(完結)成層圏にて燃えるもの【IS×DARKSOULS】   作:エーブリス

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道標の先に。

上りかけた朝焼けは瞬く間に雨雲によって遮られた。まるで【彼】が残したものを何もかも無下にするかのような…打ち砕かれた希望を大空が鏡となって抽象的に映し出していた。

そして降りしきる雨は、一体誰の弱さを映し出したのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

自分の限界は、すぐに思い知らされた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「入るぞ、シャルロット。

…どうやら休めてはいないようだな」

 

「――――ラウラ…」

 

暗い部屋に、ラウラによって明りが灯された。

部屋の隅で小さく蹲っていたシャルロットは、眩しいライトの光に目を薄めながら顔を上げた…その目は赤く充血し、目元もうっすら赤く腫れていた。

…彼女がこの部屋に籠って数時間、どれだけの感情を吐き出したのか。想像するのは難しくなかった。

 

 

「…何だか、震えが止まらないんだ。

寒くないのに」

 

「疲れているんだ、だから教官も休めと言っていただろう。

応急処置だが…これでも食べろ、多少はマシになる」

 

ラウラはポケットから取り出したジェルタイプのパワーバーをシャルロットに渡した。

最初、シャルロットは無言で食欲が無いと突っぱねていたが、「いいから食べろ」とラウラがやや強引に押し付けてきたので次第に折れて彼女はパワーバーを受け取った。

 

彼女が中身を絞り出すように啜っている間、ラウラはその隣に座る。

…シャルロットがパワーバーを完食するとそのゴミを回収し、近くのゴミ箱へと投げ入れて口を開いた。

 

「…やはり福音は沈黙した訳では無かったようだ。

封鎖されている海域内で福音のコア反応が確認された、現在は活動を停止しているが…いつまた動き出すか分からん」

 

 

 

ラウラが口にした真実は、彼の命を懸けた激闘が一切無駄になったと言う証―――――では無かった。

 

「教師や私達が救助に向かおうとしてた時に送られてきた、兄さんからの信号…きっと、これの事だったのだろう」

 

そうだ、【彼】は沈み行く前に皆へとメッセージを送っていた。

内容は“引き返せ 道をs”だ…きっとラウラやシャルロット、それに一夏等が自身を助けるために自分の元へやって来るのを危惧したのだろう。

 

実際、シャルロットもラウラも躍起になって救出へと向かおうとしていた…そんな時にこのメッセージが送られた。文章には作成途中であった跡が見受けられるので咄嗟に送ったのだろう…残されたほんの僅かな時間を絞り出して。彼は伝えることを十分に伝えられぬまま海中へと没した。

 

 

 

 

後に部屋に居た千冬をはじめとする教師達は語っていた、今この間も【彼】は死刑台のエレベーターを昇っているのだろうと…彼の“生命”的特異性を考慮しての発言であった。

 

その言葉を思い出したシャルロットが、不意に口を開く。

 

「…冷たかったんだ、潤の手。

お風呂に入ってたのにすごく、最初は冷え性かなと思っていたけれど」

 

「…ああ、確かに冷たい身体だった」

 

「それと…多分、これもそうなんだろうけどさ。

潤はね、呪いを消そうとしてるって言ってたんだ…消そうにも消えないらしかったけれども」

 

「そうか…」

 

 

「…束博士は、潤が生きていないって言ってたよね。

生物学的にって…どうだったのかな?」

 

「どうだった…?」

 

「呪いで潤は死ねなかったのか…それとも呪いがあるから潤はまだ死ねなかったのか…。

どっち、だったんだろう」

 

やっぱり疲れているんだ…―――シャルロットはそう、やつれた様な雰囲気で自分の気の迷いを僅かに自覚しながら疑問を口にした。

…その言葉を、ラウラは真摯に答える。

 

 

「…まだ死ねなかった、だと思う。私は」

 

「え…?」

 

「前に…少し特殊な状況で兄さんの言葉を聞いた事があったんだ。

その時に言っていた、うわ言のように…。呪いを消さねば、滅さねば…とな」

 

「…消さ、ねば」

 

「ああ。

その時の兄さんは…どこか、とても哀しそうにしていた。顔は見えなかったが、何か…無力さに打ち震えている様な。そういう感じだった」

 

何を考えていたのかは分からなかったが…と、ラウラは語った。

そして二人は暫しの沈黙に陥る。互いに、蛍光灯の光がチラつく天井を見つめながら…星がそこにある訳でもないが。

 

 

「…」

 

「――――…どうだ?今の気分は」

 

「うん…もう少しかな?

態々ありがとう、ラウラ」

 

「感謝されるような事でもないさ、ルームメイトだろ?」

 

徐々に顔色が戻ってくるシャルロットを見て、ラウラは(照れ隠しを含めて)微かな笑みを浮かべた。

その表情を見たシャルロットもまた微笑み「羨ましいな…」とラウラに向けて呟いた。

 

「羨ましい…?何がだ?」

 

「だって、ラウラは潤に面と向かって“兄さん”って呼べるじゃないか」

 

「ああ…。

何せ、私の姉に当たるであろう人物が弟として扱っているらしいからな…一体何があったのかは定かではないが」

 

「それもう6回は聞いたよ」

 

「む?そんなに喋った覚えはないぞ?

…というかシャルロット、お前も兄さんを“兄さん”と呼びたいのか?」

 

「ふえっ…!?

いや、あの、それは!」

 

突発的に質問を吹っ掛けられたシャルロットは赤面して取り乱した。

彼女はあれこれと言い訳を出そうとするものの、碌な言葉になる事は無い。

 

身振り手振りで違う違うと必死に否定しようとする彼女を、ラウラは首を傾げて眺めていた。

 

 

「何を恥ずかしがるんだ?

兄弟・姉妹は多くてナンボだとクラリッサから聞いたのだが…?」

 

「そういう問題じゃなくって!…――――あぁ…」

 

多い少ないとかの問題じゃない…しかしシャルロットは気が動転したままで何が問題なのかを言えなかった。

まあ動転していなくとも(いなかったら尚更)問題が何であるのかをいう事は出来ないだろうが。

 

それはそれとして、ラウラは焦るシャルロットの顔を指さした。

 

 

「何はともあれ、元気が出たようだな」

 

「へ?え、あ…本当だ」

 

「もうすっかり。って感じだぞ」

 

「えへへ。

ありがとう、ラウラ」

 

「だから感謝されるような事ではない…」

 

シャルロットの、屈託のない笑顔による感謝に少しばかり照れ臭そうにするラウラは、其れ故に僅かに視線を逸らした。

 

 

 

 

「それじゃあ、行こうか」

 

「ああ…。

――――って、待て待て待て、何処に行く?」

 

「何処って…織斑先生の所だけれど」

 

「何故だ?

まだ待機を命令されているハズだぞ?」

 

「そうだけど…もう少し、って気がするんだ。もう少しで何かが起こりそうな………潤みたいな事を言うようだけれど。

それにさ、この部屋だと緊急の招集が掛かった時に少し遠いから」

 

「…全くだ、この部屋は遠い」

 

二人は部屋の襖を開け、外に出た。

…廊下を歩く途中、不意にシャルロットが口を開く。

 

 

 

「…ねえ、ラウラ。

僕、最初は潤がやろうとしていた事を引き継ごうとしていたんだ」

 

「…ああ」

 

「でもね、それは違うって…今は思うんだ。

僕が潤を引き継ぐなんて、潤は望んでなんかいないって」

 

「だろうな。そうでなければ兄さんは命を懸けて、いや、最初に一人でやると言い出してまであの福音を止めるとは言わないだろう」

 

「うん…。

だから、僕は…潤がくれたチャンスを存分に使って、最後まで戦って、生きて見せる。そう決めた」

 

「同意見だ、兄さんの行動を無駄になんかしたくない…。

帰ってきた時に申し訳が立たなくなる」

 

「え?ラウラ?」

 

「…私は兄さんが死んだとは最初から微塵も思ってはいない。

さっきも言ったが、呪いを解くまで死ねない…投げっぱなしのまま兄さんが死ぬはずがない。そういう根拠だ」

 

「―――根拠としては十分過ぎるね。

それにアックスマンを作ったのも…」

 

「ああ。何か有るはずだ」

 

何せ心臓に矢を受けて尚、ピンピンしていた男である。

 

 

 

床を確かに踏みしめつつ歩く途中、T字路にて二人は他の専用機持ちと出くわした。

…一夏を始めとした4人の表情と向かわんとしている先を見るに、どうやら目的は同じであるようだ。

 

「…皆も、織斑先生の所に?」

 

「ああ。負けっぱなしじゃ居られないしな。

それに…」

 

「それに、私達の過ちをも背負い込んでくれた佐々木のためにもだ。

何時までも嘆くだけじゃ進歩もあるまい」

 

「友人の弔い合戦ですわ…!

高貴なる者…いえ、人として退くわけにはいきませんもの」

 

「こっちも、放課後の特訓で何だかんだお世話になってるからね。

小さいけど恩もあるの。義理を果たすなら今よ」

 

 

雨が激しくなり、窓を叩きつける音も一層強くなる。

 

悲しみは何時しか闘志(いかり)へと成り、鏡が映し出していた弱さもまた金色にも似た希望の光を放ち出す。

 

そしてソレが…残骸の下に埋もれ変わり果てた道標の欠片を照らすのだ。

 

 

6人は臨時指令室へと入った。

 

「…ちょうどいい所に来た。

緊急事態だ、福音がこちらに急接近している」

 

入室するや否や、千冬がとんでもない事実を告げた。

…それを聞いた専用機持ちの中には顔を険しくするものは居たが、その意思を変えた者は一人としていない。

 

「急接近…ッ!」

 

「感が当たったな、シャルロット」

 

「うん。

…でも、やる事は変わらないよ」

 

「そうだよな。

…戦ってやるさ」

 

「砕け散るまで…いや、砕け散ってでも…!!!」

 

 

 

 

 

「話は早いようだな。

――――今すぐ準備だ!配置につけ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◆   ◆    ◆   ◆    ◆   ◆

 

燃え残り(Cinder)の残した火の粉が少年少女達の心に火をつける頃、こちらでも動きがあった。

 

 

「…行くのかい」

 

「ああ。

懐かしい大嵐だと感じたが…銀の“鐘”(シルバーベル)、か。ククッ…全く何の因果なのか」

 

「因果なんて、俺達にゃ最初から付きっきりだろ。

…一人で行くつもりか?」

 

「…クロウ、貴様も行くか?」

 

「ああ。嘗て“王狩り”と呼ばれた手腕を俺も見たくてな。

それに…俺も、今度こそはたどり着きたい」

 

「そうかい」

 

 

クロウが背後で、その紙飛行機と呼ばれたISを展開するのを見届けた獅子兜の男は、自らもまた、あのツヴァイヘンダーを担ぎそして通り名の如く獅子の様なフェイスガードを装備したIS【キングスレイヤー】を展開して、嵐の吹き荒れる大海原を見つめた。

無名なる王狩りよ、今ここに馳せ参ずるのだ

  ◆   ◆    ◆   ◆    ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

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