アルゼンチン帝国召喚   作:鈴木颯手

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第十話「皇国と帝国」

第十話「皇国と帝国」

「何が起きている!?」

 

パーパルディア皇国第3外務局局長カイオスは怒りを露にする。ことの始まりはフェン王国へと送った皇国監査軍東洋艦隊がなんの連絡も寄越さなくなったからだ。こちらから通信しても返信が帰って来ることはなくノイズが走るのみだった。

 

「まさか、全滅したのか?」

 

しかしそれも瞬時にあり得ないと切り捨てる。皇国監査軍はパーパルディア皇国海軍に比べれば質、量ともに低いがそれでも白兵戦しかしない文明圏外国相手なら十分に強いはずだ。更にはワイバーンを超えるワイバーンロードが付いている。フェン王国にいくつかの国が協力しようと負けるはずはない。

 

「直ぐに情報を集めるんだ!」

 

カイオスは直ぐに情報収集に入るが結局敵の正体は分からなかった。フェン王国に行って調べられればいいのだが今はパーパルディア皇国との船が完全にストップしている。仕方なく周辺国家に密偵を送り調べる事となった。

そして皇国監査軍を全滅させたアルゼンチン帝国は既にパーパルディア皇国との外交を打ち切り皇国からは完全に撤退した後であった。

 

 

 

 

 

 

 

「グラ・バルカス帝国?確かに極西で暴れまわっている国だったか?」

「はい、クワトイネ公国からの情報なので精度は低いですが西側諸国を併合しており我が国が転移する前には列強の一角を数日で落としたとか」

「そんな国が極東に位置する我々になんのようだ?」

 

アイルサン・ヒドゥラーはグラ・バルカス帝国の使者と聞いて警戒よりも疑問が先に出た。何せこちらはグラ・バルカス帝国についてほとんど知らないのだ。精々は様々な国を襲っている獣のような国という印象しかない。技術力についても列強を降すのだからそれなりにあるのだろうという程度だ。

 

「で?使者は既に向かってきているのか?」

「正確にはロデニウス大陸直轄領についたそうです。一艦隊を連れてきたとの事で今は駐留艦隊が対応しているそうです。内容は国交樹立したいそうです」

 

駐留艦隊とは旧太平洋艦隊を解体して新たに誕生した艦対でグレート・ディアボロス級原子力戦艦三番艦リヴァイアサンを旗艦として空母1、巡洋艦5、駆逐艦8からなる艦隊だ。ロデニウス大陸西側からの襲撃に備えるためにそれなりの規模となっている。

 

「艦隊で来たと言う事はそれなりの技術力はあるのか?」

「見た感じですが第二次世界大戦中の技術力と言った所でしょうか。これが一番の大型艦です」

「どれどれ……、砲塔はグレート・ディアボロス級と同じようだな。だがミサイルは搭載していないのか。実際に戦えばどうなる?」

「駐留艦隊と戦う前提なら圧勝できます。遠距離ならミサイルで近距離なら砲撃で十分でしょう」

 

グラ・バルカス帝国とアルゼンチン帝国の技術力は明らかに差が開いていたがそれでもこの世界で見た中では最強と言えるパーパルディア皇国よりも上であった。アイルサン・ヒドゥラーは少し考えた後頷いた。

 

「敵対意志はないようだし帝国領チリに案内しろ。そこからはクワトイネ公国の時と一緒だ」

「本土に乗せるのですか?」

「問題ないだろう。下手な事が出来ないように前後に船を挟めばいいし高層ビル群の大都市を見せれば相手の反応で相手の技術力について少しでも知れるだろう」

「分かりました。なら直ぐに準備を行います」

 

こうしてグラ・バルカス帝国使節団はアルゼンチン帝国本土への上陸許可が下りるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グラ・バルカス帝国使節団の一人シエリアは目の前の戦艦に顔を青くしていた。

彼女が乗船するグレードアトラスターですら目の前の戦艦より小さい。これだけで相手の技術力が上というのが何となくわかる。

 

「諜報員から聞いた時はどんなジョークだと思ったが実際に見ればすさまじいな」

「それほどですか?」

 

シエリアは艦長のラクスタルの言葉に返す。ラクスタルもシエリアほどではないが顔を青くし汗を流していた。

 

「詳細は分からないが少なくとも目の前の大型艦はグレードアトラスターより同等かそれ以上だろう。諜報員によるとこの艦は三番艦、つまりグレードアトラスター以上の戦艦をアルゼンチン帝国は最低でも三隻持っている事になる」

「そんな……!」

 

シエリアは顔の色を真っ白にする。我が国最強の船を超える船が三隻も……。シエリアはアルゼンチン帝国が我が国とは遠く離れた極東にある事に深く安堵した。もし近くにあれば攻撃して怒りを買ったかもしれないからだ。

 

「艦長!アルゼンチン帝国より通信です。我々を本土へと案内し総統直々に会うそうです」

「ほお、随分と思いっ切りがいいな。分かった。感謝の報を入れろ」

「はっ!」

 

通信士からの報告にそう答える。やがて目の前の大型艦、リヴァイアサンが回頭する。どうやら先導するらしい。その動きを見てラクスタルは思う。

 

「(早い……!)」

 

グレードアトラスターより早く動く。戦艦とは鈍重な物だ。よほど高性能なエンジンか武装を軽くしないと速度は出ない。それなのに目の前の船はどうか?少なくとも武装がないか?それは違う。見るからに艦隊旗艦だ。今の今まで戦闘をしていたのなら別だが動きは無かった。つまり高性能エンジンを積んでいるだろう。それも我が国より高性能なものを。

ラクスタルはシエリアと同じように近くになくて良かったと思うのであった。

 


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