(完結)成層圏にて燃えるもの【IS×DARKSOULS】 作:エーブリス
◆―――――――――――――――◇
何時の記憶だったか…色んなものが混ざり合ってよく覚えてはいなかった。
それでも最後の記憶には、一つ鮮明なものがある。
あの時強大な何かをやっとの思いで打ち倒して、壊れた兜を脱いだ。
かなり久方ぶりに素肌で空気を感じた…そんな感じがした。
【彼】の記憶はそこで途切れた。
◇―――――――――――――――◆
「大丈夫か!佐々木!!!」
噛み殺される寸前だった【彼】のピンチに駆け付けたのは、白式を纏った一夏と…謎の紅いISを纏った篠ノ之箒だった。
紅いIS…【紅椿】について彼は見覚えがあった。嘗て束博士のラボに滞在していた時期に何度か設計図を見たことがあるのだ。確か世代的には今最先端の第3世代の一歩先を行く第4世代だと言っていた事も彼は覚えている。
…箒に渡す予定自体は聞いていたので知ってはいたが、彼は賛成した訳ではない。寧ろ彼女にはまだ早い、まだそれだけの力を十分使えるような状態まで成長してはいないと難色を示していたが…何か考えがあるのか無いのか、博士は構わず実の妹に紅椿を譲渡していたようだ。
仕方がないのでこの際彼はそれを咎めず、一先ずはプライベートチャンネルに入ってきた連絡に対応した。
『佐々木、よく聞け。
これより白式の零落白夜を使った一撃必殺を狙う作戦へと移行する。貴様は一夏の援護だ…貴様が退かないのはいい、だが勝手は許さんぞ。いいな?』
断る理由もない、【彼】の導きの良し悪しによって今回の作戦の結果が決まる…それを理解した彼は籠手の残り少ない竜のウロコを使い折れた剣を研ぎ、2人の前へと突貫した…今度は完膚なきまで打倒すのではない、より注意を自分に向け、より一夏や箒から注意を逸らさせる。それを目的として【彼】はより攻勢に出た。
…福音の背中より生えたる巨腕が更に背中より鉈と剣の中間のような巨大な得物を引き抜き、迫る【彼】へと振り下ろすが、紙一重でその一撃を回避した彼はカウンターとして剣の横降りを素早く繰り出して巨腕を斬りつけた後迫った槍の穂先を受け流して化け物じみた顔面へと左フックをねじ込み下顎へと剣を刺せるところまでズブリと差し込み素早く引き抜いた。
その動作の間に迫っていたエネルギーの鎌を彼は剣でガードするも、想像以上のパワーにより遥か遠くへと吹っ飛ばされ体勢も崩された状態で、福音の鎌が二撃目の構えを取っていた!
「させるかッ!」
「今だッ!
うぉおおおおおおおおッ!!!」
鎌が振り切られる寸での所に箒が空裂のエネルギー波を飛ばすことで、福音の追撃をブロック…更には下方より隙を見た一夏が零落白夜を発動させイグニッションブーストで斬りかかる!
…だが必殺の一撃が直撃する寸前、巨腕が剣鉈で一夏を迎撃…そして叩き落とした。
「何ッ…うわぁあッ!!」
吹っ飛ばされる最中、零落白夜を一度停止させたその隙に福音が巨腕の対より急遽生えた枝のような翼に白い光を纏わせ光の矢を放つ!
一夏は光の矢を照準を振り切る事で回避して再度のチャンスのために福音から距離を取る…それと入れ替わるように【彼】が福音の背後より斬りかかる…!
「くっそぉ…!
どこもガードが堅い…!」
「気を抜くな一夏!私と佐々木で奴の動きを止める!
お前は常に気を張っていろ!!!」
「ああ!」
一夏がじわじわと福音に近づく間、箒は背部の展開装甲を切り離して【彼】とは逆に正面より突貫する。
展開装甲の一撃目は福音の顔面に…そして二撃目は巨腕より剣鉈を叩き落す快挙を見せた。
更に箒が雨月のレーザーによって福音の左目を穿つと同時に【彼】が折れた剣を無理やり巨腕の手の甲へと突き立て、鈍器以上の使い勝手を封じた後背中へとマシンガンの掃射を放つ!更にたった1本のみのラージミサイル…そして左手にミサイルランチャーを持ち惜しみなく引き金を引き、今持てる射撃兵装の全火力を投じた。ただでさえアンバランスな変化により機動力がガタ落ちしていた福音にその攻撃を振り切るだけの推力はない。
だが、依然多彩な攻撃方法からくる総合火力は厄介だ。
彼は一度ミサイルランチャーのリロードを挟みつつ、弾幕の間を縫って最接近しマシンガンの弾倉に残った弾薬を全て至近距離で巨腕に叩き込む。弾痕でズタズタになった巨腕はそれでも勢いよく振り回して【彼】を寄せ付けない。
丁度その頃にはミサイルランチャーも弾倉にミサイルをギッシリ詰めなおしており、今度こそはと引き金を引く!
巨腕は成形爆薬で今こそ鈍器としてもかなり心許ないボロ雑巾へとなり果てた。
次は枝翼だと再び照準を合わせようとした時、【彼】の隣を素早く通り抜けた白い影があった。
「今だ!」
福音が枝翼を広げ再び光の矢の掃射を開始しようとした時、チャンスと勘違いした白式が…あろうことか光の矢の射線上を真っ直ぐ通って突撃してきた!
咄嗟に【彼】が一夏を押しのけ、零落白夜で無駄にエネルギーを消費する寸前で行動を止めさせることが出来た。
…だがその代わりに彼が光の矢を全弾受けてしまい、今度こそエデル・アーマードは完全崩壊。竜を象った兜もまた素顔が露呈するほどに破壊された。
「佐々木!大丈夫か―――――――――――――――ッ!?」
一夏は彼の安否を確認する為顔を覗き込み、その衝撃の光景に言葉を詰まらせた。
…なんと、竜の兜の中身もまた“竜”。そこに一夏の知る【彼】の素顔は無く、痩せこけて鹿にも似た竜の姿が在ったのだ。
そう、【竜体石】の効果による肉体の竜化だ。
「お、おい…佐々木、佐々木…だよな…?」
彼は今改めて若者の世話にどれだけの骨を折るかを実感した。
考えるだけ…口には出来なかったが。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「な、何なんだ…アレは…!
奴じゃ…ないのか?」
白式の視覚情報を通して【彼】の素顔を見ていた千冬もまた驚愕していた。
人があそこまで姿形を変えるだけでも非科学的だと言うのに、ましてや伝説上の存在である“竜”などと…。
彼女はまだ信じられなかった、あのISに乗っているのはきっと別人(というか別の生物)だと…先ずはそう思い込んだ、が、すかさず束が「まさかとは思うけど」と竜=【彼】である事を肯定したために思考能力がフリーズする。
「…何を言っている束、人が竜になど」
「仕方ないってちーちゃん、アイツ既存の人体学生物学がまるっきり通用しないんだよぉ!
私も(あんまり興味無いから)片手間の解析しか行ってないしぃ!」
「…」
彼女は暫しの沈黙の後に、一先ず【彼】の事は置いておく事にした。
いや、金輪際この事を自ら進んで取り扱うような事も無いだろう…彼が何者であれ、これ以上闇へと踏み入る必要もない。今の所は(世界で二人目のIS男性操縦である事を除き)ごく普通の生徒の一人である。
それに【彼】の“保護者”が本当に束であったとしたら…。
…彼女はディスプレイに映る、紅椿の視覚情報へと目を向けた。
その画面の片隅に、持ち前の顎で福音の喉に噛みつく【彼】の姿が映っていた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
彼の旅路が、これまで楽であったことは無い。
だからこそ知っていた…今の様な果てしない壁を相手にする際の、活路の見出し方を。
今まさにそうだ、険しいがその道が彼に…彼らには見えていた。
――――そのハズ、だったのだが。
「はぁああああッ!!」
【彼】が福音の鳩尾に斧の刃を叩きつけ、迫る蛇竜の顎を片手で辛うじて制止する。
その間に勢いよく振り下ろされた紅椿の空裂が、遂に福音の枝翼を断ち切った。最早福音に残された武装は少ない。
彼女は…箒は叫んだ、「今だ一夏!」と。
――――だが、肝心な白式は弾幕を縫って全く別の方角へと飛んで行った。
彼は一夏の愚直な性格を考慮して瞬時に辺りを見渡した…すると案の定、海上にて一隻の船が通りかかろうとしているのを見つけたのだ…!
作戦が行われる直前(エデル・アーマードが福音に喰われる寸前当たり)には教師達による海域・空域の封鎖は行われていたはずだった…ともすると、あの船は密漁船かその類か…それとも封鎖以前に海域へと迷い込んでしまった哀れな者たちか。
如何にしても邪魔でしかないが、一夏は先ずは船員の護衛を優先したようだ。
…それは余りにも幼い決断だったが、同時に彼を彼たらしめるものでもあった。こうなってしまうのは一種の必然かと彼は状況を飲み込み福音の牽制を続行する。
船の上空で停止した一夏はその剣で迫る弾幕を一つ一つ打ち落としていくが、彼の腕の限界量以上の弾幕はそのガードを何発かすり抜け、船の周辺にも一定数が着弾していた。
「一夏!何をしているッ―――――――――――――――!?
ふ、船…?何故だ、海域は封鎖されているのに!?」
箒もまた船の存在を確認したようで、それでも一夏を制止させようと憚らなかった。
彼女が尚も船の防衛を続けようとする一夏へと向かう間、【彼】が引き続き福音の攻撃を抑制する。
「やめろ!エネルギーを消耗するぞ一夏!
お前の零落白夜が頼りなんだぞ!分かっているのか!!」
「ああ分かってる!でも…だからって命を見捨てていい訳じゃないじゃないか!」
「だがっ…だが!この海域は封鎖されているハズだ!
こんなところに来る船なんて密航船だけだ、見てみろ!国籍が出ないだろッ…!奴らは犯罪者だ!」
「犯罪者だからって!見殺しにするのは間違ってる!」
「しかしここで、あの船を助けてどうする!
福音は既に35人も殺しているんだ、私たちがここで止められずに市街地への侵入を許して見ろ!そこの船に乗ってる人以上の犠牲者が出るぞ!!」
「俺にそんな事…言われてもッ…!」
――――――命の選別なんて出来ない。
その瞬間、箒は紅椿を通じて電子的な空間へと引きずり込まれる。
…声が、聞こえた。
少なくとも彼女には一夏の声が聞こえていたらしい。その声に対して呼びかけようにも彼女は何も発せず、ただひたすらに声を聴いた。
福音の弾幕は更に勢いを増し、流石の【彼】も距離を置かざるを得なくなる。
その間も一夏は引き続き船を護り続けていた。
だが、最後に大型光弾を喰らいエネルギーが枯渇寸前まで消耗してしまい、プラズマブレードも雪片の展開装甲が閉じた事で消滅し通常の実体剣となる。
「くそッ…エネルギー切れか…!
箒……箒?箒!!」
「――――はッ!?
わ、私、は…」
「何やってるんだ!
それよりも白式のエネルギーがゼロ寸前なんだ!このままじゃ―――――――――――――――!」
突如!白式が福音へと突貫した!
福音は槍にエネルギーを充填し、それを弓矢を形作って天を射抜く構えをとっていた……先ほど、【彼】を射抜いた数多の矢を放つものと同じ姿勢だ。
アレだけは何としても止めなければと、一夏は実体剣を構えて福音へと斬りかかる。
だが、福音もまた易々と止めさせるつもりは無いようで白式に向かって再び弾幕を吹っ掛ける!一夏は動きを止め、ガードを使用とするがあまりに数が多く何処から防げばよいのか…若い彼には分からなかった。
そうしているうちに弾幕は目前まで迫る!
ついぞ適切なガードを取れず着弾を許してしまう…その寸前で紅椿の展開装甲によるガードが入り、間一髪白式は事なきを得る!
そして彼と入れ替わるように紅椿が雨月と空裂からそれぞれエネルギー波を放って福音を牽制、そして弾幕が一時止んだ隙に一気に近づいて矢の発射を中断させようとした――――だが、いくら福音を斬ろうとも矢の発射は止められなかったため、彼女は福音に組み付き射線を大きくずらす試みを行った。
幸いその行動が吉と出て、現行最新世代機の出力を存分に生かした力技により上空に向けられていた矢は海面を向いた。
紅椿を剥がそうとした福音の頭部も分離していた展開装甲に阻まれ身動きが取れなくなる。
…だがこの時、彼女には周りが見えていなかった。
箒が力技で向けた矢の先…それを真っ直ぐたどれば、先の漁船がゆっくりと通過しようとしていた。
いつ矢が放たれるか分からない…仮に今放たれれば、船の速力ではあの矢を躱すことは出来ない。数千万、数億の矢へと分散するエネルギーを持った矢だ、直撃するば漁船など粉微塵になるのは目に見えている。
「ッッッ!
ダメだ箒!そっちに向けちゃダメだッ!!!」
「何…!!!」
箒がようやく船に気が付いた時
―――――――――――――――その瞬間に無情にも矢が放たれてしまった!
「ッ!(間に合えッ…!!)」
一夏は残り少ないエネルギーを振り絞り、身を挺して漁船の前に立つ。
着弾まであとコンマ数秒、彼は目を瞑った…。
人は、彼を“継ぎし者”と呼んだ。
命果てる時まで、使命のため剣を握る者だと
――――――――――いつまで経っても、胸に痛みは無かった。
一夏は恐る恐るその目を開ける…先ず最初に飛び込んできたのは、光の矢の刃先だった。彼はそれにゾッとするも、次第に矢が何によって止められた―――いや、矢が何に刺さったのかを理解する。
その大きな何かの背中…【彼】の背中から、矢が生えている。
その様子は非常に覚束なく、空中でふらふらと揺れながら少しづつ高度を下げていた。
「佐々木…?嘘、だろ…?」
…不意に、【彼】の首が倒れ込む。その顔は既に竜体化が解けている。
それによって突然一夏の目に映ったのは…瞳孔の開いた【彼】の目であった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ッ!?
山田先生!!佐々木のバイタルは!?」
「…だ、駄目です。
佐々木君のバイタルは完全に止まっています…即死、です…」
指令室は唖然とした。
【彼】という一番戦闘不能に程遠い人物が今力尽きた事もそうだが、何よりも死者が出てしまった事が大きいだろう。まさかISを纏っていて、死ぬことがあると誰が想像出来ようか。いや、重傷が関の山であるはずなのに…【彼】は即死した。
「…フゥ…………ハァ…」
「!、シャルロット?
大丈夫か?」
息を荒くし、必死に何かを抑えようとするシャルロット。
それをラウラが心配して寄り添うが、その瞬間に彼女が今の今まで抑えていたものが込み上げて口を押えたまま蹲ってしまった。
「おい!シャルロット!しっかりしろ!」
これにはラウラの他にもセシリアと鈴音、そして山田先生もシャルロットの元に駆け付けた。
…彼女たちの看病を受けながら、シャルロットはゆっくりと再び身を起こして、震えながらに呟いた。
「……嘘………だよね…?
言ってたじゃ………ないか、死なないって……………」
「シャルロットさん、お気持ちは分かりますが「やめてよ!セシリア!」っ…!」
彼女は声を湿った布のように絞り出して叫んだ。
その後にゆっくりと、そして無理やり表情を戻していく。
「…ごめんね、いきなり叫んで……………」
どうにか作ったような笑顔で皆に謝罪する彼女は立ち上がって部屋を出ようとした。
今の彼女を止める者はいなかった。
それを他所に、束は作り物のウサ耳を聞き耳立てて何かを探るように「あれぇ~」と唸りつつ部屋を徘徊していた。
「…何をしている、束」
「いや可笑しいなぁ…【コード32.11.42.13.24.15】は直ぐに発動するハズだけど。
…やっぱりボコボコになり過ぎてダメになっちゃった?」
「貴様…まさか佐々木を何かに利用したのか!?
奴に何をした!?」
「いやいやちーちゃん、ただの補助システムだってば~。
…それにアレのバイタルが無いって騒いでたけど多分問題も何も無いと思うよ~?」
「――――…何だと?」
流石に(曲がりなりにも)旧知の仲とはいえ、命を軽視するような今の発言を聞き捨てられなかった千冬は、束に怒りを含んだ声で尋ねた。
どういう事だ、と。
すると彼女も、やはり底の見えない笑顔のままスラリと答える。
「だってアレ…元から文字通りの脈無しだから」
その言葉に、部屋に居た誰もが一度固まった。今まさに退室しようとしていたシャルロットですらも。
…竜にもなったような男だ、冗談の様な話でも半分程でも疑念を捨ててしまうのだろう。
そして博士の発言を裏付けるかのように、インターフェースが急に動きを見せた。
それは目覚め、綿に火の粉が飛んで燃え広がるが如く。
「ッ!?
織斑先生!佐々木君のアックスマンが急に――――まさかこれって、
「何だと!
奴は…佐々木はどうなんだ!」
「はい、バイタルはそのままですが…身体そのものは動いています!」
「!?!?!?
どういうことだ!たば―――――――――――――――!」
今現在人類が持つ人体及び生物の常識からでは説明不可能な現象に対して、千冬は束に説明を求めようとしたが、当の束本人がいつの間にか部屋から姿を消しており、言及させることは叶わなかった。
千冬は次に、その場に居る【彼】以外の2機のISから発せられる視覚情報を見た。
…所々が赤く発熱するISが正に今のアックスマンだ。【彼】は全身に熱を滾らせるが如く拳を握り腕を引き締め、下向きだった顔をゆっくりと福音へと向けて行く。
それを傍から見ていたシャルロットも、呆気にとられた顔で赤熱する【彼】を見つめる。
普段と違い兜が無く露呈していた彼の素顔は…怒る訳でもなく、苦痛に歪む訳でもなく、ただ無情であった。
本当に生きていないかのように…いや、博士の言葉が真実であれば元より【彼】は生きてなどいなかったのか。
余りに理解を超えた現実に、彼女は何もかも置き去りにされたような幻覚に囚われる。
…それは、この場に居る皆も同じであっただろう。しかし揺るがない事実はあった。
―――――――――――――――彼の意思は、生きている。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
若造なんかに毒されてしまった。
生き返って早々…彼はそんな言葉を吐き捨てた。
福音は赤く赤く闇夜を照らす【彼】に…もしくはその熱気そのものに慄き、ジリジリと彼から離れて行く。
対照的に彼の復活を直ぐ近くで目の当たりにした一夏は、その熱気を警戒しながらも「佐々木?」と声をかけながら近づいていく。
―――――彼は一夏に、来るなと告げた。
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久方ぶりに喋ったかと思えばこの言い様であったために少々腹を立てつつも一夏は「どうしたんだよ」と【彼】に事情を尋ねた。
…彼は淡々と、冷静に白式のエネルギー切れを指摘して箒共々一度帰還するように促した。しかし肝心の彼はどうするかを一夏に聞かれると、やはりと言うかなんというか【彼】はまだ残ると言い放った。
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「残るって…!まさか続けるのか!?
いくら二次移行したって言っても、さっきの矢が…!」
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彼は一夏の言葉を遮って、矢の直撃による一度の死亡を軽い
有無を言わさぬように彼は右手の斧を再び握り直し、そして左手にはヴァローハート(擬)の剣を手に取った。
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彼は語り続けた、福音は恐らく自分は言わずもがな…周囲の生命を見境なしに“喰らう”だろうと。そうなれば間違いなく一夏達は標的となり福音は彼らを執拗に追いかけてくると。だからこそ此処で
「けど…またさっきみたい…」
彼は何時までも躊躇している一夏を、もう戻っていろと強く言って引き離した。
…帰れば、また戻れる。
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【彼】の仕事は、そのための“次”を維持する事だ…。
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「分かった…でも、お前も絶対“戻れ”よ!」
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彼は一夏達が帰還するのを見届けず、同時に福音へと斬りかかった!
弾幕など一切掠ることなく躱し続け迫る鎌や槍の刃先を紙一重で躱し、橙色に熱されプラズマ化した斧と剣の刃を振るう!
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二つの刃を振り切ると、その場をすり抜ける様に離れてはまた何処からともなく攻撃する…所謂ヒットアンドアウェイの戦法で福音へと挑んでいた。
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所謂“昔の様な”戦い方だ、体格が大きく違う相手に盾を用いる事は自殺行為である…たちまち盾は剥がされるか、盾ごと遥か遠くまで弾き飛ばされて死に至るのは古来より経験済みである。
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―――突然、しかし先ほどまでの様に、今度は福音の背骨辺りから長い長い尾が生えてきた。よく撓る鞭の様なそれは【彼】の首を断ち切らんが如くに襲い掛かるが、再びその攻撃を今度は余裕をもって躱しつつ通りすがり様に剣の刃で切り裂く。
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しかし尾は再び【彼】を襲い、今度は回避もままならずに直撃を受けてしまった…だが大したダメージではない。
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足を止めずに…今度はより多めに攻撃を与えてから離脱に映った。そして去り際にはグレネードを置き土産として福音の装甲の隙間へとねじ込み、爆発と共にまた多めに攻撃を入れる。そして詰めで福音の顎にグレネードを三つ放り込んでは頭に斧を振り下ろして口内で起きた爆発と共に頭部をサンドする。
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此処で再び通信が入った。
声の主は山田先生だ…彼女はある残酷な事実を告げた。
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『佐々木君!今すぐ撤退してください!
アックスマンが
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どうやらこのままだと、【彼】は惨たらしい最後を遂げるらしい。
しかし不死人にとってソレは怖い事でも何でもない。彼はただ世の中いつもそう上手く行かないな…と、事態を諦観気味にだが事実を飲み込んだ。
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『潤!!分かってるの!?
このままだと潤はっ…!』
『時間が限られているんだぞ兄さん!
今すぐ撤退しろ!私が今にも出てやる!』
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状況を理解しても尚戦う事を止めない【彼】にシャルロットとラウラが呼び掛けた。しかし彼女らも薄々気が付いているのだろう…いや、解かっているハズだ。この男が他人がどう言おうが、どんな邪魔をしようが決して歩みを止めない事など。
それでも…。そう叫ぶ2人――――いや、今声には出さないがきっとそう思っている何人かの思いを察して、しかし彼は通信の一切を遮断した。
煩わしかった訳ではない、ただ…己の覚悟を揺るがせないため。
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今ここで(自分のためでも、そうでなくても)傷だらけになって力尽きる事を恐れたら、心の全てが闇に落とされる。
――――いや、違う…今の衝動を保持するためだ。
何であれ灰色の魂は、もう一度柄を握る力を強めて福音へと斬りかかった…。
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海面スレスレを飛行し、斧の刃で海面を裂きながら福音の下方より強襲を掛けた彼は、初段を剣の刺突で確実に命中させ二段目に斧を横薙ぎに振るい、反撃の鎌をバックステップに近い挙動ですれ違う様に回避し、折り返すようなダッシュで斧を振り下ろしつつ逆手持ちに持ち替えた剣で切り裂く。
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―――――――だが、剣の一撃の直前に福音の尾によるカウンターを腹部に受け、大きく吹っ飛ばされてしまう。
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そして突然、アックスマンが連鎖的な爆発を起こした!
どうやら内蔵火器が自身が発するエネルギーによる高温化に耐え切れず暴発を起こしたらしい。
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まさかと思い、ミサイルランチャーとマシンガン、そしてビームバズーカを投げ出すように取り出してみると、やはり高熱による誘爆を起こして粉みじんになり海中へと没した。彼は貴重な遠距離攻撃の手段を失ったことに舌打ちをしつつ、しょうがないと引き続き接近戦を行う事を決意した。
やはり、昔のように…だ。
…チラリとインターフェースを見てみると、シールドエネルギーは残り10%を切り始めている。
本当に時間が無い…彼は意を決して福音へと再々接近を試みた!
弾幕をこれまで以上に注意を払って回避し、あっという間に福音の眼前に来た時…彼は動きを止めた。
何をするつもりなのか…彼は福音の動きをじつと見ながらその場から一歩も動かない…それに対し福音がとった行動は――――長い首を持った頭部による噛みつきだった。彼はそれを間一髪バックステップで躱し、鼻先を一度斧で叩いた後に福音の左目へと渾身の力で振るった斧を放ち、暴れる福音を刃をめり込ませて押さえつけ、最後は回し蹴りで斧を更に食い込ませると同時に長い頭を他方へと蹴り飛ばす!
その隙に一気に胴体部へと跳び込み、福音の首筋へと逆手に持った剣を突き立てる!!
直後、カウンターとして放たれた槍が【彼】の脇腹を刺したがギリギリ耐え、拳をより…いや、力の限界まで握り込む!
その拳を剣の柄頭へと叩き込み、剣を釘に、拳を金槌に見立てて“釘”を福音のより奥へと刺した!!
その一撃がかなり危ない所まで達したのか、福音は絶叫をあげて激しくのたうち回り、やがて海中へと没した。
…だが、ここで彼の勝利とは行かなかった。福音は最後に尾をアックスマンの足に巻き付け、共に海中へと引きずり込もうとしたが、尾の力はとても弱弱しく直ぐに引き離すことが出来た。
これで福音を倒したとは彼も思えていない。
…しかし一先ず奴を撤退させることには成功した、彼は上りかけの太陽を背に帰路についた。
―――――突如、体が重くなる
しまった…彼がそう思う時にはISはほぼ全ての機能を停止し、待機状態になる事も無く彼の身体に纏わりついたまま重力に従って落下した。
【彼】も海中へと沈みゆく運命をたどる事になってしまったのだ…いくらもがけども、重いアックスマンのボディが枷となり朝焼けの太陽はみるみる遠のいて行き、やがて暗い海の底へと近づいて行った。
酸素が尽きるか、それとも水圧でアックスマンごと押しつぶされるのが先か…その先は誰にも分からない。彼は人の目が届かない深淵へと姿を消してしまった。
…最終回みたい?
戦いはまだまだ続くんじゃ。
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