DDS 真・がっこう転生 MythLive 作:想いの力のその先へ
魔人化した胡桃とアレックスたちとの戦いは、先ほどまでとは一変していた。
「お、おぉぉぉぉぉぉぉぉッ――!!」
「……ッ! ふっ――!!」
攻める胡桃と守るアレックス。
お互いの得物を一合、二合と斬り結ぶ度に火花が飛び散り、まるで幻想的な光景が辺りに広まる。
これが命の奪い合いでなければ、美しい演舞として周りを魅了していたであろう。
現に美紀と朱夏は二人の戦いに手を出せないでいた。
もっともそれは二人の戦いに魅了されていただけではない。
「くっ……!」
美紀は歯を食い縛りながらMAGを練り上げ、アレックスの援護のために魔法を放とうとする。しかし――。
「美紀! やめなさいッ!」
「しかし――!」
それを止めるように朱夏に言われ、思わず声を荒げる美紀。
そんな彼女に対して、朱夏もまた彼女の気持ちを理解しながらも腹立たしげに表情を歪める。
彼女が美紀を止めた理由。それは――。
「くっ……、また。中々に厭らしい。本当に素人なの?」
美紀や朱夏が攻撃魔法などで援護しようとする度に、胡桃は直感的に察知しているのか、二人が魔法を放てないようにアレックスを盾にするような立ち回り方をしていた。
しかも、二人が別の地点から狙おうとする場合はあえて着弾地点周辺でアレックスと斬り結び、いざ攻撃を行おうとすると、アレックスを引きずり込んで己はいつでも離脱できるような立ち回りをする、という厭らしさだ。
だからといって、今度は接近戦へ持ち込もうとすると、一番練度が低い美紀を重点的に狙いアレックスや朱夏を強制的にフォローに回させることで動きを束縛する、という始末。
兵は詭道なり、とはいうが……。実際に胡桃はあえて同士討ちを誘発するように動いたり、三人が全力を出せないような立ち回りを終始していた。
これがアレックスや朱夏のような、ある程度の鉄火場をくぐり抜けてきた者たちが行うのなら理解できる。
しかし、彼女は。胡桃はついこの間まで太平の世を謳歌し、戦いとは無縁の場所にいたのだ。
それなのに、本人のセンスだけでそれを理解し、行動する。
その事に対して、朱夏は称賛するとともに彼女と敵対している現実を呪っていた。
現に胡桃は、今のアレックスとの打ち合いの最中も成長を続けている。
さらに重く、さらに鋭く。
彼女の攻撃が、防御が、回避が、立ち回りが。
まさしく『進化』と呼ぶべき速度で上達していっているのだ。
このままでは朱夏たちが劣勢に陥るのは時間の問題だった。
せめてもう一つ、もう二つ切れる手札が、胡桃を止めるだけのなにかがあれば……。
――その時、胡桃に向かってとある声が投げ掛けられる。
「くるみっ! もうやめなさいっ! ――貴女も、本当はそんなことしたいわけじゃないでしょう?!」
思わず声の主を見る胡桃。そして同じように
「り、りーさん……!」
そこには学園生活部でりーさんと呼ばれ慕われている若狭悠里の姿があった。
彼女の姿を見た美紀は顔面蒼白となる。
それもそうだ。美紀にとって若狭悠里という少女はなにも特別な異能を持たない一般人なのだ。
そんな彼女が暴走している胡桃のもとにくるなど、完全な自殺志願者のそれでしかない。
もっともそれはあくまで
今の彼女は、若狭悠里は力を持たないか弱き少女ではない。
彼女もまた由紀や朱夏と同じように、ペルソナ使いとして覚醒したのだから。
もっとも、悠里はその力を胡桃に使うつもりはなく――。
悠里の姿を認識した胡桃は得物を握りしめ悠里のもとへ向かおうとする。
その事に気づいた美紀は声を張り上げる。
「りーさん、逃げて!」
しかし悠里は
恐怖によって動けないのか?
――否。
彼女の表情に怯えや恐怖は見てとれず、むしろその瞳には覚悟が、己の命を賭しても貫き通す。という覚悟が見てとれた。
胡桃はそんな彼女のもとに迫ると、得物である斧槍を高らかに掲げる。
それをなにをするでもなく見届ける悠里。
そして胡桃の切っ先は――。
――
そしてそのままの勢いで斧槍は地面に叩きつけられ、地表を砕く。
悠里の真横を通りすぎた斧槍の風圧で、彼女の長く美しい髪が揺れ、砕いた地表が石つぶてとなり多少肌を傷付けるが、それ以外はほぼ無傷と言って良い。
対する胡桃は、なぜ自身が攻撃を外したのか分からず困惑した顔で――。
――同時に、彼女は気付いていないのだろう。両の瞳から、つぅ。と一筋の涙を流していた。
それは彼女のなかに残る理性。それが悠里を傷付けまいと抵抗し、成功したことで安堵した証だった。
そんな彼女を見て、悠里はいままで動かなかったことが嘘のように、はじめて行動を起こす。それは――。
「……くるみ、もういい。もういいのよ」
「――!」
なんと悠里は攻撃するどころか、ぎゅう。と胡桃を愛おしそうに抱きしめる。
その事に胡桃も想定外過ぎたのだろう。
胡桃は困惑した様子で硬直し、されるがままになっている。
その様子を見て、悠里は慈母のように微笑みを見せて彼女の頭を優しく撫でる。
戦場での抱擁、さらには頭を撫でるという行為に胡桃の精神は完全なる混乱状態に陥っていた。
だが、それとは裏腹に肉体の方は、悠里に優しく抱擁されたことで感じる彼女の柔らかい肢体の感触と、とくん、とくん。と肉体越しに聞こえる
まさかの事態に今まで胡桃と矛を交えていたアレックスたちも呆然とした様子で二人を見ている。
その中でも特にアレックスが感じた衝撃は凄まじかったらしく、本人も気付かないうちにぽつり、と独りごちる。
「まさか、そんな……。――いえ、でもゆきさんの時も反応してたし……。だとしても、なんて胆力……、ゆきさん?」
自身の思考をまとめるために独りごちていたアレックスだったが、そんな彼女の前で由紀がふらふらと胡桃に近づいていっていることに疑問の声をあげた。
そして、そのまま由紀は後ろから、ちょうど悠里とサンドイッチにする形で、ひし。と胡桃に抱きつく。
突然、背後からの感触に驚き、尻尾をしならせる胡桃。
「くるみちゃん、よかった……。落ち着いてくれたんだね」
しかし、その背後から涙に濡れた由紀の声が、感触の正体が由紀であることを知った胡桃は、恐らく本能的にであろう。安全だと察して尻尾から力が抜けて弛緩し、されるがままになった。
その証拠、というわけではないが。先ほどまでの理性を失っていた瞳から、僅かなりとも理性の光が灯り、たどたどしい様子で胡桃は二人の名前を呼ぶ。
「……ゆ、き? りぃ、さん……? あたし……は」
その声はかつて学園生活部でともに暮らしていた頃の利発的な、二人のよく知る恵飛須沢胡桃の声で……。
彼女本来の声を聞いた二人は感極まったようすで、ぎゅう。とさらにきつく抱きしめる。
ようやく、ようやく本当に胡桃が帰ってきたのだと。もう離さない。そう言いたげに。
そんな二人の様子に胡桃は目を白黒させ、思わず得物を持っている手の力が抜ける。そして彼女の手からするり。と、抜けて、からん。という音を立てて斧槍は地面に落ちる。
斧槍が地面に落ちた音で胡桃が完全に戦意を喪失したのだと理解した朱夏は顕現させていたペルソナを送還する。
そして感心した様子で三人を、特に悠里を見て自身の思いを口に出す。
「まったく、あの娘。りーさん? とかいう娘、本当にすごいわね。あの状態で
「きっと――」
「……美紀?」
ぽつり、と発した独り言に答えが返ってくるとは思っていなかった朱夏は、どことなく不思議そうな顔で美紀を見る。
朱夏の様子に、どこかおかしそうに笑う美紀。
そして彼女は自身が思ったこと、彼女たちの想いを口にする。
「きっとりーさんはくるみ先輩のことを信じたかったんです。ゆき先輩だってそう。でもゆき先輩は学園生活部の部長だから、遺される人のことを考えて
「……ふぅん。そうなの――」
美紀の考え、想いに対して淡白に答えた朱夏。
その彼女の脳裏には由紀と同じ桃色の髪をした、どこまでも他人の幸せを優先しようとした親友の姿がよぎる。
――まだ遺される者のことを考えられるだけ
そこで頭を振る朱夏。ここでそんなことを考えても詮なきことだと思って。
そこで朱夏は違和感を感じる。なにかがおかしい、と。
そして辺りを見回すことですぐに気づいた。
「……ちょっと待ちなさい、あのスーツの男はどこにいったの?」
――金髪碧眼でスーツを着た男、ルイ=サイファーの姿が見えないことに。
朱夏の発言に後れ馳せながらその事に気づいたアレックスと美紀も辺りを見回す。その時――。
「おぉ~~い、アレックスにみき、アヤカさんも無事ぃ~~?」
「……けいっ!」
圭をはじめとする大学からの避難組が姿を現す。
そして、圭は知らず知らずのうちに三人が警戒していることについての答えを告げる。
「それで、エネミー・ソナーから二つとも
そこで圭の発言が止まる。
その彼女の視線の先、そこには悠里と由紀に揉みくちゃにされている胡桃――一部人間としてあるまじき器官が見える――の姿があった。
それを見た圭は駆け出すとともに、アレックスと美紀、二人に近づくと彼女たちの腕をむんずと掴む。
「ちょっ――」
「……け、けいっ?!」
その事に驚く二人はそのまま引き摺られていく。そして圭は目を白黒させている二人に声をかける。
「もうっ、二人とも! くるみ先輩が帰ってきてるのに、なんでボーッとしてるの!」
そう言いながら圭は――引き摺られるようにアレックスと美紀も――胡桃たちに近づくと思い切り飛び付く。
突然のことに身構えが出来ていなかった胡桃たち三人は、圭たちに押されるように地面に倒れ込む。
急なことに驚いていた胡桃と悠里だったが、同じように倒れ込んだ由紀の目を回している様子や圭の悪戯が成功した、とでもいわんばかりのどや顔。それにアレックスと美紀の申し訳なさそうな顔を見て思わず笑みを浮かべる。
そして二人の笑い声を皮切りに、辺りには先ほどまで殺し合いが起きていたとは思えないほどの和やかな笑い声が響き渡るのだった。
ここはアマラ深界、そこでルイ=サイファーは自身の書斎とでも言うべき場所にあるソファーに身を沈ませると俯き肩を震わせている。
「――くく」
ルイ=サイファーの口から漏れる声。それは喜色に溢れていた。
「ふ、ふふ……。はァーはっはっは――――おぶぇッ?!」
そのまま高笑いするルイ=サイファーが、突如としてなにかに押されたようにソファーから転がり落ちる。
その、今までルイ=サイファーがいた背後には足を上げた甲斐刹那の、恐らく五月蝿いとばかりに彼の背中を蹴飛ばしたであろう姿があった。
そしてルイ=サイファーを蹴飛ばした刹那は悪びれる様子もなく話し掛けてくる。
「五月蝿ェよ、クソ親父。――それで、あのお姉さんはどうしたんだよ?」
そう問いかけながらも、刹那は視線で告げる。
――下手なこと言えば容赦しないぞ。主に未来が、と。
そんな二人の間を喪服の美女がおろおろとした様子で見つめる。
彼女にとってルイ=サイファーは主君であり、その主君に対して危害を加える刹那は本来処罰すべき対象なのだが……。
問題は刹那がルイ=サイファーの実子にして伝説のデビルチルドレン。とてもじゃないが処罰できる対象ではない。
さりとて彼女も主君の臣下。なにもしないというわけにもいかない。
そんな板挟みで胃を痛めている彼女を尻目に、ルイ=サイファーは心底楽しげな様子で彼女の、胡桃のことを告げる。
「胡桃のことかい? 彼女は仲間たちのもとへ戻ったよ」
そう言いながらルイ=サイファーは空間に映像を表示させる。
そこには悠里や由紀、圭などに揉みくちゃにされ笑顔を浮かべる胡桃の姿が写し出されている。
その姿は本当に幸せそうで――。
刹那と同じように映像をいつの間にか見ていた未来はほっとした表情を浮かべている。
その横で訝しげな表情を浮かべ高城絶斗はルイ=サイファーへ問いかける。
「それで閣下? ずいぶんと楽しそうだけど、そんなに嬉しいことでもあったのかい?」
その問いかけにルイ=サイファーはなにも知らない人間が見れば魅了されるほどの笑みを浮かべ、心底楽しげに話し出す。
「あぁ、嬉しい。嬉しいとも。彼女は人修羅とはまた別の道を選んだのだからね」
「別の道?」
「あぁ、悪魔とともにある道ではなく、
ルイ=サイファーの答えを聞いた絶斗は首をかしげる。
「人としてともにある道? でも、彼女は魔人となったんだろう? それなのに?」
「そんなものは些事にすぎないよ。彼女の、彼女たちのあり方はまさしく人そのものだよ」
「ふぅん……?」
「君も同じようなものだろう?
ルイ=サイファーの含むような言葉を聞いた絶斗はかつてのことを思い出し、なるほどと納得していた。
「かつて僕がゼブルとしての記憶を思い出す前、そして思い出した後で価値観が変わったように、か……。まぁ、彼女の場合は
そう言いながら絶斗はうんうん、と頷いている。
ルイ=サイファーも彼の言葉に同意するように頷く。
「そう言うことだ。彼女たちの今後が楽しみだね」
そう含み笑いを浮かべるルイ=サイファー。
そのルイ=サイファーを胡散臭そうに見る刹那。
「で、クソ親父。今度はなにを企んでるんだよ?」
「企んでるなどとんでもない。ただ私はヒトの未来を見てみたいだけだよ」
「人の未来?」
ルイ=サイファーの言葉に今度は刹那が首をかしげる。
刹那の疑問に、ルイ=サイファーは楽しげに答える。
「あぁ、もとより我々カオス勢力の根底には人間を
そう言ってソファーから立ち上がると、演説するかのように高らかに謳い上げる。
「そもそも、天使の本来の役割は人を正しき道へ導くこと。……それをあの熾天使どもはなにを勘違いしたのか、やつらは創造神こそが至高であり、人はその事を称えるための舞台装置のように扱い始めた」
本当に嘆かわしいことだ。と、ルイ=サイファーは首を横に振る。
「それに本来、我らが堕天したのも人に甘言という名の戒め。人間の精神を成熟させるための行動だったというのに……」
もっとも、今もその志を持つ悪魔は少なくなってしまったが……。と、ルイ=サイファーは悲しそうに告げる。
「本来天使は悪徳に堕ちる人を救済し、悪魔は契約を持って人を誘惑し、同時に彼らが契約に依存しないように精神を成熟させる。という役割で人が次なるステージに上げることが目的だった。そして――」
「……そして?」
「人が次なるステージ、神を必要としなくなった時、我らは魔界に身を引く筈だった。たが……」
そこでルイ=サイファーは憤怒の表情に染まる。
「それをあの熾天使どもは、己が私利私欲で行動し、あまつさえ人を玩具と勘違いしている! ――そのようなこと
ルイ=サイファーが怒号を上げると同時にMAGが吹き上がる。
彼の怒気に刹那は喉をごくりと鳴らす。
いつも飄々としている姿しか見ていなかったこともあり、流石に驚いていた。
ルイ=サイファーを一通り怒鳴ったことで落ち着いたのか、いつもの澄まし顔に戻る。
「……失礼、取り乱した。まぁ、そういう訳で我らとしては、彼女が人の世に戻るのは望むところなのだよ。それよりも……」
そう言うとルイ=サイファーは刹那、未来、絶斗の三人を見据えて声をかける。
「君たち三人に一つ、頼みたいことがある」
「頼みたいこと……?」
「うむ、実は少し前。アマラ宇宙の外に位置する別世界が発見された。その世界の調査を依頼したい」
「……へぇ」
ルイ=サイファーの依頼を聞いた刹那は興味を引かれたようで、獰猛な笑みを浮かべる。
「それで、その世界でなにを調べれば良いんだよ?」
「なに、その世界にいる
「なるほど。……で? その世界に名前はあるのか?」
「あぁ、その世界の名は――」
――エトワリア、と言うそうだよ。