ロドスは基本、作戦記録の枚数・各分野に明るい人材・炭などに代表される各種資材・そして資金、あらゆる分野において色々と足りない。
限りのある資材や資金をやりくりしてロドスの施設の稼働率をあげたり、ドローンに部屋を片付けさせることで施設の数を増やすことで効率を上げたりはできる。だがそれにはその施設の分野を得意とするオペレーターがほぼ必須であるため、人員を募集する。しかし人員を増やす為にも資金と募集用紙がいるため日ごとに指定された仕事をこなさねばならず、仕事をこなす為には各オペレーターたちの練度を上げねばならない。そのためには各種作戦記録と一定の龍門幣を与えなければならない。長くなったので要約すると。
龍門幣だ。龍門幣こそがロドスという組織を回し、目的を達成するための近道なのだ。
「だからねアーミヤ……その手を離して」
「ドクター! お願いですから休んでください! ドクター!!」
「まだよ、まだ仕事は終わってない……! 龍門が、龍門幣が私を待っている……!!」
「ドクターダメです! それ以上働いたら理性がなくなります!」
「理性を残して仕事なんて出来ないよ!!!!」
「なにを言ってるんですかドクター?!」
パフューマーの温室から取れたトマトを飲み物にしてパックに詰めた代物を摂取しながら、アリシアはアーミヤの静止を振り切ろうと力を入れる。しかし相手はロドスという組織のリーダー。十代半ばの幼い少女とは言えアーツ学を学んでいる彼女は、自身が操るアーツの応用で身体能力を強化できる。アーツへの適性が無いアリシアでは頑張って逆立ちしたところで勝てはしない。
それでも。女にはやらねばならない時があるのだ。
「待ってください、本当に待ってくださいドクター! せめて10分の休息を入れてください! じゃないと倒れてしまいます!」
「時間がもったいないわ。それよりアレちょうだい、上級理性回復剤とかいうくっそ不味いやつ」
「この間貯蓄してたいくつかを全部飲み干して吐いていたじゃないですか……」
「ならチョコレートでもクッキーでもいいから食べさせてよ!! なんで購買部にないのさ!!」
「私に言われても困りますドクター!! 私だって食べたいんです!!」
あとでクロージャに文句を言ってやる、と決意を新たにするアリシアを自室まで引っ張っていくアーミヤ。駄々をこねる指揮官を自室に閉じ込めるのもリーダーの務めであると認識しているアーミヤの前では、さしものアリシアでも逆らうことはできない。なので通りすぎるオペレーターたちに助けを求める視線を送るも、皆一同に「がんばれ」という目で見送られる。
たぶんオペレーターたちは勘違いしている。
彼女は休みたいがために駄々をこねたのではなく、
しかし言葉にしない限りそれらが伝わることはない。
救いはないのか、絶望に打ちのめされるアリシアは、しかし諦めなかった。
「あんまり駄々をこねるとケルシー先生に怒られますよ!」
「ごめんなさい」
諦めない心なんて怒りのケルシーの前では意味がないのだ――――後日、あるドクターが赤い狼を撫でながらそう呟いた。その眼から光は消えていた。
まったくもう、と頬を膨らませて怒るアーミヤ。その姿は実際可愛い。
「ところでドクター」
「ん?」
「貿易所は活用しないのですか?」
その手があったか。ドクターはひらめく。
あ、地雷踏んだ。アーミヤは察した。
貿易所の設備強化に炭が足りないことを確認したアリシアがまた駄々をこね始めたが、通りがかったチェンに
◇◇◇◇
「ってことがあったんだよ! ひどくない!?」
「……そう、ね……?」
僅か3分後に執務室で目覚めたアリシアは、ちょうど訪れていたらしいスカジに愚痴っていた。さすがのスカジも、大人しく休んでおけばアーミヤも何も言わなかったんじゃ……? と思ったものの、口では同意の言葉を放つ。その表情は困惑で満ちていた。
「まあこのところ休めてないのは事実だし……アーミヤが心配する気持ちもわかるけど……」
だらりと机に伸びるドクターを横目で見ながら、スカジはコーヒーを淹れていた。普段からおちゃらけているおかげか態度でこそ表さないが、スカジはアリシアの今の心境を若干だが捉えていた。
即ち焦燥である。そうなった原因を記憶の限りで探ってみれば、なんのことはない。考えてみれば当然の事。
ドクター・アリシアは記憶喪失である。それ以前の経歴は大層なものばかりらしいが、
「……ドクター」
それらを思えないなら、その重さに共感できないなら。ならばせめて労いの声を――そう思いついたスカジは、慣れた手つきで二人分のコーヒーを作りアリシアに声をかける。
だが、数秒待っても返答は来ない。不審に思い机に寄りかかっているアリシアに近づいて横から見ると
「――――むにゃ……」
見ているこちらが眠くなるような表情で寝ていた。
「………………」
よほど疲れを溜めていたのだな、とため息一つを零して納得する。実際秘書に拝命されているスカジから見てもアリシアは働きすぎだったので、平時の終業時刻を超えた今なら居眠りしていようと問題ないだろうと判断。ただしベッドには移す。
スティックシュガー三本とミルクを多めに入れたコーヒーを一気飲みしてから、眠っているアリシアを軽々と抱えて(何故か置いてある)仮眠用のベッドへ移す。身の丈にも迫る大剣を軽々と振るう身体能力を持つスカジにとって、眠っているとはいえアリシア一人程度を運ぶことは造作もないことだ。横抱きに抱えたアリシアを静かにベッドへ寝かせ、優しく毛布を被せた。そこまでやって、アリシアがいつもの服を着たまま寝たことに気付く。
――――着替えさせたほうがいいのかしら。
悪魔の囁き染みた誘惑が頭を過ぎるも、いくつか間を置いてからかぶりを振ってそれは駄目だろうと二度同じことを言って自制する。実に英断である。
まあ一日ぐらい着替えないまま寝ても問題はないだろうと判断し、その場を後にしようと背中を向け
「………………」
何を思ったか、アリシアが眠るベッドの縁に起こさないようにゆっくりと腰かける。
そのままアリシアの顔に自身の顔を近づけ――――
「――――おやすみ、ドクター。水に追われることのない、いい夢を見られるといいわね」
囁くように呟いた言葉と共に、スカジは執務室から立ち去った。
◇◇◇◇
執務室を出てしばらく。廊下を歩いていたスカジは小さくガッツポーズをした。
心なしか、その表情はいつもより明るい。
(よし、図らずとも予行練習が出来たわ。この調子よ、私)
なんの練習ですかねそれ……。
(あとはドクターが起きている時に出来れば、勝ったも同然ね)
誰と戦って勝ったのあなた??
◇◇◇◇
一方その頃。
「~~~~~~ッッッッッ!!!!!」
密かに起きていたアリシアは一人悶えていた。