DDS 真・がっこう転生 MythLive 作:想いの力のその先へ
その後、模擬戦を戦うことになった四人は、晴明の手によって結界が敷かれた校庭へと足を運んだ。
四人はそれぞれ、かれらが晴明の結界によりいなくなった校庭を見て、どこか懐かしむように見つめる。
特に美紀と圭は、一時的とは言え完全な安全地帯となった母校に在りし日の日常を思い出し、少し感慨深げにしている。
彼女らにとって、巡ヶ丘学院高校こそが最後の日常の象徴であり、アレックスを含め親友三人がここに集っていることからも仕方ないのかもしれない。
もっとも、これから行われるのは日常ではなく、彼女らにとって非日常の最たるもの故の現実逃避も含まれていたのだが……。
「……まったく、なんでこんなことに」
《アレックス、今は戦いに集中すべきだ》
「分かってる、分かってるわよ。ジョージ」
ある意味美紀と圭、二人にとって日常であり、非日常の象徴となってしまった親友たるアレックス。
そして、彼女の相棒である新型デモニカスーツの管理AIジョージは気の抜けたやり取りを行っている。
だが、そんな二人ではあるが、この四人――ペルソナ使いとしてそれなりの力量を持つ朱夏も含めても――の中では隔絶した実力を持った存在。正しく『超人』と呼ばれるべき人物だ。
それは彼女が前世に於いてシュバルツバースを踏破したことからも明らか。
仮に現時点の朱夏たち三人がかの地へ降り立ったとした場合、生き残れる可能性は万に一つもないだろう。
だからこそ、彼女や今世に於いて彼女の父の同意体-唯野仁成である活躍した戦いが、晴明の前世にて
もっとも、かの世界群に於いて過酷でなかった旅路。というのは存在しない、と言って良いのだが……。
むしろ、比較的穏当なペルソナ世界ですら学生たちの双肩に世界滅亡の阻止。という重すぎる使命を抱えさせるのだから、何をいわんや、という話だろう。
とにもかくにも、そのような世界で生き抜いたアレックスと、その世界群の一部を宿しながらも比較的穏当だったこの世界で生きてきた三人では実力に差が出るのはある意味当然、致し方ない話だった。
なおかつ、美紀と圭については、この間までまったくのド素人だというのもさらに拍車をかけるものだったが。
そんなアレックスに対して三人をけしかけた晴明の思惑。それは――。
「ねぇ、マスター? あの三人に彼女の相手をさせるのは、流石に時期尚早ではないんです?」
「あぁ、まったくもってその通りだな」
「いや、その通りだな、って……」
晴明は四人が粛々と模擬戦の準備をするのを見ながら、仲魔である秘神-カーマの疑問を肯定する。
そのことに呆れたカーマはなんとも言えない表情で彼を見る。
それは、彼女の心情。いくらなんでも可哀想ではないか、という同情が見え隠れしていた。
もっとも、晴明はカーマの時期尚早という意見に同意こそしているが、同時に仮に戦わせるとしたら今を於いて他にない、とも思っていた。
それこそが、晴明自身の思惑にも繋がること。
まず、本来現世に、人間界に現れる筈の無い最上位悪魔である
これにより少なくとも、この巡ヶ丘市がかの世界群のトウキョウのように世界の命運をかけた舞台になりかねない、という危惧。
そして、同市に偶然か必然か、丈槍由紀という
さらには、彼女を導くかのように
そのことからも、この地が決戦の地になる。という仮説を補強していた。
そんな地獄の一丁目、とも言えそうな地に多少腕の立つだけだったり、素人に毛が生えた程度の者たちがいた場合、どうなるか?
考えるまでもなく、その最後は悲惨なことになるだろう。
しかもそれが己の、口にこそ出さないが愛弟子たちだとするなら。
晴明としても、なけなしの人の心を持つ者として、流石にそんな最後はごめん被りたい。だからこそ、今回の模擬戦。
そうすることで愛弟子たちの生存する可能性が少しでも上がるなら、と。
確かにそこには、晴明から愛弟子たちに対する少し歪な愛があった。もっとも、本人たちからするとちょっと違う。と言いたくなるものだったであろうが……。
それはともかくとして、アレックスと、手練れと戦うことで得るものはある筈だ、と晴明は思っている。
そう言った意味では、最初自身で戦おうとも考えていたのだが。
「……まぁ、流石にそれは色々と面倒事になりかねねぇしなぁ」
「そこら辺りは仕方ないのでは? 有名税と言うやつですし。それにその心配も今さらでは……」
晴明がポツリとこぼした言葉に、いつの間にか近くに寄って来ていたジャンヌが突っ込みを入れる。
ジャンヌが有名税、と言ったように蘆屋晴明の名は裏の世界ではかなり有名だ。まぁ、この事に関しては幾度か触れているし今さらだろう。
それよりもある意味問題なのは、まだ弟子入りして一月程しか経っていない美紀、圭に対してかなり過保護に接している事だ。
弟子に対して親身に接することが問題? と思う人もいるかもしれない。
確かにそのこと自体は素晴らしいことだし、事実、そうすることで弟子の力量はより上がりやすくなるだろう。
……しかし、それを行っているのが晴明だ、という一点が問題となる。
もともと晴明は弟子を取らないことで有名であり、初弟子の朱夏の時もかなり驚かれていた。
だが、朱夏の弟子入り後。約五年間、誰一人として弟子入りは叶わなかった。だというのに、ここにきて急に二人。しかも
……はっきりと、飾らない言葉で言えば二人よりも才覚があった者は数多くいた。しかしながらその者たちは弟子入りが叶わなかった。
それなのに現実は才能で劣る二人が弟子入りを果たしたのだ。
弟子入りが叶わなかった者たちからすれば面白くない話だろう。しかも、これに晴明が手ずから模擬戦まで行ったとしたら?
美紀と圭、二人にはさらなるやっかみが降りかかることになりかねない。晴明はそれを嫌ったのだ。
……もっとも、そんな考えが露見したらそれはそれで面倒事になりそうな気もしなくもないが。
とにもかくにも、晴明としては自身で相手に出来ない以上、苦肉の策として自身と同等の手練れ。というよりも経験で言えば格上であるアレックスとの模擬戦を提案したのだ。まぁ、アレックスにとっては迷惑きわまりない話となるが。
そんなことを晴明が考えている合間に四人の準備が終わったようで――。
「それじゃ、いくよ。アレックス!」
「……はぁ」
圭が意気揚々と声を出しながらストラディバリを、美紀もまた愛用の西洋剣とカイトシールドを構え、朱夏がペルソナを召喚する。
対するアレックスは気乗りしない様子で、それでもレーザーブレイドをだらり、とぶら下げるような、緊張感のない構えを見せる。
そのことに舐められている、と感じた圭はむっ、とした表情を見せる。
そして文句を言おうと口を開くが――。
「ちょっと、アレックス――」
「圭、油断しすぎよ」
「……朱夏さん?」
突如、朱夏から厳しい言葉を投げ掛けれ困惑する。
そして彼女の方を振り向くが、朱夏は真剣な、少し強ばった表情を浮かべて冷や汗を流している。
そんな朱夏の様子に慌ててアレックスの方へ視線を向け、今一度彼女の気配を探る。が、そこで圭は初めて朱夏が自身に対して苦言を呈した理由を知る。
確かに己の目にはアレックスの姿が写っている。……写っているのだが、気配をまったく感じないのだ。まるで、そこには何もいないかのように。
そのことに強い違和感を覚える圭。
その時、彼女の背中にぞくり、と嫌な予感が駆け巡る。
美紀もまた、同じような予感を感じたのか、ごくり、と分泌された唾を呑み込んでいる。
彼女たちが感じた嫌な予感。それは俗に言う殺気というやつだ。
圭は以前、カーマから浴びせられた経験から、美紀も間接的に浴びたことや、高城絶斗との出会いにより僅かなりとも感じることが出来るようになっていた。
「へぇ……」
《なるほど、最低限の力はあるようだなアレックス》
「そうみたいね」
そんな二人の様子に、アレックスとジョージは少し感心していた。というのも、アレックスが二人に浴びせた殺気はあくまでも軽く、二人のトラウマにならないように絞ったものであり、ある程度の場数を踏まないと察知できないようなものだったのだ。
それを二人は察知してみせた。
それならば、とアレックスはさらに一段階先に進める。
先ほどとは違う、異様な雰囲気がアレックスより放たれる。
「ぅ、ぐっ……!」
「う……おぇ――」
先ほどアレックスが発した雰囲気も殺気の一種、否、剣気とでもいうべきものだった。
――そも、殺気とはなんなのか?
簡単に、一言で言ってしまえば、これからお前を殺すぞ。というイメージを相手に向かって叩きつけているようなものだ。
そして、先ほどのアレックスの剣気。
それは明確に、二人の首をレーザーブレイドで断つ。あるいは既に断った、というイメージ。
高々イメージで、と思う方もいるだろう。しかし、そのイメージが侮れなかったりするのだ。
実際に剣道の試合などで小手を受けた選手が、相手の剣気の凄まじさに、実際に手首を斬られた、と錯覚し打たれた場所を押さえうずくまる、などという事例も存在する。
なお、その選手は斬られた感触も痛みも感じていたが、審判や対戦相手から錯覚だ。という説得で事態を呑み込むと同時に痛みもなくなった、という報告もある。
また、とある拷問に於いて、水滴が落ちる音を自身の血が滴る音と勘違いさせ、最終的に何も傷が付いていないにも関わらずショック死させたという事例もある。
このようなことから、イメージというものを侮るのがどれだけ危険か分かるだろう。
そして、自らの明確な死。というイメージを叩きつけられた二人は、
そんな消耗している二人をかばうように前に出る朱夏。
二人は自分たちをかばってくれている姉弟子の背中を、冷や汗、というよりも脂汗を滴しながら頼もしく見つめていた。
もっとも正面から朱夏の顔を、明確な死のイメージを受けて冷や汗をかいている彼女を見たら、少し印象が変わっていたかもしれないが。
それでも、二人をかばう気概を見せたことに感心したアレックスは――。
「それじゃ、行くわよ三人とも――!」
遊びは終わり、とでも言いたげに本格的な行動を、三人に向かって行くのだった――!