死にかけの無敵少女を拾うのは間違っているだろうか? 作:スキマ時間
椿さんに、なくした武具、ミロ・アンド・アクオ(変形槍と盾)の設計図を描いて渡した。
「なんだこれは、こんな面白い武器。ゾクゾクするぞ。だが、こちらの素材や炉の温度では
とてもじゃないがこんな加工はできない。根本から製法がちがうんだろうな。」
「炉の温度にかんしては、ダストの存在の違いがあるからですね。」
「ダストってなんぞや。」
「鉱石なんですが、火、水、風、雷、蒸気、氷、重力、大地などの力を取り出せる石です。オーラとも反応します。ダストは結晶を粉末にして小瓶に詰めて使ったり、弾丸にして使う方法、衣服に織り込んで使う方法、人体に直接使う方法などがあります。」
「こちらだと、魔石みたいなものか。」
「魔石について、どのような加工をしているか知りませんが、動力源や光源としてつかっているのなら、似たようなことができるかもしれませんね。ちなみに、炉の温度を上げるには、雷のダストを使う方法と、火と風のダストを組み合わせて使う方法があります。いずれにせよ、鉄などの鉱物をとても高い温度で溶かし、不純物を取り除くこと。そこに別の鉱物や素材を加えて、用途に合った性質に整えることで武具や建材の原料としていました。また、加工の温度が高いので、人がハンマーで叩くような距離での作業は危険すぎて難しく、動力源として雷のダストを使った機材を使うのが普通でした。」
「では、そこに至るまでには、少しづつ炉の温度を上げる技術、加工のための機材の製作からやらねばならぬな。だが、オラリオの鍛冶技術に革命が起きることは間違いない。これで主神様に届くのなら、魂でもなんでもさしだすさ。」
「ヘファイストス様は鍛冶の神様なんですね。」
「そうさ。主神様の打った刃物をわしは超えたいんじゃ。お主の鎧を見たとき、頭を雷で打たれたように衝撃を受けた。わしらが今使っている炉では、そんなものは作れんからな。だから命がけで教えを請う。素材を取りに行くのも協力する。加工技術も見直そう。我らの歩みを止めることができるのは時間だけだ。」
「椿さん、わたしも今一度強くなりたい。よろしくおねがいします。」
「そういえば、お主の力について主神様がおかしなことを言っていたな。たしか小さいリングに一瞬で力を込めると爆発するとか。どういうことか試してみんか?危なくないように屋外で穴を掘って、そのなかのものに力を込めれば安全に試せるんじゃなかろうか。この指輪の試作品なんかちょうどよいかもな。」
「そんな使い方があるなんて、わたしも知りませんでした。ぜひお願いします。」
「遠慮はいらん、炉の温度を上げたり、加工技術を見直すためにも、これからいろんな実験をせねばな。」
◆
エイナたち3人は椿とピュラの話を聞いて考え込んでいた。
わかったのは、レムナントはモンスターが恐ろしく強いだけでなく、それに対抗する人も知恵と力で、ものすごく切磋琢磨しているということだ。神の恩恵を受けた冒険者だけでモンスターに立ち向かうオラリオとは根底から心のあり方が違うように思える。ピュラがいることで、オラリオでもいろんなことが変わっていくように思えた。
「さて、ここは魔剣を試すための場所なんで、遠慮なく爆発させてくれ。わしもそれがどんなものか見てみたい。」
「わかりました。試料を穴の中においてください。一瞬で私の持つ最大の力を込めてみます。いきます。」
ヘファイストスも興味を持って見に来ている。
ピュラがセンブランスを一気に高めて、指輪に磁力を込めた瞬間、指輪から周囲一体に雷が迸り大爆発が起きた。
バチバチバチ。ドーーン。
爆発は一瞬のことで、その光景は世界の終焉のようだった。あたりに静寂が立ち込める。
「なんてこと。ただの指輪で強力な魔剣以上の威力が。使えるのがピュラだけでよかったわ。」
ヘファイストスはうろたえた。こんなのが簡単に使えたら、魔剣の価値は暴落してしまうわね。
「椿、ピュラに安物の指輪をいっぱい渡しておきましょう。彼女の本来の武具が完成するまで、きっと助けになるし、費用もほとんどただみたいなものよ。」
「そうですな。主神様。おそるべき力ですな。今日は驚いてばかりじゃ。」
ピュラも呆然としている。あの雷はノーラがいたら、さらに生かされたに違いない。ああ、なんであのとき死に急いでしまったのだろう。生きているからこそ、こんな可能性に巡り会えた。
「わたしのセンブランスにこんな使い方があるとは知りませんでした。本当にありがとうございます。」
「ナァーザ、ミアハに急ぎ伝言を頼めるかしら。ヘファイストスファミリアはミアハファミリアに全面協力すると。そのかわり、ピュラの持つ鍛冶の知識はほかファミリアへは絶対に秘匿するように条件をつめて契約したいと。」
「はい、ヘファイストス様。すぐに伝えてきます。」
驚きつつも、喜んでナァーザは駆けていった。ピュラの持つ技術のおかげで、少なくとも極貧ファミリアではなくなるのだ。
エイナは、これどうしよう、また秘密が増えちゃったとクラクラしている。
ベルは雷に打たれたように爆発の光景を思い返していた。
(つづく)