死にかけの無敵少女を拾うのは間違っているだろうか? 作:スキマ時間
ナァーザたち三人は、怪物祭りにでかけるため翌朝広場で待ち合わせることにした。
翌朝、広場で待っていると、ベルが少し遅れてきた。
「遅れてすみません。豊饒の女主人のシルさんがお祭りに財布を忘れてでかけたらしくて、届け物を頼まれたので。」
「ベルは人がいいからね。」
「でもこの人混みだと難しいでしょう。」
「忘れ物をした店員さんが悪いんだし、渡せるかどうかは運しだいだね。じゃあ行こうか。」
三人が祭りの屋台を楽しみながら、歩いているとツインテールの女の子がすごい勢いでベルに飛びついてきた。
ぴょーん。
「ベルくーーーん!」
ぽす。
「神様ぁ。あ、あぶないです。」
なんとかベルが受けとめたが、ベルはびっくりしている。
「ヘスティア様もお祭りにいらしてたんですか?」
「ナァーザくんたちじゃないか。今から僕は重要な任務があるんだ。」
『任務?』
「それはベルくんとのデートだ!すまないが、ベルくんを僕だけのものにしてしまっていいかね。」
「へ?ああ、そういうことですか?ベルくん、しばらく神様が帰ってこないって心配してましたよ。わたしたちに遠慮せず、二人でゆっくり楽しんでください。ね、ピュラ。」
「ふふ。ヘスティア様はベルのこと大好きなんですね。いってらっしゃい!」
ボフン。ベルとヘスティアが真っ赤になった。
「こ、これは重要な任務なんだ。任務。いいね!」
「はいはい。」
「か、神様!」
二人は連れ立っていった。
「ピュラ、あの二人、ほんとに仲良しだねぇ。わたしもミアハさまと。。。」
「わたし応援しますよ。」
「ありがとう、ピュラ。」
それから二人は屋台の食べ物を買い食いしたり、お祭りを楽しんでいた。
屋台でクレープを買って食べようかとしたときだった。地面が大きく揺れて、巨大な雄鹿のモンスター(ソードスタッグ)やトロール2頭が闘技場から出てきた。
「怪物祭りって、町中にモンスターを放つんですか?」
「そんなわけないじゃない。しかもあれは下層のモンスターよ。」
「じゃあ遠慮なく討伐しましょう。ナァーザは十分に距離を確保して、攻撃してください。」
「わかったわ。」
ピュラが背負っていたスパルタンシールド(円盾)とグラディウス(短剣)を構え、モンスターに駆けていく。
建物の壁を蹴って空を舞い、ソードスタッグに斬りかかる。
ソードスタッグがその巨体にふさわしい大きな角で迎え撃つ。
ピュラのグラディウスによる斬りつけは角で弾き返されるが、そのすきにナァーザの放った弓矢がソードスタッグの肩に刺さる。
「今です!」
刺さった矢には指輪がついており、ピュラはセンブランスを最大化させて、凄まじい稲妻を放ち大爆発を起こす。
ピュラは爆発の勢いを盾で受け流すことで敵から離れる。
ナァーザが、爆発で傷ついた場所に追撃の弓矢を放ち、さらに深手を追わせる。
その間にピュラは回復ポーションでオーラを回復する。
「ぷはぁ」
だが、トロール2頭がピュラに目をつけ、一頭が近くの屋台をピュラに向かって投げつける。
左によけたところで、もう一頭が腕を振り回して、ピュラに殴りつける。
盾で受けて飛び退りつつ、2個の砲丸を取り出しセンブランスで回転させながら渦のように加速し弱っているソードスタッグの傷口を深く抉り体の向こう側まで突き抜ける。ソードスタッグは倒れた。ピュラはトロール2頭の激しい追撃を受ける。
そのとき、先程投げつけられた屋台のそばで倒れているパルームの女の子をナァーザが見つけた。
「ピュラ、少女を助けるので援護を!」
「わかった。」
トロール2頭は倒れたソードスタッグの角を引き抜いて武器とし、振り回してきた。
トロールが振り回す角がおこす風圧で周りの建物の窓ガラスが割れ、木箱などが飛んでいく。
ピュラは時間を稼ぐため、踊るように振り回される角をぎりぎりで避けつつ、壁を蹴ってトロールの背後にまわり後ろから斬りつけ、足元をすり抜け、もう一頭の鼻先を盾で殴って、距離を取る。
そのすきにナァーザが少女を拾い、通りの角を曲がったところに離れた。少女は吹き飛んできた木箱で内臓を傷つけられていたようで顔を真っ青にして、口から血を吐き痙攣している。今にも死にそうだ。
「絶対に助ける。だから死なないで。」
ナァーザは心から少女の魂に呼びかけ、ポーションを口に含んで少女に直接口移しで飲ませた。自らのセンブランスを極限まで高めて少女に使う。
少女はまだオーラに目覚めていないので、ナァーザはかつてミアハに自らが救われた記憶を思い浮かべながら、ひたすら魂に呼びかける。
しばらくすると、少女が薄っすらとしたピンク色の光に包まれビクッと大きく痙攣し、呼吸が落ち着いてきた。
パルームの少女の記憶がナァーザに流れ込んできた。両親にいじめられた記憶、ファミリアで最下層に位置しサポーターとしていつも金を巻き上げられた記憶、体が小さく特別なスキルも持たないために冒険者に蔑まれた記憶、そうしたすべてから逃げ出した先、親切な花屋を潰されて親切で優しかった人たちからも恨まれた記憶、死んだら少しはましな境遇に生まれ変わりたいという儚い夢。ナァーザは自分の記憶を夢として逆にパルームの少女に流し込んでいく。極限の状況でオーラを覚醒しようとしたために起きた奇跡。
『これがオーラを覚醒するということ?!』
『生きて。わたし見捨てないから。』
『だれですか?わたしはもうなにもかも諦めているんです。もういいんです。』
少女は夢を見ていた。なにか温かい夢。誰かは知らないが自分に呼びかけている。
『災難はなんの脈絡もなく訪れる。現実はおとぎ話のようにはいかない。わたしもそうだった。でもね、今、あなたは生きている。そしてわたしが見捨てない。なぜなら、もう知ってしまったから。あなたの悲しみも。わたしの悲しみも。わたしのなすべきことも。だから、われながらおしつけがましいとは思うけど。生きて。』
『なぜ、そんなひどいことを言うんですか?リリはもう楽になれるのに。また失望を味わうんですか。』
『いいえ、あなたは希望を掴むのよ。あなたはもう十分に失望したわ。失望とはお別れよ。少なくとも、わたしがあなたの希望となる。』
『信じていいんですね。ほんとうに』
『だから、生きて』
そして、目を覚ました。
「もう大丈夫!ここで待っていてね。災難を片付けてくる。」
いつになく体が軽い。今なら何でもできそう。角を曲がって、壁伝いに飛んで、屋根に飛び乗り、弓を構える。放った矢はトロールの目を射抜いた。続けざまにもう一頭の開いた口に矢が飛び込む。トロールは矢を咥えて防いだが、その矢には指輪がついており、口の中に指輪を咥えた状態になった。
「ピュラ、今!」
「やぁあああああ」
ピュラがセンブランスを極限まで高めて、トロールの首から巨大な雷が弾けた。目覚めたばかりの少女はその雷が自分を貫き、これまでのすべてを吹き飛ばすように感じた。
目を射抜かれたトロールが狂ったように巨大な鹿の角を振り回し、大きな木箱にたまたま当たってそれがナァーザに向かって飛んできた。
「うぁああああああああああああああ」
パルームの少女がすべてを投げ捨てて木箱に飛びついた。今までだったら死んでいた。なぜか体からビリビリとピンクの稲妻が迸り、とてつもない力が湧いてくる。お姉さんを助けたい。それだけで体が動いた。体がピンク色の光でビリビリする。
「リリーーー!」
ナァーザが驚いて叫ぶ。
ポーションで回復したピュラが最後のトロールに砲丸の渦でとどめを刺す。
闘技場から通りに現れた巨大なモンスターは片付いた。
(つづく)