(完結)成層圏にて燃えるもの【IS×DARKSOULS】 作:エーブリス
今回は多分かなりヤバい方です。
地獄とは、意外に静かだ。
目の前の惨劇の割に聞こえるのは、何かが灼ける音と最早遠い遠いサイレンだけ。
この火炎地獄の中、研究員であろう白い人々が【何か】から逃げ惑っている。
しかし人の脚では到底逃げ切れない程のものだったようで、皆が追い付かれては強大な力で地面に…そして壁に…更には天井にも叩きつけられて血液や臓物に脳髄等を巻き散らして逝く。
阿鼻叫喚の声が囁く中で、【彼】は自分の手と胸を見つめた。
ISが、ロードオブシンダーが起動しないのだ。原因は不明だが、もしかすると先の戦闘で剝離剤を喰らったのが不味かったのではないだろうか?人間の関節の脱臼のように外れるのが癖になっているかもしれない。
しかし使えないのなら仕方がないと、彼は足元に転がっていた防火斧を拾い、予備で持ち出していた
金属や薬品、塗装に油、人の肉と衣類。それらの灼けた臭気が立ち込める最悪の環境に眉を顰めるも、こんな地獄が出来た原因は【彼】自身だ。きっと文句の一つさえ言う資格も無いのだろうと考えつつも、時に死体を踏み越え…時に千切れた四肢を蹴散らし、それでも使命が為に進まねばならない。シャルロットはまだ近くにいるハズだ、奴らが彼女を連れて逃げた方向は合っている。
…途中、死体に混じってまだ生きていて、しかし全身が焼け爛れて息も絶え絶えの様子の男がいた。青いドアノブの扉にもたれかかるその男は損傷が酷いため、醜く、そしてグロテスクに変容しているので個人の判別など出来やしない…しかし、明らかに敵であるのは確かだ。ここに男性の協力者がいるという話は聞いていないし、男性の知人がいるとも聞いていない。仮に獅子兜やクロウだったとしても、彼らがこんな悲惨な程に間抜けな状況に陥るとは考えにくい。
最早この男には慈悲も憐れみも無い、動けぬのならば死体と同じだ。【彼】はトドメを刺すでもなく、痛めつけるでもなくただ放置して先に進むことにした。
赤いドアノブが目を引く鉄の扉を蹴破り、その先の通路に踏み入った所でようやく生きた人間と鉢合わせた。
足を引きずる片方に肩を貸す二人組はどうやら兵士のようで、手にアサルトライフル(またはサブマシンガンやPDWの類)を持ち黒い防弾チョッキに身を包んでいた。
【彼】は二人が戦闘体勢に入る、その前に先んじてBARを腰だめ状態のままフルオート射撃で制す。対物用の弾丸は生身の露出した部分を容赦なく弾き飛ばし、防弾チョッキもまた大きく裂いて突き破り兵士二人の骨格等は粉々に砕け散った。
今ので6発の弾丸を使用、残りは11発。予備のマガジンは後3つ、そして先ほど拾った防火斧が1本。願わくばBARの弾丸が尽き果てる前にシャルロットを見つけることが出来れば、そして更に願うのならばシャルロットを見つける頃にはロードオブシンダーが再び使える状態に戻っていればよいのだが。願いに願いを重ねている時、何処からかまた囁く声が聞こえた。
人の気配だろうか?しかしそう考えるには、声はあちこちから聞こえるのだ。その多くをノイズに塗れて。
『き…ん……――――……そ…――。――……じだ………――――…』
詰まる所はただスピーカーから漏れた何かの音だ。よく聞けば非常用の館内アナウンスのようにも聞こえる。
こんな状況にあってもその辺りのシステムはまだ生きているようだ、とは言え内容はきっと今や意味を成していないだろう…何せ元々避難所として作られた場所であるのに、その中でまた避難する状況など普通考えるだろうか?というのが【彼】の考えであった。
そんなことはどうでもいい、例えシャルロット以外に誰が居て、何者が生きていて―――または死んでいて、そしてどんな仕組みや装置が現存していようとも。使命が己を呼ぶ限りは。
…どこからともなく銃声が響いた。それが先のアナウンスやその前の阿鼻叫喚のように耳元で囁くと同時に【彼】はその方角へ正確に振り向き、銃口を向け警戒した。しかし彼のいる位置からは銃声の元を目視することができない。視線の先の角を一つ曲がったその先で銃撃が行われているからだ。
やがてその銃声は彼が近づく前に徐々に徐々に小さくなり、角の前にたどり着く頃には既にそれは1発も聞こえなくなっていた。目標を沈黙させたのか?彼は不気味に思って角から身長に顔のみを出し、角の先を除くとそこには何もない。兵士の一人さえ見当たらない…移動したのか。次に壁や床などの周囲を見渡せども、延焼と誘爆で損傷が酷いために何も分かる事は無かった。
とは言え、何も居ないのならそれでよい。結局弾を消費することが無かった…彼にとってこの現象はそれ以上でも以下でもなく、ただ通り過ぎて行く道の一つでしかない。とにかく先へと進むのだと何度も心で唱える内に、いつしか頭がそれしか考えなくなりそうだ。
瓦礫の向こうの青いドアノブの扉より、たった目についた赤い赤いドアノブを優先して捻り扉を開けては部屋全体のクリアリングを行う。シャルロットはおろか人影のひの字もないが、そこは全体的に火災の被害が少ない為に幾つかの紙媒体の資料が残っていた。
【彼】はそれらの資料を棚から一つ残らず引っ張り出しては全てに目を通した。先ず手にしたのは…【発掘現場の未知の物質で構成された――――】違う、こんなのはどうだっていい。【現在封印中のア――――】これでもない。【エボニーカイザーの解析結――――】全く関係ない。【ナターシャ・ファイルスの捜索に関する報――――】違う。
どの資料をひっくり返しても今回の件に絡むような情報が記載されたものはなかった。
無駄な時間をかけてしまった。そう悪態をつきながら彼はBARを拾いあげて再び廊下に戻ろうとした、その時…何か、背後からどすーんという重くて大きな音が響いた。ついでに言えば何かが砕けるような音まで混じっている。更に言えばかなり近い…気がする。
そして確定的な事は、音――――どすん…どすん…どすん…という、象の歩みを思わせる音が接近しつつある事だ。
【彼】は何よりも早く、手ごろな遮蔽物に身を隠して音のする方向の壁へBARを向けた。
どんなに巨大な存在かは知らないが危険なのは明らかだ、久方ぶりに心臓の動きが早くなるのを感じながら彼は今出来る万全の布陣を整えた。
――――壁が破られた!
カウントさえ許される事無く訪れたその巨格を、まだ十全に確認しない内に彼はBARの掃射を始める。
発砲音に混じり、弾丸が肉体を削ぐ音こそ聞こえるがそれが十分な効果を齎しているとは到底思えない。間違いなくストッピングパワーが一切働いていないと言える証拠に、今もその巨格は彼という座標目掛けて走り続けている。
流石にマズイ。そう判断してBARを捨て、横に転がった瞬間に巨格が振り下ろした何かがさっきまで彼が居た場所を破壊する。
この時、初めて彼は目の前の巨格の全体像を見たその姿は――――三角形を結ぶような三つ目と僅かに脂肪でずんぐりとしている胴体という差異を除けば――――嘗てロードランに住み着いていた牛頭のデーモンそのものだった。
そういえば…と、ここで先ほどの無線を朧気に思い出す。一夏が言っていたゴリラとはコイツの事だったのか?たしかによく見れば翼が生えている、空を自由に舞えるISと殴り合う事も可能なのだろう。
ともあれ関心している場合ではない。背負っていた防火斧を手に取り、間合いを詰めてデーモンの太ももへ振り下ろす。案の定、楔石による強化が施されていない刃で付けた傷は浅く、例え毒が塗ってあったとしてもそれがデーモンの命まで到るとは思えなかった。そして最悪の事態とは立て続けに起こるようで、防火斧の柄がミシッとひび割れる。
とっさに“ポケット”へと伸ばすが、それもまたロードオブシンダーのように反応がない。厄災が厄災を呼び続け、とうとう十分かつ対等以上に抗う術すら失くしたしかしデーモンの次の動きを慎重に読み取り始める。
ぐぅうッ…と、重い呼び動作から放たれた横薙ぎを、間一髪くぐり抜けてそのままの勢いで股下へと滑り込み、デーモンの背後にある壁の穴目掛けて突っ走った。何も常に立ち向かい続けることが戦う事ではないのだ、確かに最悪あのデーモンは素手でも殺せるがその場合多大な時間をかけねばならずe38197e38281e38184*1を後回しにせねばならないだから前へ進むのだ前へ前へ前へ前へ前へ前へ前へまえへまえへまえへまエヘマエへマエマエマエマエマエマエニマエニマエニマエニマエ不死人であり絶望を焚べる者であり灰の人であり、それ以上でもそれ以下でもなく瓦礫を潜り抜け上半分が割れたシャッターを飛び越えてそして一個人ですらない存在の一縷の未来。最初からそれが私の
その強いストレスで息さえ荒くなり、警戒もクソもない歩みは更に速度を増す。
バタバタと鳴らしながら動かす足は最早走っているのと何が違うのだろうか?ぎょろぎょろとせわしなく動かすその眼も果たして何かを観ているのだろうか?右に左にまた右にと振るう首は何かを捉えているのだろうか?分かってんだよ何も分かってないことは、ともかく目の前の青いドアノブのついた扉を避けて【彼】は進む意思を途切れさせないようにした。
扉の代わりに、近くに遭ったエレベーターの扉を近くに遭った丸焦げの板切れをつかいこじ開ける。エレベーター本体はどうやらワイヤーが切れたことで地下深くに墜落したらしい。人が乗っていたとすれば…あまり想像はしない方が良いだろう、根拠もない嫌な予感まで脳裏を過りかねない。だから彼は扉の隣のボタンを押した。
【彼】は足元の長い長い梯子に足をかけ手をかけ、そのまま真下の長い螺旋を一段一段滑り落ちてゆく事にした。
…無意識が続く、この純粋な体験が繰り返す奈落への直通の途中彼は、とある気付きによって強烈なまでの戦慄からくる悪寒を覚えた。正体までは認識出来ないが、まさかとは思った。この箱のような空間で立ち尽くしたまま動けなくなる程の恐ろしい事実が存在して良いのか。
辛うじて右手と首を動かす事が出来たので彼は右手を凝視する、その白く靄のかかった右手を。
漸く最下層まで到達した時、彼は降りた。
そしてすぐ目の前に赤いドアノブの扉…それを迷わず開けようとした時、一度【彼】は背後を振り返った。何もないハズの長い長い通路を見て、しかし既に手の付けられない所まで来ていると悟る。
彼はドアノブを開いた。そして刺し込んで来たのは、太陽の光だった。
誰の手にも余るほどに輝いている強烈なそれが、【彼】の眼を焼き付ける。
眩い程の太陽…何の比喩でもない、彼らの良く知る空に浮かぶ太陽。きっとアストラのソラ―ルならばアレと同じくらい眩しい笑顔で歓喜し、すかさず拝みに行くだろう。いや、そのイベントは既に起きている…ここに来るどれだけかの前から。周囲は苔むした石畳と腰ほどまでの石のフェンス、目の前には下りの階段。遥か遠くに見えるのは一面の雲。極めつけは背後の遥か遠くで、あからさまに尋常でない威圧を放つ1匹のヘルカイト。
嘘だ、そんなハズがない。例えこのシェルター内に設けられた外側のレプリカやホログラムだとしても、ここが今に再現されてなるものか。
悪夢の中で夢現から現実に目覚め、それでも尚悪夢に囚われたままのような感覚だった。元より正常ですらなかったのだ…己も、己の見る世界も。今見えているものも、聞こえているものも、どれも現実ではない…そのハズだ。
「貴公!どうやら亡者ではないらしいな――――」
瞬きする間に、この場所ならば居るべき人物が目の前にいた。
瞬間移動して来た、いや、もしも瞬間移動という現象が起こるのだとして、それを行ったのは自分らしい…いつの間にか下り階段の先に居て、目の前にはあの雲海が広がるのだから。
夢現だ…現実では無いのだ、それ位は。
ならば現実は何処にある、使命は?シャルロットは?彼は深く動揺した震える目で、無限の成層圏のそのまた先のように遠い答えを求めて意識が虚空を彷徨い、それでもこの虚無と現実の狭間では無情に風が流れてゆく。
「――――ここは全くおかしな場所だ。時の流れが淀んで…」
ソラ―ルの話はお構いなく進んでいく。当たり前だ、こんなの全て幻なのだから…何も現実ではないのだから。この眼に事実は何も映っていないしこの耳に真実は何も聞こえない、ソラ―ルはとうの昔に死んだ。あの廃都イザリスで俺が――――いや、その後のグウィンとの戦いで彼のサインが――――そもそもこの時私は装備目当てで背中から刺して――――そもそも一度としてソラールという男に話しかけてなど…。
瞬きの後、再び視界は燃え盛る地下シェルターを映した。
そして久方ぶりに聞くような、地上で戦う面々からの無線が耳元に流れて来る。
『ほ、箒ッ!!しっかりしろ、しっかり』
『クソッ…絢爛舞踏が、まだ』
『織斑君!箒ちゃん!一旦下がってッ!!
…佐々木君はまだ地下なの!?』
『どうやらそのようだ、生徒会長』
皆の声でさえ、夢幻を疑う。
今この目に映る景色も信じられないのに、どうしろと。
『押されているッ…ええい、佐々木はどうした!?』
『今佐々木君は――――ッ!?織斑先生!アレを…』
『何だ――――せ、戦闘ヘリ!?
この基地のか!一体誰が乗っている!?アレの離陸許可は出ていないハズだぞ!』
『すまない、このヘリは借りていく…これでも若い頃は乗っていたんだ』
『デュノア社長…!?』
何故かアルベールが出撃しているようだが…別に謎でも何でもない。
彼自身が作り出したのだとしても、誰かが見せているのだとしても、全てが瞞しであることに変わりはないのだから。
この無線越しに聞こえるヘリのローター音もきっと。
『誰か!誰かあのヘリを止めろッ!』
『彼の思っていた通りかも知れない…結局、父親として接した気になっていただけで』
『社長!戻って下さい!
無茶です!』
『もうこれ以上にしてやれることなど無いと思っていた…でも、私にはまだきっとシャルロットに対して、やるべきことがあるのなら――――』
嘘だ嘘だ、何処にも真実などない。
先も言ったが【彼】はここに突入してからずっと何も真実を見ては居なかった。先ず確かにBARは過去に購入した記憶こそあるが今この場に持ってきた覚えはない事。そして今も目の前にいる、逃げ惑う研究員らしき白い人――――否、ただの白く透けた過去の幻影がそれを証明している。
使命とは何か…結局何を追いかけていたのか。今この瞬間目の前に存在する、シャルロットの幻影か?そもそも自分が使命と呼ぶそれは、一体誰の
何よりも、己が追いかけた全てに確実な真実などあり得たものか。
【彼】は足元に転がる、燃え盛る木片を拾い上げた…ショートソードほどのそれから燃え移った焔で身を包み、また一歩一歩踏みしめる様に歩き始める。確かシャルロットの幻影はこちらに向かっていたハズだと角を曲がり、その己と同じく轟々と燃え盛る廊下の先を征く。
目の前には…赤いドアノブの扉があった。火災で赤く赤く熱された赤いドアノブが。
木片を握りしめた彼は、それを思いっきり、何度も何度も、何かが壊れるまで扉に叩き付け始める!
それがハンマーであれ、剣であれ、ましてや斧であれ結末は変わらない…8度目の打撃でとうとう扉を突き破りその先へと駆け出した!
何が現実で。
何が幻か。
判別が付かなくとも。
気が付けば、【彼】は大勢の敵に取り囲まれていた。
中央には今回の全ての始まり、あの44マグナムを持った黒いコートを纏うサングラスの男と、その腰巾着のようなスーツと眼鏡の男。そして突撃銃で武装する幾多の兵士に…奥には資料で見た、今のアルベールの妻――――確か名前はロゼンタだったか――――が居る。
サングラスの男が自慢の44マグナムを突きつける、その先に居るのは……あの男だ、六多七瀬。
【彼】は、この世の全てを悟った様な顔で、冷静にその状況を見つめた。
これで分かった…綱渡りは終わりだ。そう考える彼の耳元で誰かの声が囁く。
『もう、いいだろう…』
その問いに、彼は頷きで答えた後に――――その眼を
風が灰を運びこの黄昏の果てまで運び行く。主客が同時に存在し、しかし合一せずに混じり合う狂気の異常空間から…あらゆる世界の集積点の一つに過ぎない、この灰の大地へ。
「私の名は、ヴィクトル・レズノフ!これが、私の復讐だ!」
――――ヴィクトル・レズノフアレックス・メイソン(CoD:BO)
<次回までのロード時間中のアイテム紹介>
【海神の使者の証】
3つの三角形が一列に重なり合う様子が描かれたペンダント。
これにて刻が訪れ、意思は皆咆哮を上げる。
しかし今は中身が無く、使者もない。
何れ現れるそれに備え蓋を固く閉ざしているだけだ。
もう後書きで言う事無いです、本編より後書きのネタ切れが深刻なんよ。前回の“山”なんてネタ切れの象徴っすわ、お陰で最終回で出すハズだったテキスト引っ張り出す羽目になるねんしっかりせいエーブリス。