジャンパーを羽織ったスラリとした女性。

 由紀自身は知らなかったが、かつて晴明の口から出た彼女とは別のペルソナ使い。

 彼の弟子であり、同時に巡ヶ丘学院高校のOG。即ち、由紀たちにとって先輩となる女性。神持朱夏の姿があった。

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