やはり俺がアイドル達に救われるのはまちがっていない。   作:ゆっくりblue1

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大変更新が遅れて申し訳ありませんでしたあああああああ!!第3話です!今回はくそ長いです。あの名言を使って表現しきれているかわかりませんが、今回もお楽しみいただけたら幸いです。


後、コロナウイルスが流行していますので手洗いやうがいなど、体調に気を付けながらお過ごしください。


八幡「どうky楓「同棲です♡」・・・」

あれから数日の時間が経った。高垣さんは毎日病院に来てくれている。アイドルや最近始めたというモデルの仕事は良いのかと聞くと、あの事件でドタバタしていて会見の準備が済むまでは休業するそうだ。

 

 

マネージャーではなくアイドルプロデューサーの人もこのことは了承していて、周りの関係者、スタッフや同僚のアイドル達にとても心配させてしまったと苦笑しながら高垣さんは語っていた。まあ、日本屈指のトップアイドルで最近ではパリコレなどの世界の有名所からもオファーが来るような人だ。心配されるだろう。

 

 

そんなこんなで仕事が今のところはないため、俺がいる病室に来てくれては話し相手などになってくれている。話す内容は仕事の話から、世間話、趣味の話などいろいろだ。特に趣味の話などで盛り上がる。高垣さんは酒好きでよく同世代のアイドルや仕事の関係者と飲みに行くらしい。それに対して俺の話は意外や意外、ライトノベルの話が中心だった。その手の話題に興味があるらしく、聞いてみたかったんだそうだ。

 

 

今日も1日小町の持ってきてくれたラノベを読んでいるとコンコンコン、とノック音がなった。そして俺はどうぞと言うと、病室の扉が開いた。

 

 

「こんにちは、比企谷君」

 

 

「ええ、こんにちはです。高垣さん」

 

 

挨拶をして微笑みながら病室に入ってきた高垣さんに俺も慣れてきたのかテンパることはなく挨拶を返す。最初は本当に噛み噛みだったから大きな進歩だと思う。そんな自分自身を感慨深く振り返っていると、高垣さんはベッドのすぐ隣に椅子を置いて棚に荷物を置く。そしてどこかのコンビニで買ってきたお菓子を取り出した。

 

 

「クッキー買ってきましたけど、食べますか?」

 

 

「・・・・・じゃあ、頂きます」

 

 

俺はクッキーを受け取って袋を開けて食べ始める。そんな俺の様子を高垣さんは楽しそうに見つめてきた。何か滅茶苦茶むず痒いんだが・・・・・そして俺が食べ終えたのを見て話しを始める。

 

 

「比企谷君、足や体の調子はどうですか?」

 

 

「順調にリハビリで回復してきてますよ。医者の人にも後半月位で退院出来るって言ってくれてますから」

 

 

高垣さんは最初に体の調子について必ず聞いてくれる。定例の報告のように俺を気遣ってくれる。それは大変ありがたいことだし嬉しい。が・・・・・

 

 

「あの、少し離れてほしいんですけど・・・・・」

 

 

思った以上に距離を詰めてくるものだから緊張して仕方がない。アイドルだから身だしなみは当然としてとてつもなく美人でスタイルも良いので毎回ドキドキしていて精神が持ちそうにない。香水もつけているのだろうか、少し甘い柑橘系の香りが鼻腔をくすぐる。

 

 

そんな俺の言葉を聞いて我に返ったのか慌てて顔を赤らめて体を引いて距離を開けた。ふう、俺の心の安寧(ATフィールド)をこの人はいとも容易く打ち破ってくるから恐ろしい。人間は一定の『精神的距離感(パーソナルスペース)』でどのような人間かを区別して一定の許容範囲を図って接する。他人ならここまで、知り合いならここまで、という感じで。これは人間心理の無意識な行動なので必然的に行うことなのだそうだ。高垣さんの職業柄アイドルに対してファンが出来るのはそういうコントロールが上手いのもあるだろう。

 

 

「す、すいません。嫌でしたよね」

 

 

シュンと落ち込んだような様子を見せる高垣さん。俺は慌てて言った。

 

 

「い、いえ、嫌というわけではなくて少し緊張してしまうので・・・・・」

 

 

俺の目を見つめて距離を詰めてくる人なんて小町くらいしかいなかったし、逆にこっちが距離を詰めたら悲鳴とか通報が返ってきたからな。慣れないことの上にこんな美人なアイドルが距離を詰めてきたらこっちがキョドって逆に気持ち悪がられる」

 

 

俺は息を整えながらそう思って高垣さんを見ると、何故か顔を赤らめていた。何かあったのか?

 

 

「・・・そ、その、比企谷君。・・・・声に出てますよ」

 

 

「え、やっ・・・・マジですか?」

 

 

声が漏れていると言われた為、思わず焦りながら聞くと、高垣さんは赤みがかった頬を更にリンゴのように真っ赤になって頷いた。・・・・・・・・・う、うあああああああああぁぁぁぁぁっ!?何言ってんの俺!?バーカバーカ!!こんなの完全に痛い奴じゃねえかよぉ・・・・・俺なんかに美人って言われても嬉しくなる筈がない。ぐおおおおぉぉぉ・・・死にてぇよおぉ。

 

 

思わず心内で悶えながらも何とか怒っているであろう高垣さんに謝る。ここで嫌われたりなんかしたらファンにぬッ殺されること確定だからな。マジで通報されたりなんかされたら人生詰む。

 

 

「す、すいません!変な事を口走ってしまって・・・・通報だけはどうかご勘弁を」

 

 

土下座する勢いで頭を下げる。そしてどんな言葉が返ってくるのかと戦々恐々と待っていると。

 

 

「あ、頭を上げてください比企谷君。別に不快に思ってるわけではないですから!・・・・比企谷君なら嬉しいし」

 

 

顔を上げると高垣さんは本気でそう言ってくれてることが分かったので一安心だ。最後のほうは俺はラノベの難聴系主人公ではないのだがボソッとは聞こえた。が、本当に小声だったため中身までは聞き取れなかった。まあ、特に気にしなくても良いだろう。

 

 

その後何とかこの空気を換え、いつものように高垣さんとの会話を楽しんでいると、病室の扉がノックされた。俺は会話を一時中断して、どうぞと言う。看護師の人だろうか。

 

 

しかし扉が開かれ、そこにいる人達を見て俺の予想は大きく外れた。そこには総武高校の現国兼生活指導担当であり、奉仕部での顧問でもあり、そして俺の学校での味方でもあった平塚先生と俺を拒絶した2人のうちの1人である雪ノ下雪乃の姉、雪ノ下陽乃がいた。

 

 

2人は俺を見て焦った様子で心配してきたため、何とか宥めつつ、落ち着いたところで平塚先生が口を開いた。

 

 

「比企谷・・・今まで本当にすまなかった!」

 

 

平塚先生が頭を下げて謝罪してきた。俺はその様子を見て慌てて頭を上げるように言った。

 

 

「ちょっ!頭を上げてください先生!別に俺は平塚先生のことを恨んではいませんよ、それに最後まで俺を庇ってくれたり、奉仕部を退部させてくれたじゃないですか」

 

 

確かに作文の件で無理矢理奉仕部に入れたのは流石にどうかと思ったが、この人から色々学ばせてもらったこともまた事実だ。案外、先生とのやり取りは面白くて気に入ってたからな。暴力に走るのは玉に瑕だが、教師の中で一番生徒をよく思っていた。

 

 

その言葉に顔を上げた先生は安堵したのか涙で潤んでいた。ありがとう。と返事を返した後にその隣に立っていた雪ノ下さんが頭を下げた。

 

 

「今回の修学旅行で雪乃ちゃん(愚妹)隼人(葉虫)が大変ご迷惑をかけてしまった件と、この前の文化祭で私がめちゃくちゃにしてしまった件を改めてお詫びします。本当に申し訳ありません」

 

 

公共の場と家の立場も考慮したのか普段は敬語を使わない雪ノ下さんが手をきちんとそろえて膝辺りに添え、腰を90度までしっかり曲げて謝ってきた。

 

 

それにまた俺は慌てて頭を上げるように促した後、疑問に思ったことを聞いた。

 

 

「あの、雪ノ下さんはどうやって修学旅行のことを知ったんですか?」

 

 

調べるにしたって雪ノ下達はおそらく主観からしか見れないだろうから俺が依頼を滅茶苦茶にしたっていうだろうし、葉山は俺を嵌めるために嘘をついているだろうからな。雪ノ下に好意的な感情を持ってたし、大方そばにいた異性である俺に嫉妬して潰そうとしてると思う。彼奴はよりを戻したそうにしてるのは察せられるからな。まあ、ぶっちゃけどうでもいいがな。

 

 

俺は誰から聞いたのか考えていると、雪ノ下さんから予想だにしない意外な人物が言い渡された。

 

 

「ーーーーーー海老名さんだよ」

 

 

「海老名さんがですか!?」

 

 

正直言って海老名さんが真相を明かすとは思わなかった。あの時からいじめられている間ずっとちらちら視線を向けてきていたのは知っていたが、自分から言うとは思えなかったからだ。あの人自分で腐ってるって言ってたからな。打算的な考えしか持っていないと思っていた。

 

 

「うん。あの子は私が修学旅行のこと聞いた途端、すすり泣きながら真相を話していたよ。『ヒキタニ君に申し訳ないことをしたって』・・・・今更遅すぎるのにね」

 

 

ぐっと拳を握りこんでぞっとするほど冷たい目で話す雪ノ下さん。この人が仮面を外してここまで怒るとはな。

 

 

「そして事情を知って、雪乃ちゃんとかガ浜ちゃんからも事情を聴いたのよ。そして今の君の現状を知るためにお母さんにも頼んで調査したよ。そしてすべてを知ったそのすぐ後に君が車に轢かれたっていう連絡が静ちゃんから入ったんだ」

 

 

怖いって恐れていたお母さんの力を借りてまで事情を調べたのか。何でそこまでして・・・・・・

 

 

「それに実は最初は調べようとしてはいなかったのよ。隼人からの連絡で『雪乃ちゃんが比企谷から裏切られた』っていう連絡が入ったの」

 

 

何・・・?あいつまさか俺を・・・・・

 

 

「多分、比企谷君が思った通り、隼人は私を使って君を潰そうとしたよ。でも君が簡単にそんな行動をとるとは思えなかったから隼人から事情を聴いた。でも矛盾点とか隼人は何か隠してるって考えた私は、秘密裏に腐女子ちゃんから事情を聞き出したっていう感じかな」

 

 

「そこまで堕ちたのか葉山の奴・・・・・」

 

 

思わず呟いた言葉。雪ノ下とは割と俺の人生の中では親しかったほうだし、彼奴の在り方に憧れも抱いてたが、恋愛感情を持ったことは一切ない。おそらく焦った葉山は依頼のことを奉仕部に押し付けて俺に尻拭いさせた上に2人に拒絶させて俺と雪ノ下を引き離したかったんだろう。現にあいつは噂で俺のことを庇わなかったし、真相も話そうともしなかったからな。あの2つの依頼は完全に利用しただけだろう。

 

 

内心、葉山を嫌悪していると更に病室の扉がノックされた。話を1回区切って、どうぞ。と促す。扉が開かれそこにいたのはーーーーーー

 

 

「失礼します」

 

 

「お母さん!?」

 

 

雪ノ下さんが驚いていった。え、マジで!?魔王の次は大魔王かよ。俺の精神的にきついんだが・・・・・・一体何の用だ?

 

 

「貴方が比企谷八幡さんですね?」

 

 

「・・・・・は、はい。そうでしゅ」

 

 

怖すぎて思わず噛んじまったよ!?雪ノ下さんと平塚先生はそんな俺の様子を見て若干肩を震わせていた。笑いこらえてるよこの人達。高垣さんをちらりと見ると、あっ、顔逸らして震わせてる。ここに俺の味方はいねえのか!?

 

 

「この度は昨年の入学式及び私の娘たちと葉山隼人さん(愚か者)が度々貴方に迷惑をかけてきたことを保護者、そして責任者としてお詫び申し上げます。本当に申し訳ありませんでした」

 

 

雪ノ下母は俺をしっかりと見据えた上で先程の雪ノ下さんと同様に頭を下げた。俺は内心驚きながらも気になったことを言った。

 

 

「あの、貴女がやったわけではないですし、頭を上げてください。・・・・それにそのような社交場に出るときに使う外面は使わなくていいですよ」

 

 

雪ノ下さんの外面より練度が高かったので本当にこの人の母親なんだなと思わされた。雪ノ下さんとの外面の経験がなければ恐らく見抜けないであろうレベルだったからな。俺の言葉に頭を上げた雪ノ下母は目を見開いてその後微笑んだ。しかし目は一切笑っていない。

 

 

「・・・ふふっ、陽乃から聞いた通りの方ですね」

 

 

しかし、息が詰まるような雰囲気を出したのは一瞬で、すぐに消して瞳には優しさが宿った。ていうか何で俺のことを知っていたんだ?そんな俺の疑問はすぐ晴らされることになる。

 

 

「実は陽乃が話す話題に比企谷さんのことが時々出るのですよ。『私の外面を見切ったのに自然体のまま接してくれる』とか『揶揄った時の反応がとても可愛い』などとか」

 

 

雪ノ下母は雪ノ下さんの方を見てクスリと笑う。その様子を見た雪ノ下さんは珍しくあたふたしている。顔も赤い。てか、家でもこの人の餌食になってるのかよ。やめて!可愛いとか男にとっては全く需要無いからっ!!

 

 

「・・・・今までそんな陽乃を見たことはありませんでした」

 

 

俺に向き直って再び口から出た言葉は懺悔だった。雪ノ下母は本当に後悔しているように見えた。

 

 

「普通ならそんな楽しそうな表情を引き出さなければならないのは私たち、家族なのに。私は雪ノ下家の名に恥じないように様々な英才教育を施しました。娘達が幸せになるなら何でもやろうと」

 

 

「そう思って育てていました。しかしその結果、陽乃や雪乃から笑顔は消えました。雪乃は私に苦手意識を持って1人暮らしをし始め、話すことも少なくなってしまいました。陽乃は私たちの仕事を手伝ったり話してもくれますが、先程貴方が見破った外面を被り、本心を決して話さなくなってしまいました。でもある時、陽乃の話題に貴方の事が出たとき、久しぶりに本心からの笑顔を見たのです」

 

 

あの雪ノ下さんが・・・・?俄かには信じがたいんだが。なおも雪ノ下母は語る。

 

 

「そんな貴方の話を聞いた時、私は貴方のことが気になり始めました。陽乃や雪乃の2人の笑顔を引き出せる人物がどんな人なのかと」

 

 

「その気持ちが日に日に大きくなっていた時、陽乃が貴方のことを調べるのを手伝ってほしいと言ってきました。あの陽乃が久しぶりに我儘を言ってくれた、そして娘をそこまで変えた貴方が気になって私は調べ始めたのです」

 

 

個人情報を調べられるって雪ノ下家ってどんだけ権力凄いのん?ていうか個人情報保護法に抵触するのでは・・・考えるのは止そう、まだ俺は死にたくない。

 

 

俺が雪ノ下家の裏に内心戦慄していると、雪ノ下母は真剣な面持ちで続けて言う。

 

 

「そして調べさせていただきました。総武高校での事はもちろん、小学校の生活、そして中学校の()()()()()についても・・・・・」

 

 

!?・・・・そこまで調べられてんのかよ。ほんとに恐ろしいものがあるぞ。

 

 

「・・・貴女は俺の修学旅行での依頼の解消方法をどう思ってますか・・・・?」

 

 

気になってつい聞いてしまった。そこまで調べがついているのならあの解消方法についてどう思ったか気になったからだ。俺が聞くと雪ノ下母は暫く瞑目し、そして目を開いて言った。

 

 

「・・・・確かに一見すると貴方がとったあの方法は決して褒められることはないでしょう」

 

 

「・・・・そうですよね「ーーーーーですが」?」

 

 

「あくまでそれは一方面だけを見た場合の感想です。見方を変えれば貴方はその無茶な3つの依頼が失敗した時に出る被害が雪乃や由比ヶ浜結衣さんに行かないようにしているようにも感じます」

 

 

「っ!!」

 

 

「それに元を辿れば最初の依頼について受けることは比企谷さんは反対だったのではないですか?」

 

 

「そうです」

 

 

予想通りだったようで雪ノ下母はこめかみに手をやり溜め息を吐いた。そのしぐさは雪ノ下雪乃に似ている。

 

 

「中学校でのあの出来事の経験を持った貴方や小学校に男子からの頻繁な告白を受けて女子からの嫉妬といじめを受けていた雪乃が受けるとは思えません。だから受けたのはその最初の依頼を持ってきた人の所属するグループの仲間である由比ヶ浜結衣さんですよね?」

 

 

「はい、その通りです」

 

 

「そして友達の由比ヶ浜結衣さんに説得された雪乃は依頼を受けたということですね?」

 

 

まるでその現場を見たかのように聞いてくる雪ノ下母に俺は若干恐怖を抱いた。これほどの人なら雪ノ下さんが恐れていても納得がいく。

 

 

「2つ目の依頼は依頼者の言い回しが遠回り過ぎて違和感を抱いたのは比企谷さんのみだったと、そして気づいたのは告白の3時間前だった」

 

 

「3つ目は・・・・もうこれは論外ですね」

 

 

淡々と言う雪ノ下母は呆れているが若干の怒りを抱いているように見える。そのぞっとするほど顰められた威圧感と表情に思わず冷や汗が流れる。雪ノ下さんが自分より怖いと言っていた理由がわかった気がする。

 

 

「そして雪乃と由比ヶ浜結衣さんはほぼ何も出来ず、貴方が依頼を解消した・・・・ということですね」

 

 

もはや語るに落ちたという表情で言ってくる。

 

 

「まず1番ここまで今回の出来事が拗れた理由は葉山さんと由比ヶ浜結衣さんというのが私の意見ですね」

 

 

そうだ。そもそも葉山グループの問題を奉仕部に持ち出すのがおかしいのだ。その違和感に気づかず勢いだけで依頼を受けた由比ヶ浜も。挙句全く依頼の手伝いをしなかった。

 

 

「雪乃も自分の意見を持たず、流されるなんて・・・・本当、情けないわ。しかも、自分で受理した依頼を知らなかった依頼があったとは言え比企谷さんに解消させ、挙句の果てにはそのやり方が気に入らないから否定するなんて・・・・」

 

 

失望したような表情を浮かべた雪ノ下母に、同様の雪ノ下さん、そして自分にも責任があると思ったのか苦虫を潰したような表情を浮かべる平塚先生、俺を気遣うように手を握り締めてくれる高垣さん。

 

 

「・・・比企谷さんの反省点はもっと強く反対すべきでした。しかし恐らく強制的に受けさせられたのでしょう。それならば2つ目の依頼を断るべきでした」

 

 

確かにその通りだ。戸部の依頼はともかく、海老名さんの依頼は気付けたのは俺のみだったので断ることもできたからだ。葉山グループのフォローなんざしなくたってよかったのだ。何であの時俺は惑わされたのだろう。

 

 

「全員反省すべき点はありますが、少なくとも雪乃や由比ヶ浜結衣さんが貴方の解消方法について否定する資格はないでしょう。それに貴方が学校でいじめられているときのフォローを3人は全くしなかった。雪乃は小学校の時の女子と同類になっていることに気づかないなんてね・・・・由比ヶ浜さんは入学式の件と言い、比企谷君を助けようともしない。全く、酷いですね」

 

 

溜め息を吐いた雪ノ下母は話題を切り替えて言った。

 

 

「とにかく、これまで比企谷君には散々のお世話とご迷惑をかけてしまったので、今後は私達雪ノ下家が出来る限り最大の支援をしたいと思っていますので連絡先を交換しましょう」

 

 

「え、いいんですかね・・・?」

 

 

ここで雪ノ下家との繋がりを得られるのはありがたい。これで万が一、雪ノ下達や葉山に突っかかられても安心だ。

 

 

「大丈夫ですよ。むしろもっと注文して下さっても構いませんよ」

 

 

そして雪ノ下母と連絡先を交換し、雪ノ下さんともーーーー半ば強制的にーーーー交換され、去っていった。平塚先生も最後にもう一度だけ頭を下げて学校に戻っていった。

 

 

その後、高垣さんとも連絡先を交換して、高垣さんが俺に言った。

 

 

「比企谷君、私は今回の話を聞いて決めました。小町さんのあの提案、賛成します」

 

 

あの提案というと転校の際に高垣さんのマンションに同居する件だ。

 

 

「同居の件ですよね?」

 

 

「同居は同居ですが、私と同じ部屋に住んでほしいんです。所謂、同棲です」

 

 

はっ・・・!?いやいやいやいや・・・・駄目だろうそれは?!

 

 

「いや駄目ですって、同じ屋根の下ですよ!?しかも貴方はアイドルでしょう!スキャンダルになりますよ!?」

 

 

もし間違いが起こったらどうするのか、責任が取りたくても取れないし、そもそも346プロが許すわけがない。

 

 

「勝手にすみませんが実は社長に比企谷君の境遇と小町さんの提案について話させてもらいました。事務所は私と比企谷君の合意ならば条件付きでよいと言ってくれました」

 

 

何で了承しちゃってんのおおおお!?普通駄目だろ!トップアイドルがスキャンダル塗れになんぞ!

 

 

「そ、その条件は・・・?」

 

 

条件が無理難題なら同棲せずに済む。しかし俺のその希望的観測は見事に打ち砕かれることになる。

 

 

「条件その1、同棲する際、346プロの関係者以外に同棲のことを話さないこと。その2、マスコミにばれた際は346プロで働くこと。条件その3、付き合うなら清い交際をすること。その4、間違いが起こってしまった場合、・・・・・責任として条件その2同様、346プロで働いて更に私と結婚すること。子供ができた場合は346プロが支援するからしっかり2人で育てること」

 

 

高垣さんは第4の条件をいうとき、恥ずかしかったのか頬を赤らめた。・・・・・嘘だろおおおおおおおおおお!?前半の部分はともかく後半おかしいだろ!何で応援するような条件なの!?ていうか・・・・・

 

 

「その、高垣さんは本当に良いんですか?こんな俺と住むことになっても・・・・」

 

 

俺と一緒に暮らしても楽しめることほとんどないと思う。コミュ障だし、話せる話題なんて持っていない。将来の夢なんて専業主婦だ。・・・あれ、なんか自分で思ってて虚しくなってきたぞ?目から汗が・・・・・

 

 

そんな悲しい思考をしていると高垣さんは真剣な表情で言ってきた。

 

 

「・・・比企谷君。私は貴方に助けてもらって、その恩があるからこの提案を賛成したわけじゃなくて、貴方のことを知りたいと思ったんです。捻くれてて、でもとても他人のことを考えて行動できる優しい貴方が。知りたいんです」

 

 

・・・・俺はそんな万人の思うような理想の人間じゃない。他人に嫌われて、蔑まれて、拒絶される。そんな人間だ。高垣さんのような人に相手にされていい奴じゃない。

 

 

「・・・・俺は他人に否定されるやり方でしか問題を解消出来ないやつですよ?目が濁っててすぐに通報されるようなやつです」

 

 

「否定されてしまうやり方なら私も一緒に手伝います。それで一緒に見直して修正していけばいいんですよ。目のことは眼鏡をかけたら良くなると思いますよ?」

 

 

「・・・・友達なんてほぼいないですし、妹に世話をかけてしまうような男です」

 

 

「たくさんの友達がいる方なんて拘りはありません。妹さんに支えられるなら支え返せばいいんですよ。そうでしょう?」

 

 

「・・・・面倒くさがりで、顔も良いわけじゃないです」

 

 

「誰だって面倒なことぐらいはありますよ。それに顔で判断するわけじゃないです。私、アイドルですから人を見る目は自信ありますから」

 

 

「・・・・俺は学校一嫌われて拒絶されるようなやつです」

 

 

「嫌われているからといって私は拒絶しませんよ」

 

 

「・・・・・本当に否定しないんですか?俺を、こんな生き方しかできない俺を」

 

 

「・・・・・否定しない。と言い切れる自信はありません」

 

 

「だったらッ「ーーーでも」!」

 

 

俺の手を握り締めて真っ直ぐ俺を見据える高垣さん。目を逸らそうと思っても逸らすことを許さないというように力強く瞳で射抜かれ、体が動かない。

 

 

「拒絶は決してしません。これは言い切れます。否定されるようなやり方をするなら叱ります、貴方が悲しんでいるなら寄り添います、嬉しいなら一緒に笑います。絶対に独りにはしません」

 

 

ーーーー昔から欲しいものは確かにあった。仲良くしたいとか、一緒にいたいとかそういうことじゃない。分かってもらいたいんじゃない。俺は分かりたいのだ。分かりたい、知っていたい、知って安心したい、安らぎを得ていたい。 分からないことは酷く恐ろしいことだから。

 

 

完全に理解したいだなんて、酷く独善的で、独裁的で、傲慢な願いだ。本当に浅ましくて悍ましい、こんな願望を抱いている自分が気持ち悪くて仕方がない。

 

 

だけどもしも、もしもお互いがそう思えるなら、その醜い自己満足を押し付けあい、許容できる関係性が存在するなら、そんなこと絶対に無いのは知っている。そんな物に手が届かないことは分かっている。

 

 

それでも、それでももし、願っていいのならーーーー

 

 

「ーーーーー俺と”本物”を探してくれませんか?」

 

 

そんな俺の願いを聞いて、高垣さんは微笑んで。

 

 

「ーーーーーーはい、一緒に探しましょう」

 

 

そうして頷いた高垣さんを見た時、今まで生きてきて出逢った女性の中で一番美しいと思えたのであった。


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