アルゼンチン帝国召喚   作:鈴木颯手

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第一章【未知との遭遇】
第一話「転移」


第一話「転移」

2020/2/22/14:50

「……では何かね?」

 

アルゼンチン帝国帝都インペリオ・キャピタル。その中央部、行政区画にある総統府にてある会議が行われていた。議題は自治領以外の他国領の喪失である。当初は全く信じられなかったこの現象も現地の写真が届くと一気に信ぴょう性と危機感が増した。

一体何が起きたのか?海に沈んだのか?いろんな案が出されるが全て机上の空論でしかなくこの状況を分析できるほどではなかった。

そして会議が滞り一旦解散しようと言う空気になったころ、西方へと偵察に出ていた部隊から報告があった。

 

曰く“太平洋がある場所に大陸が存在し文明がある”と。

 

何を馬鹿なと当初は取り合わなかったが戦闘機パイロットが撮った写真が送られてきてからは深い沈黙が起きた。そして上記の言葉である。

 

「太平洋には誰も知らない大陸があり人が住んでたと?我々ですら今の今まで気づかなかったと?」

「……内容だけならそうなりますね」

「そんなバカな……」

 

世界が繋がり数百年が経っている。スペインの大航海時代に始まり今では地球上のありとあらゆるところが知り尽くされているだろう。未だに発見されていない者など秘境の奥底や軍事上立ち入り禁止の区域ぐらいだろう。そんな状況で大陸を見逃すなどあり得るはずがない。

 

「それともう一つの報告ですが……」

「そんなものはあり得ない。ばかげている!」

 

高官の一人が声を荒立てて否定する。それはほとんどの高官がそうだったようで同意する空気が流れていた。

 

「大体あり得ないだろう!?」

 

“ドラゴンを見たなど”

 

「これを報告した奴は麻薬でもやっているのか?それなら軍法会議で処すしかないが」

「いえ、多少内向的な性格ですが態度に問題もなくそう言った事に手を出した様な噂もありません」

 

疑われる精神的異常もすぐに否定された。ならばと別の意見を言おうとした時一人の男が手を上げる。それを見て高官たちの誰もが黙る。何故ならこの場で……いや、この国で最も権力を持っている男であるからだ。12年前に突如アルゼンチンに現れ腐敗の進んだこの国を変えた偉大なる指導者。強固な姿勢を貫き南アメリカどころか世界でも上位に食い込める強国へと生まれ変わらせた男。

総統、アイルサン・ヒドゥラーを誰もが見る。40代と政治家にしては少し若いその男は声を発した。

 

「……諸君、突然の事態に混乱するのはしょうがない。だが、決して物事を自らの物差しだけで図ろうとしてはならない。我ら以外の国が消え新大陸が現れたのなら今はそれを受け入れるべきだ」

「し、しかし!ドラゴンを見たなど……」

「確かに、信じられないだろう。私だって未だに半信半疑だ」

 

ヒドゥラーは男の言葉を肯定しつつ落ち着かせる。その男が落ち着いたのを見計らい再び話し始める。

 

「どちらにせよ今行うべきことは単純だ。この新大陸に使節団を派遣するのだ。メンディア元帥、海軍は何時でも動けるか?」

「はい、総統閣下。太平洋艦隊、大西洋艦隊どちらもすぐに抜錨可能です」

「よろしい。なら太平洋艦隊を向かわせろ。無論外交官を載せる事を忘れるなよ」

「了解しました。直ぐに準備を行わせます」

 

メンディア海軍元帥の言葉にヒドゥラーは頷く改めて全員の顔を見て話す。

 

「使節団を送って終わりではない。この謎の現象を直ぐにでも究明する必要がある。各自各々の力を十分に使い行動せよ」

「「「「「はっ!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

一方の新大陸、ロデニウス大陸にあるクワトイネ公国では先日の未確認生物に対する会議が行われていた。

 

曰くワイバーンより早く、高度が高い場所を飛び近くの町を旋回した後東の方へと消えていったとの事。

 

「皆のもの。この報告について、どう思う。どう解釈する」

 

首相カナタの言葉に情報分析部が手を上げ発言する。

 

「情報分析部によれば、同物体は三大文明圏の一つ、西方第2文明圏の大国ムーが開発している飛行機械に酷似しているとのことです。しかし、ムーにおいて開発されている飛行機械は、最新の物でも最高速力が時速350kmとの事。今回の飛行物体は、明らかに600kmを超えています。ただ……」

「ムーならば極東に位置するこの大陸までくることは出来ない、か」

 

情報分析部の言葉の続きをカナタが引き継いだ。他にも第二文明圏を相手に暴れまわる第八帝国の存在も挙げられたが第二文明圏より西方にあると思われる(本国の位置は分かっていない)第八帝国は更にあり得ないと思われた。

 

そこへ若手幹部が入って来る。通常ではあり得ない行動に会議に参加している者の視線が集中する。

 

「報告します」

 

若手幹部が話した内容は以下の通りであった。

本日早朝、クワトイネ公国の北側海上に長さ200mを超える超巨大船の艦隊が現れた。

海軍により臨検を行ったところ、アルゼンチン帝国という国の特使がおり、敵対の意思は無い旨を伝えてきた。

捜査を行ったところ下記の事項が判明した。

・曰くアルゼンチン帝国という国は、突如としてこの世界に転移してきた。

・元の世界との全てが断絶されたため周辺に調査を出していた。その際に領土侵犯を犯してしまったが敵意はない事。

・哨戒活動の一環として貴国に進入しており、その際領空を侵犯したことについては深く謝罪する。

・クワトイネ公国と会談を行いたい。

尚、これは彼らが言っている事であり本当かどうかは分からなかったが当然ながら会議は混乱した。200m超えの巨大船もそうだが転移国家など信じられるはずがなかった。

しかし、会わない事には始まらないため首相カナタは会う事に決めた。これがアルゼンチン帝国にとって初の異世界交流である。

 




転移国家であると言うのは使節が送り出された後、接触前に知ったという感じです。

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