(完結)成層圏にて燃えるもの【IS×DARKSOULS】   作:エーブリス

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知り合いに脅されながら始めました2周目要素という名の後付けです。



 『外伝・虜囚の詩』 

 

 

薪の人、貴方は“新たな果実”を掴み取りました。

干からびた果実から取り出して一度植えた種の、それが成長して実らせた…ある一つの果実。

 

それを禁忌とするかどうか…その先は貴方しか分かりません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ◆  ◆     ◆  ◆     ◆  ◆

 

この日のアリーナは、男二人のみでの特訓が行われていた。

どうやら他の専用機持ちや箒は皆揃って用事が入って誰一人来ることが出来なくなってしまった…そのため一夏は非常勤講師(?)として【彼】を呼んだという訳だ。

 

 

「やぁああああああッ!!」

 

愚直に雪片を打ち込む一夏の姿を静かに見守りながら、【彼】はクレイモアの刃でその攻撃の全てをブロックし続ける。何せ非常に分かりやすい攻撃だ…彼の性格が良く出ていると思いながら、こんなので通用すると思われては歯痒くて仕方がないと、そろそろ動く準備をするのであった。

 

「これでどうだッ―――――――――――――――――――ッ!?」

 

急遽繰り出された大振りな上段構えからの振り下ろしを彼は待ってましたと言わんばかりに小盾でパリィして鳩尾に強烈なボディブローをねじ込み、その衝撃で怯んでいる間に素早く白式の背後に回り込んではクレイモアの刃の部分をその手でがっしり掴み、幅広い鍔で一夏の足を引っかけて転ばせる。

一夏はその場で仰向けに(それも思いっきり)倒れ込み「うべッ」と、間抜けさ全開のうめき声をあげた所でとどめに背中へとクレイモアの切っ先を突き立てた。

 

 

「うぐっ!?

…もう少し、力抜いてくれよ佐々木」

 

まだまだ余裕じゃないかと【彼】は一夏にさっさと立ち上がるよう促し、一度戦闘を止めて頭の固く一直線な彼のための授業を開始した。

 

「なんだよ急に…え?雪片を実体剣モードにしろ?」

 

彼の意図を読めない一夏は、取り合えずという感じに従いつつ雪片を実体剣モードに切り替えた。

…その後に【彼】は柄の端・刃の端をそれぞれ掴んで頭の上に構えるよう命令した。

 

「成程、こういうのは剣道でやったことがあるぜ」

 

その構えのまましっかりと力を入れる様に命令した彼は再びクレイモアを構え、今から縦に振り下ろすと予告した。

…しかしその手の詐欺を彼本人から喰らった覚えのある一夏は予告に対し懐疑的であったので【彼】は流石にそれだと授業にならないと騙している可能性を否定した。

 

彼は話を続け、振り下ろしたクレイモアを受け止めた後に受け流すかしてその後に反撃に繋げるよう言いつけた。

 

 

 

【彼】は予告通りクレイモアを縦に振り下ろし、一夏はそれを(驚くことに)上手に左方向へと受け流した…彼はそのまま左手を雪片の刃から手放しその刀身を勢いよく振りぬいた!

だがその途中、刃がアックスマンの装甲を直撃する以前に、クレイモアを手放した【彼】によってその身体ごと固められるように掴まれ、そして投げ技をまともに受けて空中を物凄い勢いで回転させられながら吹っ飛ばされ、今度はうつ伏せに地面へと大激突した。

大雪山おろし30%

余りの勢いに「へぶほっ!?」と切れのいい唸り声をあげた一夏に、ここで初めて彼の愚直さを指摘した【彼】であった。最初に体勢を崩すなりなんなりとするべきだっただろう。

 

 

「そう言われてもなぁ…あんな一瞬の間でどう考えろって言うんだ…」

 

一夏にため息を付きつつ、彼は白式の左手を指さして刃を持って攻撃するぐらいあるだろうと言った。無論、剣道経験者として一夏は刃部分を持って振り回すことに抵抗があるので大丈夫なのかと【彼】に問う…そして彼はまたため息を付いて剣道をやっているつもりは無いといい、それ以前に素手で刃を触る訳でもないので危険もクソも無い事を指摘した。

 

実際、刃部分を持って剣を振り回す戦術は西洋剣術には存在する。鋼鉄の手甲で覆われた西洋甲冑ならではの技だ…この技が日本で見られなかったのは日本製の甲冑が掌周辺を露出させている事と、例え何かしらの防具があったとしても危険なほど日本刀の切れ味が凄まじかったからではないかと思われる。*1(鞘を叩きつける等は存在していたかと思われるが)

因みに某UB何某の戦国中世バイキングゲームにおいて素手でクレイモアの刃を持って振り回す男がいるが、アレをマネしてはいけない

 

 

 

何はともあれこの時代、剣を刃を持って振り回すなんて事をする変わり者も古くからの銃の普及と相まってそうそう見かけなくなっているので中々のフェイントとなるだろうと結論付けた。しかしフェイントなので2回目以降は恐らく見切られる。

 

彼は最後に、これだけでもまだ30点未満であると伝えて、地面に座り込む一夏に手を伸ばし立ち上がらせて…その時には夕日も落ちかけていたので今日の訓練を一度終えることにした。

 

 

「ありがとうな、潤。

…それにしてもさ、佐々木ってなんだかすげぇよな…」

 

突発的に一夏が【彼】を褒め称えたことに驚き、彼は素っ頓狂な返事をしてしまった。

 

「いや…なんだろ、なんというか…。もし、佐々木が戦国時代とかに生まれていたら色んな武勲とか立てて名のある“英雄”になってそうな…そういう感じの雰囲気があるよな」

 

なんと可笑しな雰囲気か…そう思った彼は半笑いで答えながら、自分は時代遅れのアンティークと言いたいのかと拡張領域からマシンガンを取り出しながら答えると一夏は「いや、そうじゃないけど」とやや引き気味に答えたので【彼】は冗談だとマシンガンをしまってISも解除した。

釣られて一夏も白式を解除する。

 

 

…とは言え、彼の直感も中々のものだ。

実際【彼】は記憶にはないものの、一夏の思う戦国時代・中世の戦争に何度も出向いていたような形跡がある…まあ、それまでの自分の持ち物が然程いい物でも無かった記憶もあるので大した武勲は立てていなかったのだろうと思いながら一夏に見えぬよう皮肉的に笑って肩をすくめた。

 

英雄……その言葉が意味するものを想像した時彼はまた皮肉な笑いをあげた。結局の所他多数のためにしかならない称号だと。

 

 

「何笑ってんだよ潤…」

 

訝しげな表情を浮かべ質問する一夏に彼は何でもないと答え、ついでに自分の呼び方を統一するように要請した。

 

「あ、そっか…。

じゃあ、佐々木で…そういう感じがするしな」

 

本当にこの男には直感しかないのか…彼は呆れ気味にツッコミを入れた。

 

   ◆  ◆     ◆  ◆     ◆  ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…なあ潤、お前本当に普段飯食ってるのかよ?」

 

一夏がこんなことを言い出したのも無理はない、【彼】が一夏と共に食堂へと入るや否や周囲の女子が何か良い物でも見たかのように騒ぎ出したからである…なんでも彼女らは食堂に居る【彼】の姿をほとんど目撃したことがないそうだ。なので学園内において彼を食堂で目撃することは日本で言うところの茶柱が経つのと同意義である…。

 

こんな体たらくでは、一夏が【彼】の食生活を怪しむのは至極当然の事。実際彼は食事を必要としない不死人なので食生活の“食”の字もあったものではない。

 

 

彼は己の不始末を恥じた…この状況は回避したかったし、ちゃんと予測できたハズであった。

だが起こってしまった――――――――【彼】はどうにかならないものかと周囲を見渡し、しかし今はノートパソコンを使いたいのと後の予定の関係であまり食堂から離れたくないという事情もあるので撤退の選択肢はなかった。

 

…という訳でセオリー通り、一夏をダシにやり過ごす事にした。

 

彼は出来るだけ大声で、一夏に対して箒との“関係”を急遽尋ねた。

それが起爆剤となり(【彼】の事で騒いでいた)周囲の女子生徒が一気に一夏の話題で沸き立ち彼の元へと押し掛けた…その隙に【彼】は食堂で最も目立たない席へと滑り込むように飛び込んだ。

 

 

「おーい!佐々木ー!

助けてくれよー!おーーーーい!」

 

救助を求める一夏の声を聴きながら、彼はナンマイダーと何かの見よう見まねで唱えた念仏っぽい何かを捧げる様に唱え、ようやくと言った感じに作業へと入った―――――――――――――――――――その瞬間になって、状況の真にややこしい部分に気付いた【彼】であった。

 

 

今いる席は食堂の隅の、本来ならば4人は座れるはずの席だが…受け取り口・返却口共に遠く、更には景色も悪いその場所は学園内でもトップクラスに影の薄い不人気スポットであると彼は思っていた。そんな所に来る人間なんざ自分しかいない、【彼】は今この時までそう思っていた。

 

しかし現実は違った…対面に青いセミロングの髪の、眼鏡をかけた女子生徒が半ば唖然とした表情で【彼】を見つめている。

 

先客が居たのだ。

その事実にようやく気が付いた【彼】はしまったと思いながら彼女に突然の襲来を詫び、身を乗り出して他の不人気スポットをあたるが…どこも彼処も人がいて、それも皆よく喋る人種なので相席するにはかなり抵抗がある。

 

 

彼がグダグダと移動先を探している内に、青い髪の女子生徒が「あの…」と【彼】に声を掛けた。どうやら彼女は別に【彼】の存在を気にしないのでそのままでも大丈夫だ…との事。つまり互いに利害は一致しているので、事を穏便に済ます提案を彼女は投げかけたのだ。

 

かれはその提案…というより、青い髪の彼女の厚意に感謝した。

 

 

 

そして互いにそれぞれの作業に入り、長い沈黙が訪れた。

【彼】はノートパソコンを起動させると【AIがテレビ監督?某国研究所開発のスクリプト・ライティング・AIが――――】という見出しが目立つネットニュースのブラウザを消去し、待機状態のアックスマンとHDDとをケーブルで繋いで入念なデータ移植を行った。

 

このデータは“保護者”のみが見れる小学生的なフィルタリング機能付きの代物で、彼は何のデータが送られているのか全く分からない…というかそもそも見れたとしてもそこに何が書いてあるのかは全く理解できないだろう。しかし詳細がよく分からない仕事を押し付けられるのも慣れっこだった彼は特に気にせず…というか思うものも何も無くデータ移植、そしてその他の仕事をこなしてゆく。

 

 

…その時、端末に連絡が入りバイブレーションが動いた。

だがこの時彼は横着をして取り付けられていたストラップを引っ張ってポケットから取り出そうとしたために悲劇を招いてしまった……引っ張った勢いでストラップの紐が千切れてしまったのだ。

 

彼は自分の二度目の不始末にため息を吐きながらそのストラップを見つめた…数日前の日曜日に外出先で購入した、ある特撮シリーズに登場するヒーローが付けている喋るペンダント…その顔を象ったストラップであった。まあペンダントだったのはシリーズ1作目のみの事だったような気もするのだが。

 

かなり気に入っていた品だった…捨てるのも惜しいので彼は部屋に戻った時に修理することを決めた。

 

 

 

 

だが…この壊れたストラップが、とある運命の歯車を動かす鍵となるのだった。

 

 

 

 

 

そのストラップに気が付いた対面の彼女が「あっ」と、彼の手の中にあるストラップを指さした。

 

「それ、シルヴァ?」

 

ストラップのキャラクターの名前を言い当てられた彼は素っ頓狂な顔をしながら驚き、彼女の問いを肯定した。

続けて彼は知っているのか?と作品の視聴について青い髪の彼女に尋ねた…すると彼女は1回、首を縦に振る。

 

それをきっかけに会話はヒートアップしていく…初めてみたシリーズや、好きな登場人物の話など様々な質問を互いに投げかけた。

 

「破狼、か…なんだか戯牙とか好きそうだと思ったけれど…」

 

それもあったかと思いながらも【彼】は彼女が抱いていた第一印象について何故と尋ねると、その理由は意外と簡単で「だって、斧だから…」だそうだ…確かに彼のISは“アックスマン”だし、彼自身も斧を剣よりも好んで使う傾向があるのは自覚している。

しかし…彼女は何故そんなことを知っているのだろうか?彼が疑問を抱くと同時に、自分が話題の渦中にいる人物であったことを思い出した。

 

 

「そう。

有名だから…二人目の男性IS操縦者って…」

 

全くはた迷惑な話だ…“保護者”の意向とは言え、美術館の展示物のように目立つのは嬉しくない。

 

 

 

……ここで初めて【彼】は、目の前にいる青髪の彼女の名前を聞いていなかった事を思い出した。

彼はそういえばと話を切り出して彼女の名前を尋ねる。

 

「私は…簪。

――――…更識…簪」

 

【更識簪】、その名を聞いた彼は何かが引っかかる感覚を覚えた。

確かに“更識”と言えば今の生徒会長の苗字ではあるが、問題はそこではない…苗字の方に比べれば、とても些細な事である。

 

確か…大分前、それも入学して間もない頃の話だが…のほほんさん、本名を布仏本音という彼女は“かんちゃん”なる友人が【彼】の名前(佐々木潤)を「とても二人目って感じの名前」だとか何だとか言っていたという会話を【彼】と交わしていたのだ。

その時の会話をほぼ鮮明に覚えていた彼は、彼女――――簪に対して布仏本音(のほほんさん)の存在について知っているかどうかを尋ねた。

 

「え?う、うん…幼馴染、だから…」

 

…どうやら予感は当たったようだ。

つまりは“かんちゃん”の“かん”は“(かんざし)”の“かん”だったという事になる…その事実に一人納得していると簪が心配げに「…何か言っていたの?」と聞いてきたので、上記のやり取りを(覚えている限り)赤裸々に話した。

 

それを聞いた簪は「全くあの子は…」といった様子で頭を抱える。そう天然なのも考え物だ。

 

 

 

所で…と彼は、件の「二人目な名前」について尋ねた。

 

「あぁ…それは…」

 

簪は一冊の本を取り出す。

手渡されたそれは、ヒーロー物の小説であった。彼女はそういった手の作品が好みらしい。

 

 

何でも、この本もまた人知れず怪物退治・封印を行う戦士を描いた小説のようだ。

そしてこの小説が【彼】の“佐々木潤”という名前にどう関係しているかと言うと…別に登場人物がどうという話ではなく、なんでもこの小説は10年ほど前から特撮作品として映像化が行われ、そのシリーズの中に登場する2番手達(例えば、先ほど話していた作品であれば丁度【彼】の持つストラップの“シルヴァ”、その劇中での持ち主のポジションに当たるキャラクター)を演じた俳優達の中に「佐々木」という名前も「潤」という名前もいるらしいのだ。

 

 

 

そしてよく読んでいたのか大分古びていたその本を簪に返した彼は、その間にデータの移植が終えた事に気が付きノートパソコンを閉じた。最後に簪へ場所を提供してくれたことへの感謝を再度述べて立ち去ろうとした――――その直前に彼女自身に呼び止められた。

 

「あの、待って…!

最後に聞きたい事があるの」

 

呼び止められた事で【彼】は動きを止め、簪の方へと向き直った。

 

「そんなに大した事ではないけれど…。

…何度やっても思い通りにならなかった経験って、ある…?」

 

経験に対する問いだ…彼は真摯かつ簡潔に答えた。

何度もあるし今でも、それこそ先ほど彼女の目の前でその問題にぶち当たっていた。その為にあらゆる手を尽くして、時には誰かの力をも頼って…それが出来ない時は意地でも一人でねじ伏せて。最後に今の【彼】があった。成すべき事を成すためへの道のり。

 

 

…彼は簪に、自らの答えに満足したかどうかを聞き、それが首を縦に振るという肯定の証で帰ってきたのを確認すると今度こそ別れを告げて立ち去って行った。

 

 

 

 

 

 

―――――――――結局、自分に出来たこととは?何を成した?

簪が最後に送った問いと見せた表情が引っかかって始めた自問自答、それは同時に朧気な記憶への挑戦だった。

呪われたヒーローの話だ

メビウスの輪にも似たしがらみを抜け出せず、いつまでも虜囚(えいゆう)の詩を口ずさむ声が響く…その果てに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ◆     ◆     ◆

 

ある時、また男二人で放課後の特訓をする機会があった。

【彼】は一度特訓をひと段落させていた、その最中に誰も居ないハズのアリーナの観客席に簪が一人佇んでいるのを見つけた。

 

彼女が何をしに来たのかは定かではなかったが…一先ず、と彼は特訓を再開するよう一夏に呼び掛けた後、何故か右手に持った剣を天高く掲げた。

 

一夏は当初その行動の真意が分からなかったが、【彼】がその剣をゆっくりと降ろし刃を左手の甲で滑らせ…やがて剣の切っ先を手の甲に添えたまま白式へと真っ直ぐに向けたその時になって、初めてそれが剣の構えだと理解した。

今までにやったこのない構えだったので、一夏は口にして訝しむものの【彼】が気にするなとその構えで押し通すつもりのようだったので、仕方なく一夏はそれに乗る事にしたのだった。白式も切っ先を彼に向けて、剣道らしい中段構えで相手の動きを伺いつつあらゆる可能性を頭の中で計算し、それに合わせた段取りを幾つも組み立て始める。

 

 

…この後、白式は物凄い速度で打ちのめされて負けた。

 

   ◆     ◆     ◆

 

 

*1
要検証・要資料




簪回むっず!ほんと難しかった!
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