クソザコスカジさんとロドスの日常   作:白野威

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正座してるスカジさんが見たかったので(マトイマルを巻き込んで)初投稿です。


2・謝るスカジさんとマトイマル

 

 ドクター・アリシアの執務室には、過去に"天災"に関して研究や考察が重ねられた書物が数多く存在する。記憶喪失になる前の彼女の考察が書かれたノートも数書にわたって納められているが、その中には娯楽品としての書物もあり、ニアール等の読書好きは後者を、アーススピリット等の天災研究家は前者を目当てに度々訪れる。

 そんな彼女の執務室に、珍しい客人が訪れていた。

 

「それで、今日はどうしたの? ヴァルカン。確か素材の納品なら全部渡したはずだけど……」

 

 目を通していた書類から視線を逸らし、対面に座る義足の女性へ目を向けた。

 鍛冶師を兼任する重装オペレーター、ヴァルカン。それが彼女の名だ。

 専らオペレーターたちの使う武器の修繕や調整を行う、裏方として起用されたオペレーター。昔ながらの加熱炉と鍛冶台を自室に持ち、自らを"時代遅れ"と宣言する彼女だが、その技術はとても役立っている。いわゆる鍛冶馬鹿な面はあるが、医療関係を主軸に発展するロドスとしては異色の持ち味を持つ人物であり、そんな彼女に助かっている面もある。民間企業に修理依頼を出すにしても金がかかるのだ。金がかかるのだ……!!

 そんなヴァルカンがわざわざアリシアの執務室へ来る理由は、鍛冶関係でしかないだろう。

 

「いや、今日は別件だ」

 

 おや、と疑問が出てきた。同時に珍しいという感想も湧く。

 鍛冶関係以外は関心の薄い彼女が、鍛冶関係以外の事で足を運ぶことは稀だと言っていい。彼女の自室でなにか問題でも起きたのだろうか、と身構える。加熱炉や鍛冶台の再発注を申し込まれるとなると、バカに出来ない値段の龍門幣が動くほかに、二つのどちらかを売っている――あるいは製造を請け負っている企業を探す時間も必要になるからだ。

 そんな身構え方をしていたからか、ヴァルカンがバツが悪そうにやんわりと断りを入れた。

 

「身構えてるところ悪いが、特に問題が起きたという訳でもないんだ。いやある意味問題だが」

 

 アリシアの頭に疑問符が三つほど湧く。

 

「あれ? じゃあどうしたの?」

「……私としては正直、これ以上君に負担をかけたくはないんだがな」

 

 頬を軽くかきながら、ヴァルカンが切りだす。

 

「また訓練室とマトイマルの武器が壊れたから、修復素材の申請に来たんだ」

 

 アリシアの目が死んだ。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 マトイマルというオペレーターがいる。

 極東の出身であり、ヤトウやホシグマと同じ鬼という種族の出である彼女は、他のオペレーターと比べても類稀なほどの身体能力やアーツを伴わない高い治癒能力をもつ。巨大な薙刀から繰り出される防御の一切を無視した一撃は、ロドスの最高戦力の一人と名高いスカジの一撃に勝るとも劣らない、非常に強力なものだ。

 

 そんな二人が、訓練室で戦えばどうなるか。

 

 当然の如く壊れる。

 

「ドクター!! 止まってくださいドクター!!」

「離してアーミヤ!! 龍門幣が……龍門幣が私を待っている!!!」

「あぁもう! ニアールさん、少しの間ドクターをお願いします!!」

「承知した」

 

 死地へ赴かんとするアリシアを必死で止めるアーミヤは、同じくアリシアを抑えていたニアールに彼女を託す。

 そんな三人の傍では「私が暴れすぎたせいで訓練室を壊してしまいました。大変申し訳ない」という紐付きプラカードをぶら下げたマトイマルとスカジの二人が、正座という極東特有の座り方で床に座していた。

 

「あっはっはっは! いやー、またやりすぎちまった!」

「………………」

 

 参った参ったと笑いながら頭をかくマトイマルと、無言のまま正座の体勢を維持するスカジを恨めし気に見ながら、アーミヤはまたかと頭を抱える。

 

「もう……これで何度目ですかぁ……」

「んーと……五度目ぐらいか?」

「七度目ですよ!」

 

 そうだったか? と腕を組んで悩み始めるマトイマル。彼女は細かい事を気にしない主義だった。

 眩暈がアーミヤを襲うが、マトイマルという女性は基本的に子供らしい性格をした人だ。一週回って開き直ったアーミヤはマトイマルとスカジに苦言と忠告をする。

 

「前にも言いましたけど、全力で加減を覚えてください二人とも。でないと……」

 

 そっとアリシアとニアールへ目線を配る。アーミヤに合わせて二人も視線を追うと……

 

 

 

 

 

「いくら稼いでも龍門幣が足りないんだよケルシーなんでだろうね確かにうち製薬会社の面もあるから稼いだ金額の半分以上はそっちに投資するのは道理にかなってるんだけどいくらなんでも最大金額でも手取りが7500幣ってひどくない?ねぇひどくない??メテオさんやリーフの昇進すら何回も往復しなきゃいけないとか理性溶かしに来てるでしょケルシー私がどれだけ理性すり減らしてあの場に立って指揮してると思ってるの舐め腐ってるだろ龍門のアイツ等足元見やがってねぇ聞いてるのケルシー?ケルシー!?どこいったのケルシー?!」

「お、落ち着けドクター……ここにケルシー医師はいないし、金ならまた稼げばいいだろう……?」

「なにニアール私の敵になるのたかが7500幣ぽっちのためにどれだけ私が理性を溶かしてるか知らないというのねニアール分かったわ腹いせに貴方のそのご自慢の尻尾五時間かけてモフるけどいいよねモフるよ答えは聞いてない」

「ひっ!? や、やめt――――!!」

 

 

 

 

 

 怨霊染みた声で一つも息継ぎせずに独り言をつぶやくアリシアに、怨霊と化した彼女の前で失言をかましてメテオやプラチナといった同族から見てもモフモフした尻尾に顔を埋められて羞恥と困惑の極みに立たされるニアール。迂闊に振り落とそうとすればロドスの戦闘部門の総指揮官であるアリシアに怪我をさせてしまうかもしれない――そんな認識がニアールの中にある以上、彼女は黙ってモフられるしかない。

 アーミヤはそっと視線を戻す。マトイマルとスカジは震えていた。

 

「理性のないドクターの前で恥をさらすことになりますよ……」

「「ごめんなさい」」

 

 二人はその後、その体力にものをいわせ、死んだ目のまま修繕に必要な龍門幣と素材をかき集めようとするアリシアについて回った。そして完成した訓練室を見て二人して安堵の息を吐いたという。

 それを見ていたアーミヤが悔しげにハンカチを噛んでいたのは余談とする。

 

 

 

 

 

 

 それを、無機質な目で見ていた。




スカジさんは対化物戦闘は大得意だけど対人戦闘は経験不足につき不得手なので、対人戦闘経験が豊富なマトイマル相手だと若干劣勢になる。という恐らく今作のみの設定があったりなかったり。
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