(完結)成層圏にて燃えるもの【IS×DARKSOULS】 作:エーブリス
寧ろあんな思考停止のスプラッタ小説と化した前回の話でお気に入り登録が減らない所か当社比的に滅茶苦茶増えた事に若干の驚きが隠せない所存であります。
という訳でやや逆算的に始まるISダクソ本編、どぞー。
2022/10/25:テキスト、セリフ等一部修正
我ら血によって人となり、人を超え、また人を失う。知らぬ者よ、かねて血を恐れたまえ。
――――Bloodborneより。
…奴ら、封印を解いたぞ。
血の味だ…あまり気分の良くなるようなものでもない。
とりわけ、己の血と気付いた時こそ気が萎えてくる…自分の血の味を覚える程には慣れたが好きにはなれないこの瞬間の原因を、【彼】は順を追って思い出していく。
――――結論から言うと、この血は一夏に斬られたものだった。
常々、あの「雪片弐型」及び「零落白夜」の力だけは恐ろしいとは思い、訓練であっても発動中は気を抜かぬようにしていた。そして今、実際に斬られてみてようやくその本質を理解した。
よくもまあ…今まで事故を起こさなかったものだ。それは技量か、あるいは幸運故か…十中八九後者だろうが、ともかく自分が第一号である意味良かったと内心で【彼】は安堵していた。
…彼の目の前で、一夏に続いて箒、鈴音、セシリアが降り立ち、次いでラウラと楯無が陸路で駆け寄った。もう、シャルロットが居ないだけだ…この場には、彼女以外の知り合いである専用機持ちが全て集まっている。
何故、こんな事態になっているのか…どうも今の彼は、記憶がハッキリとしない。情報量のせいか、それとも出血のせいか――――はたまたその両方か――――ともかく今は傷の癒えと共に少しずつ、少しずつ思い出している所だが、それによると【彼】は非常に良からぬ状態へと陥り暴走していた…と言う事は覚えているのだ、が…こう、あと少し、もう少し、欠けている言葉が出てこない。
――――そうしている内、白式…一夏から手を差し伸べられた。
「潤。大丈夫、か…?」
既に雫石を使っての応急手当を済ませているので、一夏が心配している程に深刻な事態へは至っては居なかった…が、流石にこんなに斬られては痛い事に違いので【彼】は――――ラウラを救出した時を引き合いに出して――――切り口をもう少し浅くできなかったかと文句を言った。
「ああ、悪ぃ…ラウラの時とは違って、かなり深く切らないと行けなかったんだ。
俺の…雪羅のアレがお前に取られちまった事もあってさ」
雪羅のアレ…一瞬、彼は一夏が言わんとしているモノを分かりかねた。が、直ぐに幾つかの付随した記憶と共に思い出す――――一夏が雪羅使用時に、感情の昂りと共に出現させる巨岩のような腕及び爆発的な火力を叩きだす巨大な火の玉の事だ。
そうか…。彼は納得と共に、事の発端を理解した…己は何らかの要因で一夏の白式に宿っていたソウル(記憶によると「竜」に関係するもの)を取り込んで、結果的に、その強大な力のコントロールもままならずに暴走――――そこまで考えた所で、ふと矛盾にぶち当たった。
たった今思い出した記憶に、その一夏が放つ火の玉を剣で弾いた一瞬があるのだ…確かに己の右手を見ると、刃がボロボロに欠けた大曲剣がある。そして確か斧も投げた記憶が――――と思い出しそうになった所で、その記憶が別物である事を思い出した。それはいいのだが、これには上記の説を真っ向から否定する要素が含まれる。
先ず、記憶の中で一夏が【彼】と戦っている事…そしてその時に、一夏はソウルの力を使っている事。完全に“一夏の持っていたソウルで暴走した”という話と食い違っているのだ。暴走もしてないのに、一夏が自分と戦う理由があるのか?こと戦いの後に手を差し伸べるようなら。
そもそも何故一夏達が此処にいる――――それはまあ、後で話を聞くとしてだ。こんな所に呼ばれるようなら、先ず野外での自主訓練等と勘違いするハズもあるまい。というか訓練であるなら一夏が【彼】にこんな深手を敢えて負わせる意味がないのだ。
そう考えると、やはり暴走という説は正しい…もう由来を探っても仕方がないと判断した彼は、先に何が原因でこの事態へと至ったのかを、先ほどより大分回復した思考能力と記憶で探る事にした。また振り出しに戻ってしまうようだが…しょうがない、“今”は昔のように事情を考えないままに進む事が出来ないのだから。
一夏達が来る前の戦い…確か、IS2機を相手にしていたハズだ。いや、3…4機か?そう考えたが、思い出した相手のシルエットの内1機がよく見たシュバルツェア・レーゲンだったので、消去法的にその隣にいた水色のISは楯無であると結論付ける。そしてその答えは正しいようだ…丁度目の前に居る楯無が、記憶と違わない水色のISを纏っている。
ついでに言えば周囲に流動体…水のように見えるが、恐らく厳密には違う何かを纏っている。こんな固有能力を持った機体が2機も3機もいるハズがない。
さて、問題は残りの2機だ…身に覚えのない機体なので、どうも正体を特定できない。
ここで彼は更に記憶を遡る。そもそも自分らは何と戦っていたのか――――そうだ、確か
思い出した勢いで、彼は倉庫群のあるハズの方角を見る…それは既に何処も彼処も跡形もなく破壊されており、自分らが行っていた戦闘の激しさを【彼】は実感するのだった。
全ては一棟の半壊から始まっていたハズだが…。
――――ようやく、傷が癒えた。
しかし記憶が定まらない。それで頭を抱えている内、レーゲンを解除したラウラが飛びついてきた。
「兄さん!無事か!?怪我は……おい!織斑一夏!貴様、兄さんを殺す気か!!」
「え、ええ!?
い…いや、こうでもしないと止まらないって、皆で結論出したじゃないか!」
「ッ!この―――――――――あいたっ」
何故か矛先が一夏に向いて、沸騰するほどに茹で上がったラウラの頭を【彼】は、ロードオブシンダーの指先で軽く、コッと小突いて冷やさせた。自分がどんな状況だったのか定かでは無いが、人を傷つけるのを相当躊躇うようなヤツがここまでしたのだ…それだけの理由がある。そう諫めながら…。
ラウラはぐうの音も出なくなり、縮こまるように場を退場した。
それと入れ替わるようにして楯無が【彼】の目の前に現れる。
「にしても…まさか“
佐々木君、貴方のISの特異性は本物だったらしいわね――――ところでそろそろIS解除したら?」
――――――――――――――――
その一つの単語が、【彼】の記憶を完璧に覚醒された。それは亡国企業側のIS1機を完膚なきまで叩きのめしていた時…そのISが突然白い光を発したかと思えば全身に強い引力を感じたのだ。それが所謂
その時は【薪の王】を発動していたので、その身に纏う火が――――寄る辺が――――希望が――――光の奥へと去って行く瞬間は今でも覚えている。そしてどうなった?そこからがハッキリとしない。恐らく暴走の原因はそれで間違いないハズだが…。
――――いや…そもそも剝離剤は結局の所、表面を掠めとるばかりで碌な効果を示す事は無かった。亡国企業の連中の、おそらくの目的は失敗したのだと思われるが…それでも何も起きなかったというのも納得できない。確かに奪われるような感覚を【彼】は感じていたのだ。最早事情が込み合い、物事の前後関係すら朧気になりつつある頭で足搔き続ける事に限界を感じている。折れた剣とは何だったのだろうか…?
結局の所、全て気のせいだったのか?
疑う経験が足を引っ張っているのか?
そう悩むうちに、その時微かに聞こえていた声が記憶の底で響き渡る。まるで地下深くに沈んだ何かが、また起き上がるように…。
『やっちまったな…奴ら、封印を解いたぞ。
魂が、神秘の無ぇ人の業で抜けるハズ無かろうに。火が消えりゃ、おとなしく燃えていた世界も暴れ出すだろうに』
その、記憶の底から思い出すのは、確かにそういっていた知らない“ハズ”の声。
でも【彼】は知っている…この声の主の存在を。そして呼び名を。
悔やみ続ける者――――あの黒い外套の男は、確かにそう呼ばれていると記憶していた。
…そしてその“火が消える”という言葉の意味を考えた時、ある恐ろしい事実が脳裏をよぎる。まさか…と彼は自らの、ロードオブシンダーの右手を見ようとした。
それは槍のようで、はたまた一本の棘のようでもある…人の手として非常に歪なソレの名前が過る。
――――【The ILL】。
「…君、佐々木君!?聞こえてる!?」
――――その直後、【彼】のチェストプレートを叩いていた楯無の声で意識を戻す。
再びロードオブシンダーの右手を見ると、ちゃんと正常な人の手を模した五本指のマニピュレーターであった。そして先ほどから指摘されていたようにロードオブシンダーの展開を解除し、本当の意味で地に足をつけた。
「また自分の世界に入ってたわねコレ…」
「そんな世界ありませんわ、これはタダのモノボケですの」
「顔もなんか老けたしな」
聞こえているぞ、と【彼】は最後尾の一夏ラバーズ3人組へとジトッとした睨みと共に釘を刺した。
それは兎も角…と、彼はそもそも呼んだ覚えも無い一夏に箒、そして鈴音とセシリアが此処にいる理由を問いただした。すると一夏が「あぁ…それなんだが」と言い出したのを皮切りに一夏とそのラバーズがグルリと【彼】を取り囲み、そして何か抵抗をされる前に4人がかりで彼を押さえつけた。
「捕らえましたわ!」
「皆、絶対気を抜かないでね!コイツ地力半端ないから!」
「こんな事なら手錠の一つでもっ…!」
なんのつもりだ、と声を荒げる【彼】も心当たりがある…というか、心当たりしか無いのでどの件でこんな状況になっているのか寧ろよく分からなかった。まさかと思って楯無を見ると彼女は顔の前で両手を合わせ「ごめんね~」とでもいいそうな、若干申し訳なさそうにしている顔でこちらを見ていた。もう本当に訳が分からない…が、とりあえずあの生徒会長の差し金というのは理解出来た【彼】は上手い具合に押さえつけられて手も足も出ない状況で畜生と怒りを露わにした。
そしてようやく状況を飲み込めたラウラが、一夏達に飛びつかんとする。
「貴様ッ!兄さんに何を――――――――――――――――」
「やめろラウラ、当然の対策だ。
臨海学校*1…いや、タッグマッチ*2やクラス対抗戦*3もそうだ。
この男が一番放って置くと危なっかしい」
――――聞き覚えのある、今の時期一番聞きたくなかった声が聞こえてしまった。
【彼】が声のした方向へと首を傾けるその前に一夏が「千冬姉…」とお約束を言ってしまい、シバかれ本人に「織斑先生だ」と訂正されるまでの流れから、既にそこに誰が居るのか確定したようなものだった。
「お、織斑教官…ッ!」
「全く…佐々木、そしてラウラ。
事情は社長から聞いた。まさかとっくに動き出していたとはな――――一応、お前達の今までの行動は作戦の一環として片付けてやる」
ここで改めて、その勇ましい声の主…織斑千冬のいる方向を【彼】は見た。
どうやら彼女は――――いつの間にか足を負傷していた――――アルベールに肩を貸しているようだった。というかこの男も無事だったらしい。
「だがここからは勝手は許さん、貴様ら専用機持ち及び生徒会長の更識楯無には命令が下っている」
「教官、まさか――――」
「ああ。下った命令は主に三つだ。
――――最優先事項として、誘拐されたフランス代表候補生シャルロット・デュノアの救出及びにその誘拐犯たる武装組織の捕縛または鎮圧。次いで国際的テロ組織の幹部二名の捜索支援…分かったな?――――分かったらさっさと行動しろ、以上だ」
どうやら、二人が思っていた以上に学園側の動きは速かったらしい。
【彼】は呆れ気味に、ラウラに対して異論は無いな?レディー…とふざけたような口調で聞くと、ラウラの返事を聞くまでも無く千冬が「お前が言うな」と軽く鉄拳制裁を下してきた。割と本気で頭を押さえている辺りちょっと痛かったようだ。
結局、最後まで信用を得られなかったのか【彼】は一夏ら4人にがっしりと囲われながら、焦げた臭いを漂わせる廃倉庫(だったもの)の奥に停めてある輸送ヘリまで連行された。もしも…この中にシャルロットが居たらどちらに加担していただろうか?彼女の事だ、恐らくはまた何処かの海に沈まないように一夏達を手伝ったかもしれない。
しかし、これで直接…しかも想定の2倍は潤沢な戦力を基にシャルロットの救出に向かえるというのは大きかった。やっとだ…やっと、迎えに行ける。もう出し惜しみなどしない。【彼】は夜明けに塗り潰されゆく、月明かりを見上げた。
――――13を抜け。
<次回までのロード時間中のアイテム紹介>
【片月輪】
灰燼騎士へ最初に与えられた、大型の戦斧。
三日月斧を参考として作成されたが、そこには何の祝福も見せしめの無く、ただ断ち切るべき定めを持った刃があるだけだ。