(完結)成層圏にて燃えるもの【IS×DARKSOULS】 作:エーブリス
最後の更新から1年経つ前にどうにか投稿できました…ガンプラとかナニカサレタシリーズとかに現を抜かしててですね…。
というわけで霧のかかった人影のように楯にゃんの出番が薄い楯にゃん回をどうぞー。
コッ、コッ、コッ…と、シャープペンシルがテンポよく机に叩き付けられる音。そしてその衝撃でシャープペンシルの内部でシェイクされるシャー芯のシャカシャカシャカ…という小刻みな響き。それらが空間に満つる頃には一夏(と他の生徒達)の眠りはより深くなり、しかし【彼】の意識は相変わらず落ち着いたまま明確であった…ある一点を除いては、だが。
と言うのも、今日渡された数学の課題が(少なくとも彼にとっては)予想以上に難しかった様で、昼間の内は彼も夜中に時間を掛ければ出来るものだと余裕があったのだが、今現在、いくら時間も費やしても彼は一向に答えを導き出せない。こんな事ならと【彼】は頭を抱えながら“保護者”に対して“姉”の同時入学を提案するべきであったと後悔に苛まれていた。
年の功、年の功と彼は何気にクラスメイト…いや、最早学園にいる他の誰よりも(それこそ高齢らしい理事長よりも)年を重ねた事によるアビリティを役立てているが、元々【彼】は一にもニにも戦う事で生きてきた人間であったために魔術や奇跡に対して僅かながらにも疑念を持つ*1。故に学生となる今日まで学問の“が”の字にも触れた事は無い。
特に、不死になる前は宗教や信仰といった類を世迷言として強く軽蔑し、魔術を
そんな経歴が祟ってか複雑な数式や術式そして長い文章に意外と耐性がない。内面年を取り、落ち着きを得て幾分マシになったが、常日頃に家計簿請求書給与明細書契約書ナントカ書ナントカ簿ナントカ書……と当たり前のように文字を読み書きし計算をする現代社会人としては低いレベルの耐性だろう。
しかしIS学園は戦闘能力だけではない、学問に関しても最高クラスのレベルを要求される…それも今の今まで(上記の様な人格を持つ)【彼】が付いて行けてたのが非常に不思議なくらいには高い。彼は紙の上で並びに並ぶ複雑怪奇な数字と記号に目を回しながら、シャーペンに込める力もだんだん強くなり…やがて数ミリだけ出していたシャー芯を砕くようにへし折った。
シャー芯の破裂音が、彼の集中力を決定的に削ぐ…彼は正攻法で挑むのを諦めた。
彼は周囲を見渡し…その時、同室である一夏の鞄が目に入った。そうだ、彼は“正攻法で挑む”ことを諦めただけであって、“課題そのもの”は諦めた訳では無い。飛び立つ鳥の様な勢いで、自分の机から精密作業用の手袋を取り出しては手に嵌めて直ぐ、一夏の鞄へ手を触れた。
じぃー…と、チャックが開く音が小さく響く。
別に鞄には高度・簡易問わずセキュリティがあった訳でもないので簡単に開き、彼は丁寧に中身を物色した。
…彼には一つ心当たりがあったのだ、確か昼頃にまた珍しく食堂を訪れた(とは言え今回は近くを通りかかっただけ)時にふと一夏とその隣にセシリアが座っているのを見かけたのだ。その時にセシリアが一夏に対し机に置いたテキストを通して何かアドバイスをしていた事を彼は僅かに覚えていたのだ。
更に記憶を遡れば、【彼】と一夏はこの数学の課題に対しての会話も僅かばかりにしていた。無論、状況証拠的に内容は難易度に関してである筈。
そこから彼は推理する…あの時セシリアは一夏に課題のコツだか要点だか何だかについてレクチャーしていたのではないかと。彼女はイギリスの代表候補生とだけあってか非常に頭脳明快(残念要素多数アリ)な人物だし何より彼女は一夏に対して好意を抱いている(ここら辺が残念要素の要因)。彼に頼まれれば彼女は飛びつくように承るだろう。
――――結果的に、【彼】の予測は大当たりした。
先ほどまで向き合っていたテキストと同じものを取り出し当該ページを開けば、そこには答えとそれにたどり着く数式…それどころかその詳しい説明までもが綺麗な文字で書かれたメモまで挟まっている始末だ。
英国淑女様様である、恋する乙女様様である。伊達に紅茶を静脈注射している訳ではないようだ…と、彼は先日クラスメイトから聞いたスラングを交えてセシリアを内心褒め称えた。
彼は答え、数式、そしてびっしりと書かれたコツを寸分違わず(文字は彼女と違って汚いが)自分のテキストとメモ帳に書き写し、それを終えるとテキスト等を投げ捨てるかのようにゲームへと飛びついた。
…そして数秒で机にカムバックしたのだった、流石に後始末は行うべきである。
かくして、狡い大人(実年齢)のセコくてみみっちいカンニング劇は終わった。
満足した【彼】は早速ゲーム用のコントローラーに手を伸ばす。
その時になって初めて左の二の腕に違和感を覚えた…丁度、待機状態のアックスマンを括り付けている左腕だ。目を向ければ違和感の原因など一目瞭然で、これでもかと目立つ、真鍮のペンダントがぶらぶらと(待機状態のアックスマンに)括り付けられていたのだ。寧ろ気付かなかった己がどうかしている…と【彼】は心の内でウンザリとした。
最近ようやく“色の無い何か”を見なくなったと言うのに。
――――――――ああ、そういえば。
彼はこのペンダントにまつわる最近の記憶をふと思い出した、思えばこんなとこにペンダントを引っかけた経緯もおかしなものだった。
場所は更衣室、今日のIS実演授業を終えた【彼】は何時もの如く長椅子に腰かけ、どうでもいい事に時間を割いていた。
その“どうでもいい事”というのが何かと言えば…件のペンダントの蓋をパカパカして遊ぶだけだ。どうでもいい、というか心底下らない…が、どうやら【彼】はこのパカパカがドツボに嵌ったようで、先のことを言ってしまえばこの遊びは1週間の間は彼のマイブームであった。
いつか部品の一つが摩耗して壊れそうなほど遊んでいる内に、蓋の裏側に何が掛かれている事が気になった為にパカパカを止めて裏側を凝視…掠れた文字を凝視した。削れ切っててしまった文字が一つ二つあったが、文章を構成する上で大した障害に成程でもなく【彼】は簡単に内容を読み解くことが出来た。
『竜に会え。
いずれまた神託が下る』
若干、下行については意訳を踏まえて文を述べたが…それが意味する者は分からない。
というか物凄く胡散臭い。先も述べたが彼、神とか奇跡とかあんまり信用してないし何なら一部の神様なんかは大っ嫌いである。よくもまあ自分はこんなものをいつまでも持ち続けていたと分かりやすい嫌悪感を抱いた。
しかし長く持ち続けていたからか、別段手放す気にもならないのでまたパカパカを続けていた。
――――――――急に暗雲が立ち込めた。
僅かながらに【彼】が感じたのは、油断ならない様な人物の気配。少し気を抜けば大事な何かを持ち去っていく泥棒猫か、化け狐かを思わせる妖気。
…と言うのは大方誇張表現である。しかし確かに人の気配*2があるが妙に薄くそして足音も小さい、間違いなく何かの心得があるような足の運びであり場所が場所ならもっと警戒していた程だ。しかしそこまでは至らない…長年の勘で、断片的に感じる気配から動きを予測的に読み取っていくうちに相手に殺す気が無い事に気が付いたからだ。
どちらかと言えば、対象を惑わしたり弄んだりする動きだと【彼】は感じている。とは言え、一体誰がこんな事を…自分に積極的に関わる人物を一つ一つ挙げるとして、先ずクラスメイトののほほんさんは…無い、先ず無い、彼女にこんな高度な立ち回りが出来るとは思えないし、仮に出来たとしてやるとは思えない。いい所が彼を見つけるや否や早速「じゅんじ~」とあの空気が抜けてくような声でテトテトと駆け寄って来るのだろう。じゃあ技術面で言うと…同じくクラスメイトで【彼】を兄と呼ぶラウラだが、直感的な彼女がこんな搦め手を含むような事をするとは思えないし、そもそも彼女は人心掌握のプロではない。
では…何だ?余程人懐っこい誰かか?そうなると一体…そこまで考えた所で一人、思い当たる人物がヒットした。【更識楯無】、IS学園の現生徒会会長であり、偶に【彼】が関わったりしている簪の姉だ。(パッと見の感想だが)彼女は引っ込み思案で大人しい妹と違って何かと活発的で人と壁を作らない…というか、人の壁の隙間を幽霊のようにすり抜けて来るタイプであり、尚且つ自分の腹の内に関しては全く探らせないし掴み所もない。
心理戦の申し子だなと【彼】は楯無という少女への評価を纏め、それは実際間違ってはいない…何せ楯無の素性は日本の対暗部組織【更識家】の当主である。これは“保護者”からの情報なので信頼度は高いだろう。対暗部の立場で【彼】に接触するとしても大いに理由がある、
如何せん【“彼”】が目覚めるにあたって一悶着どころでない程に事件が起きている
――――で、どうするべきか?
仮に“後ろの正面”が更識楯無だとして、だ…何を目的に彼を尋ねたとしても、どう対応すべきなのか?もしも当代の更識家として何かの情報を狙って来たとして…もしもそれが【彼】にとってマズイ情報だとして、そういう情報は彼にとってかなり思い当たるフシがある。ドのつく口下手である彼は圧倒的不利であるしそれは本人も自覚している。何かの拍子でとんでもない情報や言質だとかを抜き取られるかもしれない。最悪“保護者”に甚大な迷惑が掛かる。
ならばこそ…だ、ここで避けもせず跳ね除けもせず…ただ通りすがる幽霊を何でもないかのように通してやる。自分はただ、一本の乾いた枯れ木であればいい。相手のペースに身を任せるまでだ。
ここまで15秒、ずっとパカパカしていた――――が、突如視界が暗転する。
そうきたかと思いながら【彼】は適当に思い出した名前を尋ねて無理くり後ろへと振り返ると…水色の髪の少女が居た。一瞬、簪かと彼は思ったがよくよく見ると細部が異なる…が、結局の所見覚えのある人物には変わりない。先の予想通り更識楯無だった。
「ざ~んね~ん、不正解」
らしいな、と彼は内心呟く…意外と(IS学園に)居そうだったのだが、アナスタシア。
そんなことはさておき、此処からどうなる事か。ラウラの一件でもVTが想像以上の強さを発揮するまでは焦る事も動揺する事も無かった【彼】だが、今回の場合楯無の素性が素性なのでかなり冷や汗をかいている…こればっかりは本当に先が読めない。
――――だが、事態は思ってもみなかった方向へと進むのだった。
「けど…成程、ね。
それじゃあ、遊ぶのも程々にね~」
…何も、無かった。
というか…ちょっかい仕掛けられただけだった。
あんまりにあんまりにも拍子抜けした彼は、思わず間抜けな声を漏らしてしまった…既に遠くまで行ってしまった楯無にそれが聞こえていたかどうかは定かではないが…。狐に――――いや、濃霧に包まれた様だったとも言うのだろうか?何あれ【彼】にとって非常に不思議な出来事だったのには違いない。
…違いが、無かった、はずだった。
ふと、ホログラムの時計を一瞬見て…そして二度見して、楯無が何故あれほど簡潔なコンタクトを行ったのか?その真実の一旦を担ぐ“事実”がそこにあった。もう次の授業開始まで後1分もない。猛ダッシュで教室に向かっても最早間に合わないだろう。このイベントは世界各地で起こり得る割に、すべての生徒・学生に絶望を焚べさせる強烈な物である…きっと今これを読む誰かも経験があるハズだ、特にリモート授業が増えた今日においては授業の合間に『寝すぎて』『遊び過ぎて』等々、様々な理由で肝を一気に冷やし「オワタ」とつぶやいているのだろう――――おっと、話が脱線した。
…そして鳴り響く授業開始のチャイム。
あーあ。そう思いながらも【彼】は一切焦る事も無く、ただゆっくりと更衣室を後にした。開き直ったのだ…いくら走った所で制裁は免れぬ、ならば死に急ぐこともあるまい――――そうして彼は教室に到着後、(楯無との会話を抜きに)全てを般若の形相をした千冬に吐き出し…今日一番のフルパワー拳骨をいただくのであった。
千冬女史曰く「せめて急ぐ努力はしろ、この大馬鹿者」との事、ごもっとも。
ゲームを一時中断した彼は、一度
別に怪我とかどうとかではない。毎度毎度、あの威力で不思議と傷一つ付かないのだ…無論、一夏もである。とんでもない技巧である。
寧ろ【彼】の心配は自分の“皮”であった。
何せ今の顔は移植手術によって外科的に張り付けられた仮のモノであるからだ…本来は“保護者”が開発した装置で幻影的に“正常な”顔を投影する事になっていたのだが、そこは物理に拘る彼…幻など信用できないとゴネてゴネて、ゴネにゴネて結局どこからか用意された外面を移植したのである。結局装置による幻影は首から下に使われる事となった。
…結局、外皮にも特にこれと言った損傷等の異常は見られなかった。
彼は一度“装置”のスイッチを切って、本来の身体…つまり呪いに蝕まれた『亡者の身体』を露わにする。やがて正常な肉体、その幻は儚く消えて萎え萎んだ悍まし現実が…それも身体にだけ現れる。
首から下だけが亡者になっている様は、我ながら気味が悪いと【彼】は感じた…いくら己が望んだと言えども。
またスイッチを入れて亡者に正常な幻を被せた。いつまでも見ていられるような物じゃない…彼は少々うんざりするような様子で鏡から目を逸らし、洗面所を後にして行く。
身体ばかりか気分さえ萎えた【彼】はゲームをする気にもならず、そのまま布団の上に身を投げて条件反射で携帯端末を見た…その受信履歴には何故かシャルロットからのメッセージが“全て送信取り消しになった状態で”3通ほど送られていたのだ。一体何を伝えようとしていたのだろうか?それも今じゃ分からず終いである。
何が何だか…と、彼は全身を目一杯伸ばしてリラックス状態に入った。
…彼は思い出したかのようにペンダントをポケットから取り出し、またパカパカを始めた。
そのうち彼はこのペンダントの胡散臭ささを思い出して、また蓋の裏の一文を眺める。
『人間性を捧げ、絶望を焚べよ。王たちに玉座なし。』
――――あれ?こんなのだったか?
こんな巡礼の老婆たちが「そうさね…」と語りだす内容のような一文であったか?いや確かにこれもこれで胡散臭いのだが…彼は記憶との相違に戸惑うが、そもそも何が書いてあったのか詳しく思い出せないので、悩むうちに気のせいで済まして今度は蓋を開く事で露わになるペンダントの肖像画を眺めた。
…掠れた絵だ。薄い水色の長髪を持つフードの女性。下に細かく刻まれた文字によると【罪の女神ベルカ】を象ったものであるらしい。
それにさえも興味を無くした【彼】はまたパカパカに勤しんだ。
こんな夜更けには、だれもが深い眠りにつく…動作音を咎める者は一人として居なかった。
生命が鋼鉄に宿るか…
次回からようやく本編終了後の外伝を更新できます。
原作だと一夏がプールやら粘土遊びやらなんやらで忙しかった辺りの話なので穏やかに始まって終わります。
亡国企業?知らん知らん他所のダクソISに期待してくれ。