(完結)成層圏にて燃えるもの【IS×DARKSOULS】 作:エーブリス
2022/12/12:描写を一部変更。
――――――――――――――――死んだ
【彼】は急に考え始めた。
もしかすると“一夏とよく一緒にいる女”と“専用のISを持つ女”は面倒な奴らしかいないのではないか?と
…何だか今更、いや今更の極み、今更すぎる。何故それを今になって考えたのだろうか。
流石に本人も自覚した。
――――――――――――――――また死んだ
まだ専用機持ちはともかくとして、一夏の取り巻き(と言っても一夏本人にそのつもりが無いのだが)が厄介なのは一応道理がある。何せ奴らは大抵一夏にご執心、お熱な女共だ…恋は盲目だとか言うが、その盲目さに加えて落ち着きの無さまでもが加わって女共はほとんど意識しないままに厄介を振りまいていく。
――――――――――――――――三度死んだ
例えるならば、急に目隠しをされた怒れる猛牛なのだ…あの女たちは。
行き先も分からず何度も何度も壁にぶつかって、しかしめげたりしょげたりする事もなく再び直進する。
若者とはそれでこそなのだ。実年齢が孫を抱くどころか本来棺桶の中である長老のような【彼】はそれを温かく見守るべき…と言いたいところなのだが、流石に壁にぶつかる際に壁を砕き崩し、直進する道中であらゆるものを踏み砕いては突き破るような猛獣を相手していては老人は身が持たない。
――――――――――――――――そしてまた死んだ
だから彼は常に距離を置くことを決意する…いや、もとより距離があったようなものだ。
しかし前回は向こうからズケズケと踏み込んできていたのだった。
…こんなことで、嘗てから行く先々で敵対していた、じっとしているだけの守護者達の心境を真の意味で理解することになってしまった彼は渋い表情を心の内でしてみせた。
――――――――――――――――そんでもってまたまた死んだ
何者にも踏み入れられたくない、己はただ平穏が欲しいだけなのだ。
しかし踏み入る者にも踏み入るべき理由があり、それを説得するのは非常に難しい…【彼】自身が十分理解している事だ。
ジレンマは終わらない。
――――――――――――――――生き返ってすぐ死んだ
しかしまあ…あのトレーニングの件は少々特殊だったともいえる。それにあれだけ盛大に好き勝手やっておけば今後は向こうも関わらんだろう。多分。
…そう考えると女達も触れられたくない側の人間なのだろう。
しかし先ほども申した通り、奴らは目隠しされた猛牛である…何かの拍子に暴れだしたら巻き込まれるのは目に見えている。
…やはり距離は必要だ、ソーシャルディスタンスである。
――――――――――――――――そしてまた即死した
――――――――――――――――いや、待て、可笑しい
【彼】は流石に何か可笑しいと感じた。
先ほどからゲームで時間を潰しているが、何故か先ほどから妙に直ぐ死ぬし死ぬ頻度が高いのだ。
スコア表を見てみると、敵チームに一人だけスコアが飛びぬけている者がいた…試しにその男を探してみたらまた死んだ…が、なんと運が良い事に?そのスコアトップのユーザーであったのだ。
リプレイを見てみると…なんと!驚いた事にそのユーザーは【彼】を壁越しに認識しているような動きを見せたのだ!
これには彼も驚いた、ゲームにも己の想像を超えるような猛者で溢れているのだと。
…お察しの通りチーターである。
オートエイムにウォールハック…定番の組み合わせだ。オンラインゲーム上のチートとは慣れていないと見抜けない場合があるし今回もそうだが、その特徴を一発で見抜いていながら純粋な目で見てしまう【彼】はひょっとしなくても“まだ”ネットに向いていない人種である。
流石にこのインターネット弱者ぶりを“保護者”に様々な理由で心配され、1週間程講義を受けることになるのはずっと先の話だ。
結局この試合は惨敗だった。
チャット欄はかなり荒れていたが、彼が気付く事は無かった。
そんな茶番を他所に、突然ノックと声が響き渡る。
声の主は山田先生である…彼はたまたまドアの前に立っていたので直ぐに出た。
…彼の現在の服装は、チャック全開のズボンに上裸である。
「あの、佐々木く―――――――――ひゃぁあ!?なんて格好してるんですかぁ!?」
急に取り乱した山田先生に対して彼は首を傾げた。
…よく聞いてみれば、どうやら服装に問題があるらしい…と、彼は多少理解に時間がかかった。
そもそも不死人たる彼に服装のデリカシーを求めるのが無理な話である。
例え女神の前だろうが美女の前だろうが聖女の前だろうが、この男は褌一丁であった可能性もあるわけではあるので…。
正直な話、その美女って大抵目が見えてなかった気がしないでもないが…。
因みにロードランのレアの取り巻きは何着ても貶してくるので勘定には入れない。
きっとタンクトップなり何なり着ていたら許されたのかもしれない…が、生憎今は鋼の肉体が下着の一部と共に露わとなってしまっている。野郎がこの状態なので正直これを見ている大半は得しないだろう。
何はともあれ、このままでは要件が分からないので一度部屋に戻ってチャックを締め直し、羽織るものを探した。そしていの一番で目に入ったのがバスタオルである。
まだツッコミどころがあるのだが、流石に話が進まないので彼女は一度咳払いをして要件を切り出した。
「えっと…今度、というより明日佐々木君の部屋に新しく人が来るんです!」
新入生、というより転入生…新しく入る同居人とはその類ではないかと【彼】は予測し、実際そう質問すると山田先生は首を縦に振って肯定した。
「はい、そうですよ。
だから…もう少し、この際もう少しでいいので身だしなみには気を付けて下さいね」
流石の彼も、同居人の前でこの姿を晒すのは少々問題があると考えた。
…いや、全くもってふしだらであり大問題なのだが。
―――――――――ふと、彼は疑問を持ち始めた。
何故か男同士である一夏と自分が同室ではないのかという事だ。これもまた山田先生に質問した。
「それはですねぇ…佐々木君って、織斑君以上に急な発表だったので割り当てが本当に大変だったからですよ。丁度空き部屋が出来たのは本当に奇跡でした」
つまり、【彼】は奇跡が起きなければ最悪野外か倉庫で個人の時間を過ごす羽目になっていたのである。
彼はそう口にした。
「ええ、その通りです」
まあ彼は服装と同じように別に場所など気にしないが…。
何はともあれ【彼】は(言われたので)部屋の片づけを行う事を決めた。
「そうですね、初めてきた自室が汚いと嫌な気分になっちゃいますから。
…それではまた明日」
再びドアが閉まり、遠のいていく彼女の足跡が聞こえた。
…残ったのは、何を掃除すればいいのか分からない【彼】のみであった。
とりあえずベッドだけでも正そうと考えたのは3時間後の話である。
これより貴公に試練を与える。
貴公はどうする?この哀れな被害者を闇に引きずり落とすか?それとも光へと押し上げるか?それは自由だ…。しかし判断材料をよく見てから考えることだな。
◆ ◆ ◆
相変わらず【彼】の朝は早い。しかし今日はいつもより若干遅い登校だった。
流石に空かない教室の前で立ち往生しているのも中々暇なので、今までより少し長く部屋に滞在して、食堂が開く5分前に部屋を出ることにしたのだ。
…それが7分前の出来事。
軽い特別措置で早めに入れてもらえて2分、ギリギリ入り口が見えるような位置でノートパソコンを開いていた。
…ノートパソコンを開いた、までは良いのだが何をするのか全く考えていなかったので碌に操作もせずディスプレイはずっとホーム画面を映している。
時々、自動電源機能で画面が少しづつ暗くなってはタッチパッドを軽く動かして元に戻すだけの作業が続いていた。
―――――――――それにも飽きてきて、窓に目を向けた。
その先はただただ一面青く、そして果てない地平線があった…海は静かに波立ち、時折カモメだかウミネコだかの鳥が横切っていく。
かの地に居た時の彼も、何度か似た景色を見た。
それなのに全くの別物のように感じる…世界そのものに、寿命の気配がないからだろうか。
まるで人の不死が、地球に乗り移ったようだと…彼は一瞬だけ感じた。
…その時だった、不意に入り口方向より足音が僅かに響く。
まだ閑静な食堂ではその程度の音でも十分人の耳が拾えるほどになる。
【彼】は反射的に、しかしゆっくりと振り向いた。
ようやく誰か来たのかと、彼は入り口を見る…しかし、足音の主だと思われる人影は一瞬入り口の前を通り過ぎただけであり、そのまま遠くへと去っていった。
たったそれだけで、何事も起こらなかっただろう。
…本当に“たったそれだけ”であれば。
過ぎ去った人影は、間違いなく“男物”の制服を着ていた。
この学園で男物の服を着るような人間は限られている…ならば一夏か?と思うが、一瞬の記憶では人物は確か金髪であった。
織斑一夏は純粋かつ真面目な日本人種であり、特に髪を染めたりすることも無いので“金髪の一夏”は9割以上の確立で存在しない。
ならば…あの人物は誰だったのだろうか?
【彼】は自分の記憶力が信じられなくなってきた、もしかするとこの学校に好んで男物の制服を着る女がいたのか?と。
しかしこの女尊男卑の世の中でそんな連中は極稀だし、いたとしても一握り…そんな針の穴どころではない確率が―――――――――そう考えたところで、IS学園の特性を思い出す。
この学校はあらゆる国から人が集まっている。
それこそ、かの多人種大国アメリカに負けず劣らず…いや、あちらはあらゆる人種が(ある程度多様性はあれども)ほぼ一定の文化の中で暮らしているので、一つ一つ独立した様々な文化で育った人が詰め込まれた学園は多様性という面ではアメリカよりも一歩先であると言えるだろう。
そんな種類だけでも大鍋級のボウルを必要とするようなサラダが、この学園だ…男物を着る女が100人いたところで不思議ではないだろう。
…でも男物を着る女子生徒を見たことが無かった、やはりご時勢だろうか。
自分が見てないだけかもしれない。何時ぞやの見たことがない制服発言が段々信じれらなくなってきた。
――――そうこうしている内に、彼以外の人が食堂に入ってきた。
どの女もやはり男物の制服は着ていない。
ここでようやく、一番あり得るハズの仮説にたどり着いた。
…彼と一夏以外。つまり三人目の出現だ。
早速彼はキーボードに手をかけた、のだが…。
「あれ?佐々木君じゃん」
「ホントだ!佐々木君!」
「初めて見たかも!食堂に佐々木君がいるの!
今日は多分いい日になるよー!」
「わ~い、じゅんじーが食堂にきた~」
いつの間にかクラスメイトの女子生徒に取り囲まれていた。
一人は(あんまりに特徴的なので)直ぐ名前が出てくる、のほほんさん…たしか本名は、と考えた所で前言を撤回する羽目になった彼である。
まあいい、のほほんさんはのほほんさんだ。
後のメンツも順番に名前を思い出していく。
相川に、谷口に…と。
数え終わる頃には彼の周りの席は完全に包囲されていた。
これこそ動物園のパンダである。
まだ朝食を取ってきていない事を理由に立ち去ろうとするも、彼女らは次々と己の分を分けてきた。
パンダの餌付けだ。
…流石に好意を袖にする訳にもいかず、彼は黙って据え膳を食う事にした。
男の恥とか、そういう以前に断り辛い。
彼はモクモクと食べ続け、しかし次々と追加される朝食と格闘するうちに彼は男物の制服の件など忘れていた。
味覚の鈍い不死人にとって食事はそれほど楽しいものでもない、数が多ければそれはただ忙しいだけである。
…流石にある程度から餌付けを(遅刻を理由に)拒むようにした。
不死身なれど人の体たる【彼】には、容量の限界がある。
そういえば不死人とは用を足すのだろうか、流石にファンの妄想の中のアイドルよろしくしない…と言う事も無いとは信じたい。
…まあそんな知ったところで彼にとっては文字通りクソの役にしか立たない疑問などさておき、いい加減に彼はこの場を退場することを決めて、そそくさとクラスメイト達を後にした――――――――――――――――そして数十秒で戻ってきた。
ノートパソコンを忘れていたのだった。
…以上の、数十分前までの出来事によって現在非常にげんなりしている【彼】である。
そこに追い打ちをかけるようにして、忘れかけていた男物の制服案件の答え合わせが行われる…教壇の前に、一人の転入生が立っていた。
――――――シャルル・デュノア。
自称・三人目の男性IS操縦者
…な訳が無い。
あの顔はどう見ても女である、女顔の男がいない事も無いが、あそこまでしっかり女顔では流石に男だと言い張るのは少々無理があるように感じる。化粧の後もほとんど見受けられないのなら尚更だ…と彼は内心ツッコミを入れつつ、これから先起こる面倒事を想像して頭を掻いた。
女っぽい、とは言っても限度というものがあるのだ…限度が。整形でも無ければもう奇跡以上に不可解である。
…まだ追撃は終わらない、前日山田先生と話した内容を思い出す。
アレが自室に来るのかと【彼】は現実を受け止めつつも、受け止めた現実にウンザリした。
いやまぁ、女に化けた男よりはまだ夢があるのではないか?などと今の彼に言ってしまえばスズメバチの指輪込みで黒騎士の大斧で即刻バックスタブを取られること間違いなし…酷いと何もしてないのに無理やりパリィ判定を発生させられパリィスタブを取られてほぼ確定即死攻撃を取られかねない。
彼はそんな若くないのだ、いちいち夢を見れる程心の動力が残っていなのだ…。
そんな訳で、世間知らずの現実主義たる【彼】にとって今時男に化けた女など自分と一夏目当てのスパイ以外何者でもないので非常に困るわけだ。スパイなんて押し付けられても手に余るだけであるし。
しかしクラスメイトは超絶鈍感男の一夏含めて誰も気が付いていない。
気付け―気付けーと彼は念じるものの、女々しい奴ら(いや9割女なのだが)は守ってあげたくなる何とかと騒ぎ立てるばかり。
途中比較として【彼】の特徴も述べられたが「スティー〇ンセ〇ールだとか〇ルフラ〇グレンのような安心感」と言ったものであり、彼が理解できなかったのでスルーした。
流石に喧噪が過ぎたので千冬女史が鎮めたが、そこから最早過剰とも言えるような追撃を彼に浴びせた。
「…それと佐々木、織斑、デュノアの面倒を見ろ。
同じ男子だからな」
この先、マジで勘弁してくれがあるぞ。
しかしこの先、胃薬はないぞ。
アンタ知ってるだろうが絶対!と彼はそのように彼女に向かって叫びたかったが、流石に今度こそ落下致命級の即死冊子を喰らいそうだったので、信仰に疎く惜別の涙を使えない彼は大人しく叫びをぐっと堪えることにした。
なんだろうか、ここ最近精神的に疲れてる気がする…太陽があるので、不死の呪いが薄れているからだろうか?
――――――――――――――――と言っても不死人だって死なない他諸々以外は普通の人である…精神まで不死でない以上は、心を病んでしまってもしょうがない。
しかしここで心を折ってしまう訳にも行かなかった。
こんな事で折れてしまえば、過去の自分に後ろめたさが湧く。
しょうもない理由で後悔したくもない彼は、ひとまずしっかりと現実を飲み込む事にした。
先ずは挨拶だ、何はともあれ険悪な仲を築いて自分からやり辛くするのは得策ではない。
こういう重要そうな人物と敵対するのは余程事情やタイミングが無い限り避けるべき。
同じ男子としてと、彼はほんのり白々しく挨拶した。
「こちらこそ、よろしくね。
佐々木君…で良かったかな?」
ああそうだと、投げやりさを感じさせないような声質で投げやりに答えた。
…声質といえば、シャルルは声帯に至っても既に男子のソレではない…人種に差があるかもしれないが、16か15でその声の高さはヤバすぎる。私服がダサそうな声である
ここまで女の声をした男は、現実にはそうそう居ないのだ本当に。
さてと、ここでいきなりだが彼らは急がなければならない。
何故ならば現状男子用の更衣室がなく、いままで【彼】と一夏は女子たちが来る前にさっさと着替えてた程である。
更には今回、3人目としてシャルルがいるわけでパンダのギャラリーからも急いで逃げなければならないのだ。
そのことを彼は2人に伝えると、シャルルが首を傾げた。
「え?なんで…?」
おいスパイしっかりしろ、と突っ込みそうになる自分を抑えた彼は白々しくシャルルが三人目の男であるからと伝える。それでもって「あ、そうだった…」なんて反応をされた彼はそろそろ堪忍袋がモーンしそう(意味不明)だったがやはり耐える。
流石に一夏も怪しいとは思ったようだが、これ以上彼が考えることはないだろう。もっと考えろ
茶番はここまでだ…と、妙な空気と自分を律するつもりで一言かけて一夏に指示を出した。
…自分たちが囮になるのでルートの確保をしてほしい、と。
それを考えなしに了承した一夏はさっさと別ルートを突き進んでいった。
…その直後に彼は先ほど朝食を共にした数人を引き留めて何か交渉を仕掛けた。ちょっとの話し合いの後その数人は持ちかけた交渉を快く受け取りサムズアップを見せる。
…そう、不死人はただ愚直に戦うだけでは生き残れない。
時には狡く卑しく戦って生き残らねばならないのだ。
あとついでに、シャルルには軽いインタビューを行う予定でもある、一夏に色々知られるとウッカリ口を滑らして…という事態は(別にシャルルを庇うわけでなくとも)避けたい。
全てのお善立てを終えた後、彼はシャルルを呼んで急がせた。
――――――――――――――――おかげでスムーズに更衣室までたどり着く事が出来た、一夏以外は。
「ねえ、もしかして囮って僕たちじゃなくって…」
そう問うたシャルルに対して彼は、今更かと淡泊に答えた。
その後に一夏ならば問題ないという趣旨の捕捉を嘘をふんだんに使って説明した。
納得したようなしないような、という表情をしているシャルルの前で彼は着替えを始める素振りを見せる。
その際、普段中に着込んでいるISスーツを今日は着てない(つまり服を脱げば裸)ことを仄めかす独り言を呟く。実際今日に限ってISスーツを着込んでいなかった。
しっかりとその独り言を聞いていたシャルルは咄嗟に後ろを向き、顔を伏せた。
…指の間から恐る恐る後ろを覗くようにして。
それをチラッチラッ見ていた彼は、最早隠しきれていない女の証拠に何も感じなくなっていた。
寧ろ可哀想とさえ思えてくる。
【彼】がISスーツに着替え終わった後には、シャルルもまた着替えが終わっていた。
…ISスーツはボディラインが出やすい、だから、そこからその人の骨格が大まか露わになる。
シャルルは確かに男物のISスーツを着ていた…が、体格自体は女性のものである。どうも男の筋肉の付き方ではない…骨盤あたりからしても女でしかなさそうだ。さっきまでの黒に限りなく近いグレーの疑惑がとうとう真っ黒く染まった。
確定してしまったシャルルの嘘に内心頭を抱えながら、彼はその正体を隠しきれてない体をまじまじと見た。
「…あ、あの?…潤?
どう、したの…?」
男に体をじつと見つめられれば、女は基本引くか赤面するかの対応をする。
シャルルは後者で、腕で体を隠すようなポーズをとりながら顔を赤らめた。
取り合えずこのままソッチの気があると思われたくない【彼】は、適当に答えた…スーツは特別製かと。
「あ、ああ…デュノア社製のオリジナルスーツだよ」
―――――――この時、彼の中で今回の筋書きが見えてきた。
差し金を入れたのはあの大手IS企業のデュノア社、ラファールという優秀なISを生み出したあの会社は今、第三世代ISの開発で色々手をこまねいている…との“保護者”情報がある。
そしてコイツはシャルル“デュノア”、つまりはデュノア社の社長は自分の娘を性別を偽らせてスパイとして送ったのだ。彼や一夏からデータを抜き取る為に。
…なるほど、と声を出すぐらい彼は合点がいったのであった。
つまり御曹司かと、【彼】はシャルルに質問した。
「うん…………そういう事、に、は…なる、よね………うん…」
さて、何度も言うが彼は一夏のように鈍感ではない。
彼は先ほどの“貴方は御曹司か?”という質問でシャルルの表情が僅かながらに暗く曇ったのを見逃さなかった。
早くも彼は事の全てを察してしまった。
恐らく性別を偽った後ろめたさもあるだろうが…その背後に隠し持ってるのはそんなちっぽけな嘘だけではない。
ある意味では今、彼はシャルルの命運を完全に握ってしまっているという訳だ。
彼は“ポケット”より一つの指輪を出して、シャルルに投げ渡した。
友として、お近づきの印としてと言って。
「え、ええ!?
あ、あの…これ、指輪!?」
男女の間で指輪の受け渡しなど、そういう意味でしかない。
だが別にその気のない彼は淡々と“幸運の指輪”だと言った…そしてこれを付けてれば運気が上がると。
友の不幸は辛いとも付け加えて、【彼】は笑顔を作った。
「そ、そっか。
ありがとう…潤は優しいね」
――――――――――――――――その時、丁度一夏が到着した。
「わ、わりぃ!ルート確保出来なかった!」
まだ騙されていた事に気が付かないようだ。
騙した本人である彼も、少々一夏の人の好さに不安を覚える。
苦笑いをしながら、彼はシャルルの方を向いて一夏を騙した奴が優しいのかどうかを聞いた。
これには流石にシャルルも「あはは…」と苦笑いするしかなかったようである。
さて、先にも記したように【彼】はシャルル・デュノアの命運…ひいては恐らくデュノア社の命運ですらもその手に握ってしまった訳だ。薪の王としての強大な力を伴う選択程ではないが、ある意味世界のバランスの舵を握った事に等しいだろう。
それをどうするかは、これまでもこれからも彼次第…という事になる。
…しかし、【彼】は解せない部分もあった。
大手企業の刺客に似合わない、ユルすぎる偽装の数々である。
流石に内股ガニ股等の男らしい仕草は仕込んであるものの、先にも言ったように顔の作りから体型の誤魔化しまで所々お雑な部分も見受けられる。
人手の問題かと一瞬考えたが、いくら新事業に手間取っているとは言え大手企業がそう準備不足を起こすものか?それも会社の生き死にを掛けた一発勝負に…………もし本当に人手不足等による準備不足でないとしたら…………彼はシャルル・デュノアという少女の背後に途轍もない影を感じた。
十年と少ししか生きていないであろう少女に、火継ぎにも等しいであろう重荷を背負わされているかもしれないと考えた【彼】は何を思っただろうか。
シャルルとデュノア社は、【彼】が気まぐれでも偽物でも善人であることを祈るしかないだろう。
そういえばIS学園ってディスタンスとかどうするんだろうね。
主に実習。