DDS 真・がっこう転生 MythLive 作:想いの力のその先へ
胡桃がなにがあっても皆とともにある。と覚悟を決めていた頃、晴明たちは巡ヶ丘学院高校までの帰路を急いでいた。
もっとも、急ぐとはいっても道中が安全であるとは言い難いのもあり、低級とはいえ悪魔が顕現している現状、ある程度足止めをされているのも事実だった。
今も晴明は人が出すにはおかしな程の速度で走りながら、目についた幽鬼や外道といったダーク悪魔――一般的に交渉などが一切不可能な悪魔――をメギドファイアで撃ち抜いていた。
そしてある程度歩を進めた後、付近に悪魔の気配を感じることがなくなった晴明は、少しの合間足を緩める。
そのことに疑問を抱いたバロウズは晴明に声をかける。
《どうしたの、マスター? 急ぐんじゃなかったのかしら?》
「……あぁ、それはもちろん。そのつもりなんだが……」
いつになく歯切れの悪いことを言う晴明。
そんな彼の様子におかしさを感じたバロウズ。
そのことについて問いかけようとするが、その前に晴明から答えを告げられる。
「今日は嫌に悪魔が多い……。なにか悪い前触れでないと良いんだが……」
そう言って心配する晴明の顔には、なにか悪いことが起きる。そう確信するかのように緊張の色が見て取れた。
一方その頃。
学園生活部の面々は空き教室の一室で、避難してきた大学生組との顔合わせを終わらせていた。
その中で同じペルソナ使いとして朱夏は由紀へ話しかけていた。
「……それで、ゆき。だったわね? 貴女もペルソナ使いだと聞いたのだけど」
一瞬美紀と圭に視線を向けることで、言外に誰から聞いたのかを示しながら語り掛ける朱夏。
その朱夏に、由紀はペルソナ使いは自分だけではないことを告げる。
「えっと……。うん、私もペルソナ使いだけど……。今は私一人だけじゃなくて――」
そう言って由紀は学園生活部にいるもう一人のペルソナ使い、若狭悠里を見る。
由紀の視線に気付いた悠里は談笑していた晶や篠生、美紀、圭の後輩コンビに断りをいれて離れると、彼女たちの下へ移動してくる。
「どうしたの、ゆきちゃん?」
「あ、うん。用事ってほどじゃないんだけと……。ほら、この人が
「……あぁ。神持朱夏さんね」
二人の会話。その中で、自己紹介をしていない筈の悠里に自身の名前を知られていることと、もう一つ。聞き覚えのない二つの名前に驚く朱夏。
朱夏が驚いたことで、二人は朱夏がベルベットルームについて知らないということに気付く。
そして代表して由紀がベルベットルームやイゴール、リディアについて説明した。
「――――と、いうことなんです」
「……驚いたわね。そんな部屋? というよりも世界なのかしら? ともかく、そういったものがあるだなんて」
驚愕半分、関心半分な様子で頷いている朱夏。
だが、彼女はすぐに頷くのをやめ、由紀の顔を見る。その表情はどこか同情するような、不憫なものを見るような、少なくとも見つめられる由紀からすると不安をかられるものだった。
流石に朱夏の不躾な視線に不快感を感じた悠里は、彼女へ問いかける。
「……あの。ゆきちゃんに、なにか」
悠里の声色に、朱夏も自身がどんな表情で見つめていたのかに気付いて、謝罪しつつ理由を告げる。
「いえ、ごめんなさい。色々と不躾だったわね。……ただ、そう。ただ、色々と大変そうと思っただけよ」
「大変そう、ですか?」
朱夏が言う大変そう。の意味が飲み込めず首をかしげる悠里。
そんな悠里の様子に、朱夏は軽く笑う。
「ふふっ、まぁ分からないわよね。……ゆきの力、ワイルドだっけ? 聞くだけなら便利そうな能力だけど……」
「だけど……?」
「言い換えれば、選択肢がありすぎるのよ」
朱夏の選択肢がありすぎる。という言葉にきょとんとした顔をする悠里。
逆に由紀はなにか心当たりがあったのか、苦笑いを浮かべる。それを見て朱夏は、由紀は理解していることを知り、悠里に分かるように説明する。
「そうね……。流石にここで出すのは憚られるから出さないけど、私のペルソナは電撃属性と補助に特化してる感じね。悠里、だったっけ? 貴女のペルソナもそういった得意な属性がある筈よ」
頭の中でペルソナについて思い浮かべてみなさい。朱夏にそう言われて、悠里は言われた通りに己のペルソナ。イシスについて思い浮かべてみる。
するとまるでRPGのように、朧気ながらイシスのステータスが見えてくる。
「……えっと、あっ、はい。たしかに……。ん、と……、イシスは……。あら? 私のイシスも電撃と補助が得意みたいです」
まさか朱夏のペルソナと得意分野が被っているとは思わず、驚いた様子で告げる悠里。
そのことに朱夏は特に驚く様子は見せず、そういうこともあるだろう。と軽く頷いて話を先に進める。
「まぁ、多少なりともそういうことはあるでしょうね。……でも、由紀。貴女は違うんじゃないかしら?」
「……え? えっ、と。私のペルソナは氷結属性が多いけど、他に火炎と物理もいる、かな」
悠里と同じように自身のペルソナを思い浮かべて告げる由紀。
そこまで聞いた朱夏は、我が意を得たり。と言わんばかりに、そう、それよ。と告げる。
「由紀、貴女の力。――ワイルドといったわね」
「うん、言ったけど……?」
朱夏の言葉を聞き、不思議そうに首をかしげる由紀。
そんな由紀に対して、朱夏は一つの可能性を口にする。
「そしてワイルドは数多の
「……あぁ、だから選択肢がありすぎる。なんですね」
朱夏の話を聞いた悠里は得心がいったように頷いている。それは、今の彼女の話で純粋に込められた意味だけではなく、裏に込められた考えも見えたからだ。
即ち由紀に、彼女に求められる役割が多岐にわたるという意味でだ。
これは歴代のペルソナ主人公たち、あるいは操作しているプレイヤー視点で考えると分かりやすいかもしれない。
まず一つ目の役割は純粋なアタッカー。これはある意味分かりやすい。なぜなら
次にPTの穴を埋める、といっても分かりづらい、か。
まぁ、こちらも簡単に言ってしまえばPTに回復役や補助役がいなければ変わりにその役目にもつく、ということだ。
これらだけでも充分に大変だ、ということに理解できそうだが、彼ら、彼女らにはもう一つ重要な役割がある。
それはPTリーダーとしてメンバーたちに指示を与える。いわば司令塔としての役割だ。
これは言い換えれば、あらゆるものを
即ち、自身と仲間。そして敵の属性や使用してくるスキル。それによる有利不利の関係。さらには戦場を俯瞰的に見て、常に最善の行動を模索する判断力に思考力。
もはやここまでくると軍師とでも言うべきであるが、それほどの働きを彼ら、彼女らは行っていた。
もちろん朱夏も、これら全てを由紀に行え。と言うつもりはさらさらない。
しかし、望む、望まないに関わらず由紀は後々その立場に身を置くことになるだろうとも思っていた。
それがワイルドに、
――だから朱夏は決意した。
せめて彼女が戦いに、戦場へ赴く時は多少なりとも手伝ってあげよう、と。
ペルソナ使いの先達として、そして彼女の恩師。
そんなことを心の中で決意しながら表面には決して出さず、朱夏は飄々とした様子で悠里に話し掛ける。
「それで悠里。貴女、シノウやアキと仲良く話してたみたいだったけど。もしかして知り合いだったの?」
「あっ、それ。私も気になってた。どうなのりーさん?」
朱夏の質問に、由紀も追従するように。同時にとても興味を抱いていたのか、目をキラキラさせて問いかける。
二人の態度に悠里は困ったように笑いながら否定する。
「いえ、そういう訳じゃないの。ただ――」
「ただ?」
「あそこにいた全員。あ、圭さんに美紀さんも含めて、ね。――アウトブレイク前に蘆屋さんに会ってたみたいで……。そのことを話してたのよ」
「ほへぇ……」
悠里の答えが予想外だったようで呆けた声を上げる由紀。確かに以前、悠里が、というよりも瑠璃がアウトブレイク前に晴明に助けられたことは聞いていたが、他の面々が晴明と面識があったことは知らなかったからだ。
とくに美紀と圭。二人はリバーシティ・トロンで偶然助けた、と聞いていたのでそのときが初対面だと思っていた。
そして、朱夏もまた悠里の答えを興味深そうに聞いていた。
確かに彼女自身アウトブレイク前日に晴明と会っている。というよりもその時に晶と篠生、二人と面識ができ、友人関係になったのだが、まさかそれ以前に他の面々に会っていたとは知らなかった。
――まるで運命に導かれるように、だ。
そこまで考えた朱夏は、なにかを察したようにハッとした表情を見せる。
かつて晴明から聞いた聖典世界。
その世界に於いて、学園生活部が重要な役割を担ったのは聞いている。
だが、それと同時に。
今、ここで生きて学園生活部と合流できた自身を含めた大学生組。
自身や皆も聖典世界では何らかの役割を担ったのかもしれない、と。
その証拠に、大学で籠城していた時はかなりの生存者がいたにも関わらず、巡ヶ丘学院高校にたどり着けたのは自身や晶、篠生を含め十人程度しかいない。
まるで
朱夏が急に真面目な表情になったことで、何かあったのか、と心配する二人。その中で悠里が心配そうに身を乗り出しながら声を掛ける。
「あの……。大丈夫ですか? 朱夏さん」
「えっ? ……ええ、大丈夫よ」
思考の渦に沈んでいた朱夏は、不意打ち気味に話し掛けられたことに驚きながら返事をして――。
「……? どうかしましたか?」
まじまじと悠里を見つめ、次に自身を、そして悠里をと視線をさ迷わせている。
そのことに小首をかしげる悠里。対して由紀は然もありなんといわんばかりに、うんうん。とどや顔で頷いている。
彼女の視線、その先には悠里が前のめりになったことで強調された、たわわに実った果実が、そして己の控えめな、それなりにある、と思いながらも決して豊かとは言えない胸部装甲を比較して、顔には出さないものの世の不条理を嘆いていた。
そして、彼女は表面上は平静さを見せながら――。
――いつか、どうすればそこまで育つのか聞いてみよう……。
先ほどとは別の意味で誓いを立てるのだった。