アルゼンチン帝国召喚   作:鈴木颯手

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第二十話「一年」

第二十話「一年」

「漸く転移から一年か」

 

アイルサン・ヒドゥラーはインペリオ・キャピタル郊外にある自宅にて思考の海に潜っていた。内容は転移についてである。もうすぐ日付が変わる。そうなれば転移から丁度一年を迎える。アルゼンチン帝国では転移から一年が経つことに対する祭りの如き騒ぎが起きており警察や軍が治安維持の為に出動する程だった。

 

「この一年は怒涛であった……」

 

突然の転移と隣国の消失。クワトイネ公国との接触にロウリア王国との戦争。そしてフィルアデス大陸南部を領有するパーパルディア皇国との戦争に極東国家連合の設立と魔王との戦い。

あまりにもイベントが多い都市であったことは間違いないだろう。

 

「起きてるかー?」

「……ああ」

 

そこへアイルサン・ヒドゥラーの妻エミリア・ヒドゥラーが入って来る。その手には火のついた煙草を持っており偶に口に加えながらアイルサン・ヒドゥラーの元に向かうと隣に置いてある椅子にドカリと座った。

 

「何だ?考え事でもしていたか?」

「ああ、転移してから後少しで一年経つからな」

 

壁に掛けられた時計にはあと十分ほどで十二時を指そうとしていた。アイルサン・ヒドゥラーはインペリオ・キャピタルの都市ならではの音をBGMにエミリアに語る。

 

「俺は最近考えることがある。我々は何故この世界に転移したのか、とな」

「んー、そりゃ人為的な物では無いのは確かだな」

 

人類にそんな事が出来る技術力などない。それこそ技術大国の高天原帝国やナチス・アトランタ第三帝国でも無理だろう。あの二国に勝らずとも劣らないと自負するアルゼンチン帝国ですら無理なのだから。

 

「知ってるか?この世界には太陽神の遣いと呼ばれる存在がいたそうだ」

「なんだそりゃ?日本か?」

「違う。何でもかつて魔王によって種族滅亡の危機になった時に太陽神が自身の遣いを送ったそうだ」

「へぇー、ならそいつらも転移してきた可能性が?」

「ああ、だがグラ・バルカス帝国の様に違う世界からだろう。伝承では黒、赤、緑の三色の国旗の国だったらしい」

「ん?そんな国あったか?」

「伝承から察するに技術力は80年以上前のものだ。だが規模としては大国に等しい。だがやはりそんな国など聞いたことがない」

「私もないな。で、なんだ?私達も太陽神の遣いだと?」

「それは分からないがな。だが魔王が現れる前には古の魔法帝国という国が世界を支配していたらしい。そしていつかこの地に復活するともな」

「……そいつらを倒さないといけないと?」

「可能性の話だがな」

 

そこまで言うとアイルサン・ヒドゥラーはエミリアの持ってきた珈琲を口に含む。時計が十二時を示すメロディーを流す。瞬間インペリオ・キャピタルの方から大きな歓声が上がった。

 

「全く、寝ている人に迷惑だろうに」

「まぁしょうがないだろ。転移から最初の年明けなんだ。来年には落ち着くさ」

 

アイルサン・ヒドゥラーの言葉にエミリアは笑みを浮かべて答えた。静かな部屋の中にインペリオ・キャピタルの騒音が下品にならない程度に聞こえてくる。

 

「……来週、漸くまとまった休暇が取れる。その時に何処か遠出もするか?」

「お、いいねぇ!なら近場でドライブなんてどうだ?近場でもドライブは楽しいぞ」

「そうだな。そうするか」

 

アイルサン・ヒドゥラーは妻との静かな時間を噛みしめながら転移一年を祝うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「陛下!次元転移の準備がまもなく整います!」

 

アルゼンチン帝国が異類世界とは別の、地球とも違う世界に神聖グランフィア帝国はあった。その帝都ゲイルスフィアの皇城にて皇帝ダングレイル・レウル・ブレギルスは宰相から報告を受けていた。

 

「へぇ?意外と早く完成したんだね。今回はちゃんと起動するのかい?」

「理論上は、ですが。しかし、前回と違い今回は転移する先の座標が判明しています。失敗はまずないでしょう」

「それならいいけど」

 

神聖グランフィア帝国はかつてグランフィア大陸における統一王朝だった。しかし、二限の反乱や他国の介入などがあり今ではグランフィア大陸南部に追い込まれていた。取り戻そうと軍勢を出しても今やグランフィア大陸の大半を領有するアストリア合衆国の前に連戦連敗となっていた。防衛自体は出来ているがこのままでは取り戻すことは出来ない。

そこで神聖グランフィア帝国は戦力を手に入れるために別の世界から様々な技術や人的資源を奪おうと考えた。そして転移装置は完成し早速行われたが行きついた先は次元の狭間を浮遊中だったラティストア大陸だった。現在ラティストア大陸は神聖グランフィア帝国の完全な支配下にあり少しづつ要塞化や魔導兵の投入が行われている。

 

「ラティストア大陸にあった内容から察するに後数千年は浮遊していたようですがそれでは待っていられないので多少元居た場所からはずれますが一週間後には転移が可能です」

「転移させるに当たり必要な準備が整うのは後二週間後だったな。なら全ての準備が完了次第転移させろ」

「かしこまりました」

 

宰相は様々な部署に報告する為に謁見の間を出て行く。皇帝のダングレイル・レウル・ブレギルス以外の生物がいなくなった謁見の間でダングレイル・レウル・ブレギルスは抑えきれない笑みを零す。

 

「ふふふ、もうすぐだ。もうすぐで我々は異世界を支配しそこから得られるであろう力を持ってグランフィア大陸を取り戻す!そして世界を統べ余は世界に君臨する皇帝となる。ふ、フハハハハハッ!!!!!」

 

ダングレイル・レウル・ブレギルスは自らの野望を口に出し高らかに笑うのであった。

そして三週間後、次元転移が行われた。アルゼンチン帝国と神聖グランフィア帝国。両者が激突するのはまだ先であるが少しずつ近づいているのであった。

 


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