(完結)成層圏にて燃えるもの【IS×DARKSOULS】 作:エーブリス
戦旗を掲げろ
今日のアリーナは…いつもより、ずっと騒がしい。今もずっとドンパチしている音が待機室からも聞こえてくる。
暴れているのは3機の専用機…機種は中国の甲龍にイギリスのブルーティアーズ、そしてドイツのシュヴァルツェア・レーゲン…恐らくそれぞれの射線から割り出して状況は2体1、対戦カードの割り当ては甲龍・ブルーティアーズ対シュヴァルツェア・レーゲン。しかし…そのどちらが有利かと言うと、数ではなく質が勝っている。
ちょっとした小競り合いから始まった戦いは、二者のリンチではなくたった一人の蹂躙という状態がずっと続いていた。
外の喧騒を窓から眺める【彼】は、じつとラウラのレーゲンを観察する。今すぐにでも参戦するのも手だが、彼には一つ懸念事項があった…前日の乱入の際、アックスマンのマシンガンを止めたあの奇怪な技である。アレの正体を見極める為にも、申し訳ないが彼女らには犠牲になってもらうしかない。怪我はすれども死に至るまで殴り続けるのは流石にあの年で佐官まで上り詰めたラウラ・ボーデヴィッヒと言えども骨の折れることだろう。
見ている限りではやはり反則的な力のように思える…だが、先ほどからセシリアの攻撃に対してはほとんど使用していない様に見えるのだ。あれほどの性能ならば常に展開しつつ一方的に右肩のレールカノンでも撃ちまくれば良いだろうに…。
――――彼はピンときた。
確かブルーティアーズの武装のほとんどがレーザー等のエネルギー兵器だったハズ、もしやあの結界はエネルギー兵器には効果が無い(若しくは薄い)のではないか?と。もしそうだとすれば立派な攻略の糸口となる…彼は口角を釣り上げて頷いた。
そこから続け様にもう一つの欠点を見つけた。
あの結界を使っている際は妙に其方へ集中しているのだ…2対1であれば1方向への集中は危険なハズで、まさか叩き上げの軍人であるラウラがそれを分かっていないハズがないのだが。
――――――再び発動したが、はやり結界を発動している際は一時も目を離さない。
これは彼女自身の癖だろうか…と思ったが、ここで今セシリアが使っているBT兵器が目に入った。確かアレは相当集中力を使う――――そしてまた彼はピンとくる、あの結界は使うために余程集中力がいるのではないのかと。先ほどよりも大きな攻略情報を手にしたと彼の口角が更に吊り上がり、唇も多少離れた。
戦いもよりヒートアップしていた。レーゲンより黒紫色のワイヤーが伸びる。
それが甲龍の足に絡みついてハンマー投げの様に振り回す。その間、セシリアがBT兵器で奇襲を仕掛けるも近づけ過ぎたために間一髪で結界にBTごと停止させられた。
どんな不幸・不運も超えて行ける
やはり彼女もまた優秀なパイロットである…彼は改めて実感した。
短期間(2日)でこれだけの技量と、そして厄ネタを持って転入してきた者達が集まってゆく事に何かの大いなる意思を感じた【彼】は、一瞬ある人物を想像するが直ぐにあり得ないと払拭する。
十分情報を得たと彼は一度、昨日の様に待機状態のアックスマンをノートパソコンへ接続して拡張領域の中身を調べた。前に輸送された物は大斧以外にも数種類の装備がいくつか混じっており、それら含めてザっと内容物を確認すると、その中から5つ程の装備をピックアップした。
相変わらず支援する気のないローテクな武装ばかりだが、馬鹿と鋏は使いよう…彼の目には十分すぎるほど使い道に溢れていた。何より手品の数は多ければ多いほど良い。
彼は足元の荷物を担ぎ、制服のボタンを外しながら待機室を出た。廊下に出るころには全て外しきっており後は上着を脱ぐだけだったが人気がまだあったので取り合えずそのままにしておいた。一応下にはあの全身を隠しきるような特製ISスーツを着込んではいるものの流石にストリップショーを行うつもりは無いので(今の状態でも十分はしたないが)これ以上の着替えは更衣室で行う事にする。
…途中、のほほんさんとすれ違い声を掛けられた。
「あ、じゅんじー!
服脱げてるよ~…って、もしかしてアレに参加するの~?」
【彼】が下に着込んでいたISスーツを見た彼女は鋭く彼の動向を察する。
そんなあどけない表情に向かって彼は大正解だと、クイズの景品としてチョコバーをのほほんさんにプレゼントした。「わ~い、ありがと~」と大はしゃぎする彼女に別れの挨拶を告げて彼は更衣室へと入ろうとした。
その直前に彼女が【彼】を呼び止める。
「じゅんじー、頑張ってね~。
向こうもすっごく強いけど、じゅんじーもすっごく強いから~」
彼はのほほんさんの純粋なエールに、軽く手を振って返した。
ここで初めて制服を脱ぎ、それを一遍に丸めてロッカーに投げ込む。
ロッカーのドアも乱雑に閉めようとするがあまりの勢いで跳ね返ってしまい、結局閉まらなかったが彼は気にせずISスーツを纏った状態で荷物を担ぎアリーナへと急ぐ。
――――最早戦いは終わっていた。
戦闘そのものが終わった訳ではない、“戦い”と呼べる物が終わったのだ。
犬の如く首にワイヤーを巻きつけられた鈴音とセシリアは、サンドバッグよろしくラウラに一方的に殴られていた。完璧なワンサイドゲームである。
彼は歩みを速めた、流石にアレでは大怪我が免れない事態になってしまう。
…その瞬間、一夏及び白式がアリーナのバリアーを破って侵入し、レーゲンへと斬りかかる!
それを見て頭をほんの少し抱えた彼は荷物をグイっと構えて投擲の体勢を取り、ジャイアントスイングの様にグルリと一回転させて勢いを付けた後ラウラと一夏の間を飛ばすように思いっ切り投げ飛ばした。
…荷物は両者の間を通り過ぎた所で着地する。
瞬間、二人の
それらを睨み返す、【彼】の瞳もまた…穿たれた“穴”の様に深かった。
「佐々木、お前…―――――――――」
微かに困惑する一夏を【彼】はどけ、という一言で制してその場を退かせた。
そして友人2人の手当てをして来いとも付け加えてアリーナから退場させる。
「逃がすものか…ッ!」
ラウラは去ってゆく白式へと照準を合わせるが、途中アックスマンの大きな手がそれを遮りそのまま一夏達を逃がしてしまう。
「ッ…!?
貴様!邪魔をするな!」
彼女の剣幕を向けられながら、しかし【彼】はただ悠々とレールカノンの射線上に立ちふさがる。
あの男と取り巻きを殺したいなら先に俺を倒して見せろと、そう口にしながら背部と腰部からそれぞれ小盾と小ぶりの直剣を手に取る。
…これは嘗て【彼】が愛用していた【ヴァローハート】を模した武器だ、それを身に染み付くほど使いこんだ彼はあの武器と全く同じ構えを取る。
「フン…グラディエーター気取りが…!」
・・ーーー・・・・ーーーーーー・・ー・・ーーー・
ラウラもまたプラズマ手刀を構えて、両者は相手の出方を伺い始めた。
二人の距離は約2メートル半、どちらの踏み込みでも一瞬で届くような距離だ。
アックスマンとシュバルツェア・レーゲン…両者は相手の動きに合わせてじわりじわりと横に動く。
どちらも下手に突撃しない…先に手を出した方が圧倒的に不利であるのが目に見えているからだ。
…途中、アックスマンの動きが止まった。
そして彼は呟く。
・---
「…?
――――――――――――――――ッ!?(まさか!)」
彼女は言葉の意味を数秒遅れて察し、足元にあった…先ほど【彼】が投げ捨てた
――――だが時は既に遅く、彼女の足元でゴミ箱が盛大に爆発した!
それとほぼ同時にアックスマンが踏み込む!
ラウラは出遅れた…彼女に強烈な一刀が瞬く間に振り下ろされる!そう…バッサリと。
その一撃が、彼女を…ラウラを、レーゲンを硬直させた。
ラウラは一瞬、生身のまま斬られたのではないか?と錯覚した、してしまった。
それほどに【彼】の一撃は重く、そして鋭かった。
年季が違う。
経験した戦場の環境が違えども、先天的要素ごときでは埋められない、絶対的な鍛錬の差がここに出た。
【彼】は今、本気だ。漸く見せたのだ…!“不死の巡礼”の本性を。
・・ーーー・・・・ーーーーーー・ーー・ーー・ー・
彼女が体勢を立て直す…その前に彼の身を捻ってからの盾の横殴りがラウラの顔面にクリーンヒットする。
更に体勢を崩された彼女へ、再び反対方向へ身を捻ってからの斬り下ろしが繰り出された。彼女は反撃よりも防御を優先せざるを得なくなっていた。
-・--
どうにか体勢を持ち直したラウラはプラズマ手刀で防御の構えを取った…だが、アックスマンの小盾より放たれたエネルギー系の衝撃波がその防御を強引に崩し、飛び掛かるように突きを彼女の鳩尾へと直撃させる!
この衝撃波の発生装置は、本家ヴァローハートの獅子の咆哮を模して設けられたものであるが…カートリッジ式である為に使用制限は1回のみ。
しかし今回は刺突の衝撃が伝わりきるギリギリでラウラが後方に飛び退いてダメージを軽減したために(先ほどと比べて)大した一撃は与えられなかった。
だが【彼】はそこで逃げられる事など承知の上である。
ラウラはアックスマンより十分に距離を取り、今度こそ立て直す…と思った矢先に足元に何かが転がってきた。
…IS用のグレネードだ!彼女はいつ投げられたのか、若しくは元よりここにあったのを自分が転がしたのか、それすら定かでない内にグレネードの爆撃を喰らって吹っ飛ぶ。
その背後にはどこからともなく回り込んでいたアックスマンが待ち伏せており、強烈なバックスタブをお見舞いした。
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その後、すかさず後頭部へと盾を用いて殴りつけ…更に回し蹴りを脇腹にねじ込み、
かなりギリギリの所で、蹴りはどうにか腕でガードすることが出来た。
しかし、あまりにアックスマンの攻勢が激しく、カウンターを挟み込む隙もない。たまに手刀の一撃二撃が繰り出せる時があれどもソレは掠りもせずにスラリと避けられるか受け流されて逆にカウンターをぶち込まれるかだ。
最早どうにもならない程の戦力を感じて…………それでも尚、ラウラに闘志の炎が消えないのはそれ以上の私怨があったからだ。それは自分が心酔して止まない織斑千冬の名誉に傷をつけた織斑一夏への凄まじき怒り…奴を消さねば、打倒さねばという強い光によって産み落とされた陰我が彼女の眼帯の奥で静かに燃え盛っていたからだ。
だが…その怒りでは、どうしようもない程に【彼】の壁は高い。
燃え盛る陰我で以て尚…眼前にあるのは“古き怨嗟”の集約地――――その果て、すなわち本物の修羅。
今の人らが、より高度な文明を引き換えに失った…血生臭いとされる総て。
それが色濃く残っていた時代と文明からの戦士に、刃を向けるには…ラウラのそれは、あまりに中途半端であったようだ。
イチかバチかで放ったワイヤーブレードを全て剣に絡め取られ、それを躊躇なく捨てて一時的に武装を封じられたラウラはその直後に繰り出された勢いの乗った馬上槍の突撃をまともに受けてしまい、今度こそアリーナの端へとぶっ飛ばされた。
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彼女はそれでも立ち上がった…あの織斑一夏を滅さんと、今目の前の【彼】という壁を叩き壊すため。
しかし彼は既に“仕事”を終えて、ラウラへの興味を失っていた。
彼は最後にこう言い放つ。
貴様の妹か姉もコレではな、と…。
――――――――――――この一言が、ラウラの逆鱗に触れた。
彼女は最早何も言わず、何も叫ばずアックスマンへの背中へと斬りかかった…秘める陰を全て力に変換したかのような勢いで。怨嗟の慟哭が虚無の彼方に響き渡った…!
しかし、その刃は何者かに阻まれた。
「全く…ガキの相手などさせおって…」
「織斑教官ッ!?」
件の千冬女史がとうとうアリーナに突入してきたのを見据えて、彼はアリーナを去った。
――――この後、今回の事件によって学年別トーナメントまでの模擬戦を禁止された。
彼にとってはそれでよかった。それで無ければ僅かにも安心は無かった。トーナメント前に狙い通りの事を起こされては――――。
端末を手に取った【彼】は更衣室へと消えていった。
これで下準備の半分が終わった。
後は…彼女次第である、これからの試練も、何もかもが…。
◆ ◆ ◆
日も沈んでしばらく経つ頃には、彼もシャルロットも自室に戻っていた。
彼はまだ制服姿でノートパソコンを睨んでいる。
…昼間の一件でセシリアと鈴音はトーナメント不参加を余儀なくされたらしい。
まああのISと本人の損傷具合では納得の結果だろう。当のお二人は全く納得していないだろうが。
そして何かの流れでシャルロットは一夏とタッグを組むことになったそうだ。どうもその流れというのが想像出来てしまうのが彼にとっては苦笑いの種であった。全くここの女子達は獲物に直ぐ飛びついてゆく…空腹の猛獣のように、と言っても全員女所帯で男に飢えるのも無理ない話だ。
…しかし今回可笑しなことに【彼】にはその流れが来ていない、たまたまだろうか。
どうだっていい話だ、そんなこと。
彼はいつもの様に只々待ち続けていた…最早ここまで待つ事を続けると得意技の境地である。
以前はカタリナの騎士が好んで(?)使い、彼がその間に突き進んでいたが…一応は落ち着いた訳なので自分も待っているのも悪くないと、何処をどう聞いても現役引退した老人のような事を彼は考えていた。
何はともあれ、今の彼は渦中の中心に居ない。多少動いても世界は何も変わらないだろうが…それはそれで気が楽でいいとまた年寄りめいた心境でモノを語った。
しかし彼はそこまで老けて居られなかった。
ラウラの事もあるし、何よりこの先も自分は自分が進むことを決意した道を進まねばならない。
もう少し、彼は青年のような気力をどうにか保たねばならない。
だからこそ…彼は色の無い何かに抵抗する。
「潤ー、シャワー空いたよー」
洗面所からシャルロットが出てきた。
身体がほかほかとしているのはシャワー上がりであるためだ。
彼は簡素な返事を返して席を立つ。
…ここで【彼】にふと疑問が湧いた。
シャルロットはいつまで男のしゃべり方を続けるのだろうか…それを本人に聞いてみると「うーん」と表情を僅かに落として語った。
「ここに来る前、正体がバレない様にって男の人の仕草を徹底的に仕込まれたんだ。
多分…直ぐには元に戻らないかも。変かな?やっぱり」
彼は別に可笑しくもないし自分にとってはその口調の方がお前らしいとも感じると答えた。
しかしデュノア社は杜撰な仕込みをしていたとばかり思っていたが…流石に口調と、それと喉仏を隠す工夫ぐらいはどうにかしたようだ。
けれども直ぐに男装を見抜いた彼にとってはオカマ設定で貫いてもっと他の所を徹底的に偽装するべきだったのではと考えるが、どうせ仕方のない事だ。
何はともあれ、別に「クソ傭兵が!ぶっ殺してやる!」とでも叫ばない限り男の口調でも問題は無いだろうと【彼】は思った。
…その時、ノートパソコンに知らせが入ってきた。
彼は内容をザっと確認して、そして事実を飲み込んだ後に深いため息と共に頭を抱えて外にでる準備をした。
「潤?どうしたの?」
シャルロットに何があったのか聞かれた【彼】は、呼び出しだと簡潔に伝えた。
ひとまず、シャワーはもう一度帰ってきたときに浴びることにはなるだろう。
出掛けてくる、とドアノブに手を掛けようとした時だった。
「…いつ戻ってくる?」
そうシャルロットに言われて、彼は一度動作を止めた。
流石に何時ぞやのように徹夜をさせられる事は無いと、それだけを伝えた。
「そっか。
出来るだけ…早く戻ってこれるかな?」
この一言に、彼は少し言葉を詰まらせたが…善処はすると伝え今度こそ部屋を出た。
それじゃ…と彼はシャルロットに手を軽く振った。
「うん、行ってらっしゃい」
◆ ◆ ◆
「…チッ。
おい、ここにいるのだろ?わざわざ呼び出して何の用だ?
…答えろ!佐々木潤!」
試練は、より過酷を極める。
次回、ハードモード開催。