死にかけの無敵少女を拾うのは間違っているだろうか?   作:スキマ時間

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オオカミさんと手合わせ

エイナがオーラに覚醒するというハプニングがあったものの、堅物アドバイザーはそれぐらいではへこたれなかった。

 

「いくらお金がないとはいっても、さすがに鍋でミノタウロスと戦うとかあまりに度を越してます。ベルさんも少しは防具にお金をかけてください。」

 

「ベルさん、ピュラさん、アドバイザーとして忠告します。中層手前まで向かうのであれば、もう少し装備を整えてください。」

「ということで、明日、いっしょに武器を買いに行きましょう。」

 

『は、はい。』

 

ギルドからの帰り道、3人で今日の戦いを振り返った。

 

「ナァーザ、今日はミノタウロスを一頭逃してすみませんでした。もう少し殲滅力をあげないと前衛を抜かれてしまいますね。レムナントではダストがあるのであまり使わなかったのですが、攻撃力を上げる方法を考えてみますね。」

 

「え、あれでも前衛として十分強いと思うわよ。ピュラはなにを目指しているの。」

 

「ピュラさんは物語の英雄かと思いました。ミノタウロスを投げ飛ばすなんて今でも信じられません。」

 

「うーん、私、今までセンブランスを攻撃にまったくといいほど使ってないのよ。私は結局、秋の乙女にはなれなかったけど、それぐらいの相手だと体術や普通の武器だと届かない。今度、そんな相手と戦うことになったとき、後悔したくないから。」

 

「ピュラ、秋の乙女って、隻眼の黒龍のような災害級のモンスターなんですか?」

 

「そうね。レムナントでは、春、夏、秋、冬の4人の乙女がいて、彼女たちだけが世界から失われた強力な魔法を使うことができる。春の乙女は知識、夏は破壊、秋は選択、そして冬は創造を司る。そして人が生きる助けとなる4つのレリックを解放できるといわれているわ。」

 

「ピュラがハンターとして目指しているものって、人々の希望だったのね。」

 

「そう。子供のころから、それが運命だと思っていた。鍛錬して強くなるたびに確信をもつようになった。今でもそれは変わらない。それが私が目指すもの。」

 

僕も強くなりたい。今日は、恥ずかしくて、悔しかった。神様、強くなりたいです。

 

.

.

.

 

どこかの神々が静かに囁く。

 

守り人を並べるがよい。

 貴様らが自由な世界と嘯く地に碑を建てるがよい。

  しかし心せよ。力を求めた先に勝利などないと……。

 

むしろ勝利は、もっとシンプルな、

 人々が久しく忘れてしまったものの先にあるのかもしれない。

  もっと小さく、純真な心の先に。

 

 

夜、ベルの誘いで3人で「豊饒の女主人」という店で食事することになった。

 

「ミアハさま、すみません。ベルと約束したので、3人で食事してきます。」

 

「ああ、楽しんでおいで。」

 

「すみません。ありがとうございます。」

 

ベルと広場で待ち合わせて、豊饒の女主人にむかう。

 

「ベル、ヘスティアさまと喧嘩したんだって?」

 

「うん、ステータスを更新したら、神様が急に不機嫌になってしまって。」

 

「ベルくん大好きのヘスティアさまが怒るということは、嫉妬かな?」

 

「え?どういうことですか?ナァーザさん」

 

「ああ、ただの女の感。」

 

「ベル、だれか好きな人ができたんですか?」

 

「ああ、ピュラ、それストレートに聞いちゃうんだ。前途多難だ。」

 

「え!えっ、えっ!ピ、ピュラさんのことは憧れてます。」顔真っ赤。

 

「だめだよ。ピュラには彼氏がいるんだから。きっとすごいハンサムなんだろうね。」

 

「えと、ジョーンはハンターとしてはまだ未熟だけど、あたたかくて、とてつもなく大きなオーラを持っていて、私なんか目じゃないくらいすばらしい英雄になれる人。わたしが迷ったときも、自分のことよりも、真っ直ぐ私を応援してくれる大好きな私の恋人。」

 

「あ、ベルくん、おつかれさま。さっそく、振られたようだよ。」

 

「ピュラさんがそんなに尊敬するなんて、ジョーンさんて、すごい人なんですね。」

 

「うーん。じつはベルくんと同じでハンター初心者でなんの訓練も受けてなかった。オーラも覚醒してなくて、センブランスも未だに不明。だけど、私達のチームJNPRのリーダーを務めるぐらい、判断力があって、一緒にいると心が強くなる。そんな人だった。」

 

「今、考えてみると、力があったけど、ジョーンに止めらたのに、彼を置いて一人で戦って死んでしまった私、力はまだ目覚めてなかったけど、私を止めようとしてくれた彼。私が今、生きている理由となった、ルビーを呼んでくれた彼。強さというのは、力ではなくもっと違うものなのかもしれない。それがなにかわかるまでは、彼のような人を守る力がほしい。」

 

「ベルは、今はまだ未熟だけど、ジョーンのような人かもしれない。だから焦らず、しっかり鍛錬して。きっと道は開けるわ。」

 

「はい、僕、がんばります。」

 

ジョーンさん。ピュラさんを守れるぐらいになれるように、僕、がんばります。

 

「おっ!男の顔になったね。ベル。私も応援してるわよ。」

 

「ナァーザさん、からかわないでください。」

 

「ふふっ」

.

.

.

 

その頃のレムナント。とある野営地にて、ルビーはジョーンのトレーニングを見かけて、やるせない気持ちでいっぱいになって、涙が止まらなかった。ジョーンはピュラの遺したスクロールを見ながら、ひたすらトレーニングをしていた。

 

 

豊饒の女主人にて。

 

3人で食事をしていると、ロキファミリアが大人数で入ってきた。どうやら遠征帰りの打ち上げで予約していたらしい。

 

剣姫がいることに気づいたベルがこそこそしている。

 

とつぜん、狼人の冒険者がミノタウロスの返り血で血まみれになって逃げ出した新米冒険者を揶揄しだした。

 

ベルは恥ずかしさに耐えきれず、店を飛び出してしまった。

 

「ナァーザ、追いかけていただけますか。私はちょっと大事な用ができました。」

 

「仕方ないわね。あまりやりすぎないでね、ピュラ。」

 

「ええ。ハンター流のやり方で相手してきます。」

 

「女将さん、お勘定を。」

 

「あんた。只者じゃないだろう。やるなら、外でやりな。」

 

「ええ。店にはご迷惑にならないようにします。」

 

狼人は剣姫を口説こうと必死で自爆していた。そこにピュラが声をかける。

 

「そこの粋がってるオオカミさん。その強さは誰かを守るために使えないの?見ていて、とても痛々しいね。誰かを守るには鍛え方が足りなくて、自信がないようなら鍛錬してあげてもいいわよ。ただし、店の外でね。」

 

「おい。見かけねぇ顔だな。喧嘩を売ってるのか。いいだろう、相手をしてやる。」

 

切れ長の目をした神らしき人物が、こちらを見てびっくりした。

 

「あちゃー、ベートにそのセリフはアカン。」

 

二人で表に出たところに、ぞろぞろ観客が集まった。

 

「あの子、とてつもなく強い。ベート、負けちゃうかも。」

 

「アイズ、なにか知っているのか?」

 

エルフの魔法使いらしき人物がアイズに尋ねる。

 

「今日、逃げてたミノタウロスは強化種を含む4頭だった。あの子は2頭のミノタウロスを体術だけで、あっという間に倒して、強化種も体術で投げ飛ばした後、魔法のようなものですぐに倒してしまった。武器は鍋と鉄球ぐらいしか使ってなかった。」

 

「鍋?そんなもの武器になるんかいな?」

 

「ただの鍋でミノタウロスの顎をかち上げてた。どうしてそんなに強いのか、よくわからない。」

 

 

「オメェ、本当にいいんだな。今なら、土下座すれば許してやる。」

 

「鍛錬が怖いのか。新米を誂うわりに、お前は弱虫だな。大方、守れなかったことを悔やんでるのだろう。自分が強いというなら、ちゃんと守ってみせろ。」

 

「クソ野郎。」

 

「アチャー、アカン。これはアカン。」

 

ベートが、本気で飛び出し、フロスヴィルトでピュラを蹴り抜いた。だれもがピュラの頭が吹き飛んだと思った。

 

だが、ピュラはミスリルブーツの極性をいじりつつ、ちょっとだけ上半身を反らして、蹴りをかわした。

 

そして隙ができたベートに接近して、オーラを纏った渾身の突きをベートの顎に放った。

 

ベートは吹き飛んだ。

 

「鍛錬はこれからだ。私の彼氏は新米でも、このぐらいでは、けっして音をあげなかった。ベルに謝れ。そして、お前は目を覚ませ。人々を守るのがハンターだろう。力は誰かを恐れさせるためのものじゃない。力があるというなら、正しく使え。わかるまでとことん組手してやろう。」

 

「なんなん。これなんなん。ベートが子供のようにあしらわれとる。」

 

「許さねぇ。ぜってぇ、許さねぇ。テメェになにがわかるんだ。」

 

「アカン、ベート、やめぇ」

 

「戒められた狼の王、拘束され、痛みに叫び、杭打たれる。飢えた涎をたらし、血の川を築き、血潮と交わり、涙を洗え。癒えぬ傷よ、忘れるな。この怒りと憎しみ。汝は惰弱、汝は烈火。世界を憎み、摂理を認めず、涙を枯らせ。傷を牙に、慟哭を雄叫びに、喪いし血肉を力に。解き放たられる鎖。轟く叫び。怒りの系譜よ、この身に代わり月を喰らえ、数多を飲み干せ。その炎の牙で平らげろ。ハティー」

 

手足から火の粉を撒き散らし、発現した紅蓮の炎。

 

『まるでヤンのような子なのね。』

 

ベートが跳躍し、右腕の炎の牙でピュラに襲いかかる。

 

ピュラは取り出した鍋をオーラで強化して弾き返し、磁力でベートの足を引き寄せると両腕で掴んで振り回してハンマーのように地面に叩きつけた。

 

「あ、ちょっとやりすぎたかも。すみません。大丈夫ですか。生きてるかな?全力でやれそうなんで、楽しくなって、ちょっと加減を間違えたかな。」

 

観客は静まり返った。level5のベートが力のすべてを出して挑んで、瞬殺された。

 

「ハァ?どういうこっちゃ。」

 

慌てたピュラは、倒れているベートに触れるとオーラの覚醒を試みた。

 

『もう誰も哭くんじゃねえ』

 

ベートの慟哭が伝わってくる。ベートの体が光、息を吹き返した。

 

「ぐはぁ」

 

「よかった。すみません。やりすぎました。」

 

神ロキにピュラはペコリと頭を下げた。

 

「いや、ベートも無事みたいやし、かまわへん。けど、あんたのその力、どういうこっちゃ。」

 

「どうと言われても。人の持つ、魂の力としか。」

 

「カァー、かっこいい。かわいいし、好みどストライクやぁ。うちのファミリアに入らへん?」

 

「あ、しまった。すみません、すでにミアハさまに恩があるので。それと、そのオオカミさんは直しておいたので、大丈夫だと思います。」

 

ピュラはあわてて、鉄球を上空に投げ、それに自分を引き寄せて飛び退り、その場を去っていった。

 

ポカーン

 

「なんぞあれ。めちゃめちゃ興味が湧くんやけど。」

 

「彼女は恐ろしく強い。しかも不思議な技をいくつも繰り出していた。一対一で戦ったら、僕でも勝てる自信はない。」

 

フィンの親指は折れていた。

 

「でもピュラなんて冒険者、聞いたことあらへんで」

 

「そういえば、スコップと鍋で戦うおかしな下級冒険者が噂になってますね。」

 

ロキの疑問にラウルが答えた。

 

「スコップと鍋?それ無茶苦茶や、冒険者の装備やあらへんで。しかも下級?どういうことや?」

 

「それが、モンスターを塵殺してるのがおかしすぎて噂になってるようですね。」

 

「それで目立たへんと思ってるんやろか。頭おかしいんとちゃう。」

 

「迷宮で助けられた冒険者も多くて、人気者なんだそうです。隠れファンクラブもあるとか。」

 

「そらあんだけ強かったら憧れるて。こりゃなんだか荒れそうやな。」

 

(続く)

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