やはり俺がアイドル達に救われるのはまちがっていない。 作:ゆっくりblue1
「おい、ヒキタニ!」
腹を殴られる。痛い・・・・そんな俺を見たやつは嘲るように嗤う。そしてその後ろから。
「お前があいつと付き合えるわけないだろっ!!」
背中を思いきり蹴られた。痛え・・・俺が一体お前らに何したってんだよ。蹴られた衝撃で地面に転がる。周りの大勢の奴が俺を見下ろす。
「まじあいつさいてー」
「何、人の告白を邪魔してんの?」
「お前、屑だな!」
そこから蔓延する罵詈雑言の嵐。俺はその視線と声から逃げるように耳を手で抑え、目を瞑る。しかし、それでも手を通して、瞼越しに鮮明に鮮烈に聞こえ、見える。
『お前って生きてる価値あんのかよ』
やめろ・・・・・
『ねえよ。文化祭でも最低なことした奴なんだぜ?他にもいろんな奴を泣かせてきたんだろ』
ヤメろ・・・・・やめてくれ・・・・
『マジかよ・・・・もう死ねよ、お前』
やめろ・・・・・本当に止めてくれ。しかしそんな願いは通じるわけはなく、その言葉は水の波紋のように伝染する。死ね、と誰かが言った。死ね、とまた誰かが言った。死ね、死ね、死ね、死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死死死死死死死死死死死死死死死ーーーーーーーーーーーーーーー
「止めてくれええええええええええええーーーーーっ!!!!」
そう叫んだ瞬間その声が止み、蹲っていた俺の前に1人の男が現れた。俺は見上げると、そこには冷たく嗤う『俺自身』がいた。そしてその表情を崩さないまま俺に問いかける。まるで子供が両親に玩具を貰った時の様なうれしそうな声で。
『お前はこれで満足か?自分のその欲求を、自分自身を切ってまでその
黙れ・・・・俺はそんなつもりで今までやってきたわけじゃない。
『嘘つけよ。出来損ないの
うるせえ・・・・この方法しか思いつかなかったし、俺はその結果に満足してるんだよ。
『そうだよなぁ。お前はそう思うしかないもんなあ?何故ならあいつらにどんなに失望されても、拒絶されても自分の気持ちを抑え込めるのは
違う・・・・俺は俺自身が作り出した状況に酔ってなんかいない。失望されようが拒絶されようが、俺は目の前から目を逸らしてなんか・・・・・すると、『俺』の嬉しそうな表情は憎悪に歪んだような表情になった。
『いい加減現実を見ろよ。お前という人間はどんなに頑張っても自分に酔えないんだから。本当は分かってんだろ?』
分かってるって何だよ。現実なんかいくらでもお前なんかに言われずとも見てきてんだよ。
『じゃあ・・・・何でそんな残念がってる?何を欲しがっているんだ?』
残念?欲しがる?別に俺は何かを望んで何かーーーーー
『お前が生まれて幼稚園、小学校、中学校の
言うな・・・止めろ・・・・・お前がソレを語るな。目の前の俺はそんな俺を見て嘲うかのようにクッ、クッと楽しそうに嗤って言い放つ。
『本物だったな。ククッ、そんなお伽話のような想いを抱いてあいつらと接してきたのかよ。だったら見せてやるよ、お前のその想いのなれの果てを』
俺の前からどいて、俺が視界に移している前から2人の女の子が歩いてきた。止めろやめろヤメロやめろ・・・・・・そして口を開いて言った。
「貴方のやり方、嫌いだわ」
「もっと人の気持ち考えてよ!」
その言葉を聞いた瞬間俺の中の何かが砕け散った。どす黒い何かに覆われ、吐き出すように叫んだ。
「うああああああああああああああああああぁぁぁぁぁッ!!!!」
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私は千葉にある総合病院にいた。病室には1人の少年が寝かされている。私の命の恩人である人が苦しそうな表情で魘されている。
「ぅう・・・やめてくれ・・・・」
そんな苦しそうな彼を癒すために手を握る。しかし、彼の表情は一向に良くなる気配がない。
「何がアイドルよ・・・」
自分の命を救ってくれた彼が苦しんでいることに、そしてそれを何とかできない自分に堪らなく嫌気がさす。私はいろんな人を笑顔にしたくてアイドルになったのに、本当に笑ってほしい人を笑顔に出来なくてどうするのか。
無力の自分が憎くて憎くて仕方がない。思わず涙が零れそうになる。そこでハッとなる。彼が苦しんでいるのに支えるべき私が弱気になってどうする。そんな自分を叩き直して、私は彼の手を包み込むように優しく握って願った。
「苦しまないで・・・独りじゃないよ。私が支えるから一人で泣かないで・・・・」
すると彼は呻く様に言った。道を彷徨った子供が出口を見つけたような安堵が滲み出る声で。
「あり・・・がとう・・・」
俺は目覚めた。高垣さんがまた目の前にいたことに驚いてあわあわしてしまったが、そんな俺を見ても優しく落ち着かせてくれる。そんな紆余曲折があったが、主治医の人が俺の容態を伝えた。肋骨3本を骨折、内臓が少し損傷していたらしく、結構な重体だったみたいだが緊急手術を施した今は回復したという。幸い神経や脳には傷はなく、障害は出てないと言われた。
高垣さんを交えて主治医の人に脳に異常がないか、一応の確かめとしていくつかの質疑応答をされていたところ、急に病室の扉が開いた。
「「八幡!」」
そこから入ってきたのは親父と母ちゃんだった。2人とも心底心配そうな表情をしているので予想外の反応に俺は驚いた。
「そ、そんな焦ってどうしたんだよ2人とも」
「焦るに決まってるわよ!昨日まで元気だったあんたが、意識不明の重体になるほどのけがを負ったって病院から電話があったんだから!」
「当たり前だろ。お前の親なんだから」
いやでも前はそこまで心配そうにしてなかったし、見舞いにも来なかった。来てくれたのは小町だけだったしな。
戸惑っていると主治医の人が両親に俺の容態を2人に説明した。そして高垣さんが経緯について説明すると母ちゃんは俺を抱きしめ、親父は優しく俺の頭を撫でてくれた。
「そう、あんたは偉いわね。優しい子よ」
「よく頑張ったな、お前は俺たちの誇りだ」
何故か涙が止まらない。そのまま俺は今まで思っていたことをぶつけた。
「何で、何で今まで俺をほったらかしにしてたんだ・・・・?」
言うと2人は申し訳なさそうな顔で言った。
「そうね・・・まずごめんね、八幡。確かに今まであんたを蔑ろにしていたわ。でもあんたを愛していなかったわけじゃなかったの。小町が生まれて、育てているとあんたの様子が急変してそっけなくなったのよ。生活も私たちの手をかけずに自分でやり始めた。その時に旅行も行く気をなくしていたし、どう接したらいいか分からなかった私達は小町を優先してしまったの」
「そうだな・・・俺たちは小町と仕事を優先したあまりにお前と向き合ってこれなかった。本当に済まなかった八幡、俺達は親として失格だ」
謝ってくる2人を見て、俺は更に涙が零れ出る。蔑ろにされたわけではなく、俺自身が選択していたのか・・・・・
「っう、うう」
本当は愛されてたんだな・・・・俺。そして両親を抱きしめながらまた泣いた。
「・・・良かった、本当に良かったね。比企谷君」
その様子を高垣さんは嬉しそうに見つめていた。
そして暫くして落ち着くと、今度は小町が入ってきた。俺を見るや否やかけてきて飛び込んできた。
「お兄ちゃん!!」
俺は抱きしめると、小町は泣きながら謝ってきた。
「ごめんなさいお兄ちゃん!小町がちゃんと話を聞いてればこんなことにはならなかったのに・・・ごめんなさい、ごめんなさい!」
「良いんだ、小町。誰でも冷静じゃないことだってあるんだからな・・・・それに喧嘩したおかげ、おかげって言うのもなんだが高垣さんを助けられたしな。それにまた小町と仲直りして話せるんだから俺はそれだけで十分だよ・・・・今度から俺の話もちゃんと聞いてくれればそれで良い」
そう言うと更に小町が泣いてしまったので頭を撫で、落ち着かせる。
小町も落ち着いて話に参加した。落ち着いた状態で高垣さんを見て仰天していたが小町は高垣さんのファンのようだった。そしてある程度話が進んで、今後の俺の生活についての話になった。すると親父が真剣そうに話し始める。
「・・・八幡、転校するか?」
その言葉に俺は沈黙で返す。すると小町と母ちゃんが言った。
「お兄ちゃん、そうしよう?今のあの学校はお兄ちゃんにとって危険すぎるよ」
「八幡、あんたの今の状態は良くない。本当の気持ちを言ってごらん?」
俺が学校でいじめを受けていること知った3人は驚いて、小町は泣いて、両親は物凄く怒っていた。その後小町も怒って2人よりも怖かった。眼の光が消えてたもんなあ・・・
「正直に言えば転校したいけど、総武と同じレベルの所はあるのか・・・?」
総武より下のレベルだと大学が行きにくくなる。楽するために指定校推薦狙ってた俺にとっては結構この問題は重要だ。
「同じレベル位ってなると海浜高校ぐらいしかないが、あそこは設備が良くても評判があんまり良くないって聞いたことあるからなぁ」
家族全員で首を捻っていると、恐る恐る高垣さんが言った。
「でしたら、○○高校はどうですか?あそこなら総武高校と同じレベルの筈ですから」
一瞬その意見を採用しかけたが、ここで新たな問題が浮上する。親父が悩ましげに唸って言う。
「あの高校だと今度はうちの家からの距離がなぁ・・・・・」
そうあそこの高校は結構遠く、車を結構な速さで飛ばしても2時間弱はかかる。そして難色を示された高垣さんはポツリと呟いた。
「そう思えばあの高校、うちのマンションから近かっただけだったわね・・・・・」
するとこの言葉に小町がピクリと反応して何やら暫く考えていたが、何か思いついたようで口を開いた。しかし、今この瞬間、あんなことを小町が言い出すとは俺は思わなかった。
「だったらお兄ちゃんが楓さんの所で一緒に住んだらいいんじゃない?」
・・・・・・はっ?
思わずその言葉に俺の時間が止まった。揶揄じゃなくて本当に。そして次の瞬間。
「はあああああああ!!?」
思わず叫んでしまった俺はまったく悪くないだろう。そんな案を提示されたのだから。
しかし、ここから彼、比企谷八幡の物語が始まることをまだ彼自身は知る由もなかった。