やはり俺がアイドル達に救われるのはまちがっていない。 作:ゆっくりblue1
「貴方のやり方、嫌いだわ」
「もっと人の気持ち考えてよ!」
二つの言葉が俺の頭の中に反芻する。なあ、俺が間違ってんのか・・・・?
総武高校の修学旅行1週間前で俺たち奉仕部は依頼を受けた。3つの依頼を。あるグループの男子が、『絶対振られない告白の支援』の依頼をしてきた。俺こと比企谷八幡と奉仕部部長の雪ノ下雪乃は不得手な類のものだったため断ろうとした。
「ええ~、いいじゃん!受けようよ~ゆきのん」
しかし、もう1人の部員であり、そのグループの仲間である由比ヶ浜結衣が雪ノ下雪乃を説得し、俺は半ば強制的に依頼を手伝わされることになった。そして2つ目はその依頼者の告白相手からの依頼で『グループの現状が好きだから、告白の阻止をしてほしい』というものだった。しかし、俺以外の2人は遠回しな言い回しの依頼に気づかなかった。もっとも、俺も直前までわからなかったが。
そして3つ目の依頼はそのグループリーダーの依頼で2つ目の依頼と同じものだった。告白に前日に依頼された。
二律背反するこの依頼の中、俺が取れる手段は1つだった。このグループの関係にも価値のあるものがあったから・・・否、そう信じたかったのだろう。そして俺は告白の瞬間に行った。依頼を解消するために。
『嘘告白』・・・それが俺の取れた唯一の手段。それによって告白の延期、尚且つグループの波風を荒立てず、奉仕部の依頼失敗時における間接的被害を防げる俺の考え付いた中での最善の一手を。
しかし、現実は非常で、俺は人生の中で最も信頼に置けるであろう2人に拒絶された。俺がどんな思いでこの依頼を解消したかを1度も聞かずに。
『済まない・・・君がこのやり方しかできないと知っていたのに・・・・』
そしてグループのリーダーの葉山隼人から何もこもっていない謝罪を受け、俺は告白場所の嵐山の竹林の中を1人佇んだ。
そして修学旅行から帰った俺を待っていたのは、地獄だった。俺が行った嘘告白の噂がグル-プの仲間から蔓延し、俺の味方は戸塚と材木座と川崎、そして平塚先生しかいなくなった。悪意ある視線、学校での俺の座席は切り刻まれ、トイレでは水をかけられ、下駄箱はゴミ箱に変貌し、上履きはボロボロ。終いには待ち伏せされた先でリンチされ、金を奪い取られる。そしてそれは日々エスカレートして行き、ついにカッターやライターなどの攻撃を受けるようになった。当のグループは噂を止めようともせず、いつも通り過ごしている。ただ、2つ目の依頼した依頼者である海老名さんは申し訳なさそうにこちらを見ていたが。止めもしない、真相も話そうともしないくせにそんな目で見てんじゃねえよ。
そして最後の望みにかけて事の真相を話そうと俺は奉仕部に行った。そして入り口の扉に手をかけようとしたその瞬間、中にいる2人の会話が耳に入った。
「ヒッキー、今日は来るのかな・・・」
「来なくていいわあんな男。少しは反省すべきよ」
「そうだね!私達の気持ちを考えずにこんなことをしたんだからじごうじごく?だよねっ」
それを聞いた瞬間俺の中にあった何かが砕け散った気がした。俺は弾かれるようにしてその場を離れた。この日をもって俺が奉仕部に行くことはなくなった。
先生に相談すればもっと恨みを買うことになると思い、我慢していた。その日も精神も肉体もズタボロな中で、家に帰ると妹の小町が待っていた。更なる地獄が待っていると知らずに。
「ごみいちゃん!雪乃さんや結衣さんに聞いたよ依頼のこと!!2人に謝ってきてっ!!」
俺は依頼の真相を話そうとした。しかし、聞く耳を持ってくれずに言い合いになって我慢の限界に達し、つい叩いてしまった。そして俺は小町に家を追い出された。鍵を閉められたため、家には入れなくなったため、おれはとぼとぼと近くの公園に歩いてベンチにへたり込むように座る。
「何で俺が全部悪いことになってんだよ・・・・っ」
俺のやり方が嫌いなら何で俺に任せるなんて言ったんだよ、雪ノ下。人の気持ちを考えろ?後先考えずに自分の考えを押し付けるお前には死んでも言われたくねえよ、由比ヶ浜。
もう俺は何も起こす気も起きず、目の前の光景の色彩がなくなり、モノクロになった。
せめて、遠くのどこかで誰にも知られず、ひっそり死ぬかな・・・・・そのほうが落ち着くし、それにもう、疲れた。そして俺は公園を離れて町はずれに向かって歩き始めた。
そして町はずれに向かうためにいくつかの交差点を渡っていく。そして交差点で信号に捕まり、しばらくして青になった。渡ろうとした時、視界の端からスピ-ドの緩む気配がしないトラックが映った。そのトラックの先には1人の女性。
せめて、胸を張れることをして死のう。そんな思いとともに咄嗟に体が動き、車線上にいた女性を突き飛ばして車線上から外す。残ったのは俺だけだ。そんな突然の状況に突き飛ばされた女性は驚き、そして一瞬だけ俺との視線が交差した。
ああ、こんな俺でも助けられたんだな・・・・・思わず頬が緩んだ。
そのままスピ-ドを緩めず、突っ込んでくるトラック。こんな時って走馬灯見るらしいけど、全然現れなかった。未練がねえのか俺は。しかし、思考は動いていて。俺は残された味方をしてくれた人達と世話になった人達に思い馳せた。
戸塚、俺が死んでも元気な笑顔でいてくれよ。癒されるから。材木座、ちゃんと自分だけの小説を書けよ。お前の気持ちは本物だから。川崎、ちゃんと下の面倒見ろよ。家族思いの優しいお前ならできると思うし。平塚先生、良い人見つけて結婚してくださいよ。俺じゃもう無理だから。雪ノ下さん、本当の自分を見てくれる人、見つけてくださいよ。母ちゃんに親父、小町をちゃんと見守ってあげてくれよ。そしてこんな俺を生んで育ててくれてありがとう。後、親父はしっかり小町離れしてくれよ。
そして来るであろう衝撃に逆らわず・・・・・
ドゴオッ!!
引き飛ばされた俺は吹き飛んで地面に転がった。向かい車線のほうから運良く車は来なかったため再度引かれることはなかった。流石に2度もこの痛みを味わいたくはねえな・・・・ハハッ。どくどくと広がる自分の血に左手を持っていく。俺の血はちゃんと紅かった。目が濁っててゾンビ扱いされていてもちゃんと。
「眠・・・い・・・・は、やく寝・・・か・・せて・・・くれ・・・よ・・・」
徐々に五感はシャットダウンしていき、騒ぐ音も光景も聞こえなくなってきた。影が映ったが視界がぼやけ何を言っているのかも聞き取れない。
最後に・・・・来世があって生まれ・・・変われる・・・・なら・・・・しあ・・・わせ・・・・・に・・・・・
そこで俺の意識は切れた。
暗い・・・・何だ・・・・?不思議な感覚に身を任せていると暗い空間が急に光り出した。
そして意識が浮上し、目を開いた。白い天井が真っ先に視界に入った。
「・・・なんで生きて・・・・」
知らない天井だ。とか言ってふざけられるほどの余裕は今の自分にはない。おそらく病院だろう。そして俺は一命を取り留めた。しかし、生きていると分かった嬉しさはなく、あるのはただの悲しみだけだった。
そしてふと何かに左手が包まれているようなぬくもりを感じたため、恐る恐る左側に顔を向けた。そこにはセミロングのアッシュ色の髪をした女性が俺の手を握って椅子に座りながら眠っていた。何このちょー美人さんは。気になったので覗き込むと目を開いて視線が合った。
「・・・・・」
「・・・・・」
言葉が出ない。その人は茫然と俺を見ていて固まっている。俺も気づいたことがあった。この人は・・・・・そして我に帰ったのか慌てて聞いてきた。
「起きたんですか・・・?」
「え、あ、はい・・・」
俺もテンパって返事を返した。だってこんな美女が近くにいるんだし、噛まないだけまだマシな方だ。すると急にその美女が抱きしめてきた。ええええええっ!!?
「え、あのt「良かった・・・!」・・・え?」
「生きててくれて、良かった・・・!」
そのまま泣き出してしまい、俺はどうすることも出来ずにただじっとしていた。こんな泣いてる女性を無理やり引きはがすなんてできないし。
そしてしばらくして泣き止み、抱擁を解く。女性の顔は成熟したリンゴのように赤らんでいたが、やがてそれも落ち着くとゆっくり俺に向かって言った。
「あの、轢かれそうになっていた私を助けてくださってありがとうございました」
お辞儀をしてそう言ってきたのでこっちも慌てて首を横に振って言った。
「い、いえ、咄嗟に体が動いただけです。頭を上げてください」
俺が頭を上げさせるよう言うと、女性は納得いっていない感じだが次の話題へ移る。
「貴方の名前を聞いてもいいですか?」
「は、はい。比企谷八幡でしゅ」
やっべー、噛んじまったよ。思わず心中で悶えていると、女性は俺の様子を見てクスリと笑った。
「ふ、ふふ、ああ、すみません。笑ってしまって。私の名前は高垣楓と言います。よろしくお願いしますね比企谷君」
!やっぱり・・・この人が、あの・・・・俺が考えていると、高垣さんが覗き込んできた。うおっ!?近い近い近い!!
「大丈夫ですか?比企谷君」
「は、はい、大丈夫です。高垣さんってあの・・・・」
「はい、たぶん比企谷君の考えている通り、346プロダクションに所属しているアイドルで活動しています。知名度は低いかもしれませんが」
高垣さんはそう言うと、俺を心配そうに見て言った。
「とりあえずナースコールを押しましょう。比企谷君、どこか痛みますか?」
「・・・・全身が痛いですね」
そしてナースコールで医者と看護師さんとおそらく高垣さんのマネージャーらしき人がとんできた。
「この度は高垣楓さんの命を救っていただいてありがとうございました、比企谷八幡さん」
そう頭を腰まで折った体勢できれいにお辞儀してきたマネージャーさん。この人は良い人なのだろうな。
「い、いえいえ、体が勝手に動いただけで、助けられて良かったです」
「入院費や治療費はこっちが受け持ちますのでよろしくお願いします」
マネージャーさんとの話をいったん終えたのを見計らって医者の人が話し始める。
「それで比企谷君、君に集中治療を施す前に体を見させてもらったが、体に数え切れないほどの痣と切り傷があったのだが、君は虐待やいじめにあっているのかな?」
その言葉を聞いて高垣さんとマネージャーさんが驚いてこっちを見る。体が震えるが何とか我慢して声を絞り出すようにして答える。
「・・・・はい。虐待ではありませんが、学校でいじめにあってます。先生に相談しようとして、下手に刺激してしまったらと思うと中々相談できず・・・・」
教育委員会とかや児童相談所にも相談しようにも余裕がなかった。
「ふむ、ご両親にも相談していないと判断させてもらうが、何故ここまでの事になったのか説明できるかい?」
「・・・・・・」
俺は俯き、拳を握る。怖い、この人たちにも悪意を向けられるんじゃないかと思ってしまう。そんなことになれば今度こそ俺は・・・・・
俺の震える手に高垣さんの手が添えられる。俺は驚いて顔を向けると高垣さんは優しい瞳と声を俺に向けて幼子をあやす様に言った。
「大丈夫です比企谷君。私たちは貴方にどんな事情があったとしても見捨てません。言える範囲でいいですから話してください」
「・・・・・・わかりました」
高垣さんとこの人達を信じて俺は学校での出来事を話した。この1年間であったことを全て。
誰も口を挟まず、真剣に聴いてくれた。高垣さんは涙を流して俺を抱きしめて、マネージャーさんは話の内容の相手に向けて怒っていて、医者の人や看護師さんも同様だった。
「比企谷君、頑張ったわね。とっても」
「俺はッ・・・・俺は頑張ったんだッ・・・・けど誰も信じてくれなかった、そんな俺は生きている価値があるのかってッ・・・・!」
「大丈夫・・・!比企谷君が生きても、もう誰も責めたりしないからッ・・・いじめたりしないから」
「っあ、う、うああああああ・・・・・・!!!」
俺はそのまま今まで抱えていたものを吐き出して、泣きじゃくった。みっともないくらい。
つながりが欲しかった。上辺なんかじゃない。深い関係が、お互いを理解あって支えあう理想の願いを。その願いは打ち砕かれた。非常にも・・・・
ーーーーそれでも、こんな今の、酷く、薄汚く、欺瞞にまみれた俺を包んでくれた。だから・・・・・
「間違ってなかったッ・・・・!!」
もう一度だけ信じてみよう、この人を。高垣楓という人を。
これは1人の少年がアイドル達に救われる話。その小さな1幕。