(完結)成層圏にて燃えるもの【IS×DARKSOULS】   作:エーブリス

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間違えて削除してしまったので再投稿です。
前にもこういう事無かったっけ…と思ったら27話で同じミスしててやんの、成長しねーなこの作者。




という訳で再び本編どうぞー。
あ、せっかくなのでアイテム紹介書きました。


指輪の主の密約。

――――――――CLOSED――――――――

 

 

 

 

 

一か八かの最後の手段で引いた“最強の鬼札”の裏面には、必ず“最悪の状況”が描かれている。

幸と不幸の天秤(リブラ)が釣り合う事は原則的に無い。自然の摂理に沿うのであれば猶更だ、特に不幸には必ず1番重い分銅を置くのが【運命】と呼ばれる――少なくとも、吐き気を催す程の悍ましい心を持った――気持ちの悪い物書きのような存在の手癖である事は【彼】も承知の事であった。

 

だからこそ、今がある。

この地獄こそが今だ。現実なのだ、見知った町が景色が建物が一度に――――眩い光を伴って――――塵も残らず吹き飛ぶ、そんなヴィジョンさえもをこびり付かせる破壊の跡が正に現世である。

 

 

 

『こちら管制塔!南西の方角から攻撃機がッ…うわぁあああああ――――』

『――――…東ゲートッ、襲撃を受けている!

敵の数は不明!至急応援を!』『誰か助けてくれぇ!!』

『!!く、く、蜘蛛と、あぁぁあああ悪魔がッ――――――――ぁ…』

『繰り返す!こちらシュヴァルツェ・ハーゼ(黒ウサギ隊)のクラリッサ・ハルフォーフ大尉だ!

…ダメだ、無線が混じり過ぎている…!』

『足が…つ、潰れッ―――ぎゃぁあああああああああああああああ!!!

『畜生…もう弾薬がねぇ…。

なんでこんな事になってるんだ…!』

『もうここはダメだ!総員退却!!シェルターまで突っ走――――』

『腕が、腕がぁ…!』

『何なんだよこのデカブツ!こんなの聞いちゃいねぇぞ!?』

『全機応答せよ!全機応答ッ――――――――クソ、最悪だ』

 

 

 

しかし、尚も混沌は続く。

座標目掛けて走り去る【彼】の眼はそれらを全て捉えていた。当初の目標だったサングラスの男とその部下の兵士達、そして混乱に乗じて乗り込んで来た亡国企業の兵士とその指揮官であるISパイロット…それと雪片を手に戦う一夏の白式。

極めつけは、あの牛頭のデーモンにも似た翼の尖兵。その巨大な群れと、それに挑む一夏以外の専用機持ち達。

 

弾丸と刃と、そして鈍器が飛び交う中で、まるで長回しの戦争映画の主人公が如く走り行く【彼】の眼は常に目標を追いかけ続けていた。頭上で行われる巨兵共の戦いにも己と同じ床に立つ人々の戦乱にも…一切の手も貸さず耳も眼も向けやしない。

 

 

彼の後ろで、更なる崩落が発生し戻る道は跡形も無く消え失せた。

しかし元より退くつもりのない者にとっては関係のない事だ、むしろ背中から撃たれる心配がなくなったとそのままホールを抜けて通路に出た。

 

通路…とは言うモノの大型車両の搬入を目的としているのか非常に広く、何ならISがある程度の三次元戦闘を行えるレベルである。しかし先の崩落の影響か、それともそれ以前からの惨状故にか、この通路も天井やパイプにキャットウォーク等の崩落が続いており、それ故の事故に継ぐ事故で逃げる目標を見失ってしまった。こればっかりは想定外と【彼】は頭を抱えてしまった。

 

どうにか手立てはないモノかと周囲を見回すと、通路の端に赤いドアノブの扉があった。

まだ運に見放されてはいないと、瓦礫で埋もれる前だったそれに【彼】は飛びつくように走り、そして扉を開いてその先へと滑り込んだ――――その直後に通り過ぎたドアの目の前で崩落が起きる。間一髪だったようだ。

 

 

先ほどとは打って変わって人一人が通れる程度のじめじめとした一本道を真っ直ぐ進み、その先にある長い長い梯子を滑り降りた。

 

この通路の目的および意義は兎も角として、梯子を下りてすぐの2度目の一本道を真っ直ぐ進み再び扉を開けると、非常灯で赤く薄暗かった先ほどのホールや通路よりも更に薄暗い場所に出た。

 

 

陰鬱な空気で満たされたそこに一人、嫌程目立つくらいひぃひぃと情けない声を上げながら走り去ろうとするスーツ姿の男の姿をみた。先のホールでサングラスの男の腰巾着のような態度を取っていた男だ。しかしあの男こそがシャルロットの誘拐を企てた元凶でもある…【彼】にとっては逃がしても生かしてもおけぬ相手であろう。

 

スーツの男が壁にもたれかかり、荒い息を整えようとしてるところへと彼はお構いなく歩み寄った。それに気が付いた男は、正しく鳩が豆鉄砲を食ったと表せるぎょっとしたリアクションを見せて、高そうな革靴を履いた足を滑らせつつも慌てて立ち上がってまた逃走した。

 

 

このエリアは破壊の跡こそ上層と変わらないくらい酷いのだが、何故か今も続いている筈の連鎖的な爆発の被害は無く瓦礫等の崩落も一切ない。正直スーツの男の運動神経は見た感じでも平均以下なので【彼】が追い付くのは時間の問題だろう…本当に何も無ければだが。

 

先も言ったように運命とは気持ちの悪い物書きのような存在だ、何かつまらないと感じればそこへ殺人的な罠を効果的にぶち込んでくる。

 

 

 

 

――――気付く事は出来た。

咄嗟に左方の壁から、タダならぬ殺気と妖気を感じてそちら振り向くも時すでに遅し。その体長が2~3mはある人型の異形がカノン砲のような右腕を【彼】に向け、その銃口は今にも実弾かエネルギー弾か…少なくとも体系は常人のそれでしかない彼を一撃で吹き飛ばしうる何かを発射せんと煌々と輝いていた。

 

いくらなんでも、これは…。

【彼】は死を覚悟した。

 

 

 

「伏せてッ!!!」

 

異形とは対になる方角、つまり彼の真後ろから響く…聞き覚えのある叫び声。

その警告に【彼】は一切の疑問を持つことなく従い、直後に頭上を大口径の砲弾が飛び去ってゆくのを見た。

 

…砲弾を諸に喰らった異形はグラリとよろめき、己の足元に光弾を誤って撃ち込んだ。

ドカンッと、強烈な衝撃がエリア一体に響き渡り、床は爆風でメキメキとめくれ上がった。直撃しなくて良かったと言うのが【彼】の正直な意見である。

 

 

そのまま間髪入れず、オレンジの影が一気に異形へと近づきつつアサルトライフルのトリガー引きっぱなしにし、弾幕を集中的に異形へと叩き込んだ。

 

ダララ、ダラララララ……と、弾丸を一頻り撃ち込んだ後にそれは瞬時加速で急接近し、突きのフェイントで異形に隙を作りその間に背後に素早く回ってスタブを決めた。その戦法及び技術が出来るのは彼の知る限りでは己含めて現状3人であり、残りの二人が教えたので無ければ己も教えてはいない。

 

だが幾度となく同級生の専用機持ち達に披露してきた技でもある…もし真似出来るとすれば思い当たるのはその内2人だ。そう理論を無駄に組み立てて行く先ず何よりも、そのオレンジの機影を彼は忘れるはずも無い。

 

今呼び掛けたその名前と共に…ずっと探し求めていたのだから。

 

「潤!、だよ…ね…?」

 

監禁生活が長かった故か?目の前の人物の存在が信じられない様子の彼女――――シャルロット・デュノアに対して【彼】はしっかりと、生気ある返事で答えた。それを経てようやくシャルロットもまた「よかった」と、笑顔と共に少しずつ潤んでゆく目を見せた。

 

そっちこそ無傷の様で何よりだと、彼もまた思わず口からその言葉が出てしまった。

 

「うん、ハジメさんが身代わりになってくれて――――ッ!?」

 

 

…しかし感動の再開も長くは続かない。

斃れたハズの異形が、ガラガラと纏わりついた瓦礫を払い、不安定な足取りで起き上がって来た。相当しぶといようで、本当ならば【彼】もまた参戦して二人がかりで仕留めておきたい所だが…生憎まだロードオブシンダーが使える状況になく、そして今逃がすべきでない目標さえもいる。

 

それを己が今できる分だけ詳しくシャルロットに伝えると、彼女もまたそれをしっかりと理解して頷いた。

 

「分かった、此処は任せて…ッ!」

 

その言葉を聞いた【彼】が、スーツの男が逃げた方向へと走り出すのと、その背中を異形から守るようにシャルロットが立ちふさがるのは同時の出来事であった。

 

 

 

 

 

次見る夢が、悪夢だと知っていたら。

その次に見る夢も、そのまた次も…ずっとそうだと分かっていたら、どれだけの人がその足を進めさせることが出来るだろうか?

 

そしてもし、その悪夢の続きに望んだものがあると考えられたら。

人は一体何を捧げられるのだろう?実際はより酷い物があるのかもとさえ考えずに…。

 

 

――――彼は、それら全てを一先ず払いのけた。

己の脚を引きずる後悔を踏み潰し、その残滓ですらも払い捨てて…後でどんな苦痛に苛まれようとも。

 

最早どのような道を辿った等と一々記憶していない。いずれ見えると信じる座標だけをじつと見据えて、悠久の中で進み続けて行く…走れ、走れと。例え何もかもと共に奈落へと滑り落ちたとしても、“それ”を止める事はない。

 

 

そして遂に、スーツの男(目標)を追い詰めた時…彼は静かに言い放った。 覚悟しろ

 

 

 

――――――――刹那、眼前を弾丸が通り抜ける。

彼がそれを視認し理解した時には“蹴り”が下顎の一寸先まで――地上の大気をぐわりと歪ませて――到達していた。

 

【彼】は目の前の目標を一旦諦め、誰かが放った蹴りに合わせたバック転でそれを紙一重で躱す。

この一連の行動で十分距離を取った【彼】は奇襲をかけて来た敵の正体を見た…案の定、それはあのサングラスの男だったが。

 

 

男は特徴的なサングラスと黒いコートを脱ぎ捨て、それらと同じく黒いタンクトップとジーンズのみの軽装となった。ファイティングポーズも構えている辺りどうやら本気で決着をつける気のようだ。

 

ならばと、【彼】は突発的に走り出し、先の蹴りのお返しと言わんばかりの不意打ちを放つ。

サングラスの男はそれを防ぎ、カウンターとしてまた彼の顔面目掛けてハイキックを打つが【彼】はそれをしゃがむ事で回避する。

 

 

しかし男の蹴りの攻撃はまだまだ、まるで大嵐のように続く。ジャブのように速いそれの前に流石の【彼】も防戦一方になってしまう…が、実の所彼は既に逆転までの手立てを立てていた。

 

サングラスの男が足を最大限に上げた瞬間、【彼】は地面にへばりつかん程の深さまでしゃがみ込み、身体をぐるりと回してスライディングを放つ――――と、見せかけて、その際に拾った鋭角の瓦礫をナイフのように男の顔面へと投げつけた!

 

 

見事にスライディングのフェイントに引っかかった男は思わず両腕で瓦礫をガードし、右腕にそれが深々と刺さる。

それを抜くか、そうでないか…そう考えるよりも前に【彼】が男の腹部目掛けて全力の左ボディブローを放ち、そして間髪入れずに右アッパーカットを放った。この時右手には先のものより重量がある瓦礫を握っており、その威力は計り知れない。

 

だがサングラスの男は空中を二転する程の衝撃で殴られたにもかかわらず、少々ふらつくが見事に着地して地に膝を付く事は無かった…この男も相当怪物である。

 

体勢を直ぐに立て直した男は、咄嗟に【彼】へと殴り掛かった!

ワンツーのリズムで放たれる左右のパンチを彼はスウェイバックで躱し、3段目のアッパーカットを抑え込んだ後に素早い打撃でサングラスの男の顔を叩き、それで怯んだ隙に勢いを付けた掌打で再び吹っ飛ばした!

 

 

窮地に追い込まれたサングラスの男は、起死回生の一手としてクイックドローで愛用の44マグナムを抜いて2発、【彼】に向けて強力な弾丸を放つが素早い(クイック)ステップで躱され、そのまま遮蔽物へと逃げ込まれた。

 

その遮蔽物に2発撃つが当然貫通などするはずも無く、空しく遮蔽物に深めのクレーターを作るだけにとどまった。

 

 

【彼】はその遮蔽物の先に隠されていた、ある木箱を取り寄せる。

先ず左手に装備していた【骨の拳】を外し、木箱の中身を取り出し、一通りの準備を済ませ…後は勝負に出るだけだった。おそらく“これ”だと速度的には向こうの44マグナムに負ける。その為の対策も先ほど似た様な事をしてしまった…相手が2度も絡め手に引っかかる間抜けであるとは限らない。

 

だからこうだ…攻撃は1段透かすのではなく、2段構えで行く。

 

 

 

そして彼は、少しだけ身を乗り出しして“木箱を投げつけた”!!

ソウルで強化された腕力と相まって豪速で近づくそれにサングラスの男は思わず1発撃ってしまう。

 

マグナム弾の衝撃で飛び散った木端で視界を塞がれ、その間に彼が小銃(MAS44)を構えるのを見逃してしまう。

 

 

【彼】が、引き金を引いた。

其の1発がサングラスの男に命中…することは無かったが、44マグナムを弾き飛ばし男を丸腰にした。

 

そしてセミオートマチックの強みを生かして再び引き金を引く…次の弾丸は、男の右肩に命中した。

 

彼はMAS44を腰だめで構え、叫びながら突撃しつつ何度も何度も引き金を引いた。放った弾丸全てが男の全身に命中し、ズタボロになってもその冷たい床に眠らせはしない…いや、男自身が倒れまいと踏ん張っているのだろうか?

 

 

目と鼻の先まで両者が近づく頃には弾など尽きており、故に銃剣で男の腹筋を突き刺した。

最早うめき声すら上げないその口からは大量の血を吐き…このまま銃剣を引き抜くだけでも殺す事はできる。が、【彼】はそのまま男を押し込み、すぐ背後の奈落にまで付き落とした。

 

悲鳴すら上げられず、意識が薄れゆく男が落ちていく奈落は…剣山のように尖った瓦礫が幾つも生えているかと思えば、その実瓦礫は全て“歯”であり、この大穴の正体は1匹の大きな獣の口である事が分かる。

 

 

憎き宿敵の最後を見届けた後、【彼】はもう一人の敵を見た。

木端の爆裂を諸に受け、立てなくなり、最早腕を使って足や胴体を無様に引きずって逃げるスーツの男…その先には、共に逃げて来た社長夫人、つまりロゼンタ・デュノアがいる。

彼女もまたスーツの男の味方であるようだが、しかし男を見下ろす目線は非常に冷たい。

 

「しゃ、社長夫人…助け…」

 

「…言ったでしょ、最初から。こうなるって」

 

「何をッ―――!?」

 

ロゼンタは男に銃を向けた…口径もサイズも小さい護身用ではあるが、人を…特に手負いを殺すには十分だろう。

元より社長のアルベールがこの男と対立する立場にあったのだ…彼女もまたそうであると考えるのが当然であったのかもしれない。

 

 

「畜生、畜生…!!

このッ!汚れた売女めッ!あの神秘主義者共も、人の皮被った不死身の化け物もそうだ…ッ!どいつもこいつも役に立たちゃしねぇ!

 

ヤケを起こしたのか、男は奇声を上げながら近くに落ちていた44マグナムを拾い上げてロゼンタに向けた。

 

「ようやく奪ったこのデカブツもッ、I-Trialもッ!

誰も価値を分かっちゃいないッ!!私は…あの篠ノ之束を…超えるハズだったのにッ!!

 

男の泣き言に、最早だれも耳を貸さない。

 

 

「…人基研BOARDの資料を、誰が用意したと思っているッ…私が、どれだけ部下を減らしてッ…!

――――それさえ理解しない貴様らなんか消えればいいッ!!

 

急に、男の照準がロゼンタの右に逸れた。

その意図を送れて理解した彼女は己の左方を見る…すぐ隣に、かなり消耗した様子のシャルロットがいた。

 

先ずテメェから死ねッ!小娘!!!

 

男が引き金を引く――――よりも速く、ロゼンタがシャルロットに覆いかぶさった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

銃声、それは稲妻の様に空気を貫き、聞くもの全てに衝撃を与えた。

そして肝心な弾丸は…ロゼンタの背中に命中し、心臓を貫いたものの間一髪体内に弾はとどまったようだ。

 

ロゼンタは、シャルロットの顔を見る…そして、無事な彼女をみてただ「よかった」と…嘗て自らが引っ叩いたその頬を撫でて息絶える。彼女のソウルが、光となって消えゆく身体から離れ、【彼】の掌の中に流れた。

 

ひゃはっ…ははは、売女が、死んだ、死にやがった…!ひゃははは!…ひゃ、ひゃっ、ひゃひッ!

 

 

カチッ、カチッ、カチッ…と、弾の無い拳銃の引き金を引く音が空しく響く。

最早正気さえないスーツの男はずっと銃を構えたまま、いつか弾が出るものと信じて引き金を何度も何度も引き続ける。

 

あっひゃひゃひゃひゃこのままぁ…ぜんいんみなごろしぷげッ!?――――

 

【彼】はその後ろから、小銃で後頭部を殴って気絶させた。

本当は、殺したって足りないくらいだった。この世で1番の苦しみを味合わせてもよかった…だが、この男は既に壊れていた。誰の手を下すまでも無く、己の欲望に潰されて崩壊したのだ。じきに冥王がこの男の魂を呼び寄せるだろう。

 

 

最初はもう少し違う事を考えていたのだろうが…そんな事はどうでもいい。【彼】はそのままシャルロットの元に歩み寄った。

 

 

「どうして…?

僕は、泥棒猫の娘だって…」

 

自分の中の印象と食い違う、衝撃的な光景を前に理解が追い付かずシャルロットは只々茫然と――ロゼンタの血液が伝うのも気にせずに――立ち尽くしていた。

 

 

そこに【彼】が、事の全ての真実と予測を告げた。アルベールが語っていた事実と今ここに来れているのはそのアルベールのお陰でもある事。ソレから推測する「もしかすると」の、ロゼンタの心情。

 

元より、人は不死人となって全てを失う…だからこそ、寄る辺も何もかもを求めたのだ。

 

「そんな…」

 

尚も震えるシャルロットに、【彼】は“ある物”を渡す。

彼はそれが彼女にとってどんな意味を持つのかは知らない…が、きっと無意味ではないとは知っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼は…【彼】は、己を見上げた(見下ろした)

分かっている。分かっているとも、此処までの全ては今この瞬間の為に…例え己自身が魂喰らいの“悪魔”だったとしても、それ以上の破滅を免れると言うのなら。サウロンの密約が、数千億数千兆の荒野から地獄を呼び出した。

 

獣の口へと投下された一粒の爆弾…それは阿鼻叫喚の一握りを世界中に広く散りばめるには十分――いや、寧ろ過剰だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆

  ~日本国内、某県、某地方都市にて~

 

いつの日か書いただろう…【彼】というレンズを通して見る今の世界は、例え壮大で無くとも“生”を感じられてとても豊かであると。彼にとって新鮮だと言ったそれらを見て、時にふと思う時がある。

 

この“生”がある箱庭に、地獄の種を落としたら…一体どうなるのだろうと。どのようにしてソレが崩れてゆくのか、どのようにして壊れて行くのか。劫火はどのように広がるのだろう?人々はどのように逃げるのだろう?

 

 

映画や特撮の話でしかなかったそれが本当に起こり得たら…私の頭にそれが過った時には既に前奏曲は始まっていた。

 

チリチリと僅かに現れたそれは、最初はただ好奇の目を集めるだけでしかなかった。

人の方から少しずつ少しずつ集まって…SNSを通じて全世界にその情報を広げながら、しかしそれの方が少しずつ少しずつ、徐々に徐々に群れを成して箱庭の中へと侵略を始めると、逆に人々はパッと散っていった。

 

それはまさに…そう、蜘蛛の子を散らす。そんな言葉がばっちり当てはまるように。

 

 

ついにはその町で一番大きな建物の4分の1程の大きさのデーモン(それ)さえも現れて、ようやく人々は状況を理解した。

日本と言う土地が、世界中の何処にも引けを取らぬほどの平和を保っていたという事実もあるかもしれない…デーモンに近づきすぎた人々は逃げる足さえも追い付かれて、やがてはその軍勢に命を刈り取られていった。

 

ばきっ、ぶちぶちぶち、ぶちっ、ごりっ、くちゃ…くちゃ…、ぱきぱきぱきっ、人の肉や骨を好き勝手に弄ぶ音があちこちで響き渡る。

もうすでにそこは地獄、いずれ安全な場所など何処にも無くなるだろう。

 

 

 

踊れ踊れ、炎の上で踊り狂え。

痛みと恐怖という糸に吊られて、阿鼻叫喚の声を巻き散らせ――――きっと運命はそう言っている。

◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今も尚、その場所では獣のうめき声が鳴り響く。

ごおぉおっ…と、神羅万象を震わせる低音域が断続的に鳴り響くその崖から【彼】は獣を見下ろしていた。

 

始まってしまった。悪夢が…地獄が…こうなるなどと、とうに覚悟をしたハズなのに。

主の目覚めで更に活性化した尖兵共があちこちでソウルを求めて破壊の限りを尽くし始めた…今や数える程に存在するだけのそれを根掘り葉掘りと何もかもをひっくり返して。

 

 

しかし今しかない、そしてこれしかなかった…今ここで一網打尽にしなくては駄目だったのだ。

【彼】は崖の端に足をかけた――――その時、シャルロットが「ねえ」と彼を呼び止める。

 

「行くん、だよね…?」

 

止めたって無駄なんだよね、連れて行ってもくれないんだよね。そういう意味さえ含む質問とその眼に【彼】は無言でこくりと頷く。

そっと、シャルロットは彼に歩み寄る。何かの為に、勇気を振り絞りながら…。

 

「だったら…今度こそ、絶対に、約束して。

寄り道せずに、すぐ戻って来るって…1回だって死なないって…!」

 

真っ直ぐ、ただ真っ直ぐ。そんな目と言葉の裏で堪えた涙を見せずに…たとえそれが我が儘だったとしても、もし自分に出来る何かがあるのなら…常に地獄への進撃を続けている【彼】に、せめてもの“願い”を宿したい。きっとそれが彼のための加護となると信じて。

 

 

あぁ…と、彼が約束に力を加えた時――――【彼】の唇にソレが触れた。まるで契約を結んだその口を、そのままの状態でじつと封印をかけるように。

随分と長い時間だったようにも思えるし、実際は一瞬だったようにも思える。しかし久しぶりであった…そんな暖かなそれは。

 

「ッ…絶対にッ!

絶対だから、ね…!」

 

顔を林檎か苺のように赤くするシャルロットに手を振り、彼は崖から獣の口へと飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

――――が、そこから覗く虚無が、【彼】に力を与えるッ…!

これまでになく暴力的で、しかし静かな大岩のようでもある、最早【竜体石】など比較にならないその暴風が全身の神経をギリギリと際立たせる。

 

既に恐怖や涙などはそこには無く、ただ焼き尽くせと血に刻まれた刻印が叫ぶのみ。

 

 

 

 

 

 

【彼】は、ロードオブシンダーは…古竜へと成った。

それは飛竜や古竜の末裔などと慎ましい代物ではない…正真正銘、神々と戦争を繰り広げた大樹が如き古竜!燃え盛るその巨格で、【彼】は獣の中へと突入する!

 

薙ぎ払え、ただ、薙ぎ払え!

ここに理性などと言うお利巧な言葉は存在しない、ただ本能が赴くままにこの獣を蹴散らすがいい!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 「ボケ!だれを相手にしとる思うとんじゃ!わしゃ極道兵器じゃあぞ!!」

――――岩鬼将造(極道兵器)


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頭を潰され、深い足跡の中にスクランブルエッグのような脳と血の混合物をぶちまける少女。

彼女は本来このような目に遭わなくてもよかったのだ。優しい母や父、そして兄がいて…そして気の合う友達がいて、先生がいて…いつも学校帰りに遊んで行く公園があって…そんな充実した日々を送っているこの星の奥底に、どんな酷い地獄が眠っているかなんて知らなくて済んだハズだったのだ。

 

しかし…今日でなくてはならなかった。

星が再生する遥か昔から始まり、脈々と現在に、そして未来にまでも伸びて行く悲しみの連鎖は今でしか断ち切れなかった。その為に連鎖の根を掘り起こすしかなかった。

 

 

もし多くの人が知れば、それを残虐だと…悪逆非道だと。身近な人の遺体を抱える者も、そうでない者も罵り倒すだろう。そして悪魔が死ねば嘲り嗤うかもしれない。

 

 

投げ損ねた者は言う、お前もそうなのか?と。

投げ入れた者は吐き捨てる、知った事じゃあないと。

 

 




 <次回までのロード時間中のアイテム紹介>
【誓約:意思の使者】

それに決まった形は必要が無く、選ばれし魂がその心で誓えば使者として数えられる。
大いなる意思は穴を通じて様々な次元へと複雑に絡みつき、それは結果としてすべての起源となる。
意思は今も戦う準備をしている…まるで何か、恐ろしい相手と争うかのように。
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