DDS 真・がっこう転生 MythLive 作:想いの力のその先へ
アレックスより覚悟を問われた二人。
その中で圭は、彼女のまとう雰囲気。重苦しい、実際に質量があればそのまま押し潰されるだろうプレッシャー――殺気と言い換えても良い――にさらされて無意識に震える身体を押さえ込もうとする。
もっとも、押さえ込もうと行動できる圭の方がいくらかマシだろう。美紀は震える身体を制御できていないのだから。
なぜ、美紀は制御できないのに圭は多少なりとも抵抗できているのか。それは彼女が、かつてカーマに殺気を浴びせられていたことが要因となる。
カーマも普段の行動からは見えないが高位神魔。いくら本人が戦闘者でなくとも、その存在感は凄まじいの一言につきる。
そんな彼女から殺気を浴びたことが経験となり、実力的には同格のアレックス。彼女から浴びる殺気にもある程度抵抗できていたのだ。……そもそも、
とにもかくにも、そのような状況で圭の中には多少、本当に多少の、雀の涙程度の余裕はあった。
その余裕が先ほどしたアレックスの発言。覚悟を見せるか、死か、が本当の意味で、彼女が本気で問いかけてきていることを理解した。
――なん、で……。
一瞬そう思う圭。しかし、すぐにその思いは霧散する。
そう、彼女は以前にも圭に問いかけてきていたからだ。覚悟はあるか、と。
その時、圭は言った。分からない、でも選択は後悔したくない、と。
なのに今の、この体たらくはなんだ?
親友の前で無様をさらし、今もなおその無様は続いている。
私は何のために力を得ようとした? 何のために欲した? 何のために悪魔召喚師になろうと思った?
確かに初めは成り行きだった。
晴明にこのままでは危ないと言われたから。ヒーホーくん、ジャックフロストと別れたくなかったから。
……だけど、今はそうじゃない。
思い出せ、ヒーホーくんを、友だちを喪った哀しみを。太郎丸を、あの子を守ることが出来なかった己の不甲斐なさに対する怒りを。
何のために力を得ようと思ったのか?
決まっている、守るためだ。大切な人を、友だちを、親友を、皆を!
なら、ここで何をしている。蹲っている暇なんてあるものか。
私は示さなければならない。
「……う、わあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
己に気合いをいれるように咆哮する圭。そんな彼女からMAGが、緑色の生命の輝きが吹き荒れる。
それは正しき覚悟だ。何者かを守りたい、そのために力を得るのだ、という己を律する覚悟。
それを見た晴明はポツリとこぼす。
「……一皮むけた、か」
どこか満足そうに呟く彼を、仲魔であるジャンヌとカーマは嬉しそうに見つめている。
彼女らにとっても、二人はそれなりに気に掛けていた存在だ。もっとも、ジャンヌに関してはそう時を置かず大学に出向したため関わりは薄い。しかし、それでも晴明が、マスターが手ずから弟子にしたということでそれなりに気を掛けていた。
カーマは言わずもがな。
確かに二人を、特に圭をおちょくることも多かったが、それは同時に親愛の表れ。
そんな圭が覚悟をみせたのなら、少し感傷をみせるのも仕方ないだろう。
そして、それは隣で震えていた美紀にも一つの変化をもたらした。
確かに彼女は殺気を知らない、殺意を知らない。悪意を知らない。ゆえに人の善性を信じすぎるきらいがある。
それが結果として聖典世界では、由紀の状態を見て悠里と対立したこともある。
――だが、思い出せ。
かつて
己の母を無惨に殺され、仇を討つことすら出来なかった
それらを見て、本当になにも感じなかったのか?
――否、断じて否だ。
確かに美紀の友情にかける想いは尊いものだ。だが、しかし――。
「……わたし、は――」
意志なき力は悪である。それは暴力として、いずれ己が大切な人々を傷つけることになるだろう。そして、人はそれを律するために理性を、知性を持つ。
……ならば、先ほどアレックスに対して剣筋を鈍らせたのはその賜物か?
――否だ。
それは理性では、知性ではなく惰性だ。
今、目の前にいるのは間違いなく親友のアレックスだ。
だが、由紀に聞いた話。胡桃の実家で起きたことではどうだったか?
あの悍ましき悪意を知っていてなお、手を抜くというのはまさしく愚かという他ない。
確かに目の前にいるのはアレックスだ。……だが今後は? 胡桃と同じことが起こり得ないとなぜ言える。
――その時、親友の姿をしていたから斬れなかった、と宣うつもりか。
それが結果として、大切な人々を傷つけることになったとしても。
「……私はっ――!」
そんなこと許せるわけがない!
意志なき力は悪である。そして、力なき意志は無力である。
そして美紀は今まで無力を散々味わってきた。
リバーシティ・トロンの時、太郎丸の時、ヒーホーくんの時、絶斗の時。そして……。
――あ、あぁぁ……。
――……そん、な。おとう、さん。おかぁさ、ん。
魔神柱-フォルネウスとの邂逅の時。
あらゆる場面で美紀は無力だった。
しかし、それで良いのか?
「……良いわけない――!」
唇が切れ、血が滲むほどに歯を食いしばる美紀。
そう、良いわけがない。
今の自分には、美紀には僅かなりとも戦う力がある。大切な人を守る力が。
だが、それも使う人しだい。中途半端な意志では、覚悟ではやがて死に至るだけだ。
そしてそれは己だけではなく、大切な人の死も意味する。
そんなことが許せるのか?
――否、断じて否だ!
「――だから、私は……!」
彼女の身にも先ほどの圭と同じようにMAGの嵐が吹き荒れる。
誰かを守りたい、死なせたくない。その意志を顕現させるように。
二人の覚醒を目の当たりにして、アレックスは自身が口角をあげていることを自覚した。
確かに、二人がこれ以上無様な、不甲斐ない姿を見せたら二度と戦場に立てないように叩き潰すつもりだった。
それが何よりも二人のためになる。と確信していたから。
だが、現実はどうだ?
彼女らは、親友たちはアレックスの予想を超え、高みに至ろうとしている。
それが良きことなのかは分からない。
事実、アレックスは前世に於いて地獄を、修羅の道を歩んできた自覚はある。
そして彼女らは、そのアレックスと同じ道を歩もうとしているのだ。
親友として、先達としては止めるべきなのだろう。だが――。
《嬉しそうだな、
「嬉しい……? そうね、そうかもしれないわね」
だが、かつての自分もそうだった。
そしてあの時、他の者に言われ己は止まったか?
止まるわけがない。
信念がある、願望がある、意志がある。
そんな人間が他の人間に言われ止まる筈がない。
確かに二人が歩もうとしているのは修羅の道だ。だが、それは同時に戦士として正しき道でもある。
だからこそアレックスは止めるつもりはないし、晴明もまた一切口出しをしない。
それが二人にとって必要なことだと理解しているから。
だからこその模擬戦、だからこその
確かに実力でいえば朱夏も含めて、全員が足元にも及んでいない。
――だから、なんだ。
そのようなこと、戦場では往々にしてあることだ。
その時に、敵が格上だから、敵わないから諦めるのか?
諦めるわけがない。
ならば、どうするか?
そのために必要なのが、覚悟、意志だ。
精神が肉体を凌駕する、という話はよく耳にする。
昨今でよく言う超集中による領域や、かつて呼ばれていた火事場のクソ力などが有名だろう。
だが、それをもたらすには最低限、自身の核となる意志が、覚悟が必要だ。
意志なき者、覚悟なき者には勝利の女神は微笑まないのだから。
それさえあれば後は勝手に実力はついてくる。
何せこの場には蘆屋晴明が、唯野=アレクサンドラが、そして彼女らにとって頼れる先輩である丈槍由紀、恵飛須沢胡桃、若狭悠里があるのだから。
だからこそ、アレックスは嬉々とした笑みを浮かべ破顔する。
彼女らなら大丈夫、きっと今後も生き残れると確信して。
しかし、これは模擬戦。彼女らの覚悟を見たから終わりではない。だから――。
「その意気や良し。なら、後は戦って示してみなさい。貴女たちの覚悟を――!」
後は先達として道を示すのみ。
そのためにアレックスは、二人にそう告げるのであった。