DDS 真・がっこう転生 MythLive   作:想いの力のその先へ

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第八十四話 試練

「――はあっ!」

 

 勢い良く間合いを詰め寄ったアレックスは、気迫のこもった掛け声とともにレーザーブレイドを振るう。

 それを朱夏は咄嗟に太ももに巻いていたサバイバルナイフを取り出して迎撃する。

 

「――くっ!」

 

 実態をもつナイフと、非実態のレーザーブレイドが鍔迫り合いを起こし、火花を散らせる不思議な光景。

 そもそも、膨大な熱量をもつ筈のレーザーブレイドにただのサバイバルナイフが拮抗することがおかしい。

 だが、無論。それにも仕掛けがある。

 

 ――それは朱夏のMAGだ。

 

 彼女は自身のMAGでサバイバルナイフの刀身をコーティングすることで一種の防御壁とし、レーザーブレイドに断ち斬られることを防いでいた。

 とはいえ……。

 

「……ぐっ、この――」

 

 苦しげに表情を歪ませて脂汗を流す朱夏。

 たしかに断ち斬られることは防いでいる。しかし、そもそも朱夏とアレックスでは地力が違いすぎる。

 今の拮抗した状態でさえ、アレックスが手加減しているからこそ起きた光景なのだ。もし、最初から彼女が本気を出していれば朱夏は防御の上から一刀両断に叩き斬られている。

 そして、そのことを朱夏は理解していた。

 

 だからこそ彼女は焦っていた。

 アレックスが少しでも本気を出せば即座に詰むこの状況をなんとか打破しよう、と。

 

「……ペル、ソ――がぁ……!」

 

 状況を打破するためにペルソナを、ブラックマリア使おうとした朱夏。

 しかし彼女のもくろみは失敗に終わる。

 なぜなら、その前に彼女の腹にアレックスの膝がめり込む、簡単に言えば膝蹴りが叩き込まれたからだ。

 思わず身体がくの字に曲がり、吐き気を催すする朱夏。だが、攻撃はそれで終わりではなかった。

 

「――ふっ……!」

 

「あぁっ……!」

 

 アレックスは朱夏の腕を掴むと捻るように回しながら足払いする。

 そのことで彼女は足が地から離れ投げ飛ばされると、背中から地面に叩きつけられる。

 

「かはっ……。く、ぅ――」

 

 地面に叩きつけられた衝撃で肺から空気を押し出され、痛みに呻く朱夏。

 そんな彼女を追撃しようとアレックスはストンピング――。

 

「……っ」

 

 ――しようとしてその場から飛び退く。

 そして一拍の後、彼女がいた場所に銀閃が煌めく。

 そこには西洋剣を振り下ろした美紀の姿があった。

 その後ろでは朱夏の介抱をしている圭の姿も見える。

 そのことにアレックスは少しはましになった、と思いつつ鼻を鳴らす。

 

「ふん……。これくらいは、ね」

 

《そう言うなアレックス。今の時点でも及第点だろう》

 

「……本当にそう思ってる? ジョージ」

 

《……》

 

 アレックスの問い掛けに沈黙を貫くジョージ。それが答えだった。

 彼女ら二人にとって、戦場は、殺し合いは身近なものであった。

 悪魔に支配された未来、人々を守るレジスタンスの一員として。その未来を救うべく訪れた過去のシュバルツバース、後に英雄となる唯野仁成(今世の父親)()()ためのJOURNEY( 旅人)として。

 

 そんな数多の死線を乗り越えた二人からすると三人は――朱夏は多少ましとはいえ――あまりにも緩すぎた。

 仲間のため非情になる覚悟もなく、己の手を血に染める気概もない。

 

 先ほどの美紀の剣撃もそうだ。

 本人はきちんとしたつもりだろうが、最後の最後。アレックスにあたるかもしれない、その心配が彼女の攻撃の手を鈍らせた。

 

 ――巫山戯ているのか。

 

 そこにいるアレックス()を討つ心配をして、攻撃を鈍らせる阿呆がどこにいるのか。

 そんなことでは、戦場に出ても無様な屍を晒すのがオチだ、と怒りを募らせるアレックス。

 

 これもまた晴明の庇護下にあった弊害だろう。

 朱夏はともかくとして、美紀と圭。二人は常に晴明の庇護下で戦ってきた。

 もちろん、二人だけで戦うこともあるにはあった、が……。

 それだって最後の一線として、後ろ楯として晴明の姿があった。

 そして、さらに言えば美紀と圭。二人は()()戦った(殺しあった)ことはない。それはもちろん生きている人間という意味で『かれら』のことではない。

 そのどちらかを経験していれば、アレックスがこれほど苛立つこともなかっただろう。

 そうすれば覚悟が、真の意味で戦士としての姿が見れたのだから。

 

 もっとも、それは本来であれば酷な要求だろう。平和な日本でそのような経験をしろ、などという要求が無茶振りなのだから。

 しかし、同時にその経験があるかないかで明確な違いが出るのもまた事実。

 そして、さらに言えば実際にそれと似た経験を()()()がいる。

 

 ……由紀と悠里だ。

 

 彼女たちはいつかの時に、()()()()()()()と、彼女の側面の一つと戦っている。

 そして二人は、悠里はその経験があったからこそ、暴走した胡桃との戦いに於いて度胸を、胡桃と戦わない、という覚悟を示した。

 一つ間違えば、己の命。その灯火が消えかねない、というのに、だ。

 

 悠里の中では勝算があったのかもしれない。それでも、己の命をチップにしてそんな賭けを、果たしてできるのか?

 否、できたからこそ、今この時がある。

 

 それだけの覚悟を、戦士としての矜持を悠里は示してみせた。

 それなのに、美紀と圭。二人は――あまり差はないとはいえ――悠里よりも長く戦場に身を置きながら、その域に達していない。

 はっきり言えば、情けない。と思うアレックス、

 

 特に圭は、以前アレックスの質問に覚悟はできてる、と思う。などと答えながらこの体たらくだ。

 これならば、まだ部屋の隅でガタガタ震えていた方がいくらかマシだ、とすら思う。

 少なくとも、それならば危険な戦場には赴かないだろう。

 中途半端な覚悟では中途半端な、最悪の結果(志半ばの戦死)しか訪れないのだから。

 で、あるのならば、その前に引導を渡すのもまた慈悲だろう。

 ……特に今後は、悪魔やかれら以外にも、生存者たちとも争う可能性すらあるのだから。

 

 なぜアレックスがそのような懸念をもつのか?

 それは一つの可能性に思い至ったからだ。

 即ち、今回のバイオハザード。その原因となったランダルコーポレーション。

 彼らは少なくとも今回の騒動の原因となるウイルス、巡ヶ丘の、男土の風土病について認識していた。

 それにも関わらずアウトブレイクが、大災害が起きた。

 本来ならあり得ない話だろう。だが、それがもし()()()()()()()()()のなら?

 

 そもそも今回の大災害が全世界規模で起きた、ということ自体がおかしい。

 なぜなら、先ほども言ったようにこの騒動の原因は風土病なのだ。

 それが、申し合わせたように全世界で起こる? あり得ないだろう。

 それこそ意図的に起こされない限りは。

 即ちランダルは、あるいはその背後にいる黒幕は故意的に引き起こした。と、考えるのが自然だ。

 もっとも、その目的については情報が不足しているため推し量れないのだが……。

 

 ともかく、ランダルにしろ黒幕、ランダルの背後に見え隠れしていたメシア教か、もしくはまた別の組織か。

 それらの思惑によっては人間どうしによる殺し合いがない、とは断言できない。

 もちろんそれは兵士という可能性もあるし、テンプルナイトやメシアン、あるいはフリーの悪魔召喚師と可能性もあるだろう。

 ただ一ついえることがあるなら、どの可能性にしても現状の美紀と圭ではカモでしかない、ということだ。

 

 今だ覚悟が定まっていない半人前()と、友人相手に攻撃を躊躇、つまり他の人間相手にも躊躇する可能性が高い半端者(美紀)

 それらが戦場に出たところで、その最後は……。

 

 そこまで考えたアレックスは無意識のうちに歯を食いしばり、ぎし、と歯が軋む。

 彼女たちの友人として、何よりも戦場に立つ先達としてそのような最後を容認できるわけがない。

 だからこそ――。

 

「みき、けい。本気で来なさい。さもなければ――ここで死ぬことになるわ」

 

「……っ!」

 

 二人にそう宣言するとともにアレックスは残像を残しそうなほどの速度をもって美紀へ接近!

 彼女に対してレーザーブレイドを振り下ろす!

 美紀もまた西洋剣を、そしてカイトシールドをもって防ごうとするが――。

 

「――くっ、あぁ……!」

 

 ほんの一瞬拮抗するが、アレックスの凄まじき膂力に敵わず吹き飛ばされてしまう。しかし、なんとか彼女は体勢を立て直すと、両の足をブレーキに見立て地面を削りながら隙をさらすのだけは阻止する。だが……。

 

「みき……――!」

 

「けい、危ないっ!」

 

 そもそも、彼女の本命は美紀ではなかった。

 アレックスに吹き飛ばされた彼女を心配して、意識をそらしてしまった圭こそが目的だったのだ。

 

 美紀の忠告に、圭はそこではじめてアレックスが自身に接近していることを知る。

 

「……戦いの場で敵から注意をそらすなどと――!」

 

「しまっ……!」

 

 音もなく圭に接近したアレックスは、レーザーブレイドの柄をくるりと回すと、そのまま柄頭部分で腹部を殴打する。

 

「……か、はっ」

 

 腹部に受けた衝撃で蹲りそうになる圭。しかし、そんなことを許すアレックスではなかった。

 彼女は無言のまま圭の首筋を掴むとそのまま後ろへ、ゴミでも投げ棄てるように放り投げる。

 放り投げられた圭は、受け身を取ることも出来ず地面に落下。

 

「――ぐっ、つぅ……」

 

 地面へ強かに叩きつけられた圭は苦悶の表情を浮かべ、くぐもった悲鳴を上げた。しかし、そのまま行動不能になるか、と思われた圭だったが何かに急かされるような焦燥を感じると、痛みを無理やり堪え、服が汚れるのも構わずに転がってその場から離脱する。

 

 ――彼女の、圭の直感は正しかった。

 

 彼女が離脱、回避した数瞬あと。いた場所に複数の銃痕が刻まれる。

 いつの間にかアレックスが引き抜いていたレーザーガンによる銃撃――恐らく出力自体は絞っている――による追撃が行われていたのだ。

 

「……はぁっ、はぁっ――!」

 

 顔を青ざめながら先ほどまで自身がいた場所を見る圭。その顔からは、アレックスがここまですると思っていなかった。という考えがありありと見えていた。

 そのことを感じ取った朱夏は、思わず舌打ちする。

 いくらなんでも脳天気すぎる、と。

 

 今回の戦いが模擬戦とはいえ、先ほどアレックスが発した殺気で彼女が本気であることは理解すべきなのだ。

 これはおままごとでもごっこ遊びでもない。れっきとした戦い(殺し合い)なのだから。

 それを妹弟子たちに理解させるためにも朱夏は一つの行動に出る。

 

「……来なさい! ――マハ・ジオンガ!」

 

 朱夏は己のペルソナ、ブラックマリアを顕現させると、アレックスの周囲に魔法の雷を落とす。それは間違いなく――当たればの話だが――アレックスの命を奪うには充分な威力を内包していた。

 突然の朱夏による凶行、それに顔を青ざめる美紀。だが――。

 

「少しはマシ、みたいね。でも――!!」

 

 アレックスは自身の周囲に落ちる筈の雷を掬い上げるようにレーザーブレイドを振るう。

 すると、なんと朱夏が放った雷はレーザーブレイドに帯電するようにまとわりつく。

 そして彼女は――。

 

 ――猛雷撃!

 

 まとわりついた雷をそのまま利用して、朱夏に斬りかかる。

 

「は、ぁっ。ぐっ……」

 

 ……もし、朱夏のペルソナ。ブラックマリアが電撃属性の耐性がなければ、致死に至る一撃だっただろう。

 それでも一撃が重かったようで服が電撃によってぼろぼろになり、合間からのぞく肌は軽度の火傷を負っている。

 結果として、ほぼ戦闘不能となった朱夏。

 そんな彼女から注意を外すと、アレックスは美紀と圭。二人へ剣呑な視線を注ぐ。そして――。

 

「甘えを捨てなさい、二人とも。……それとも、ここで果てる(死ぬ)か。好きな方を選ぶことね」

 

 そのアレックスから問われた選択。それを聞いた二人は唾を呑む。

 本当の意味での覚悟、それを問われる時が来たのだった。


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