DDS 真・がっこう転生 MythLive   作:想いの力のその先へ

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第七十八話 進化、そして望む道

 朱夏たちが胡桃との戦闘に介入した時より少し時間を遡る。

 晴明との合流を果たした朱夏たち大学生組だったが、魔神柱-フォルネウスの顕現に始まる一連の騒動で晴明が足止めとして現地に残り、他メンバーは一足早く巡ヶ丘学院高校へと向かっていた。

 もっとも、その旅路も順調と呼べるものではなく、ゾンビや下級悪魔などの襲撃を度々受ける事態になっていた。

 

「――ふっ……! せやぁっ! けいっ!」

 

 現に、今も戦闘音を聞き付けたゾンビたちが生存者である彼ら、彼女らに群がってきていたが、そのほとんどが美紀や圭、朱夏たち異能者に文字通り蹴散らされていた。

 美紀の剣閃により両断され、あるいは彼女の蹴撃で、身体が脆くなっているとはいえ文字通り身体の一部が吹き飛ばされるゾンビたち。

 

「うんっ! ――カハクちゃんお願い!」

 

「はいはーい、アギ!」

 

 仲魔たちへ指示を出しながら、己もまたシュトラデバリを使いゾンビを一掃する圭。

 そして――。

 

「鬱陶しい! とっとと消えなさい! ブラック・マリア――マハ・ジオンガ!」

 

 己のペルソナ、ブラック・マリアの権能(チカラ)を使いゾンビを一掃する朱夏。

 まさに鎧袖一触、無双と言って良い有り様だった。

 

「ふぇぇ……、すごぉい」

 

「そうだね……」

 

 そんな三人の八面六臂の活躍を見た晶と篠生は、呆然とした様子で言葉をこぼした。

 ちなみに、少し離れた場所ではDr.スリルのガルガンゼロがゾンビたちを凍らせて、それを男性陣が砕く。という作業染みた光景が広がっていた。

 

「ふぅ……。これで一段落、ですね」

 

 美紀が剣に付着した血糊を振り払いながら周囲を確認して独りごちる。

 彼女の言葉を追うように、圭もまた自身のGUNPに搭載されているエネミー・ソナーを確認して追従する。

 

「そう、だね…………! いや、ちょっとまって……? この反応は……」

 

 しかし、エネミー・ソナーを確認していた圭だが、確かに()()の敵性反応は消失していた。だが……。

 

「なに……、この……? ここは――巡ヶ丘高校?!」

 

「どうしたの、けい?」

 

 急に動揺し始めた圭を不思議そうに見ていた美紀は、彼女へ、どうしたのか? と問いかける。

 その問いかけに圭は冷や汗をかきながら、焦った口調で答える。

 

「巡ヶ丘高校に大きな反応が二つ、突然現れたの!」

 

「……っ!」

 

 圭の悲鳴にも似た叫びに息を呑む美紀。

 

 ――巡ヶ丘に大きな反応。

 

 それはつまり、あそこに、学園生活部のもとに大悪魔クラスの()()が現れた。ということなのだから。

 それを聞いた美紀は、一瞬表情を強張らせる。

 しかし、すぐに思い詰めた表情になると……。

 

「……くっ!」

 

 美紀は全身にMAGを張り巡らせると全力で駆けはじめる。

 そんな彼女の行動に驚いた圭は、静止するように声掛けする。

 

「ちょっ、みき……?!」

 

 だが美紀はそんな圭の声も届かず、さらに駆けていく。

 その姿は、何かに背を押されるような焦燥感が纏わりついていた。

 いつもの美紀とは明らかに違う雰囲気に困惑する圭。

 その時、美紀を追うようにもう一人。

 

「……まったく、世話のかかる!」

 

 朱夏が彼女の背を追って駆け出す。

 その事に驚く圭は、二人に遅れまいと駆け出そうとするが……。

 

「……圭! 貴女は皆と一緒に来なさい、あの娘のフォローは私が――!」

 

「……えっ! アヤカさ――」

 

「――良いわね!!」

 

 朱夏の指示に出鼻を挫かれた圭は、初動に失敗し二人に置いていかれる形となる。

 呆然となった圭の視線の先、どんどんと小さくなる二人の背を見送ることとなるのだった。

 

 

 

 

 勢いよく駆け出した美紀。

 彼女の脳裏にはかつて圭から聞いた、エトワリアにて出会った()()()()自身(直樹美紀)との話を思い出していた。

 

 ――ねぇ、みき? もしもの、ifの世界だけど。もし、晴明さんが居なかったら誰に助けてもらったと思う?

 

 ――……? そんなの、透子さんとか、めぐねえなんじゃない?

 

 ――えへへ、それがね……。

 

 そんな他愛のない会話。

 その言葉によって美紀は、可能性の世界。あり得たかもしれない世界で自身は学園生活部に、丈槍由紀に救われたことを知った。

 

 確かに、ゆき先輩は頼りになる人だけど……。

 

 そう思う美紀だが、同時に心のどこかでは納得するものもあった。

 一見すると、幼い見た目と言動に見誤ることもあるが、丈槍由紀という少女は常に大局を見極め、なにを為すべきかを考えて行動していることが多い。

 ……言葉にすると当たり前に聞こえることだが、実際にその行動を、有言実行できる者がどれほど居るか?

 大人でさえ、時には難しいその行動を当たり前にこなせる由紀に感嘆を覚えたこともある。

 

 そんな彼女だからこそ、りーさん(若狭悠里)や、くるみ先輩。めぐねえだっていつの間にかあの人を中心に集まっていたのだから。

 その彼女がいる学校に、学園生活部に危機が迫っている。

 それだけで美紀の中にある危機感を煽るには十分だった。

 

 さらに言えば、学園生活部の仲間としてともに行動していた頃。晴明から聞かされた言葉も少なからず影響していた。

 それは時代の節目に、世界に大きく影響をもたらす人物が現れる。というものだ。

 その時は冗談半分という感じで聞き流していたし、それに気づいた晴明が朱夏の戦友たちを例に出して話したことで半信半疑ながらも一応納得した。

 

 ――だけど、今なら分かる。晴明さんの言葉は間違いなく正しかったんだ。

 

 その後に起きた由紀の『ワイルド』としての覚醒。そして、聖典世界と呼ばれるパラレルワールドに置ける由紀の立ち位置。

 それらを加味すれば、間違いなく丈槍由紀という少女は、この世界に置けるキーパーソン。それこそ、もし彼女が道半ばで斃れた場合、どのような災厄が訪れるか……。

 その最悪の可能性を防ぐためにも美紀は急ぐ。

 それが今の己に出来る最善のことだと信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 丈槍由紀にとって、恵飛須沢胡桃という少女は気の置けない友人、といえる人物だった。

 それは胡桃からしても、そして悠里など、他の学園生活部の面々からしてもそうだったが、由紀本人からすると特に顕著だった。

 それもある意味必然だったのだろう。

 アウトブレイクが起きる前、由紀にとって身近な、本当に心許せる相手というのは、慕っていた佐倉慈と、唯一対等に接してくれた柚村貴依しかいなかったのだから。

 その中でアウトブレイクという特殊な極限状態に陥った状況だったとはいえ、新たに自身を対等に見てくれる者たちが現れたのだ。

 その者たちに対して、由紀が――自覚しているかどうかは別として――依存に近い感情を抱くのは必然だった。

 

 そして、それは他の者たちにしてもそうだった。

 彼女が、由紀が無意識のうちに己の理解者、ありのままの自分を見てくれる人を求めたように、胡桃や悠里もまた由紀の天真爛漫な、人の心を暖める太陽のような彼女を求めていた。

 

 特に胡桃は、葛城を殺めたあの時。

 自らに縋り付き、ともに涙を流してくれた彼女に光を見た。

 か細いながらも確かにそこにある、希望という名の光を。

 だからこそ彼女は力を求めた。(希望)を曇らせないように。光を指す道標となれるように。それが己の為せる最善のことだと信じて。

 そして、それは由紀にとっても同じことだと言えた。

 

 確かに彼女は『ワイルド』という異能の中でも、特に強力な力を目覚めさせた。しかし、それも根底にあるのは、皆を守りたい。皆とともに歩みたい、という意思が要因として目覚めたのだ。

 そこに貴賤などないし、彼女にとっても、胡桃にとっても根底にある願いは同じだ。

 

 ――即ち、大切な人を守りたい。

 

 ただ、それだけだった。それだけだったのに――。

 

 

 

「あ、ぁぁぁぁッ――!!」

 

「――――ッ! なんで、こんな……!」

 

 目の前で起きているのは、親友と後輩(自身の大切な人たち)、そして先輩による殺し合い。

 

 親友(胡桃)後輩(美紀)が互いに持つ得物をぶつけ合い火花を散らし、その隙を付き先輩(朱夏)がナイフで刺すように躍りかかるが――。

 胡桃は本能的に危険を察知し、美紀を力任せに吹き飛ばすと、魔人化して生えた尻尾を鞭のようにしならせて迎撃!

 朱夏はそれを咄嗟に、ペルソナを降魔させることで防ぐ。しかし――。

 

「ぐ、ぅ――――!」

 

 躍りかかる。即ち、宙に浮いていることが仇となった。そもそも空中では例え防御しても踏ん張って堪えることも出来ず、なおかつ咄嗟に衝撃を逃す術もない以上、攻撃を受け流したとしても衝撃自体は余すことなく受ける結果になってしまう。

 つまり、朱夏もまた美紀と同様に吹き飛ばされ、結果として胡桃は誰からも妨害を受けない、フリーな状態になってしまった。

 そして、由紀は半ば放心した状態。このままであれば彼女の命は儚くも消え去るだけだった。

 

 ――もしも、彼女がいなければ。という話だが。

 

「うぅ、あぁぁぁッ――!!」

 

 彼女の、胡桃の頭の片隅にある人としての意識が苦悶の声をあげながら、それでも由紀に襲いかかろうとする。その前に現れる人影――。

 胡桃が持つ斧槍と、()()が持つレーザーブレイドが交叉する。

 

「――疾ッ!」

 

 そしてそのまま彼女は、アレックスは斧槍とレーザーブレイドの力点をずらし、胡桃がバランスを崩すように誘導すると……。

 

「……破ッ!」

 

 バランスを崩した胡桃を誘い込むように己の懐に飛び込ませつつ、自身は距離をとるように左足を軸にして一回転。奇しくもそれは、胡桃を闘牛に見立てたマタドールのようであった。

 そのまま転ぶように膝をつく胡桃。その隙を逃すほどアレックスは甘くはない。

 無論、殺すつもりはない。ただ、彼女の意識を刈り取るためにレーザーブレイドを振るうアレックス。しかし――。

 

「――なっ……!」

 

 まるで胡桃は、そのアレックスの行動を見透かすかのごとく、後ろ蹴りで止めるようにレーザーブレイドの()を蹴り上げる。

 しかも、直後に今度は腕を地面に力強く叩きつけると、その反動を利用して跳躍。

 アレックスを見据えるようにバク転しながら彼女の頭上を飛び越えると、そのまま着地して斧槍を彼女へと構える。

 その一連の行動を見て、思わず苦虫を噛み潰したような表情になるアレックス。

 なぜなら――。

 

「明らかにさっきよりも動きがよくなってる……。――成長したというの? この短時間で……?!」

 

 そう、胡桃は戦闘者として破格の成長を遂げていたのだ。まるで渇いたスポンジが水を吸収するかのごとく。

 

 ……それもある意味必然だった。

 

 もともと胡桃の戦闘センスは学園生活部の中でもずば抜けて高い、それこそアレックスにも比肩し得るものだった。

 

 ――なのになぜ、魔人化する前は目立った活躍をしていなかったのか?

 

 その原因もまたアレックスだった。

 

 そもそも胡桃が聖典世界(がっこうぐらし!)に於いて武闘派として辣腕を奮っていたのは何度か語っていたことではあるが、その世界線の彼女は、例えかれらに囲まれたとしても無意識のうちに、どれから排除すれば安全かを判断して立ち回っていた。

 事実、彼女が負傷したのはかれら化した慈を見て完全に冷静さを失った一回のみ。

 他の娘たちがかれら相手に度々危機に陥る中、胡桃が危機に陥ったのはその時しかなかったことからも、彼女が抜群のセンスを持っていたことがうかがえる。

 

 その彼女のセンスがアレックスの大立ち回りを見る度に告げるのだ。――あたしにもあの行動が出来るぞ、と。

 ……それも間違いではない、正解でもないが。

 確かに、胡桃自身アレックスと同じだけの戦果を上げるのは不可能ではない。

 しかし、それは彼女自身がもっと成長したあとの話。

 端的に言えば、彼女の意識(ソフト)肉体(ハード)が追い付いていなかった。

 その時に、彼女の理想の動き(アレックスの大立ち回り)を見たことで一種のバグが発生。歯車が噛み合わないとでも言うべき状態になっていたのだ。

 そのことから理想の動きを知っているのに、肉体がその動きを出来ない。というなんともチグハグな状態となっていたのだ。……むしろ、その状況でも負傷することのなかった彼女のセンスに脱帽ものとも言えるが。

 

 とにもかくにも、そのような状況だったからこそ胡桃は今一つ伸び悩みを見せていた。しかし、その状況は魔人化したことで一変する。

 そう、魔人化したことにより彼女の意識(ソフト)が理想とする肉体(ハード)が手に入ったのだ。

 もちろん、理想とする肉体が手に入ったとはいえ、すぐさまその動きが出来るわけではなく、最適化を行う必要性がある。

 しかしそれも彼女自身の抜群のセンスと何より、練度の違う複数の相手(美紀と朱夏)、そして己が理想とする相手(アレックス)との戦いで即座に修正されることになる。

 

 ――そう、ここでアレックスと美紀が胡桃相手に手心を加えていたことが仇となった。

 

 魔人化した胡桃にとって、己を殺す気のない二人との戦いは実に有意義な()()()()となってしまっていた。

 つまり二人にとっては不本意極まりないが、彼女たちとの戦いによって胡桃の才能は開花。それも、単純な戦闘能力ではこの世界でも上澄みに位置するアレックスや、その彼女とも互角以上の戦いが出来る晴明とも拮抗出来るほどに押し上げられてしまった。

 即ち、唯一彼女を殺す気で懸かっていた朱夏では最早止める術はなく、完全な手詰まりな状態になってしまった。

 

 

 

 

 そんな彼女たちの状況を見たルイ=サイファーは破顔する。

 

「……ふ、ふふ。素晴らしい」

 

 そして彼はおもむろに由紀へ視線を滑らせる。

 

「さて、どうする人の子よ。……彼女を討つか、それとも――」

 

 そう、興味深く呟きながら彼女を、()()()()()()()()を見つめるのだった。












 魔人-恵飛須沢胡桃 Lv60
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